2024年12月21日(土)から増田セバスチャンの彫刻作品《New Generation Plant》が大阪・北加賀屋に帰ってきました!
ファッションブランド『6%DOKIDOKI』のプロデュースやきゃりーぱみゅぱみゅのMV『PONPONPON』の美術などで世界に日本のkawaii文化が知られるきっかけを作ったアーティスト・増田セバスチャンさん(元情報デザイン学科客員教授)。増田さんは2015年から本学のウルトラファクトリーと共同で立体作品を制作するウルトラプロジェクト「COLORFUL LAB.」を実施しています。
このたび増田さんと協働して彫刻作品《New Generation Plant》の修復・アップデートを行なったのは、学科・学年問わず集まった29名の学生たち。
新しい世代による未来の植物を
ウルトラプロジェクトとは、学内の共通工房「ウルトラファクトリー」に第一線で活躍するアーティスト・クリエイター・編集者などを迎え、現代美術から伝統工芸、演劇、映像表現、編集やイベント企画に関わる実践演習のこと。
現代美術家のヤノベケンジ先生(美術工芸学科教授)が主宰する「モフモフ・コレクティブ」プロジェクトや彫刻家の名和晃平先生(大学院芸術研究科教授)の「ULTRA_Sandwich」など、個性豊かなプロジェクトが勢揃いし、学科・学年の枠組みを超えて多数の学生が参加しています。
今年度の「COLORFUL LAB.」は2024年5月にキックオフ。大阪・北加賀屋にある加賀屋の森に常設展示されていた《New Generation Plant》の修復・リニューアルを行いました。
実は、当初は前期・後期でちがうミッションに取り組む予定だったといいます。しかし、《New Generation Plant》共同開発のヤノベケンジさんと話し合い、劣化していた支柱を取り替えたり、カラフルなおもちゃなどのマテリアルを使った部分(通称・リベリオン)をFRP(繊維強化プラスチック)で覆ったりといった大型リニューアルを行うことに。
5月には増田さんのこれまでの作品について学生が自分たちでリサーチしたり、増田さんが本学に来校され、これまでのプロジェクトや作品のコンセプトについて説明したりする授業も実施されました。
今回学生たちがリニューアルに取り組んだ《New Generation Plant》のコンセプトはその名の通り「新しい世代による未来の植物」。増田セバスチャン作品の特徴である、カラフルな反抗をテーマにマテリアルを敷き詰めた「リベリオン」と、夜にはカラフルに点灯する植物のつぼみのような部分、それを支える茎としての支柱で形作られています。
リベリオン(rebellion)は直訳すると「反抗」という意味ですが、この手法の成り立ちとしては「世界にない新しい色彩を作る」という理念が先にあったのだそう。絵の具を使う代わりにカラフルなおもちゃを使い、配置しています。遠くから見たときには1つの色に見えるけれど、近くで見ると多様な色や素材が集まって構成されている。間近での視点と、遠くから見た視点。その光景は、様々な国の文化やファッションを飲み込んで新しい文化を生み出した「原宿」という街の成り立ちや、普段私たちが世界を見る時に必要な視点と似ていることから、マテリアルを細かく配置することで新たな色を作ることを「リベリオン」と呼んでいます。
そもそも、増田さんが《New Generation Plant》を制作したのは2011年の東日本大震災で被災地にボランティアに行った際、人がいない家屋で植物が力強く大きく成長している光景を見て「人がいなくなっても、植物は生き、むしろ自由を謳歌して違う姿を見せている。まだ見たことがない未来の植物を、これからの未来を作る次世代と一緒に作ろう」と思ったことがきっかけなのだとか。こうしてウルトラプロジェクトで学生と共同制作することに、大きな意味のある作品なんですね。
実験を繰り返しながら
プロジェクトではFRP班とリベリオン班の2チームに分かれ、制作を行いました。
もともとは屋外にリベリオンのみの姿で常設展示されていた《New Generation Plant》ですが、剥き出しの状態ではマテリアルにほこりが溜まったり、黒ずみが生じたりすることから、今回FRPで周りを覆うデザインにリニューアルすることになりました。実際のリベリオンに刷毛でウレタンクリアーの塗装を施し、屋外に置いた状態で退色を防ぐことができるかという実験も行っています。
