REPORT2023.04.27

アート教育

人間が生み出すアートが未来をつくる「ウルトラプロジェクト説明会」

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  • 京都芸術大学 広報課

コロナ禍以後の本格的な対面による説明会

2023年4月4日、毎年恒例となっている京都芸術大学ウルトラファクトリーが主導する「ウルトラプロジェクト」の説明会が開催された。ウルトラファクトリーは、京都芸術大学の共通工房で、金属加工、木材加工、樹脂加工、シルクスクリーン、デジタル造形などを行う機材・設備が揃うほか、専門のテクニカルスタッフのサポートも得られる夢の工房だ。2008年に開設され、すでに15年の歴史を持つが、ディレクターを務めているヤノベケンジ(美術工芸学科教授)は、「想像しうるものはすべて実現できる」工房として、アーティストやクリエイターのさまざまな作品を制作してきた。

学生は、講習を受けライセンスを取得すれば、共通工房ウルトラファクトリーにある機材を使うことができるので、自身の作品制作のために工房へ通う学生も多いが、その工房を特徴づける教育プラグラムの柱となっているのが「ウルトラプロジェクト」だ。ウルトラプロジェクトは、そのような工房機能を活かし、第一線で活躍するアーティストやクリエイターがディレクターとなってプロジェクトを牽引し、参加学生と共につくりあげることで、社会の中で実践的な経験を積むことを主眼としている。現在でこそ、実践型教育プログラムはさまざまな大学で行われているが、ウルトラプロジェクトはかなり先行している事例といえるだろう。

また、アーティストやクリエイターが、さまざまな現場でどのように考えて、どのように実装していくか、つくることだけではなく、その先の具体的な状況に立ち会うことで、よりリアルで具体的なテクニックやノウハウが得られることが大きいだろう。


例年、春に説明会が開催され、10組以上のディレクターによるプロジェクトが紹介されるが、異様な熱気を帯びることが多い。というのもすでに多くのウルトラプロジェクトが社会的に認知されており、学科の魅力だけではなく、ウルトラプロジェクトに参加することを目的に入学した学生も増えてきているからだ。また、どのディレクターも意欲と才能のある学生と一緒にプロジェクトを進めたいので、持ち時間8分という短い時間で最大限のアピールをするという真剣勝負が行われるからでもある。今年はそれだけではない。2020年から続いた新型コロナウイルス感染症の流行に伴う人数制限などがなくなり、本格的な対面での授業が再開される。そのこともあって、入学式の前に開催された説明会には、1年生だけの参加であったが、会場の直心館J41教室には多くの学生が期待に胸を膨らませて集まった。

また、コロナ禍以降、Zoomによる同時配信が行われ、時間の都合が合わなくても、後でアーカイブ視聴も可能になったので、実際には会場外にもっと多くの学生が参加している。


若手作家による新たなプロジェクト

ヤノベケンジ、名和晃平、やなぎみわといった初期から参加しているアーティストに加えて、今年は新世代のアーティストも目立った。

R E M Aは、京都芸術大学大学院を修了し、現在はウルトラファクトリーでサポートスタッフを務めているアーティストであるが、在学時代から自身のセルフイメージやポートレートをテーマにしており、その特徴的な外見と、女性性を考察した内面や人との関係性を、立体や平面などさまざまなメディアで表現している。

昨年から最年少でウルトラプロジェクトのディレクターとなり、大阪駅の北側にあるグランフロント大阪の屋外スペースで新進気鋭のアーティストの作品を紹介する企画「ART SCRAMBLE」に選出され、自身をモデルとした巨大な胸像をプロジェクト学生と共に制作し、3月末に設置を終えたばかりである。それらはR E M Aをモデルに制作された、3DCGのデータから、粒子径1㎜以下の砂を素材に、3Dプリンターで成形したものだ。90個に分割されたパーツをプロジェクトメンバーと共に仕上げ、組み上げることで、約4m弱の彫刻をつくりあげた。1年間展示されるが、今年はそこで子供向けのワークショップなども行うという。

また、3DCGのデータをもとに、金属やガラスなどの異なる素材に置き換えリメイクしたり、昨年、デザイナーの永戸栄大が中心となって制作した「アーティストBOX」に加えて、ウェブサイトやアーカイブなどのプロモーションメディアも充実させていくという。参加によって、立体工房からレーザー加工やUVプリントなどウルトラファクトリーの様々なライセンスを取得することができ、横断的にさまざまな技術を習熟できるだろう。R E M A自身、メンバーには主体性や協調性を求めており、世代が近いこともあって、より能動的に関われることもメリットなのではないか。

FOREIGIN MATTER: ‘Sand in woman’ 異物: ‘砂の女’》(2023)ART SCRAMBLE
ARTISTS' FAIR KYOTO 2023(撮影:山神美琴)
ARTISTS' FAIR KYOTO 2023(撮影:山神美琴)


また、今年初めてウルトラプロジェクトに参加する西條茜は、身体や身体感覚をテーマに、造形的な陶磁器を制作しているアーティストだ。西條は父が医療関係者であることもあって、幼少期に見ていた内視鏡で見た内臓と、同じように内部を持つ陶器と共通性を感じ取り、外形をデザインするだけではなく、陶磁器の内部空間や触覚的な質感も含めて造形作品にしていることに特徴がある。

