レポート〈前編〉 直木賞作家 窪美澄さん×新人作家 上村裕香さんトークイベント『創作の衝動 つづりつづける作家たち』 ― 文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信
- 京都芸術大学 広報課
京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会Ⅴ」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。
本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。
(構成・執筆:文芸表現学科 3年 田村風子)
何かを生み出すときには、創作意欲ともいえる衝動がつきまといます。もちろん、小説を書くときにも。そんな創作の衝動を、窪美澄さんと上村裕香さんの対談から探っていきます。
本イベントは京都芸術大学の文芸表現学科3年生(2022年時点)である上村裕香さんによる短編小説『救われてんじゃねえよ』が新潮社主催第21回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞したことを記念し、開催に至りました。タイトルは『創作の衝動 つづりつづける作家たち』。ゲストは同賞の選考委員でもあり、2009年に同大賞を短編小説『ミクマリ』で受賞した直木賞作家の窪美澄さんです。
第二部では新潮社の文芸編集者のお二人にも加わって頂きました。
「女による女のためのR-18文学賞」は新潮社が主催する、性自認が女性の方に応募を限定した公募型新人文学賞です。2001年に新潮社の女性編集者諸氏により、女性の手で女性が読んでも楽しい官能小説を作ることを目標に創設されました。第11回より「女性が性について書くことは珍しいことではなくなり、性をテーマに据えた新人賞としては一定の社会的役割を果たした」との理由で募集作品が「女性ならではの感性を活かした小説」に変更されました。
第一部 登壇者プロフィール(上記写真左から)
窪美澄(くぼ・みすみ)さん:小説家
2022年上半期、『夜に星を放つ』(文藝春秋)で直木賞受賞。2009年「ミクマリ」で第8回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、同作を収録した『ふがいない僕は空を見た』(新潮文庫)が2011年に山本周五郎賞を受賞するなど、受賞歴多数。人気作に『青天の迷いクジラ』(新潮文庫、2012年山田風太郎賞)、『よるのふくらみ』(新潮文庫)などがある。「女による女のためのR-18文学賞」第21回選考委員を務めた。
上村裕香(かみむら・ゆたか)さん:小説家
文芸表現学科クリエイティブ・ライティングコース在籍中。「救われてんじゃねえよ」で第21回「女による女のたのR-18文学賞」大賞受賞、小説家デビュー(『小説新潮』2022年5月号掲載)。同年、第19回民主文学新人賞を「何食べたい?」で受賞(『民主文学』2022年6月号掲載)。雑誌『小説新潮』にて、2022年11月号に「美華とミカ」、2023年5月号に「泣いてんじゃねえよ」を発表するなど精力的に執筆活動を行う。
(本文敬称略)
上村裕香さん受賞作 「救われてんじゃねえよ」
この作品は病気の母親を介護する女子高生・沙智が主人公の短編小説です。難病の母親、浪費家の父親と八畳一間で暮らす沙智の周りにいるのは、真っ当だが頼りにならない担任や恵まれた生活を送るクラスメイト……。フィクションだからこそ書けるヤングケアラーの想像を超えた先にある現実を描いています。選考委員を務めた窪美澄さんの言葉を借りるなら「読み手の胆力を問うような緊張感と切れ味をこの作品は内包している」。読むのに覚悟がいる、でも読んだらずっとどこかに残り続ける、そんな作品です。
―上村さんがこの賞に応募されたきっかけをうかがいたいです
上村 大学の先輩が女のR-18文学賞に応募されていたのを聞いて自分も、と思ったのが最初です。受賞作を書いていた時、傾向と対策みたいなことをしていて、過去の受賞作を10年分くらい読んで自分の路線と合うかもしれない……と。
短編の切れ味とかテーマの強さで押し切れるという部分では強みになるかなと感じて、ここで勝負したいなと思いましたね。
―窪さんは初めてお読みになった時どうでしたか?
窪 どれも全部レベルが高かったんですけど、なかでも上村さんのは異色というか固有の世界観がすごくありました。上村さんのは匂ってくる文章で誰にも似ていなくて、ブルーチーズみたいなクセになるものがありますね。最初から頭1つ、いや3つくらい出ていた気がします。
それぞれの受賞後
―窪さんは今年(2022年)直木賞を受賞されて、上村さんも学生(2022年時点で3年生)だったのに新人賞を受賞されて、賞をきっかけとした今年はどんな感じでしたか?
