COLUMN2024.01.23

「対話型鑑賞のこれまでとこれから」をめぐる3冊 第三回

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  • 京都芸術大学 広報課

この記事は、「対話型鑑賞のこれまでとこれから」をめぐる3冊 第二回 の続きになります。

『鑑賞のファシリテーション』(2023年)と、ACOP:アート・コミュニケーション・プロジェクト

フォーラム書籍6章「対話型鑑賞の功罪」で森功次が指摘しているのは、一般的な対話型鑑賞ではジャンルや文脈を捨象し、みえているものから対話を進めようとするが、作品の意図するところをないがしろにしない「十全な鑑賞」のためには、ジャンルや文脈の理解が不可欠である、ということである。周知のようにVTSでは作品に関する情報提供を行わないが、7章で伊達隆洋は、VTSでは情報提供を行わずにみえているものを踏まえて対話をしていくことで、作品の意図するところから大きく逸脱しない作品が発達段階を踏まえて選ばれていることを指摘している(だからこそ、対話型鑑賞における作品選びは非常に重要である)。

『鑑賞のファシリテーション』は、筆者自身がフォーラム後に東京大学に提出した博士論文をもとにしている(2022年8月のフォーラムは、博士論文公聴会の直前であった…)。京都芸術大学ACOPの2011年と2017年の対話型鑑賞会をフィールドに行われた実証的な調査研究のデータを踏まえ、対話型鑑賞のファシリテーションの原則を導き出しているものである。タイトルや表紙のやわらかさからすると、研究書であることに面食らう読者もいたかもしれない。

伊達が述べているように、ACOPは芸術大学の学生のトレーニングとして行われており、大人の鑑賞者を対象とする場合も多い。作品のジャンルや文脈についてファシリテーターが情報提供を行う場合があるし、鑑賞者の美的発達を促すための「プッシュ」(あえて挑戦的な問いかけをすること)など、ファシリテーションのメソッドはVTSの3つの質問のように明確に定型化されているわけではない。そんなACOPでどのようなファシリテーションが行われ、鑑賞者をナビゲイトしているのか、その一端を明らかにしたのが『鑑賞のファシリテーション』である。

詳細については書籍を手にとっていただけたらと思うが、筆者の指導教員は山内祐平・東京大学大学院情報学環教授であり、山内研究室のバックグラウンドは教育工学・学習科学である。『鑑賞のファシリテーション』でも、対話型鑑賞について学習科学における知識構築という概念を踏まえて分析を行っている。知識構築とは、複数の学習者が自分たちの知識をもとにしながら協働的に知識を作り上げていくプロセスであり、上野行一の言う「意味生成的な」という形容とおおむね同じことを意図している。知識構築の考え方を用いることで、対話型鑑賞を、複数の鑑賞者が作品からみえることとそこから感受されることを組み合わせて協働的に作品の意味を作り上げていくプロセスとして捉えることを試みたと言える。

筆者はこれまで、六本木アートナイトやあいちトリエンナーレ2019といった現代アートプロジェクトにおいて、対話型鑑賞の考え方を踏まえたガイドボランティアの育成を担当してきた(ラーニングキュレーター会田大也との共同による)。森功次の語り方で言えば、現代アートというジャンルは、鑑賞するために作品の文脈を踏まえる必要がある一方で、作品の美術史的価値が確立していない、VTSに基づく対話型鑑賞だけではファシリテーションが難しい作品が多い。対話型鑑賞の現場において、ファシリテーションに悩む実践者の姿を多く見てきたことが、同書の執筆の動機になっている。

北野諒は、筆者のワークショップに数多く同席してきた経験も踏まえて、美術科教育学会通信に寄せた新刊紹介において、集団がある状態に「なる」ファシリテーションに着目した試論を展開している。

鑑賞者・作品・ナビゲイターの3者間の移譲のパスワークとしての鑑賞・対話・ファシリテーション――そこでは主体と客体を固定化して働きかけを「する/される」だけではなく,集団がある状態に「なる」という機序が問われることになるだろう。ファシリテーションを「する/される」から「なる」ファシリテーションへのパスを通すことで開かれる新たな思考の可能性,それこそが「本書の独自性・創造性」である。(北野2023, p.10)

フォーラム書籍による30年の総括を経て、対話型鑑賞のこれからはどう「なる」のだろうか。ここからは、上野・奥村からのパスを引き継いで次のパスを出すことになった立場から、本稿を読んでくださった読者のみなさまに委ねたい。

 

参考文献

平野智紀 (2023) 鑑賞のファシリテーション――深い対話をアート・コミュニケーションに向けて. あいり出版.
畑山未央, 上野行一 (2020) STEAM 教育における美術と異領域の統合原理の考察 (1)―STEAM の A の位置づけに焦点化して―. 日本科学教育学会研究会研究報告, 34(6), 1-6.
北野諒 (2023) 新刊案内:鑑賞のファシリテーション――深い対話を引き出すアート・コミュニケーションに向けて. 美術科教育学会通信114号, 9-10.(2023.10.25最終閲覧) https://www.artedu.jp/file/622

 

(文:平野智紀(内田洋行教育総合研究所 主任研究員))

 

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