「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES.大阪」に情報デザイン学科と宇宙部(SOLAB)の学生が出展! 食の未来を提案しました
- 上村 裕香
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1月25日(土)、26日(日)、グランフロント大阪にて、日本の「食」と「農」が抱える課題や目指す未来について、生産者・事業者・生活者がともに考えるイベント「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES.大阪」が行われました。たくさんの方が「食」と「農」の魅力に触れた本イベント。京都芸術大学の情報デザイン学科で学ぶ学生が展示やプレゼンテーションを行い、宇宙部(SOLAB)がマルシェに参加しました。
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食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES.大阪
消費者・生産者・食品関連事業者など、日本の「食」を支えるあらゆる人々と行政が一体となって行動する国民運動「ニッポンフードシフト」のイベントです(主催:農林水産省)。令和6年度は東京と大阪の2拠点でイベントを実施しており、今回の「NIPPON FOOD SHIFT FES.大阪」では、農家エッセイコミック「百姓貴族」・アニメ「天穂のサクナヒメ」のパネル展示、マルシェの出店、Z世代の学生による展示・発表やワークショップなど、多彩なステージを展開しました。
「食」の問題に向き合う
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京都芸術大学と農林水産省近畿農政局は、2021年から包括的連携協力協定を結び、日本の食が抱える課題解決のためのアイデアや未来のビジョンを可視化することを試みています。
今年度は、情報デザイン学科の学生10チームが「家庭内フードロス」や「こ食(孤食・固食など)」をテーマにリサーチを重ね、「食」の問題に向き合いました。その成果として、本イベントでは未来につながる10のアイデアを提案する展示プログラム「まだまだお腹すい展ねん」を行いました。
プロジェクトのスタートは4月。選択科目のプロジェクトながら、50名を超える学生が参加しました。普段から農業に関わる東京農業大学の学生や農家の方とは別の角度から「日本の食」について考えていきます。「日本の食」の課題を自分たちの問題として捉え、デザイン思考を用いて、リサーチやアイデアの実現、プレゼンテーションを行いました。
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フィールドリサーチでは農家の方だけでなく、フードロスの削減に取り組む京都市動物園や食品流通の最前線であるスーパー、農業協同組合など、学生自身が興味関心を寄せるリサーチ課題に合わせ、リサーチ先を決定しました。実際に農家の方に話を聞いたり、農場の野菜を食べさせていただいたりと、五感をフル活用して現場の空気や農業の現状を学びます。
夏以降はそうしたリサーチをベースに、それぞれのチームで設定した課題を解決するためのアイデアを考えました。10月のNIPPON FOOD SHIFT FES.東京でのプレゼンテーションを経て、後半は展示に向けて、調査の内容や、ターゲットやユーザーを想定した提案、具体的なプロセスを見える形に整えていきました。
Z世代の視点から
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ではいよいよ、展示ブースを見ていきましょう! ブースに入ってみると、木組の展示台にディスプレイされたカラフルな食品サンプルやカードゲームのサンプル、リサーチのまとめなどが目を惹きますね。いくつかのプロジェクトをご紹介します。
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冷蔵庫から日本を考える【ベジケアプロジェクト】
わたしたちが提案するのは、家庭内での食品ロスに注目し、野菜の適切な保存方法を知ってもらうための取り組みです。保存方法がわからない、めんどうだ、という理由で買ってきた野菜をとりあえず冷蔵庫に入れる、という人も多いのではないでしょうか。不適切な保存は、野菜の保存期間を縮め、食品ロスにつながってしまいます。
このアプリでは、野菜ごとの保存方法の違いを、冷蔵・冷凍・常温の3つの地域に分かれて生活するキャラクターに落とし込みました。キャラクターの睡眠方法や生活様式に例えることによって、野菜の保存方法を楽しく知ることができます。
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こ食から日本を考える【COCOCO-】
「こ食」にはひとりで食事をする「孤食」、毎日パンや麺ばかり食べている「粉食」、子どもだけで食事をする「子食」、好きなものばかり食べてしまう「固食」など様々な種類が存在します。わたしたちが提案するのは「こ食診断」です。それぞれの「こ食」の特徴を知り、当てはまった「こ食」にステッカーを貼ってみてください。診断を通してあなた自身の食生活を見返し、「こ食」との新しい向き合い方を考えてみましょう。
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食卓ラジオから日本を考える【あなたと作る食卓ラジオ】
リサーチをする中で、Z世代の若者は「家族や友人と食べる機会が減り、ひとりで食事をすることが増えている」という現状を知りました。その結果、食への関心が希薄になり、いつも同じ食事を選択する人も増加しています。
