REVIEW2021.11.05

アート

増田セバスチャンと大阪・北加賀屋が起こす新しいアート・ムーブメント ― 「YES, KAWAII IS ART」、共同スタジオ「SSK」、巨大アート倉庫「MASK」

edited by
  • 京都芸術大学 広報課

大阪・北加賀屋の工場街が、一大アートエリアに変貌

大阪市の大阪メトロ四つ橋線北加賀屋駅から西側の木津川河口域に面する工場や倉庫が隣接する一帯が、アートのスポットとして注目されるようになってからすでに10年以上経つのではないだろうか。もともとは、一帯を所有する千島土地株式会社が、名村造船所跡地を現代アートのグループに貸して30年間継続するイベント「NAMURA ART MEETING '04-'34」が2004年に開催されたことに端を発する。戦前から造船産業地帯として栄えた街だが、高度成長期を過ぎて、産業転換が起こり、空いたスペースにアーティストが集うようになったのだ。

撮影:漆原未代
撮影:八久保敬

 

その後、「NAMURA ART MEETING '04-'34」を皮切りに、千島土地は、名村造船所跡地を「クリエイティブセンター大阪(CCO)」としてアーティスト・クリエイターの発表の場として提供し、「芸術・文化が集積する創造拠点」として「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」を推進する。2011年にはおおさか創造千島財団を設立し、2012年には大型現代アート作品を収蔵する倉庫MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」を開設、2018年には森村泰昌の個人美術館モリムラ@ミュージアムをオープン、2019年には共同スタジオSSK(Super Studio Kitakagaya)を開設するなど、関西在住のアーティストの創造・発表拠点として変貌を遂げてきた。このような工場・倉庫街にアーティストのスタジオやギャラリーが集積し、街が変貌することはニューヨークのSOHOなどで起こり、その後、世界中に見られる現象だ。日本においては今までにあまりなかったが、近年、東京の天王洲アイル地区にある寺田倉庫と、大阪の北加賀屋一帯を所有する千島土地は、現代アートのスタジオやギャラリー、展覧会場、倉庫などを擁しており、日本のアート・シーンに大きな役割を果たすようになっている。

 

増田セバスチャンの表現活動の変遷

今回、北加賀屋の使用されてなかったスペースを新たに改造して、大規模な個展「YES, KAWAII IS ART」を開催するのが増田セバスチャン(元本学客員教授)だ。きゃりーぱみゅぱみゅのPVなどのアートディレクションなどで知られ、原宿を拠点に日本のKawaii文化を牽引してきた増田だが、実は現代演劇や現代美術からキャリアをスタートしている。現代美術家、演出家、劇作家の飴屋法水の作品にかかわったり、自身で前衛的なパフォーマンスを行ったりしていた。それ以前には、大阪で一人暮らしをした時代もあるという。

撮影:GION

 

その後、常設の展示ができる空間として「裏原宿」にショップ、6%DOKIDOKIをオープンする。西海岸のドラッグストアなどから奇抜な色彩のアイテムなどを買い付け、極彩色のグッズが揃う店が口コミで話題となる。その頃から、今まで淡い色で表されていたカワイイは、攻撃性を秘めた原色で彩度の高い色へと変質していく。6%DOKIDOKIには、篠原ともえやきゃりーぱみゅぱみゅも通うようになり、その縁もあり、『PONPONPON』のPVのアートディレクターに抜擢される。PVはYouTubeで公開されるとともに、爆発的な再生回数を記録し、その世界観や配色が一躍評判となる。それ以降サンリオなど、カワイイ文化を象徴するようなアートディレクションを任されるようになっていく。また、6%DOKIDOKI開設後、世界各地のカワイイ文化やファッションの愛好者から招聘されるようになり、各地でパフォーマンスや特設ショップを開くようになる。グローバル化した世界の中で、直接的な交流やSNSの交流が急激に増加し、増田らの活動により、日本のカワイイは世界のKawaiiへと進化したのだ。

 

近年は、原点回帰として、アーティストとして活動を再開し、2014年、ニューヨークのチェルシーで部屋型のインスタレーション作品《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-》を発表した。そして、世界中のカラフルなアイテムを張り付けた、極彩色のインスタレーションが、現地のアートファンを驚かした。極寒のニューヨークで1000人以上の人が並び、蔡國強も遊びに来たという。《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-》は、その後、インスタレーション作品としては異例な形で、フロリダ、ミラノ、アムステルダム、アントワープに巡回展示された。

