REPORT2023.06.12

文芸

レポート〈後編〉 直木賞作家 窪美澄さん×新人作家 上村裕香さんトークイベント『創作の衝動 つづりつづける作家たち』 ― 文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。

本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。

(構成・執筆:文芸表現学科 3年 多田千夏
 

京都芸術大学 文芸表現学科3年生(2022年時点)の上村裕香さんによる短編小説『救われてんじゃねえよ』が新潮社主催第21回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞したことを記念して、開催したトークイベント『創作の衝動 つづりつづける作家たち』。第一部(前編)では、第21回から同賞の選考委員を務められた、直木賞作家の窪美澄さんにお越しいただきました。第二部ではさらに、新潮社の文芸編集者お二方に加わっていただき、作家・編集者双方から見た新人文学賞について語り合いました。

第二部 登壇者プロフィール(上記写真左から)

窪美澄(くぼ・みすみ)さん:小説家

2022年上半期、『夜に星を放つ』(文藝春秋)で直木賞受賞。2009年「ミクマリ」で第8回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、同作を収録した『ふがいない僕は空を見た』(新潮文庫)が2011年に山本周五郎賞を受賞するなど、受賞歴多数。人気作に『青天の迷いクジラ』(新潮文庫、2012年山田風太郎賞)、『よるのふくらみ』(新潮文庫)などがある。「女による女のためのR-18文学賞」第21回選考委員を務めた。

上村裕香(かみむら・ゆたか)さん:小説家

文芸表現学科クリエイティブ・ライティングコース在籍中。「救われてんじゃねえよ」で第21回「女による女のたのR-18文学賞」大賞受賞、小説家デビュー(『小説新潮』2022年5月号掲載)。同年、第19回民主文学新人賞を「何食べたい?」で受賞(『民主文学』2022年6月号掲載)。雑誌『小説新潮』にて、2022年11月号に「美華とミカ」、2023年5月号に「泣いてんじゃねえよ」を発表するなど精力的に執筆活動を行う。

後藤結美(ごとう・ゆみ)さん:編集者

雑誌『小説新潮』の編集部に所属。「女による女のためのR-18文学賞」「新潮ミステリー大賞」「ファンタジーノベル大賞」などの選考に関わる。

大島有美子(おおしま・ゆみこ)さん:編集者

新潮文庫編集部に所属。ライト文芸のレーベルである「新潮文庫nex」を担当し、次世代の文芸の模索に関わっている。

(本文敬称略)

 

扉を叩いて

窪美澄さん近刊『夏日狂想』(新潮社、2022年9月29日刊)


窪さんも上村さんも、小説家としてデビューするきっかけとなったのが新潮社「女による女のためのR-18文学賞」(以下、「R-18文学賞」)ですが、お二人にとって新人賞を獲るということは小説を書く上でのひとつの目標だったのでしょうか?

上村 そうですね。高校生の頃から、いろんな新人賞に何度か応募していました。今の時代は新人賞でしか小説家としての道はひらけないし、新人賞デビューするぞという気持ちは結構強くありました。その中で、この新人賞に応募したいとか、この選考委員の方に読んでもらえたらな、というのがモチベーションの一部ではあったと思います。


―窪さんは小説家になる前はライターとしてお仕事をされていたのですよね。そこで新人文学賞というのはどういうふうに映っていましたか?

窪 やはり新人賞を取らないとある種のゲートを潜れないんじゃないかとぼんやり思っていました。新潮社という出版社が昔から好きだったのもあり、できればここからデビューしたいなという気持ちが強かったと思います。


―各出版社がさまざまな新人賞を主催し続けていますが、編集者さんから見てその意義とは何なのでしょうか?

後藤 ひとつは、門戸をきちんと開いているということを大事にするためだと思います。カテゴリも新潮社では3つあり、やりたいと思う場所の扉を叩いていただくようにご案内しています。もうひとつは、選考委員の先生方に認めていただいたことが一つの評価となり、その上でデビュー作を出していただく、そういったプロセスを踏むことで世の中に送り出しやすくなるということがあります。
 

新たな作家を心待ちに

新潮社編集部の後藤結美さん(中央)、大島有美子さん(右)


―受賞作の発表を聞くとき、編集者さんにとってはどういう気持ちなのでしょうか?

後藤 自分が選考に関わらせていただいた作品に関しては、社内の選考で何度も読んでいたので、「見事これに決まりました」と聞くその瞬間はやっぱりすごく感慨深いものがあります。
他社さんが主催している新人文学賞の受賞作も拝読する機会があるのですが、新しい作品や新人作家さんの誕生がすごく嬉しいですし、面白く読みます。新潮社の傾向と全然違ったりするので、そういった点でもとても興味深く見ています。

大島 新潮社の新人文学賞では、一次審査の時に編集者が読ませてもらうのですが、デビュー後にどういう作家さんになられるかっていうのを想像しながら審査させていただいているところがあるので、受賞作の作家さんには、その未来に期待する想いがすごくあります。
ときどきスター性のある人が出ると、選考に関わった作家さんから「この作品すごいよ」と教えてもらって拝読することがあります。文芸の世界って、あんまり他社だからといってライバル意識を持たないので、例えば、新人賞からそのまま芥川賞にノミネートなどといったことがあるととても嬉しいです。スターがひとり出ると文芸全体の活性化に繋がると思うので。
 

―新しい作品、新しい作家を待ち受けるための工夫を出版社としてされているのでしょうか?