そこで、わたしたちは「食への関心を深めてもらうラジオ番組」を提案します。番組内では、わたしたちZ世代の若者が同世代のリスナーから寄せられた「食」に関する質問に答えたり、ゲストの方をお呼びして、多様な「食」に対する価値観に触れたりすることで、「食」への関心を深めていきます。
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ほかにも、家庭内で余ってしまった食材をロスせず料理にリメイクするカードゲーム『りめいくっく。』や、有機農業を手軽に体験することができるすごろくゲーム『ゆうきまわる』など、様々なアイデアが展示されました。
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食を楽しむ
25日には、展示についてのプレゼンテーションイベントが会場の特設ステージで行われました。今回の展示を行った各チームの学生と、情報デザイン学科の服部滋樹教授、編集者・フォトグラファー・ライターとして活躍する中里虎鉄さんが登壇し、日本の食が抱える様々な問題について話し合いました。
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プレゼンテーションを行ったのは、バランスのいい食事について知り、食の選択肢を広げるきっかけをつくるカードゲーム「きょうはこれたべよ!」や、農業の生産者が適正価格での取引ができない現状に着目し、CSA農業(地域支援型農業)をモデルにしたコスメセットの販売を提案する美容ブランド「食べる美容、まとう美容」など、ユニークなアイデアを創出した5組のチームです。
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こちらの「丼活」は丼の魅力を伝え、食の楽しさを知るきっかけを作る取り組みです。リサーチで発見した「日本の食料自給率の低下」と「食事が栄養を得るためだけの行為になっている」という2つの問題点に着目し、手軽さ・楽しさ・満足感の3つを持ち合わせる「丼」による解決を試みました。
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プレゼンを受け、中里さんは「わたしは料理が好きなので自炊をよくするんですが、友達がついコンビニで食事を済ませてしまうと言っていたのを思い出しました。ご飯を楽しむ余裕がなく、栄養を摂取するだけのものになってしまったりする感覚もわかります。『丼』のレシピを紹介することで料理の『手軽さ』を伝えて、食を楽しむことのハードルを下げることがすごくいいなと思いました。また、提案してくれた『丼』の食事を写真に撮ってSNSに残すというアクションも、食事を楽しむいい切り口になると感じました。ご飯を作って食べたら達成感は残るけど、目の前に物質として存在するものはなくなってしまうから、写真を撮ることでそこを補えるんじゃないかと思います」とフォトグラファーとしても活躍する中里さんらしい視点から講評されました。
最後に発表したチームが開発した「こめだのみ」は、Z世代に向けた映えないレシピとお米でつながるアプリです。一人暮らしだと、炊くのが面倒でなかなかお米を食べない……というZ世代のリアルな悩みに寄り添い、かわいらしいお米のキャラクターを用いて「お米を炊きたくなる」アプリを開発しました。レシピを閲覧したり、お米を品種ごとにデフォルメしたキャラクター「こめっこ」を育成したりすることで、ユーザーが気軽にお米に接することができます。
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服部教授は「ARなどの最新技術を使って、お米を身近に感じられるのがいいところだと思いました。アプリの機能として紹介されていた『冷蔵庫から余りものの食材を選んで「こめっこ」に食べさせるとレシピを提案してくれる』機能は、家庭内の食品ロスを減らすことにつながりますね。間口は広く、掘れば掘るほどおもしろいアプリだと思います」とコメントを寄せました。
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26日には残り5組のチームのプレゼンテーションに加え、京都芸術大学と東京農業大学によるコラボトークセッションも開催。今年度の授業ではオンラインで学生同士が意見交換をする取り組みも行われました。デザインと農業というまったくちがうジャンルを学んでいる学生同士、いい刺激になったのではないでしょうか。
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イベントに参加し、展示やプレゼンテーションを観た農林水産省の方々からは「年々クオリティが上がっている」と好評をいただきました。
「芸術の視点から見た『食』と『農』の課題や、それを解決するためのアイデアがすごく斬新で驚きました。アントシアニンに着目した化粧品の開発などのアイデアはもちろん、展示空間で来場者にシールを貼ってもらうというアクションを促すような展示のアウトプットも、斬新な表現の仕方でおもしろかったです」といった意見や、「プレゼンテーションも年々上達していると感じました。なにについてリサーチしたか、課題にどうアプローチしたか、ということが伝わって、このプレゼンスキルは社会に出てもコンペティションなどで通用するんじゃないかと感じました」というお褒めの言葉をいただきました。
新たなクラフトビールを
次は場所をマルシェエリアに移し、うちゅうブルーイングと本学の宇宙部(SOLAB)のコラボブースをのぞいてみましょう! こちらでは学生たちがうちゅうブルーイングと共同開発したオリジナルのクラフトビールを販売しました。