《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-》(2014)撮影:GION

 

また、コロナ禍の2020年5月、インターネットでつながり、世界中のKawaiiの価値観を共有し実践する人々をトライブと位置付け、「Kawaii Tribe」という声明文を発表する。隔離されているKawaii文化を愛する人々に、もう一度色の力を信じて国境や属性を超えてつながろうというメッセージは、世界中のコミュニティに自主的に翻訳され、SNSを通じて瞬く間に広がった。また、「Kawaii Tribe Session」として、世界中に自然発生したKawaii文化を愛するコミュニティと連絡をとり、ZOOMを使ってミーティングを行った。現在、世界の9か国のコミュニティと実施しており、コロナ禍の状況のヒアリングと自分にとってKawaiiとは?など、Kawaiiの価値観を巡る対話を行っている。

 

実は、それらは本学のウルトラファクトリーが実施しているウルトラプロジェクトの一環として行われており、山城大督(本学アートプロデュース学科専任講師)が率いるプロジェクト「UFO(ULTRA FACTORY ONLINE)」の配信協力のもと、増田が率いるプロジェクト「カラフル・ラボ」のメンバーとなった学生も多数参加している。「カラフル・ラボ」は、「Kawaii Tribe Session」と戦後少女文化から連なる世界のKawaii文化をリサーチし、戦後から現在までの世界的伝播をテーマに、2021年3月に展覧会「Digital Tribe -未来のコミュニティのあり方-」を開催している。本展は、それらの成果も取り入れ、増田の今までのキャリアを一挙に見られるかつてない規模のものとなった。

「Digital Tribe -未来のコミュニティのあり方-」

 

内面の色を見つめ直し、世界を変革する大型インスタレーション

今回、10月31日(土)から11月21日(日)まで、北加賀屋の3会場、kagoo(カグー・旧ユナテック川北)、音ビル、千島文化で展覧会が開催される。北加賀屋のアート施設の中でも今回、メイン会場となったkagooは、元家具屋の店舗であり、長らく使用されていなかった。北加賀屋周辺は、もともと対岸の大正区に貯木場があったこともあり、木材を扱う業者が今でも多い。今回、退色していた赤色の外壁は展覧会に合わせて白く塗られ、内部空間全体に鋼管を組んで、一から展示空間がつくり上げられた。


そのために増田は、3週間前から滞在制作を行ったという。また、これらの鋼管などの設計は、近接するコーポ北加賀屋に事務所を持つドットアーキテクツによるものだ。家成俊勝(本学空間演出デザイン学科教授)、赤代武志によって共同設立されたドットアーキテクツは、先日、小嶋一浩賞を受賞しており、日本の建築界をリードする存在となっている。ドットアーキテクツは、増田が「Reborn-Art Festival 2019」において発表した《ぽっかりあいた穴の秘密》(2019)の設計サポートも行った経緯もあり、最適なコラボレーションとなった

《ぽっかりあいた穴の秘密》(2019)

 

今回、kagooには、カラフル・ラボで制作したリサーチプロジェクトの展示、6%DOKIDOKIのポップアップショップ、そして、2014年から巡回展示されていた《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-》が凱旋し、新たに2021年バージョンとして3つの部屋からなる、巨大インスタレーション作品として展開された。それらは「色の部屋」「音の部屋」「光の部屋」と名付けられている。

左から「音の部屋」「色の部屋」「光の部屋」

 

kagooの巨大な吹き抜けに設置された《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-》(2021)のそれぞれの部屋の外壁は、展示空間全体が暗いのでほとんど見えない。しかし、設営中に訪れたときは、外壁に様々な種類の板が張り付けられており、それらは増田が近くの倉庫や会社を周りながら、提供してもらった廃材ということだった。つまり、2017年に増田がアムステルダムに滞在しパフォーマンス作品を制作したときのように、現地で様々な舞台美術の道具を調達し、京都芸術大学を含むボランティアなどと一緒に、仮設的に組み上げているのだ。増田は、本作を街と一緒につくり上げたものであり、観客が役者の舞台作品であると述べている。