後藤 応募する人にとって何がメリットになるのかを考えると、この出版社から本を出したいという気持ちのほかにも、憧れの作家さんに認められて世に出たいっていう想いがあると思うんですね。ですので、読者の方にとって魅力的であるような、旬の作家さんに選考委員になっていただくようにオファーをかけたりしています。
新潮社では、今までなかったような枠組みを設けて、いくつかの新人文学賞を主催させていただいています。応募資格を性自認が女性の方に限った「R-18文学賞」もそのひとつですが、比較的応募しやすい短編部門であったり、インターネットでの応募を可能にしたりと、新しい取り組みをするようにしています。様々な人に応募してもらうためにはどういう新人文学賞を設けたらいいか、各出版社が考えていることだと思います。
 

今までゼロだったものをプラスに

新人作家、文芸表現学科3回生(2022年時点)の上村裕香さん


―上村さんにとっても「この選考委員の方に読んでもらいたい」という気持ちがモチベーションのひとつになっていましたよね。今まで何度も新人賞に応募をして、晴れて受賞された上村さんですが、受賞する前と後では執筆活動は変わりましたか?

上村 変わったと思います。新人賞に応募することって、「0か100か」だと思うんですよ。中間の選考を通っただけでももちろん達成感はあるのですが、結局、受賞できるかできないかにかかっていて、できなければそこでその作品は終わってしまう。でも受賞した後は、編集者の方とやりとりして作品を作っていくことでができるので、新人賞に応募していたら落ちていたかもしれない作品でも今ではブラッシュアップしていくことができます。そうやって、今までゼロだったものをちゃんとプラスにすることができるのはいいなと思っています。
 

コミュニケーションを通してつくる

窪美澄さん(左)、上村裕香さん(右)


―デビュー後は編集者さんとやりとりをしながら書いていくということですが、やはり新人のうちは大変なことでしょうか?

上村 受賞後第1作目の初稿を出した時に、それは180枚ある原稿だったのですが、編集者さんに「100枚にしましょう」と言われて……。今だったらそれがどういう理由で、どうしたらいいかがわかるのですが、その時は大変でした。意見を頂きながら改稿していくうち、だんだんと枚数のサイズ感が自分で掴めてきたので、勉強させていただいているなと思います。


―窪さんにもそういう新人の時代があったわけですよね。

窪 そうですね。もともとライターの仕事をしていたのですが、デビューしたての頃に編集者さんから「ライターの仕事を辞めないように」と言われました。それ以来、ライターの仕事と両立しながら、2ヶ月に1回のペースで編集者さんに原稿を見せるというルーティンを作って書くようになっていきました。


―やりとりをしながら編集者が新人を「育てていく」ということなのですね。編集者さんはどう考えているのでしょうか。難しさなどを感じますか?

後藤 担当させていただいている上村さんは、コミュニケーションによく耐えてくださる方です。ご自身が、考えて、直して、ということを諦めずにやってくださるので、小説に対する真摯な姿勢をすごく感じます。ちゃんとやらなきゃという気持ちになりますし、すごく楽しいです。


―編集者をされていて、なかにはそういうタイプではない新人作家さんもおられると思いますが、難しさを感じますか?

後藤 雑誌に掲載したり、一冊の本にするには、どうしても何度もやり取りを重ねる必要が出てくるんですよね。作品について編集者から色々と言われたりするのを煩わしいと思われてしまったり、心を閉ざされてしまったりすると、そこでやりとりが終わってしまうのでそういうところで難しさがあると思います。編集者が伝えたことに対して、納得ができないことがあれば、「ここがこうわからない」と伝えてくださる方が、話ができるのでありがたいなと思います。編集者から提案をする場合もあるのですが、最終的に書いていただくのは作家さんなので、やはり作家さんご自身のなかに書きたいものがしっかりあることが大事になってくるかと思います。編集者は読んだり一緒にお話をしたりすることはできるのですが、書くことができるのは作家さんだけなので。


―窪さんから見て、編集者さんとの付き合い方で大事なことは何ですか?

窪 とにかく編集者さんって褒めるんですよね。だからそれを鵜呑みにしないほうがいいです。作家の味方になってくれますし、肯定的な言葉をかけてくださるんですけど、聞くのは話半分にしておこうかなっていう感じですね。作家って、常にこれでいいのかなって刀を研ぐような職業ですから。
 

ずっと、つづりつづける

第二部での様子


―最後に、新人賞デビューを目指して「つづりつづける」方たちに、窪さんからエールをいただけますか。

窪 全然先がありますよってことを言いたいです。まず私がデビューしたのが41歳ですし、小説家になろうと思ったのも40歳過ぎてからです。なので、今なかなか芽が出ないという人も、30歳、40歳を過ぎ、もちろん50歳を過ぎたとしても、ちょっと時間をおいてもう1回やってみたらどうですか?というのを言いたいです。やめちゃうと本当に終わってしまうので。たとえば働きながらでもネタのタンクが溜まっていきますし、人生が進むにつれてテーマがどんどん増えていきます。私はもう向いていない、とは思わないで、先々まで諦めず夢を持ち続けて欲しいと思います。


―今回のトークイベントで上村さんはどんなことを感じましたか?

上村 このイベントのタイトルを否定するようなことを言うわけではないのですが、「衝動」というのはたぶん尽きるものだと思うんですよ。でも尽きた後も作家は続くし、書くということは自分の中から離れないことだと思うので、その先もずっと書き続けることが大切なんだな、頑張ろう、と思いました。


【京都芸術大学 文芸表現学科】窪美澄×上村裕香トークイベント「創作の衝動 つづりつづける作家たち」 ダイジェスト


第一部(前編)のレポートはこちら
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1108

企画・主催 文芸表現学科『Storyville(ストーリービル)』
Instagram @storyville_kua

写真 高橋保世
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業。

第二部進行 江南亜美子、中村淳平
文芸表現学科クリエイティブ・ライティングコース教員。

構成・執筆 多田千夏
2021年度 京都芸術大学 文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース入学。

 

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