REPORT2025.10.09

デザイン

プロダクトの魅力を提案する力が磨かれた「100円」の商品デザインーDAISO新商品開発プロジェクト第4弾

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  • 出射 優希

実践的なデザイン力が身につく、産学連携授業

文房具や日用品、家具家電、玩具など、幅広く「モノ」のデザインを行うプロダクトデザイン学科では、無印良品やパナソニックなど、企業と連携したものづくりを通して実践的なデザインスキルを身につける産学連携授業に力を入れて取り組んでいます。
今回ご紹介するのは、100円ショップDAISO(ダイソー)でおなじみ大創産業との2017年より続くプロジェクトの第4弾。提案した商品が最優秀賞・優秀賞を受賞した5名の学生へ、デザイン制作の背景を伺いました。


DAISOで活躍する卒業生がチューターとして学びをサポート

本プロジェクトでは、学生が一貫してリサーチからデザインの提案までを行い、考案した商品は商品化され、店頭へ並びます。過去には50点以上の商品が発売され、「お助け本棚」や「漫画を飾れる棚」「置き配シート」など、さまざまなヒット商品が誕生しました。

今年度は、2〜3年生の16名が参加。「日常の不便を解消する機能性のある商品」をテーマに、デザインを考案しました。また、これまでに引き続き、本プロジェクトの経験者であり、現在は大創産業でデザイナーとして活躍するプロダクトデザイン学科の卒業生たちが、チューターとして学生に伴走します。

4月にプロジェクトが始動すると、まずは既存の品揃えや売り場を知るために、DAISO 梅田DTタワー店での現場見学へ。その後、卒業生であるDAISO社員によるガイダンス・ワークショップなどを経て、原価や流通といった100円の商品を開発する上での意識すべきポイントについてレクチャーを受けます。提出した初期のアイデアは、ひとり35案以上。はじめに量を積み重ね、リサーチと検討を重ねながら質を高めていったといいます。

最終プレゼンには、大創産業の本部で働くバイヤー、デザイナーのほか、代表取締役社長の矢野靖二氏も参加。商品化を見据えた審査が行われました。

 

「100円」という制約が、学生らしいデザインに現実味を持たせる

今回最優秀賞を受賞したのは、小堀 周汰さん(プロダクトデザインコース|3年生)。社員証やネームホルダーの部品に取り付けることで、落とさずにリングノートを持ち運べるという商品を提案しました。

最優秀賞を受賞した小堀さん

アルバイト中にメモするためのノートが邪魔になったという経験から発想したこの商品は、最終プレゼンに同席した人事担当者の方からも好評だったのだとか。

 

デザインの過程では、参加したすべての学生が3Dプリンターなどのデジタルファブリケーションを用い「ラピッドモデル」と言われる試作品を制作。
小堀さんは試作品を実際にアルバイト中に使用することで、耐久性や落ちにくさの検証を重ねたといいます。

小堀「このプロジェクトを通して、プレゼン力と同時に“学生らしいアイデア”を社会に向けて提案していく力が身についたと感じています。これまでの社会実装プロジェクトでは、コストなどは抜きにした自由で突出したアイデアを出すことが学生らしさだと考えていたんですが、今回は実際に商品化されるからこそ、“学生らしいアイデア”に現実的な裏付けをしていくことを意識しました。」

写真右、プレゼンテーションをする小堀さん

アイデアの源はアルバイトでの体験や友人の声など、学生らしい日常的な視点を大切にしながらも、数値を用いて消費者のニーズを可視化したり、コストを抑える素材選びを徹底したりと、アイデアを実現させるための現実的な課題に向き合うのもDAISOプロジェクトの特徴です。
小堀さんは、プレゼンの方法や資料づくりも繰り返しブラッシュアップし、今後も使える自身の強みになるようなフォーマットを作ることができたと語ります。


優秀賞を受賞した大野 純輝さん(プロダクトデザインコース|3年生)は、イレーザーの配置にこだわったホワイトボードマーカーを制作。

プレゼンテーションをする大野さん

大野「チューターさんから形状や素材についてのアドバイスをいただきながら、デザインの改良を進めていきました。磁石選びひとつとっても、磁石自体がコストのかかる素材なのに、その中でもさらに高いネオジウム磁石を使用しようと考えていて、『君は100円で販売する商品を作ろうとしているんだよね』とチューターさんから問われることもあり、大事な視点を伝えてもらったなと思います。そうした材料のことだけでなく、海外で生産した商品の輸送にかかるコストのお話なども、しっかり教えていただけました。」