吹き抜けの展示空間に入る前に、増田が2013年10月にNYにわたったときの回想禄がプロジェクターで投影されている。展示空間は暗闇になっているため、それぞれの部屋までの道には、等間隔に蝋燭のようなライトが置かれ、足元が照らされている。観客は階段を上って各部屋に入る。中央にはNYの作品をバージョンアップした「色の部屋」が設置されており、左の「音の部屋」は長い階段を上り、右の「光の部屋」は短い階段を上って鑑賞する仕掛けになっている。

「色の部屋」には、室内に白いシーツのベッドが置かれ、壁面には世界中から集めた子供用の玩具や飾り付けのグッズなど、カラフルなアイテムを色材として、対比的な色を並置し、点描画のように貼り付けられている。ベッドの横にはアイテムで作られた巨大な熊のぬいぐるみが横たわっている。この作品は、もともと副題がSeventh Nightmare(7つの悪夢)とされており、「7つの大罪」がテーマとなっている。「7つ大罪」とは、カトリックにおける人間の罪の源となる想念のことで、傲慢・強欲・嫉妬・憤怒・色欲・暴食・怠惰のことである。幾つかに分けられたゾーンには、何らかの罪が当てはめられているとのことだが、6つしかなく、7つ目は観客自身の根源的な想念であるという。つまり、それはベッドの上(夢の中)で見る観客自身の「色」でもある。

《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-》(2021)

 

増田の自画像的な作品でもあるとのことだが、NYで展覧会を開催している時期、自身がKawaii文化を推し広めたものの、それが成熟を否定し、内側に閉じこもったり、幼児性を肯定するフォロワーたちの原因になっているのではないかという、罪の意識があったという。つまり、この時期までは、Kawaii文化の伝播についてアンビバレントな気持ちをもっていたのだ。

この作品がニューヨークで驚かれた理由は幾つかあるだろう。つまり、世界中で広がりを見せていたKawaii文化の発信者そのものが直接的に表現しに来たこと。それ以前から、似たエッセンスを持つ作家は幾つか見られたが、増田のような発信者・牽引者ではなかった。次に、ギャラリーとはいえ、パブリックな空間という前提の場所に、超パーソナルで、幼児的なグッズに囲まれた部屋をつくり、さらに、観客の想念(夢)の中にまで侵入しようとしたことだろう。

 

次に、一番高い「音の部屋」に入ると、黒く塗られた凹凸のある壁面に、水が流れている。高いところまで階段を上った後に、暗く冷たく涙のような水が流れているというようなシチューエーションに戸惑う。上を見ると、この空間の巨大な梁が通っており、元の空間を活かした構造になっていることがわかる。また、不協和音と協和音を揺れ動くような環境音が流されている。逆に右の一番低い「光の部屋」に入ると、入ったすぐ近くまで綿で覆われており、後ろから光が当てられていて、明るく暖かさを感じるが、それ以上は進めない。


これらは極寒のNYでホテルに滞在していたときの記憶が反映されているとのことだが、世界の構造のようにも思える。「7つの大罪」をテーマにした「色の部屋」が煉獄、暗い「音の部屋」が地獄、明るい「光の部屋」が天国とも読め、生きながらにして、古代ローマの詩人と死後の世界を周ったダンテの『神曲』を想起させる。上に暗い「音の部屋」、下に明るい「光の部屋」を配置しており、明暗の上下が転倒しているのが示唆的である。強欲で上に登ったものが地獄的な空間で、下に恵みを与えたものが天国的な空間である、とも捉えることができる。ただし、暗い「音の部屋」は隅々まで歩くことができるが、明るい「光の部屋」は奥に入ることはできず、心の中の光と闇、そして色の存在を誘発する。増田はこの作品は、「自分の色を見つける」と解説していたが、まさに、自分自身が持つ個性や色が何かを突きつけられる「審判」の部屋にもなっているのだ。

 

無料の展示スペースには、「カラフル・ラボ」によるリサーチが再展示されており、増田が世界中のコミュニティとの対話の中で、「罪」かもしれないと考えていた自身の活動が、世界中で肯定されており、生き方や生きがいになっていることが明確になっている。それが、国や地域、宗教、性別、年齢、人種に限らず共有されているということがわかる。


