京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会Ⅱ」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。
本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。
(構成・執筆:文芸表現学科2年<執筆当時> 山﨑蒼依)
京都烏丸の室町通を歩いていると、趣ある建造物が見えてくる。
それは立派な施設であり、名を「京都芸術センター」という。
2000年に小学校の跡地を活用して誕生したこの施設は、“芸術”と共に歩んできた。
今回、京都で芸術を学ぶ者として、京都芸術大学・文芸表現学科の私たちは京都芸術センターに赴いた。そして、前編に引き続き広報の草木マリさんにお話を伺った。
後編では京都芸術センター設立後の出来事をご紹介。
前編の記事はこちら↓
京都の地で芸術を〈前編〉 小学校跡地×芸術!?出会い、学び続ける場「京都芸術センター」とは
コロナ禍でみえた「どっちにもつかない施設」
京都芸術センターは制作室に様々なアーティストがいて、公演や展覧会が入るとアートコーディネーター※1と共につくっていく。現場、そして作り手たちと近い立場で動く組織だからこそ、そこで働く人々はコロナ禍に苦しむ彼らの姿を間近で見てきた。
コロナ禍の影響がすぐに出はじめたのは舞台芸術系の人たちだった。
人と会うことが創作活動の根本的なところにあるため、直接会えないという状況に陥り、「どうしたらいいかわからない」といった不安や戸惑いがあったという。
さらに時間が経つにつれ、他の芸術分野にも響いていく。
一人でコツコツと制作をする分野の人たちも、自分の作品を見せる場が閉ざされ収入も減っていき、「どうやって活動を続けていけばよいのだろうか」と自問自答する日々が続いた。
「ジャンルによって影響やスピードの違いがあった」と草木さん。
そんな中、すぐに動き出したのは京都市だった。
市の文化芸術企画課は、文化芸術活動のための緊急奨励金を出すことにした。
そのために必要なのは「どういう人がどういうことを求めているのか」というアーティストの生の声。
芸術センターはその声を集めるためのアンケート調査や申請の窓口など、様々な業務を請け負った。
試行錯誤の果てに、現在芸術センターには「KACCO(カッコ)」という文化芸術のための総合相談窓口ができた。ここでは、助成金申請・確定申告といった書類の書き方、作品の値段のつけ方、ウィズコロナ社会での活動支援など、アーティストの悩み・困りごとの相談することができる。
「あらためて、京都芸術センターは作る人たちと近い施設なんだなということを実感しました」
京都芸術センターが行政とアーティストの間で橋渡しをする状況を実感したうえで、草木さんは「どっちにもつかない施設」という良さがあると仰った。
ここで重要なのは「どっちにもつかない」という言葉が、「どちらにも関わらない」という意味ではなく「繋げる」役割があるということ。これらは、コロナ禍を経験したからこそみえてきたものだ。
※1 アートコーディネーター……芸術文化に関する幅広い知識をもとに、芸術家・芸術関係者・ボランティアの方々と協力して各種芸術文化事業の企画立案や実施、広報の他、制作室利用者、ボランティアスタッフとの連絡調整など、様々な業務を行う職員のこと。
海外との関わり
2023年になってコロナが落ち着くにつれて、海外から多くの人が日本を訪れるようになったが、京都芸術センターは設立当初から海外との関わりがあった。
1978年、京都市は「世界文化自由都市宣言」を行い、人種・宗教・社会体制の相違を超えた交流の推進を目指した。
この流れのなかで芸術センターの構想が進んだこともあり、国際交流は当初から重きを置かれていたという。
京都芸術センターの事業内容のひとつに「アーティスト・イン・レジデンス」※2があり、リサーチや招へい、視察などを通じて常に海外とのつながりを意識しているのがわかる。
また、現在はインターネットの発達により、海外との連絡や情報のやりとりが容易になった。しかし、新たに出現する障壁もあるという。
たとえばウクライナ侵攻が始まった頃、国際情勢の影響を受けアーティストへの謝金が振り込めないというような事態も発生した。
※2 アーティスト・イン・レジデンス……国内外のアーティストや研究者が京都に滞在し、街や人との出会いに刺激を受けながら作品制作やリサーチを行う機会を提供する。
イベントを通じた人との出会い・繋がり
京都芸術センターは職員だけでなく、ボランティアの方々にも支えられている。ときにはボランティアの方が主体となってイベントを行うことも。そのなかでも草木さんが印象的だったイベントをひとつご紹介。
