SPECIAL TOPIC2023.01.19

ファッションジュエリーデザイン

これが私たちの初ランウェイ! ― ファッションデザインコース KUA collection2022「/slash」開催

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  • 京都芸術大学 広報課

何も見えない漆黒の闇が、開幕前の舞台を包みこむ。それは、未体験のショーに挑む学生たちにとって、心の景色そのものだったかもしれません。「コロナ禍で3年ぶりの開催だったので、だれも教えてくれる経験者がいなくて」と振り返るのは、空間演出デザイン学科ファッションデザインコースの3年生たち。これまでの2年間で学んだことを活かし、前期で「オリジナルのブランド制作」に取り組み、後期で「ファッションショー」として発表する。そんな1年がかりの授業を締めくくる晴れ舞台なのに、何もわからない状況からのスタートとなったのです。果たして、2022年12月17日に本学で開催されたファッションショー KUA collection2022「/slash」は、無事に成功をおさめたのでしょうか?

まさに手探りで、今回のショーをつくりあげた26名のメンバーを代表して、リーダー役の広瀬彩美結さん、吉川莉央さん、ブランドの代表者「noon」白木綾さん、「cappogi」大谷理子さんの学生4名と、授業を率いたファッションデザインコース専任講師の藤野良実先生にインタビュー。最後に、みなさんの創意と努力を結集させたショーの様子もご報告します。

※本文では、皆さんからのコメントをあわせて編集しています。

 

ひとを幸せにする、ファッションって?

この授業は、1、2年次の総括になるそうですね?

はい、基本的な「モノのつくりかた」から「ファッションとは?」「どうやってひとを幸せにするか?」といった思考まで。入学以来、いろんな課題を通して身につけてきた、自分なりの技や答えを確かなカタチにするのが、この授業の目標です。先生から「アートじゃなくデザインとして、自己満足で終わらないものを」と言われ、「本当の仕事のつもりでやろう!」とあらためて思いました。

― 前期のブランド制作は、どんな風にはじまりましたか?

まずは、全体テーマである「サスティナブル」について全員が意見を出し、「自分と考え方が近い」と感じた学生同士でチームを組みました。たとえば私たち「cappogi」の2人は、「好きな服を少しでも長く着つづけたい」という考えで意気投合。「じゃあ、その服を家事汚れから守る“割烹着”を、もっと着たくなる可愛いものにすれば?」と、トントン拍子にブランドの構想がまとまりました。

割烹着を着用することで普段の服が汚れないようにし、服1着との長いお付き合いをする。割烹着の伝統を受け継ぎながらも、環境負担に考慮したサスティナブルファッションブランドを目指した。

割烹着の伝統を受け継ぎ、割烹着と関わりの少ない若い人をターゲットに。

 

― 服以外のブランドもありましたね?

私たちジュエリー専攻の学生が組んだ「noon」は、花びんのブランドです。「作る」「書く」「デザインする」…それぞれ得意なことが違う3人で集まったところ、そのひとりが「落ちてるものを拾う」という特技も備えていて(笑)。「ゴミって、意外と可愛くて使える」と感じたことから、「不用物をアップサイクルして、生活に使えるモノをつくろう!」と発想しました。花びんを選んだのは、植物と暮らすことで、環境の大切さを感じてほしかったからです。

noon という名前の由来は、花がいちばん成長する時間帯が朝から正午にかけてというところから。
商品のそれぞれ名前は朝7時から正午までの時間帯でつけられている。
ガラスが欠けている部分などに金継ぎを施すことで、使用されなくなったものを新しい形で使用することを提案。

 

私たちの作品の舞台は、あなたの日常

― 作品づくりで、こだわったところは?

「cappogi」では、いろんな人の意見を取り入れるためのアンケートを実施。とくに多かった、「着たまま買い物にいきたい」という要望に応えようと、シルエットや柄など「機能+見せたくなるデザイン」をめざしました。その考え方がショーのなかでも伝わるように、作品を着たモデルがご近所を歩くプロモーションムービーを上映。家でも外でも楽しく着られることをアピールしました。

 

― ショーにも、こだわりが詰まっているんですね?

はい!「noon」の場合は、まず「材料費をかけない」ことにもこだわりたくて、知人を頼っていろんな施設から不用品をもらってきました。それをひとが「欲しい」と思う作品に仕立てるわけですが、あくまでも日常的に使ってほしいものなので、モデルの服装はなるべく普段着っぽいイメージに。女性ではなく、あえて男の子に花びんを持たせることで、中性的なブランドらしさを表現しました。


― モデル役は、みなさん在学生?

ショーに参加してくれたモデルは、総勢70名! そのうち20名は学外の方だったので、当日のアテンドや衣装の着つけなど、かなりドタバタでした。メンバー全員がショー全体の各役割を担当していたので、自身のブランドにかかりきりになれる人がいなかったんです。それをまとめるリーダー役も大変でしたが…ステージ設営を引き受けてくれた舞台芸術学科の学生さんや、外部の業者さんとのやりとりなど、貴重な経験ができたのは役得でした。

前日のリハーサルでは望天館の屋上をランウェイに見立てて練習を。
ファッションショー当日の朝から舞台を設営。
ショーの準備だけでなく非常時の誘導なども共有。
お客さまがショーを見やすいように椅子を配置。

 

そして、幕があがった

― ショー本番の、正直な気持ちは?