大人になる年齢になると、通常、相応の服を着て、相応のふるまいをしないといけない、という社会的な抑圧がかかる。特に成熟を重んじる西洋社会は厳しいが、原色やキラキラした「反抗的な色彩」を身にまとうことで、彼・彼女らは暴力ではなく、平和的に社会的な制度と闘っていることがわかる。大人の社会が、世界をここまで壊してきたことを考えると、子供の視点でもう一度世界を捉え直し、自身の中の子供、インナーチャイルドの声を聞くことこそが、平和的な革命なのかもしれない。

実は「YES, KAWAII IS ART」という本展タイトルは、オノヨーコがジョン・レノンと最初に会ったときの作品《Ceiling paint(YES)》(1966)のオマージュにもなっている。そして、レノンとヨーコの非暴力的な平和活動のパフォーマンス「ベッド・イン」や、花や花模様の服でまとって平和運動を行った「フラワーチルドレン」を継承しているのだ。

《Ceiling paint(YES)》において、レノンは脚立に登って、天井に書かれたYESという小さな文字を虫眼鏡で発見し、当時傷ついていた自身を肯定されたと感じ感銘を受けたという。本作も、増田自身の存在の肯定であり、Kawaii文化の担い手となった世界中のコミュニティや個人たちへの肯定や共感の想いでもあるだろう。彼・彼女たちは、自分達の奇抜な色彩をまとった恰好を見て、周囲から揶揄されたり、差別的な扱いや、抑圧的なふるまいを受けたことは多数あるだろう。あるいは、そのような表現がアートなのか?という疑問の声を投げられたりしたこともあるかもしれない。そのような否定と抑圧の世界に対して、色彩の力で対抗し、自身の心を保つ彼・彼女たちに「YES」という意味が含まれていると思える。つまり、彼・彼女たちの色は外側に向けたものであると同時に、内側の色でもある。それらが外観、人種や性別などの属性を超えて、世界中に広がっており、日本発の新しい感性・思想となっているといえるだろう。

 

第2会場となる音ビルでは、昨年発表された上演型のインスタレーション作品《Fantastic Voyage, Prototype II》が体験できる。2021年2月、東京の北千住「BUoY」で、3日間のみ開催された作品だ。《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-》と同様に、「内面の色」をテーマにしたものだが、コロナ禍の状況を受けたものであり、より深化しているといってよい。

《Fantastic Voyage, Prototype II》(2021)東京・北千住「BUoY」

 

音ビルは、「音」とついているように、音楽スタジオがあり、音楽家が入居しているビルで今回、1階に鋼管を組んで空間が作られている。《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-》は自ら移動して鑑賞するものであったが、《Fantastic Voyage, Prototype II》では、カプセル状のベッドに寝て、ベッド自体が移動する。空間は様々な増田が集めたり制作したアイテムで覆われ、ベッドの上には複数のモニターが置かれている。

「隔離された世界で未来を想像する装置」という構想であり、隔離された社会状況の中で、精神的な移動や深層心理、時空を超えた旅を促す。コロナ禍では、在宅時間が増えたことで、時間感覚がなくなり、夢を見る機会が増えたと噂されている。神経科学者、ジョン・C・リリーがつくった隔離装置「アイソレーション・タンク」の研究によると、感覚を遮断し、隔離された状態では、抑圧されていた無意識が現われる「変性意識状態」となり、白昼夢を見ると言われている。ヤノベケンジの《タンキング・マシーン》(1990)はそこから着想されている。増田の装置は、隔離装置の側面と、装置自体が移動し、映像や音楽が流されるという点が異なる。

また、過去ではなく、未来を志向しているという点でも興味深い。それは増田が影響を受けたドラえもんの「タイムマシン」のようでもあるだろう。ドラえもんの最終話の都市伝説として、すべての話がのび太の夢だったという噂が一時広まったが、あながち嘘ではないかもしれない。しかし、その夢が子供達に影響を与え未来を築いてきた。現在、感染状況は、小康状態にあるが、この冬どれだけ感染者が増えるかはまだわからない。また、最終的に終息する時期も誰にもわからない。この後、世界がどのような変化を遂げるのか、白昼夢の状態にある社会で、どれだけ未来に希望を持てるかにかかっているだろう。本作は、そのような夢見る力を取り戻そうとしているといえる。