2019年6月29日に開催された「えんじょいデス マイクの生前葬パフォーマンス」というイベント。
主役は芸術センター設立当初からボランティアスタッフとして活動されている藤井幹明さん。
彼はALS※3という難病を患い、続けていたダンスができなくなってしまった。生きるのが辛い、残された時間とどう向き合うべきかわからないと苦しむ藤井さんに、ダンスやボランティアの仲間が企画したのが「生前葬」だった。
来場者はイベント過去最多を記録する300人超。
参加したのは元アートコーディネーター、芸術センターで制作をしたことのあるアーティスト、家族が同じ病気を患っているという人、「生前葬」と聞いて喪服姿で芸術センターに初めてやってきた人など。
色々な人が訪れ、藤井さんはダンサーとして舞台に上がった。
このイベントではボランティアが企画・広報から当日の受付と誘導まで、ほとんどの仕事に携わったという。
「ボランティアさんの存在の強さをすごく感じました。これは私たちが予想したものではなく、今までの京都芸術センターの積み重ねで出来たものです。その積み重ねてきたものは“人”だったんだということを、このイベントを通して実感しましたね」
涙を浮かべながら話す草木さんを前に、実際体験していない私たちも胸が熱くなった。
今までの積み重ねが目に見えた瞬間。これは芸術センターに関わるすべての人にとって、大切な記憶として刻まれたことだろう。
※3 ALS……手足、のど、舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がやせて力がなくなっていく病気。筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害を受ける。脳からの命令が伝わらなくなることで力が弱くなり筋肉がやせていく。
京都芸術センターの“これから”
2024年の4月で24年目に突入する京都芸術センター。
これからについて、草木さんは「野望を持った人が共存できる場であり続けたい」と語った。
「作家やスタッフも含め、『ああしたいこうしたい』と野望を持った人たちが共存して、じゃあ何かしようみたいな、ぐしゃっとした状態が許される施設であり続けられたらなと思います」
「野望を持った人たちの共存」という言葉には、様々な世代の人が交わるという思いも含まれている。
芸術は時代とともに移り変わっていくもの。これからは若者世代であるデジタルネイティブの仲間も増えていく。
彼らの価値観を知っていくと同時に、それより上の世代のことを知る必要もある。
似通った世代が集中して一本道にならないためにも、混沌としたなかで向き合い続けられる場として、京都芸術センターが在る意義があるという。
また、学生にもたくさん訪れてほしいと草木さんは仰った。
「京都にはいっぱい芸術系の大学があるので、もっと学生に来てほしいと思ってるんですけど、あんまり知られていないみたいで」
京都芸術センター内で行われる公演のチケットは、比較的安い。
そして、教室を利用した制作室も申請がとおれば無料で使用できる(要申請・採択されれば利用可能。使用時間:10時〜22時、最長6ヶ月)。
唯一の条件は、使用期間中に地域の人や訪れる人に自分たちがどんな活動をしているのかがわかるよう、「明倫ワークショップ」「STUDIO OPEN DAY」に参画すること。
京都芸術センターは四条烏丸にあるため、電車やバスで行くことができる。
自転車だと、京都芸術大学から30分未満で到着する(無料駐輪場あり)。
制作の場所が必要、自分たちの活動を知ってもらいたい、ワークショップや展覧会に行きたい、京都の観光も兼ねて行ってみたいなど……。
一度でもそう思ったことのある人は、ぜひ京都芸術センターを訪れてみてほしい。
「芸術センターは大学を出たてでまだキャリアを積んでいない人や、キャリアを積み始めてまもない人がこの先に進むための期間を支えるための施設なので、ぜひ卒業する前から芸術センターに来てなじんでほしい、活動場所・居場所のひとつとして数えてほしいなと思っています」
京都芸術センターは、芸術と人、あるいは芸術と芸術、人と人を出会わせ、つながりを保ち、支えてくれる。寄り添ってくれる。
京都芸術センターに訪れ、“京都で芸術”を感じてみてはどうだろうか。
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山﨑蒼依 Aoi Yamazaki
2003年奈良県生まれ。
京都芸術大学文芸表現学科2022年度入学。
写真フォルダーは愛犬でいっぱい。
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