「すべてが心配」「不安しかない」…。ショー全体をまとめるリーダー役も、他の学生たちも、そんな想いでいっぱいでした。なにしろモデルの多くが学生なので、全員が揃うリハーサルは当日にしかできず、ほとんどぶっつけ本番。けれど、「舞台裏でモデルを待機させる係」、「タイミングぴったりに登場させる係」など、それぞれが自分の役割を果たし、無事に幕を下ろすことができました。

「slash」というタイトルには、社会人と学生の区切りであるファッションショー、という意味合いが込められている。


― つまり、大成功だったと!?

実際にやってみて、目に見えない「コンセプト」や「テーマ」をショーで発信する難しさを、あらためて思い知りました。もちろん映像も演出も工夫したつもりですが、「もうちょっと違う見せ方があったかも…」「もっと宣伝をがんばってお客を増やしたかった…」など、反省のタネは尽きません。
それでも、ランウェイを歩くモデルたちの姿が見えた瞬間、やった!という感動で胸がいっぱいになりました。自分たちがこの1年間やってきたことを、いま、観客席にいる友人や家族、先生たちに披露できている。それだけで、最高の気分でしたね。

「fufu」
fuと一息、fufuと微笑む。そんな時間を提供する、ルームウェアとお茶のブランド。
「culumalu」
小さい頃、カーテンにくるまって遊んだ思い出はありませんか?使い道がなくなったカーテンを再利用し、昔の「懐かしい気持ち」を思い出させるブランド。
「Cappogi」
1着と長いお付き合いを。家事を楽しむための割烹着ブランド。
「Rush」
い草を使ったのサスティナブルな帽子のブランド。い草の肌触りや香り、調湿効果など天然素材ならではの魅力を活かした帽子を制作しています。
「viny viny」
ビニール傘から制作されたバックブランド。柔らかくてふっくらとした触り心地をそのまま。
「Segno」
特別な衣装で、貴方の音楽を。楽器奏者の為のアレンジパーツブランド。手持ちの衣装を、演奏曲に合わせてアレンジします。
「NEAT NEAT NEAT」
本来なら処分されるものの価値を見出し、持続可能なものへ変える。チョッパーというカルチャーにスポットをあてたブランド。
「りちゃいくる」
皆さんが出した古着、海外ではゴミになっています。発展途上国に圧力をかけ、どうにかおかせてもらっています。それ本当にリサイクルですか?まずは知ってください。
「SHiNE」
捨てられるぬいぐるみに命の光を灯す。ぬいぐるみを再利用したサスティナブルブランド。
「noon」
noonは、大学や喫茶店などで使用されなくなったものから商品を製作したアップサイクルフラワーベースブランド。割れている部分は金継ぎを使用し、物たちの物語を尊重しています。
「Fuu」
銭湯をもっと身近にするジュエリーブランド。
「tenne」
あなたが誰かと歩むはじめの1日を、やわらかく纏うために。tenneは、藁とハレの日という文化をアップサイクルするためのウエディングプロダクトブランド。


― 最後に、ひとりひとりのご感想と今後の目標を!

ファッションショー リーダー:広瀬彩美結さん
3年間学んできたデザインや技術、思考をかたちとして残せてよかった! リーダーとして企画や運営にも関われたことも、自分の成長につながったと感じます。

ファッションショー リーダー:吉川莉央さん
これまでは作品を展示するだけだったので、「人の興味を引いて見てもらう」大切さを実感。今回うまくできなかったところを、次の成功につなげたいです。

ブランド「noon」代表:白木綾さん
チームや全体でひとつのものをつくりあげるって、ジュエリー制作ではめったにできないことなので、とても新鮮でした。この経験を社会に出てからも活かせたら。

ブランド「cappogi」代表:大谷理子さん
チームで互いの得意・不得意をカバーしあい、ひとりじゃできない作品が生まれました。できれば卒業制作でもコラボレーションして、今回のブランドを進化させたいです。

 

 

真っ暗な舞台に突然、音や光が降りそそぎ、モデルたちが歩きだす。ときにはクールに、ときには満面のスマイルで。ブランドごとに雰囲気や演出が一変するショーは、客席から見ていると、舞台裏の不安やとまどいをまるで感じさせない、多彩な魅力あふれるものでした。
担当教員の藤野先生は言います。「いちばん学んでほしかったのは、相手とぶつかりあいながらも、ひとつのものをいっしょにつくりあげる難しさ、楽しさ」。オンライン主流のいまだからこそ、リアルな対話や共同作業を通して、お互いの内面を理解する経験をしてほしかったそうです。「ひとの気持ちがわからない人間が、デザイナーにはなれないので」という厳しい言葉の次に、「今回のショーでみんな、その階段をのぼりはじめてくれたみたい」とニッコリ。
闇のなかでもがく時間が、ひとの心をつかむ輝きになる。26名にとって人生初のファッションショー KUA collection2022「/slash」が、つぎのステージをひらく光となりますように。みなさん、本当におつかれさまでした。素敵なショーをありがとうございます。

KUA Collection2022「/slash」ファッションショー

京都芸術大学 空間演出デザイン学科 ファッションデザインコースが、サスティナブルをテーマに12のブランドを展開。

会場 京都芸術大学 studio21
日程 2022年12月17日(土)
時間 開場16時、開演16時半

https://www.instagram.com/kua.collection/


学科ブログ:【FD3回生】ファッションショー「/slash」  

https://www.kyoto-art.ac.jp/production/?p=158267

 

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