これからの食とデザインを、様々なシテンで考えてみる。―「食から日本を考える。Nippon Food Shift Fes. 兵庫」
- 京都芸術大学 広報課
日本の食料自給率が低い、と耳にしたことはありませんか。カロリーベースでは日本は38%となっており、フランス125%、ドイツ86%、イギリス65%など、諸外国に比べて低い水準となっています※1。そんな日本の食の問題をみんなで一緒に考えるためのイベント「食から日本を考える。Nippon Food Shift Fes.」が日本各地を巡って開催されています。今回は1月14日(土)・15日(日)に兵庫県で開催され、情報デザイン学科の2年生がグループ展「シ展。」の作品展示とプレゼンを実施しました。そこには、これからの社会を担うZ世代ならではの「視点」で創る、私たちの未来が垣間見えました。
※1 参照:関東農政局 食料自給率(https://www.maff.go.jp/kanto/kids/future/selfsupport.html)
「食から日本を考える。Nippon Food Shift Fes. 兵庫」
https://nippon-food-shift.maff.go.jp/fes/hyogo20230114/#program-1
「食から日本を考える。Nippon Food Shift Fes.」は、将来にわたり日本の、自分たちの食を確かなものとするために、消費者と生産者や事業者とが出会い、交わることで、食への新たな気づきや発見を促し、意識や行動を変えていくためのきっかけづくりを目指すイベント。農林水産省主催のもと、Z世代や様々な農家が参加し、「聞く(トークセッション)」「見る・触る(展示・体験)」「手に取る(マルシェ)」の3つのプログラムで構成されています。
情報デザイン学科は、2020年に農林水産省近畿農政局と包括的連携協力に関する協定を締結。相互の人的・知的交流によって、広範囲な教育・研究面の向上や、食・農業に関する理解と発信、地域社会への貢献を目的とした包括的な連携協力協定です。全国の農政局で芸術大学と連携協定を締結したのは初めてのことです。
今回、学生たちは「食料問題や食の価格転嫁」に関する様々なリサーチをし、これからの食に関する課題の発見から解決のためのアイデアの構想を行い、グループ展「シ展。」のための作品を制作しました。10チームそれぞれの「シテン」の探究についてご紹介します。
「シ展。2022-2023」これからの食とデザインを、様々なシテンで考えてみる。
この展示は、より良い未来に向ける「始点」になるとともに、未来を支える 「支点」にもなる。しかし、考えることをやめてしまうと取り返しのつかない「死点」へと向かうことになる。今この瞬間、どんな「視点」をもって未来を創っていくのか。現代を生きる私たちの手に、委ねられている。
Aチーム
野菜との始点。Start Point.
VEGING!! Yasai to meet you!!
「VEGING!!」の野菜の販売方法は、身近にある自動販売機。そこで提示するのは野菜の生産者の情報のみ。野菜の名前は明かしません。どんな野菜が出てくるか分からない。消費者はそんなドキドキ感の中で、野菜と偶然的に出会います。味や見た目に捉われない新しい野菜の買い方。それは野菜の消費量の増加、消費者と生産者との繋がりの構築により、食料自給率の回復を図ります。
Bチーム
繋がりの始点。Start Point.
わかば 離れたあなたと未来に優しい、いいご飯。
国産の農畜産物は、原材料費等の上昇分のほとんどを価格に上乗せできず、農業者は厳しい経営を強いられています。国産の食材を買うきっかけとして、親子と生産者をつなぐSNS型ショッピングアプリ「わかば」を提案します。食とコミュニケーションは密接な関係にあります。このアプリは「国産のいいごはんを贈り合い、より多くの人が国産の食材を選ぶようになる世の中」を目指します。
Cチーム
選択の支点。Pivot Point.
知る、選ぶ、食べる。
あなたは本当に正しい情報をもとに食べ物を選んでいますか?なんとなくのイメージで選んでいませんか?その裏には、常識を覆す真実が隠れているかも知れません。食の現状を知ることで、選択の幅を広げ、自らが食べるものを選ぶ軸を考えてください。
Dチーム
野菜の始点。Start Point.
Vege
食べるだけではない野菜の使い方について考え、野菜のアップサイクルに目をつけました。捨てられるはずだった廃棄物に加工などを施してデザイン性や実用性を高め、新しい製品として生まれ変わらせる。食品ロスの中で最も高い割合を占める野菜。どこでどうして野菜が捨てられているのかなどの情報とともに、今回は規格外野菜を使った石鹸、絵の具、入浴剤、紙、新しい素材を紹介していきます。
Eチーム
価格の始点。Start Point.