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山梨県北杜市でビールを製造、販売している「うちゅうブルーイング」と、宇宙を楽しく学び、宇宙に関する制作活動を行う本学のサークル「宇宙部(SOLAB)」。一見遠いように感じる2組ですが、「うちゅうブルーイング」のルーツは無農薬のお米や野菜作りの活動をはじめた「宇宙農民」にあります。農作物を生み出す土のミク口な世界に存在する宇宙、動植物の体・精神に宿る宇宙を感じ、地球上で自然の美しさ、おいしさを伝えたいと活動する「うちゅうブルーイング」と、京都の土地で天体観測や宇宙に関係するグッズの制作などを行ってきた「宇宙部(SOLAB)」は、まったくちがう角度から、しかしどちらも同じ「宇宙」に対してアプローチしてきました。
その両者がNIPPON FOOD SHIFT FESを通じて出会い、新たに開発したのが『ABAKE!!!(アバケ)』『EARTH ENERGY(アース・エナジー)』『URNA(ウルナ)』の3種類のクラフトビールです。
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プロジェクトがはじまったのは6月。事前リサーチを行い、学生視点で「宇宙」をテーマにしたクラフトビールについて議論しました。
8月のフィールドワークでは、山梨県北杜市にある「うちゅうブルーイング」の醸造所を訪問し、クラフトビールの作り方やすべてDIYで建設したという醸造所の仕組みをヒアリングしました。また、有機農業をされているファーマンにて農場を見学し、収穫体験も行いました。
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プロジェクトメンバーの濟木千咲希さん(VCDコース3年)は「醸造所では、実際の樽や工場の内部を見学させていただき、原料のホップを絞っている機械が動いている様子を見たり、搾ったあとのホップをどうリサイクルしているか伺ったりしました。会社の沿革や考え方についてもお話ししていただいて、ビール作りにより興味がわきました! 農園では現在の農業のあり方や作る上でのこだわりを伺って、農業を身近に感じることができました」とフィールドワークの成果を語ります。
また、現地では「うちゅうブルーイング」の方々との対話型ワークショップを通じ、「宇宙」「ビール」「食」をテーマに議論を深めました。どんなビールにするかが決まると、ラベルデザインの制作、ネーミングなどのチームに分かれ、アイデアを形にしていきます。
『食』に関心を持つ
今回のイベント当日には、各ビールの紹介パネルを設置し、学生たちが直接販売も行いました。当日販売していた2種類のビールがこちら。
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現存しない星座・壺座を宇宙ビールで蘇らせるというコンセプトの『URNA』は、北海道産の小豆を原料とするこし餡を使用したジャパニーズデザートエール。ソフトクリームをブレンドした「おしるこ」のような味わいを楽しむことができます。
『ABAKE!!!』は4種のホップと和歌山県産の山椒のピリリとした味わいが特徴的なインディアペールエールです。
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ラベルデザインについて、メンバーの大西璃莉さん(VCDコース3年)は「ビールのテイストをデザインで表現したかった」とこだわりを話します。「ビールを開発するときには、まずストーリーを先に考えました。『ABAKE!!!』なら、スパイとして潜入している宇宙人をビールの刺激で暴くというコンセプトなので、刺激的なピリッとした味にしたいと提案して、うちゅうブルーイングの方々に『スパイス感のある日本の食材として山椒がいいんじゃないか』と提案していただきました。ラベルは、そうしたビールのテイストに合わせてデザインを考えました。『刺激』というのがひとつキーワードとしてあったので、弾けるようなイメージを感覚的に伝えられるようなデザインにしました」
当日は販売も担当していた濟木さんと大西さん。お客さんの中には「おもしろかった」と飲んだ感想を言ってくださる方もいたのだとか。ビールの感想としてはなかなかユニークな表現ですが、大西さんは「『URNA』は壺を覗くような驚きを体験してほしいという思いを込めて作ったので、その狙いがうまくいってうれしかったです」と笑みをこぼします。
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学科でも学びながら、サークル活動として産学連携プロジェクトを主導した1年間。濟木さんは「プロジェクトに参加するまでは、あまりビールに触れてこなかったんです。でも、プロジェクトでホップについて教えていただいたり、農園を見せてもらったりして、ビールのことを知って、ビールが好きになりました。ビール、少しですが飲めるようになりました! 以前、うちゅうブルーイングの方が『顧客を増やすんじゃなく、ファンを増やしたい』とおっしゃっていて、そんなビジネスモデルもあるんだ、と知ることができました。プロジェクトに参加する中で、わたしたちもファンになりました」と『食』と『農』に触れ、自分自身も新たな関心を持つことができたと語りました。
今回は「NIPPON FOOD SHIFT FES.大阪」に参加した情報デザイン学科と宇宙部(SOLAB)の活動を紹介しました。来場者に新たな『食』と『農』について提案し、学生自身も自分たちの『食』への関わり方について振り返る機会になったのではないでしょうか。農林水産省と連携し新たな食のあり方について考える取り組みは、来年度以降も継続していく予定です。次回はどんなアイデアが生まれるのか、期待してお待ちください!
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。