こちらが造形したFRPのパーツです。なめらかな形をどう成形したのか、FRP班の齊藤美玖里(クロステックデザインコース・3年)さんに聞いてみると、「増田セバスチャンスタジオの方々が作ってくださった図面から業者に発泡スチロールの造形を発注して、その造形から型を作成、その型にFRPを張り込みます。ただ、発泡スチロールに直接樹脂を塗るとボコボコしてしまうので、発泡スチロールの表面をパテで埋めたり削ったりして形を整えて、コーティングをして、樹脂を成形していきます。すべての工程を合わせると20日間くらいかかるので、すごく根気のいる作業でしたね」と実物を見せながら説明してくれました。
そして、完成したFRPの形にマテリアルを敷き詰めていくのはリベリオン班のお仕事。ちょうどリベリオンを制作しているメンバーの手元を見せてもらうと……。
様々なおもちゃが緑色の金網に敷き詰められているのが見えます。おもちゃのブロックやビーズ、お風呂に浮かべるアヒル、毛糸、ボタンなど色とりどりのマテリアルが配置されています。
リベリオン班の高橋萌(日本画コース・4年)さんによると、「マテリアルの配置にもルールがある」んだとか。「『同じような形や大きさ、色のものを並べない』とか、『同じ角度が続かないようにする』とか、『1つのマテリアルを悪目立ちさせない』というような配置するときに気をつけることを教えてもらって、それをチームのみんなで共有して制作に取り組みました」
FRPとリベリオンを合体させるときには、一旦金網と一体になったリベリオンを外し、リベリオンがないところを補完する工程も。ボール状にしたリベリオンを入れたり、毛糸を巻いてマテリアルをつけたりして、三角形の平面的なリベリオンが届かない部分も空洞にならないようにしています。
そして、合体させたFRPとリベリオンにそれぞれ支柱を通すための穴を開け、組み合わせると……完成! 林立する様子は壮観です。
プロのアーティストとの共同制作
記事後半では、絶賛制作中のウルトラファクトリーにお邪魔して、「COLORFUL LAB.」プロジェクトでリーダーを務めた高橋萌(日本画コース・4年)さん、齊藤美玖里(クロステックデザインコース・3年)さん、北村彩菜(イラストレーションコース・3年)さんに、プロジェクトに参加したきっかけや学びなどについて伺っていきます!
——今回、「COLORFUL LAB.」にはどんな理由やきっかけで参加されましたか?
高橋さん:わたしは大学に入学したきっかけが『ウルトラプロジェクトに参加したい』と思ったことだったので、絶対にウルトラプロジェクトに入ろうと決めていました。そして、どのプロジェクトに参加するか考えたときに『可愛いものを作るのがとにかく好き』という一点でこのプロジェクトに参加しました。2022年に行われた増田さんと協働で参加型ライブパフォーマンスを企画・運営するプロジェクトにも参加して、今回は2回目の参加です。
北村さん:以前、増田さんがトイストーリーとコラボしたグッズを制作されていて、そのグッズがかわいいなと思って調べるうちに京都芸術大学で教えていらっしゃることを知りました。増田さんが教えていらっしゃるからこの大学に入学したという部分もあります。でも、1年生のときには勘違いでプロジェクトに参加できなくて。去年はプロジェクト自体がお休みだったので、今年念願叶って参加できてうれしいです。
——制作中やプロジェクトを進める中で大変だったことはありましたか?
齊藤さん:FRPを成形するときは、終わりが見えなくて大変でしたね。最初はやるべき意味がうまく掴めなくて。樹脂を流し込んだときに発泡スチロールの凸凹が見えると作品にとってマイナスになるから削ってるんだよ、っていうことが最初はあまり理解できないまま『とりあえずパテで埋めたらいいの?』と思っていました。でも、トライアンドエラーを繰り返すうちに意味がわかってきて。実際に完成したものを見ると『がんばったら、これだけ艶が出てきれいになるんだ』と気づくことができました。いまはすごく達成感があります。
北村さん:わたしはプロジェクトの日報を書いたり、増田セバスチャンスタジオと学生チームのオンラインでの打ち合わせの議事録を作成して共有したりする役割を担当しました。プロジェクトの規模が大きいので、情報伝達の大変さと大切さを感じましたね。増田さんが夏休みに来校されたときに、日報や議事録について声をかけてくださって、『増田さんのプロジェクトに携われているんだ』という充足感がありました。
——プロジェクトで増田さんに直接ご指導いただく機会もあったと思います。プロのアーティストと共同で制作を行うことで得られた学びはありましたか?