DAISOには100円以外の商品などもありますが、今回のプロジェクトでは100円で販売することを前提にしたデザインが求められました。制約があるからこそ、無駄のないデザインにするための工夫が散りばめられています。

続いて巽 諒介さん(プロダクトデザインコース|3年生)は、外出時に持ち運べるコースターを制作。形状一つひとつに意味をもたせることを意識したといいます。

巽さん

「一番難しかったのは、折りたたみ機能を実装することですね。既存のコースターの材質もリサーチしながら、見た目と形状、折りたたんだ前と後、どちらも満足できるものを考えて今回のデザインに辿り着きました。ですが、最終プレゼンの講評ではオレンジをモチーフにしたデザインには、審査員のバイヤーの方から『もっと機能に全振りしてもいいのではないか』という厳しい意見をいただきました。同時に、『スターバックスでも使えるよね』と自分が狙った使い方を考えていただけたのは嬉しかったです。」


最終プレゼンでは厳しい意見にも触れたものの、事前にチューターからバイヤー視点のアドバイスを受け、これまで以上にプレゼン準備に力を入れたことで、緊張せずに発表ができたと語ります。

保田 かれんさん(プロダクトデザインコース|3年生)は、アイススコップを制作。

保田さん

保田「飲食店でアルバイトをしていた際に、忙しいと氷を落としてしまうことがよくあったので、すくいやすい筒状のアイススコップを考えました。氷が詰まってしまう問題を解消するのが最後まで難しくて、狙った角度で傾けたときにだけ氷が落ちる形状になるまで、何度も試作を繰り返しました。」

 

これまで、自分が欲しいものや、ターゲットが限られたプロダクトのデザインを行ってきたという保田さんですが、DAISOプロジェクトを通して、誰もが日常で使えるもののデザインを行ったことが今後への大きな飛躍になったのではないでしょうか。

5名の中で唯一、消耗品の企画を行った横田 寧々さん(3年生|プロダクトデザインコース)は、お菓子作りに便利なサイズのクッキングシートを提案。

横田さん

横田「授業がはじまる前から、生活の中でこういうものがあったらいいなというアイデアを集めながら過ごしていました。賞をいただいた商品は、お菓子作りをする中で感じていた、ケーキの型にクッキングシートを敷く工程がめんどくさい、余った紙がもったいない、という悩みから考えた商品でした。既存のクッキングシートと区別するために、ケーキだけでなくパン作りやお弁当にも使えるという別の用途の提案を、パッケージに記載しました。プレゼンの場には男性が多かったこともあり、ターゲット層でない人からも共感してもらえる工夫として、実演動画を用いて商品の良さを説明したんです。」


商品化を前提としたプレゼンで培われたモノの魅力を「伝える力」

これまでの授業で経験した成果発表とは違い、商品化を前提として現場の社員を前に行われた最終プレゼン。開発の経緯や試行錯誤の過程よりも、商品化の魅力を短い時間でいかに伝えるかが問われた今回のプロジェクトでは、グループの仲間と協力してプレゼンを行ったり、作ったものを自分の言葉や資料で伝えたりと、自ら生み出したデザインの魅力を「伝える」ことにも力を注いだと話します。

横田「試作の量が多く形状にこだわった人や、アイデアの質にこだわった人など、人によって得意なアプローチがあるからこそ、見せ方や発表の内容も自然と違っていたのがおもしろかったですね。みんなのデザインや発表で良かったところを参考にすることも大事ですが、自分の作品の強みを自分自身で掴んでおく大事さも感じました。」

また、ほとんどの学生が週に一回は資材調達を兼ねてDAISOへ足を運び、同時に商品を手に取るお客さんの様子をリサーチしていたのだとか。

大野「今回は実際に店舗に行かせてもらったり、実際に使っている人の意見を聞いたりすることで、自分が考えていなかった使い方や、自分が思っていた以上の問題点を知る機会もあって、現状の問題点を見つめて人を観察する力が身についたんじゃないかなと感じています。自分の主観からはじまった制作でも、人の声に耳を傾けた上で自分なりの回答をもてるように、人に寄り添うプロダクトを制作していきたいです。」

“学生らしい視点”にはじまり、消費者と作り手、売り手の間を行き来して綿密なデザインを提案するDAISOプロジェクト。実践的なものづくりの経験が、これからの活動にも生かされていくのではないでしょうか。

 

今回提案した商品は現場でどのような改良を経て商品化されるのか。実際に店頭に並ぶのは少し先ですが、続報をお楽しみに。

 

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  • 出射 優希Yuuki Idei

    2002年兵庫県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。卒業後、ライターとして活動中。

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