窪 受賞して1ヶ月くらいは本当に記憶がないくらいですね。エッセイとか取材の依頼をたくさんいただきまして、今やっと12月に入って落ち着いてきたかなあという感じですかね。
上村 私も受賞してからエッセイのお仕事をいただいたり、副賞で旅行に行かせていただいたりしながら新しい作品をまた作って、『小説新潮』に掲載していただいて。新しい作品を作るぞっていう期間が結構大変でしたね。
―プロの自覚が芽生えてきたりはしましたか?
上村 そうですね。11月号に掲載させていただいた時にはああ自分がプロになってる……!と思った瞬間がありました。
窪 さっき読ませていただいたんですけど、完璧にプロの文章でしたよ。何も問題ないと思います。
デビュー作の初期衝動
―お二人には社会を描くということをどういうふうに考えていらっしゃるかうかがいたいです
窪 デビュー作とかそれに近いものは自分の生育歴も初期衝動みたいな感じで、ばあんて出てくると思うんですね。特に初期の作品は自分が幼い時見てきたものとか、実際に自分自身が社会的弱者だったころの生活とか。それがこう、洪水のように爆ぜるように出てきちゃったっていう感じですかね。
上村 受賞作についていうならあれはフィクションなんですけど、自分の実体験も入っていて。母親の介護をしていたときの記憶を、ヤングケアラーの女の子が頑張ったねーって言う感じで書いたら高校生の自分は絶対キレるので。ちゃんとあの頃の自分が納得できる形で現実を描いたら、ああ言う形になったなって思っています。
創作の衝動
―自分がなぜ書いているのかって言う原動力みたいなものをどういうふうにご説明されますか?
窪 すごく難しいですね。例えば40歳過ぎくらいの時の、小説書かないと死ぬ時に後悔するんだろうなっていう瑞々しい気持ちが今あるかっていうとないかもしれないので。ライターをしていたころから締め切りは絶対だったので、締め切りがあるから書いてるっていうのもありますね。
上村 夜寝る前とか、頭の中にずっと文字が浮かんできて寝られない時があって。そういう時とかに書きます。登場人物たちが頭の中でばーって話していて、仕方ないからその子たちが喋れるようなプロットを書いてあげるみたいな。あとは自分の過去の体験のこととかを文章にするときに最適な形が小説だから書くという場合もあれば、読んでくれる人がいるから書くという場合もあります。
ずっと小説が好きなまま
―好きなことを仕事にしたら義務感が出てきてしまって、以前ほど好きではなくなってしまうということもあると思うのですが、お二人はいかがでしょうか?
窪 小説家になったからって好きな本がどんどん読めるかっていったらそうじゃなくて、仕事で読まなくちゃいけないこともあるんですけど。でもやっぱりそうはいっても好きなんですよね、小説のことが。いろいろ仕事終わった後に読んでますからね。
上村 全然変わらず、小説好きです読みますって感じです。
―文芸表現学科ではすごくたくさん読むんですよね
上村 うちの学科では「百讀(ひゃくどく)」という授業があって、毎週一冊を読んで皆で合評して最終的に百冊読めたらいいよねという内容なんですけど。
窪 それはすごい財産ですよ。インプットとして。
つづりつづけるために、作家に求められる力とは?
―作家に求められる性質や、努力して獲得するべき能力を窪さんがお感じになるとしたらなんでしょうか?
窪 感性とか衝動とかはデビュー3作目くらいまでは続くんだけど、その後になってくるとそうはいかないというか。粘り強さですかね、自分は小説家であり続けるんだって言うしつこさは必要じゃないかと思います。私は描き続けたいんですみたいな感じで、どんどん原稿を出していくことが大事ですね。
上村 私は学科の大学の授業でも書く環境があるのでそこで編集者さんに見せる前の段階の原稿や、もっと思いきった、チャレンジした原稿を書いていて……。そういう環境があるのは喜ばしいことだなと思っています。
窪 またね、その原稿がいつか5年とか10年後に火種になって長編になるかもしれないからずっと取っておいた方がいいですよ。
【京都芸術大学 文芸表現学科】窪美澄×上村裕香トークイベント「創作の衝動 つづりつづける作家たち」 ダイジェスト
第二部(後編)のレポートはこちら
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1109
企画・主催 文芸表現学科『Storyville(ストーリービル)』
Instagram @storyville_kua
写真 高橋保世
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業。
第一部進行 江南亜美子
文芸表現学科クリエイティブ・ライティングコース教員。
構成・執筆 田村風子
2021年京都芸術大学 文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース入学。
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