齊藤さん:プロジェクトがはじまった当初は増田さんのオーラがすごくて話しかけられなかったんですが、話してみると『普段どういうことをしてるの』と気さくに聞いてくださったりして、『大人数での制作の空気作り』を学ばせていただきました。また、わたしは『自分の作品の軸』がわからない時期にプロジェクトに参加したんですが、増田さんの『kawaii』に触れたり、チームメンバーと話したりする中で、『かわいいって女の子っぽいっていうだけじゃないんだな』と新しい気づきがありました。人によってかわいいと思うものは違うとか、虫って嫌われる存在だけど、リベリオンにすることでかわいいものに生まれ変わるんだなとか。視野が広がったと感じます。
高橋さん:プロのアーティストと共同で進めるプロジェクトなので、普通の授業とは参加するときの責任がちがうと感じていました。わたしがプロジェクトに応募するときも、4年生で就職活動や卒業制作もある中で参加していいのかなと迷ったんですが、先輩に『学生のうちにできることをやったら』と背中を押していただいて参加しました。実際に参加してみると、いままでの自分の制作とちがって、増田さんが納得するクオリティのものを作らなければいけないという責任があって。仕事を任せてもらうことで、覚悟をもって制作に取り組めました。
制作に学びを反映して
——今回のプロジェクトを通して学んだことが、自分の制作に活かされるような兆しはありますか?
齊藤さん:すごく影響を受けているなと感じます! わたし、最近スマホケースをデコったんです。細かい作業とか、自分でパーツをつけることとかが苦手だったんですけど、制作をするうちにやってみようかなと思って。これもひとつの変化ですね。もうひとつは、自分にとっての『かわいい』ってなんだろう?という問いの答えが見つかりました。わたしは、頼りなかったり、崩れてたり、そういう完璧じゃない『かわいい』が好きですね。だから、いまはそれを自分の制作でどう表現しようかと考えている段階です。
北村さん:わたしはイラストレーションを学んでいて、いままでもカラフルなイラストを描いていたんですが、手先は不器用で、折り紙もできなくて。でも、周りの子たちが(齊藤さんのように)スマホケースをデコったり、キラキラしたものを使って制作したりしているのを見て、自分もやってみたらできたんです。『できないと思ってたけど、やってみるとできるんだ!』って発見でした。最近は、普段制作しているイラストにも『デコる』要素を取り入れて、アナログのイラストにデコパーツをつけたり、デジタルイラストを出力してキラキラしたパーツをつけたりしています。
——リニューアルして設置した《New Generation Plant》をどんな人に見てほしいですか?
齊藤さん:まずはやっぱり、北加賀屋に住んでらっしゃる方々に見ていただきたいです。《New Generation Plant》が飾られていたことで元気をもらっていた方も大勢いらっしゃったと伺っているので、地域住民の方々にリニューアルしたよりよい作品を届けたいです。あとは、北加賀屋を訪れたことがない方にも、これを機に足を運んでいただけたらと思います。北加賀屋はアーティストさんの作品がたくさん展示されてる倉庫があったり、アトリエがあったりするので。
高橋さん:そうですね。《New Generation Plant》を大学に移送したときも、惜しんでくださる方が多かったので、待っていてくださる方々のためにも、いいものを作ってもっていきたいです。
学生たちがプロのアーティストと試行錯誤を繰り返しながらリニューアルした《New Generation Plant》。大阪・北加賀屋の地に再び設置されています。次世代がつくるこれからの時代を感じさせる彫刻作品を、ぜひ北加賀屋でご覧ください!
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。