京都の地で芸術を〈前編〉 小学校跡地×芸術!?出会い、学び続ける場「京都芸術センター」とは-文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信
- 京都芸術大学 広報課
京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会Ⅱ」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。
本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。
(構成・執筆:文芸表現学科 2年‹執筆当時› 呉谷夏生)
京都の中でも企業のビルが多く、ビジネスパーソンと観光客が行き交う四条烏丸。
大通りから少し細い道の室町通りに入り歩いていると、周りの京都らしい古き良き建物とはまた違う目を引く建物「京都芸術センター」がそこにはあった。
実は、この京都芸術センターは小学校跡地活用した施設。
私たちは京都で芸術を学ぶ学生として、同じ京都で芸術に関する活動をしている京都芸術センターに興味をもった。
そこで今回、実際に京都芸術センターを訪れ、広報を担当されている草木マリさんに話を聞いた。
小学校跡地を活用した建物である魅力、支えてくれる地域の人たちとの関わり。
そして、京都芸術センターの23年間の活動を通して見えてきたものとは。
京都芸術センター
京都芸術センターは2000年に開設され、建物は国の有形文化財に登録されている。
元明倫小学校の建物を活用した施設で、建物の様式は「スペイン風の和洋折衷建築」と言われている。
「京都市における芸術の総合的な振興を図ること」を目的とし、展覧会や舞台公演の他、ワークショップなどのイベントが行われており、
・ジャンルを問わない若い世代の芸術家の制作活動の支援
・さまざまなメディアを用いた、芸術文化に関する情報の収集と発信
・芸術家と市民あるいは芸術家相互の交流促進
この3つを柱に活動している。
入館は無料。
京都芸術センターの「初心」を意識した取り組み
「こういう場所なんですと一言では言えなくて」
京都は芸術系の大学が多いこともあり、毎年多くの芸術家の卵たちが卒業していく。
そんな芸術家の卵たちが、京都から離れていくのをどうしたら繋ぎ止められるか。
作品を制作できる場所や、ダンスや演劇など人が集まって活動する場所を求めている芸術家の要望に応えるべく、この施設はできた。
京都芸術センターのおもな取り組みは、制作室を無償で貸し出すなどして芸術家を支援することだが、イベントなどやってみて成功したことは良かったこととして置いておく。
良かったからといって成功体験に依存することなくまた別のやり方を探し、やったことがないことに挑戦していく。
常に「初心」を忘れずに活動しているのだ。
「実験的なことや、やったことのないことこそやってみようとしています。その一方で伝統的にやってきたことも続けているので、事業の活動が多岐に渡りすぎて、私たちもこういう場所なんですって一言では言えなくて。制作室では役者さんが稽古をして、グラウンドでは地域の人がグラウンドゴルフしてるみたいな本当にカオスな感じですが、だからこそ様々な人の居場所となりうると思います。一度来てもらって自分なりの楽しみ方を見つけてもらうと、居心地のいい場所になると思ってるんですけどね」と草木さんは語る。
実際にこの施設を訪れたときも何組かの芸術家の方たちや、芸術家が近くにいながら地域の人がベンチで本を読んでいるというなんとも不思議な空間があった。
入館は無料なので、気軽に行けるのも魅力の一つだ。
受け継がれる、地域の人との関わりの強さ
「小学校の跡地を活用しているということで地域の人たちとのつながりは続いていて、町の人たちは明倫小学校を大切にされているので、私たちもいいかげんなことはできないかなって」
この京都芸術センターの最大の特徴は「小学校跡地を活用した施設」というところだ。
廃校となった明倫小学校の跡地に作られ、建物の中は当時の小学校のままになっている。歩くとギシギシと音が鳴る廊下、あまり使う人を見たことがない固形石鹸が置かれた手洗い場など、誰もが「懐かしい」と思うようなところがたくさんある。
明倫小学校とはどのようなところだったのか。
時はさかのぼり明治2年、明倫小学校は当時「下京三番組小学校」として開校。
後に明倫小学校に改称されたが、1993年に124年の歴史をもって閉校した。
小学校というと子どもたちが通い、学ぶ場というイメージをもつ人がほとんどだろう。
しかし、ここは当時から町の大人たちもよく出入りする場であり、町の生活の中心・基盤だった。
例えば、今はイベントでしか見ることのできない「大広間」という空間がある。
当時ここは町の人たちが集会をする部屋になっていた。