《Fantastic Voyage, Prototype II》(2021)大阪・北加賀屋「音ビル」

 

第3会場の千鳥文化では、《Colorful Rebellion -WORLD TIME CLOCK-》として、長らく原宿のシンボルになっていた増田がデザインした時計が設置される。時計にはプラスチック素材のアイテムが数多く張り付けられており、長年の日焼けで退色している箇所も多いが、それはまた時間を感じる愛おしさがあるという。

《Colorful Rebellion -WORLD TIME CLOCK-》(2021)

 

増田は、大阪・北加賀屋という地域と協働をして、「YES, KAWAII IS ART」という宣言を行った。この後、東京で開催され、増田はNYに拠点を移すという。日本の感性が世界にどれだけポジティブな貢献ができるか、あらゆる国々、人種が集まり、アートだけはなく、ハリウッド(映画)・ブロードウェイ(舞台)を擁するアメリカで、よりボーダレスでミックスした価値観に進化させることができるのか。Kawaiiが一時の流行語ではなく、コミュニティの心の支えであると同時に、新しい時代を築く感性・思想であり、それを表現していくという増田の挑戦はさらにスケールアップして続いていくだろう。

 

下寺孝典とアートと都市をつなぐ屋台の生態系

名村造船所跡地(CCO)の前にある共同スタジオSSK(Super Studio Kitakagaya)は、名村造船所の重量物の倉庫として建設され、3階は製図室として利用されていたという。その構造を活かし、1階に大型作品をつくるラージスタジオエリア(約50㎡)を4区画、1階2階に個室スタジオ9室(約25㎡)を設けている。

© 2021 Super Studio Kitakagaya

 

おおさか創造千島財団の木坂葵氏が中心となって、国内外の共同スタジオを広範囲に調査し、アーティストにとって必要不可欠な設備や価格帯を綿密に聞き取りした上で、オープンされている。すでに大学や大学院を修了して若くて有望なアーティストやデザイナ―が揃っており、ある種のスタートアップのインキュベーション施設として充実しており、このような共同スタジオはこれまでに日本にはほとんど存在しなかったといってもよい。

同級生や友人関係になく、大学を卒業したアーティストが集う場所はなかなかなく、情報交換したり、コラボレーションしたりすること可能なことが利点になっている。卒業した瞬間、大学という場が、制作場所というだけではなく、「情報」という面でも、どれだけ有利かわかるだろう。そこには最新の表現が集まるだけはなく、アーティストとして発信したり、キュレーターやコレクターなどに発見してもらう機会が多いということもあるのだ。

そのために、SSKでは春と秋にオープンスタジオを設けており、多くの人が訪れる仕掛けをつくっている。また、毎回キュレーターのスタジオビジットを設定し、有望なキュレーターを招待して、アドバイスや講評、情報交換などができるようにしている。例えば、国際展などに際し、キュレーターなどが、アーティスト発掘のためにスタジオビジットすることが行われるが、共同スタジオの運営者が積極的に招聘したり、サポートしてくれるのはありがたいだろう。

 

特に、京都芸術大学関係者の入居も多い。1階ラージスタジオには、下寺孝典(本学大学院建築・ランドスケープデザイン領域修了)が入居している。1階個人スタジオには、泉拓郎(本学大学院建築・ランドスケープデザイン領域修了)と品川美香(本学大学院美術工芸領域修了)、河野愛(本学美術工芸学科専任講師)が入居している。品川は「ARTISTS' FAIR KYOTO」でも活躍が目覚ましく、パートナーである泉も建築・インテリア設計事務所9株式会社に参加し、デジタル加工機shopbotを活用したユニークな組立式家具を展開している。河野愛は、入居期間中に子供が生まれ、滋賀県立美術館のリニューアル・オープン記念展「Soft Territory かかわりのあわい」に子供の皮膚と真珠をモチーフに出品、現在あまらぶアートラボA-Labで開催されている展覧会にも参加している。

泉拓郎と品川美香
河野愛
下寺孝典

 