価格とおいしく話し合う
買い物から生まれた食問題があるのを知っていますか。実は、お店で販売されている食品のほとんどは適正価格よりも安く販売されている事実があります。消費者の「安い=魅力」という食選択の裏に未来の食の安定を覆してしまう大きな落とし穴がありました。価格転嫁の現状について「知ってもらう・自分ごと化してもらう・拡散してもらう」の3つを主軸に、消費者が価格から食問題について触れる1歩目となるような展示を目指します。
Fチーム
価格の始点。Start Point.
ぴっくる 見切り品を、アタリに。
本来食べられるのに捨てられてしまう食品ロスを「資源」として考え、見切り品に対する意識の変化を促し、“アタリ”と位置付ける取り組み『ぴっくる』を提案。見切り品を手に取るというちょっとした行動から今後とも安定的な食生活を送るために、食品・食材を無駄なく大切に使っていくことが重要です。そして、見切り品を「選ぶ」ことのできる目を持った消費者が成長することで、持続可能な未来を目指します。
Gチーム
作法の支点。Pivot Point.
箸を、改める。
和食の作法を知っていますか。和食を食べる際、緊張を感じる人は少なくないでしょう。日本では和食以外にも洋食、イタリアン、中華など食の多様化が進んでいます。更にファストフードやレトルト食品、インスタント食品など美味しく手軽に食べられるものが増えました。和食の登場回数は減少し、同時に作法も失われつつあります。そこから和食への手は重くなり、和食文化が失われる悪循環が起こっていると考えました。
Hチーム
野菜の視点。Visual Point.
欠点を愛する。
傷があったり、変形したりしている野菜は規格外とされ、廃棄されてしまいます。そこで私たちは、「野菜に品質以外の価値を与え、野菜の売り方を広げる」をコンセプトに規格外となる野菜のブランディングを行いました。野菜をクオリティ以外の価値で売ることによって、「規格外」という概念をなくし、生産者と消費者の規格外に対する売れない、買いたくないといったマイナスなイメージが変わるきっかけになればと思います。
Iチーム
意識の始点。Start Point.
toride
収穫された野菜、果実、穀物。「見た目が悪い」という理由だけで、年間約400トンが廃棄されているのを知っていますか?「toride」は、このようなフードロスの意識を変えていくために若い世代だけではなく全世代の考え方が変わる「きっかけづくり」を生み出すためにオープンしたカフェ。見た目だけでは判断できない美味しさや安全性に気付いてもらいながら不揃いの偏見を無くし、フードロスの削減を目指します。
Jチーム
繋がりの支点。Pivot Point.
CSA ver.3.0
食料自給率を上げるために行われている「CSA」の現状について調べ、そこから見つけた「CSA」の認知度の低さという問題を解決する解決策として「CSA」のアップデートを考えました。Z世代の若者をターゲットにCSAを取り入れた新しい居酒屋のブランディングを行い、未認知層への認知度拡大を目指します。
活かす、楽しむ、繋げる。
プレゼンを終えた学生たちに、今回の取り組みについて感想を伺いました。
Bチーム
中川結菜さん
「思った以上にたくさんの人が聞いてくれて嬉しかったです。もうちょっとうまく伝えられてたらなあという反省もありつつ、やってよかったなと思います。展示で終わるのはもったいないので、今後はワークショップもやってみたいです」
杉本千苗さん
「実は中学生のころから地域活性化に興味があり、この大学に入学したんです。今回の取り組みにある、食料自給率を上げることは地域活性化に関わっています。卒業後に、地元である豊岡市のPRをするときにもこの経験をアピールしていけたらと思います」
Dチーム
久保風依さん
「学外で展示して外部の人に見てもらうのは初めてでした。周りの人から質問や感想を言ってもらえたのが嬉しかったです。リハーサルのおかげで緊張が解け、本番に挑むことができました」
出口玲菜さん
「展示を見てくださった方が、展示物である絵の具や石鹸などの作り方を聞いてくださり、実際に作ってみたいと言っていただけた事がとても印象的でした。会場には農家さんを始めとした、"食"に関わる方が多くいらっしゃり、実際に現場で働いているからこそ分かる大変さなどをお聞きすることができました。初めての学外の展示・発表だったので緊張して失敗してしまったり、反省すべき点も多くありましが、とても貴重な経験になったと思います。私たちの展示が、これからの食について考えるきっかけになったら嬉しいなと思います」
「学生のアイデアは22世紀の価値観を創り出すきっかけになると思う。これからは価値観をみんなで作っていけたらと思う」と話された、情報デザイン学科教授の服部滋樹先生。今回の取り組みが、より良い食環境づくりに向けて食への関心が高まるきっかけになることを願っています。情報デザイン学科のみなさん、お疲れさまでした。
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