また、現在はイベントのチケットなどを販売している窓口は、転居届のような大切な書類を出すための役所の窓口でもあった。
このように明倫小学校は学校という域を超え、地域の人が生活をするために必要な場所だった。
地域の人との関わりの強さは、京都芸術センターになった現在も変わらない。
元小学校だったのでもちろんグラウンドがあるが、明倫学区の人たちがこのグラウンドを使って学区民運動会を行なっているのだ。
また、訪れたときにはグラウンドで地域の人がテニスをしており、地域の人との距離の近さがとても感じられた。
「今でも地域の人にギャラリーの監視を助けていただくことがあります。普通に見にこられて、おもしろかったらお友達をつれてきてくださる方や、おもしろくなかったら『おもしろくなかった』とか『全く意味がわからなかった』と事務所まで感想を言いにきてくださる方もいます。芸術家の作品ってわかりにくいものも多いので、良いところも悪いところも話してくださりますね。『やってみたらええやん』みたいな感じで受け止めてくださっている雰囲気は感じています」
地域の人との関わり、印象について草木さんはそう語る。
はっきり感想を言えるという関係から、京都芸術センターがどれほど地域の人との距離が近く、密接に関わっているのかよくわかる。
小学校だった当時も京都芸術センターになった現在も、地域の人との距離が近い「温かみのある場」ということは変わらないのだ。
さまざまな芸術家がプロデュース 芸術×お茶会の「明倫茶会」
「すごく京都芸術センターらしい事業だと感じますね」
京都芸術センターが開館した2000年から行なわれているイベント「明倫茶会」。
京都芸術センターの初代館長が茶道流派の1つである「裏千家」の家元の千宗室さんということもあり、お茶会は開設当初から行なわれている。
「お茶会」というと、出されたお茶をお行儀よく飲むというイメージがあるのではないだろうか。
しかし、この「明倫茶会」はただのお茶会ではない。
というのもここでのお茶会は総合芸術として存在しているから。
さまざまな芸術家が席主としてお茶会をプロデュースし、自分が制作・研究していることを以ってお客さんをもてなすのだ。
また、出される飲み物もお茶とは限らない。
席主が舞踏家のお茶会では、まさかの「あれ」が出された。
「舞踏自体が生と死、静と動みたいな意図があって、感覚を研ぎ澄まし刺激を感じるように振舞われたのはお酢だったんですよ。ドリンク用のお酢とかでもなく。『すっぱ!!』ってなるときの身体の動きや感覚を舞踏を通してお客さんに発見してもらうんです」
お酢が振舞われるお茶会とは、斬新で興味がわく。
他にもコーヒーや炭酸水などが振舞われることもあり、お茶会=抹茶というイメージが随分と変わる。
年に2、3回実施しているようなので、京都芸術センターのホームページや公式SNSなどで情報をチェックして行ってみてはどうだろうか。
つながる明倫小学校と京都芸術センター
「実験的なことを試す場所としては伝統芸能の人たちにも活用してもらえているかなって思います」
伝統文化であっても、時代が変わると魅せ方を考えて適応していかなければならないが、ここではジャンルを超えてそれぞれの流派の人たちが共に創作し、時代とともに試行錯誤することもできる。
普段一緒に活動できないような人たちでもここにくれば一緒に活動できるような、芸術家と芸術家をつなげる場所でもあるのだ。
「新しいものに出会い続ける場所、学び続ける場所と考えたときに、明倫小学校の歴史と京都芸術センターの歴史があるとき急に『あっ、つながった』みたいな瞬間がありましたね。
ノウハウも何もないところから、はじめた人たちは大変だったろうなと思います。でも、その頃にアートコーディネーター※だった方がじつはいまの副館長でして、古くからいるスタッフは、芸術センターも大人になったなとか、20年積み重ねてきたものは大きいと、ひしひしと感じているようです」
どんな芸術家でも新しいものに出会い、学び続けられる場である京都芸術センターについて、草木さんはそう語る。
※アートコーディネーター……芸術文化に関する幅広い知識をもとに、芸術家・芸術関係者・ボランティアの方々と協力して様々な業務をこなす人。
20年以上活動し、常に新しいことに挑戦してきた京都芸術センターは、これからも新しいことに挑戦していくだろう。
今後の活動にも注目したい魅力的な施設だ。
後編は「京都の地で芸術を〈後編〉京都芸術センターの活動、そしてこれから」をお読みください!
京都芸術センターのホームページ
「https://www.kac.or.jp/」
呉谷夏生
2003年三重県生まれ。
京都芸術大学文芸表現学科2022年度入学。
漫画やアニメ、動物が好き。
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