下寺は、京都芸術大学では、片岡真実(森美術館館長、本学大学院客員教授)キュレーションによる「KUAD ANNUAL 2019 宇宙船地球号」展に選抜されており、在学中からアジアの屋台の研究を行い、現在でも屋台研究家として、アートと建築の中間的な装置を制作している。先日開催された「TOKYO MIDTOWN AWARD 2021 アートコンペ」では、丹羽優太(本学大学院美術工芸領域修了)とユニットを組み、紙芝居の装置や遊具を作り、グランプリを受賞している。

アートコンペ部門グランプリを受賞した《なまず公園》

 

近年、日本の現代アート・シーンにおいて屋台を使った様々な作家が出てきている。例えば、インドネシアに拠点を置く北澤潤や、2022年開催予定のドクメンタ15(カッセル、ドイツ)に選出されている栗林隆などが挙げられる。両方、インドネシアを含むアジアの屋台文化の影響を受けている。なかでも下寺が興味深いのは、屋台を店舗形態や造形形態として見るだけではなく、都市の中において屋台が存在し得る様々な条件をリサーチし、それを「屋台の生態系」と捉え、実際の制作者に技術を習いながら、自身の制作に反映していることだろう。また、一過性のアート・フェスティバルだけではなく、実際の店舗などにも様々なタイプの屋台を提供している点もユニークである。

撮影:増田好郎

 

今回、下寺はコロナ禍でアジアでの実地調査ができなかったこともあり、国内最大の100件以上の屋台を擁する福岡市博多を共同で調査を行い、それらをまとめて「Open Studio 2021 Autumn」で展示した。そこには、戦後の引揚者が始めた商売形態を継承し、法的にグレーな状態から、近年の観光財産として法整備されるまでの歴史や、そのような法規制によって決まる造形形態まで綿密に調査し、区画や点字ブロックなども含めて細かく再現している。下寺はアートという表現を通して、「屋台の生態系」を浮かび上がらせ、その可能性を可視化すると同時に、日本の都市の生態系に合う形でアートを根付かせようとしているといえる。

 

巨大アートの収蔵庫とヤノベケンジ《ジャイアント・トらやん》ファイヤーパフォーマンス

ヤノベケンジ(本学美術工芸学科/大学院美術工芸領域教授)、名和晃平(本学大学院美術工芸領域教授)らの巨大作品を収蔵しているMASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)では、今回、新たな収蔵作家として持田敦子(アーティスト)が選ばれ、持田のプランによって倉庫前面に巨大な回転ドアがドットアーキテクツの設計協力のもと設置された。

持田敦子《拓く》

 

MASKは国内有数の大型現代アート作品の倉庫として知られているが、もともとヤノベがつくるような巨大作品は、芸術祭などで発表した後に、収蔵する場所に困るということを知り、おおさか創造千島財団理事長・千島土地株式会社社長、芝川能一氏が、キュレーターに木ノ下智恵子氏(大阪大学准教授)を迎えて使用されてなかった約1,000㎡の元鋼材加工工場・倉庫を巨大アート作品の収蔵庫に変貌させた。そして、ヤノベの《ジャイアント・トらやん》、《ラッキードラゴン》、《サン・チャイルド》や、やなぎみわ(美術作家・舞台演出家)の《ステージトレーラー「花鳥虹」》などを収蔵し、「瀬戸内国際芸術祭」や「あいちトリエンナーレ」など、2010年代に日本各地で開催された芸術祭の屋台骨となった。


MASKがユニークなのは、「見せる収蔵庫」として、毎年秋に、収蔵庫を公開するイベント「Open Storage」を実施しており、多くの鑑賞者が生で見られるようにしていることだろう。公開イベントでは、京都芸術大学アートプロデュース学科の対話型鑑賞プログラムの「教材」にもなっており、多くの講師と学生が訪れ、作家や作品と対話しながら芸術鑑賞を深めている。

対話型鑑賞プログラム

 

今年は、長年、MASKの顔にもなっていた《ジャイアント・トらやん》が、来年開館する大阪中之島美術館に寄贈されることが予定されていることもあり、MASKで最後に火を噴くイベントとして、Open Storage 2021 クロージングイベント「ジャイアント・トらやん―ファイヤーパフォーマンス&スペシャルトーク」が、2021年11月12日(金)から14日(日)まで3日間にわたり開催される。


《ジャイアント・トらやん》は、2004年~2005年にヤノベが金沢21世紀美術館の開館に際して、滞在制作でつくられたヤノベが手掛けた初期の巨大作品である。現地の学生やボランティアと協働制作されており、アルミニウム板を貼ってリベットで止める方法は、その後の、ウルトラファクトリーでも活かされている。お披露目展で初めて火を噴き、豊田市美術館での展覧会「キンダガルデン」では、美術館の内部で火を噴くという前代未聞のパフォーマンスを行い、その後も「六本木アートナイト」他、様々な場所で火を噴いてきた。

大阪中之島美術館に寄贈された後は不明だが、火を噴く機会は減るだろう。その意味では、今回は実際火を噴く勇姿が見られる最後の機会になるかもしれない。スペシャルトークの1日目は、菅谷富夫(大阪中之島美術館館長)、遠藤克彦(建築家/茨城大学大学院准教授)、ヤノベケンジ、芝川能一、2日目は宇治野宗輝(現代美術家)、金氏徹平(美術家・彫刻家)、久保田弘成(美術家)、持田敦子、やなぎみわ(※オンライン参加)、ヤノベケンジ、芝川能一、3日目は森村泰昌(美術家)、増田セバスチャン、ヤノベケンジ、芝川能一となっており、鼎談のメンバーも豪華だ。ちなみに、MASKを担当するおおさか千島創造財団の加藤彩世氏は本学アートプロデュース学科の卒業生でもある。

2016年に、国立国際美術館で開催された森村泰昌の大規模個展「森村泰昌:自画像の美術史―「私」と「わたし」が出会うとき」では、主な制作場所となったCOO(名村造船所跡地)でも「森村泰昌アナザーミュージアム」展が開催された。後に森村の個人美術館モリムラ@ミュージアムも設立されており、北加賀屋は芸術祭だけではなく、美術館の展覧会においても重要な役割も果たしている。さらに、MASKも、2016年に高松市美術館で開催されたヤノベの個展「シネマタイズ」に際した映画撮影でもロケ地となっている。今回、《ジャイアント・トらやん》が大阪中之島美術館に寄贈されることになれば、美術館への貢献もさらに大きくなるだろう。

北加賀屋は、すでに関西のみならず、国内そして世界を含めた現代アートの拠点に成長している。そして、その成長に、本学の教員や学生が参加していることは誇らしいことだろう。すでに大きな成果を出しているが、芝川理事長によると、驚くべきことに全体の構想のまだ2割程度とのことなので、その発展に本学のアーティストや学生が参加すること期待したい。


(文:三木学)

 

増田セバスチャン「Yes, Kawaii Is Art」

第1会場「kagoo(カグー)」
展示作品:Colorful Rebellion -Seventh Nightmare- 他
会期:2021年10月30日(土)〜11月21日(日) *月・火・11月17日(水)休廊
時間:12:00〜18:00
住所:大阪市住之江区北加賀屋5-4-19

第2会場「音ビル」
展示作品:Fantastic Voyage
会期:2021年11月5日(金)、6日(土)、7日(日)、12日(金)、13日(土)、14日(日)
時間:13:00〜14:00/15:00〜16:00/17:00〜18:00 *11月14日(日)は17:00〜18:00のみ
鑑賞予約:https://sebastianmasuda.com/works/osaka/voyage/
住所:大阪市住之江区北加賀屋5-5-1

第3会場「千鳥文化」
展示作品:Colorful Rebellion -WORLD TIME CLOCK- 他
会期:2021年11月12日(金)〜11月21日(日) *月・火・水 休廊
時間:12:00〜18:00
住所:大阪市住之江区北加賀屋5-2-28

https://sebastianmasuda.com/works/osaka2021/

 

Open Storage 2021 クロージングイベント「ジャイアント・トらやん―ファイヤーパフォーマンス&スペシャルトーク」

会期:2021年11月12日(金)〜14日(日) *金・18:30~、土日13:30~(各回1時間程度)
料金:2,000円
会場:MASK
https://www.chishimatochi.info/found/mask/event/1426/

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?