昨年、大阪のアートコートギャラリーで開催された展覧会では、パフォーマーを招聘し、西條の陶芸作品に作られた穴に、息を吹いたり、声を出したりして、内部空間を外側にまで拡張していくようなパフォーマンスを開催し、声と陶磁器によるプリミティブで体感的なコミュニケーションの可能性を提示した。

現在、なら歴史芸術文化村のレジデンスで天理市にいるため、説明会はZOOMによる参加になったが、制作物やパフォーマンス映像、中継をしているレジデンスのスタジオなどの紹介を通して、西條のユニークなアプローチを知ることができた。来年、R E M Aに続き、「ART SCRAMBLE」で屋外彫刻を展示することが決まっており、そのための制作メンバーや、パフォーマンスを希望する学生を募集した。

《Phantom Body》(2022)


ウルトラプロジェクトも4年目になるのが、山城大督(アートプロデュース学科専任講師)の「The Projected Image Labpratory」(P-Lab)だ。山城は、映像作家だけではなく、映像メディアを使った美術作家として知られており、映像という概念を拡大解釈し、空間を使った大規模な映像インスタレーションを展開している。昨年の国立民族学博物館で開催された特別展「Homō loquēns 『しゃべるヒト』〜ことばの不思議を科学する〜」では、地下空間において、いわゆるカメラやプロジェクターといった映像装置を使わないオープンエンドなインスタレーション《SPATIAL TONE》(2022)を発表した。山城は時間と空間を結ぶものとして、映像メディアを捉えているが、コロナ禍において映像メディアは、私たちの時空間をつなぐ決定的な役割を果たしたといってよいだろう。

《SPATIAL TONE》(2022)


山城は、はじめてウルトラプロジェクトに参加した2020年には、コロナ禍において急遽オンラインとなった説明会の配信システムをディレクションし、プロジェクトではそのままそのノウハウを学生に伝え、多くの配信イベントをサポートしてきた。リアル/オンラインの同時開催となった今年の説明会においても、カメラを回し、配信をサポートしているのは、山城率いるP-Labの学生であり、極めて実践的で具体的な貢献を果たしているといってよい。今年も新作のインスタレーション、昨年もロームシアター京都で開催した「劇場の学校」のメディア表現コース、映像配信イベントなどさまざまなプログラムを用意しており、映像時代に不可欠な技術やノウハウが身につくだろう。

 

ジャンルを横断して、国内外で活躍するアーティストによるプロジェクト

世界的なアーティストとして精力的に活動を続ける名和晃平(大学院芸術研究科教授)が久しぶりに生で登壇したのも、今年のハイライトの一つだろう。名和は開始当初からウルトラプロジェクトに参加しており、その時に立ち上げたのが伏見区のスタジオ「Sandwich」である。Sandwichはその名の通り、元サンドイッチ工場を当時参加していた学生と一緒にリノベーションするかたちでつくりあげられ、さまざまな造形作品の制作や多領域のクリエイティブな実験ができるプラットフォームとして活動をスタートした。


活動開始から15年を迎えようとする現在、Sandwichで名和が手掛けてきた国際的なプロジェクトの数々が紹介され、その規模と精度に参加者一同、驚きと興奮を示していた。今年も、国内外で個展や屋外彫刻、建築、そして世界的な振付家・ダンサーのダミアン・ジャレとの協働など、多岐にわたるプロジェクトが進行中とのこと。もともとSandwichとは、美術・芸術大学の外部にその機能を延長した場をつくる試みであったという。だからこそ、こうした多様な活動を実施できる設備や体制を備えているのだ。その実験性はもはや大学の延長というよりも、高度な特別ゼミとでもいうべきだろう。大学と連携した外部の実践的なスタジオに参加し、一流のアーティストが集まる場で制作をしたり、これから生まれる未知の作品のための実験に加わることは、学生たちにとってこれ以上ない経験になるだろう。

《Fountain》(2022)銀座 蔦屋書店5周年記念企画


また、やなぎみわも、現代美術作家としてすでに高い評価を得ているが、演劇の脚本、演出、美術をてがけている。劇場での上演作品を経て、近年では、ステージトレーラー(移動舞台車)を使用して野外劇を上演している。2014年に、「ヨコハマトリエンナーレ2014」で、台湾の屋外公演で使用されているステージトレーラーを特注し、台北芸術大学、京都芸術大学、東北芸術工科大学の合同チームで、特別な装飾を施して展示した。2015年以降は、中上健次原作の『日輪の翼』などの野外劇の公演を全国で行ってきた。


屋外公演の場合は、台風などの天候の影響で中止されることも多い上、コロナ禍の影響もあり劇場公演も難しい時期が続いた。コロナ禍真っただ中の2021年には、台湾の高雄市にある国立劇場、衛武営国家芸術文化センターで、台湾の大衆オペラをテーマにした新作公演『アフロディーテ~阿婆蘭~』を野外劇場で実現した。東京公演は残念ながら中止となったが、台湾固有の胡蝶蘭をテーマにリサーチから脚本、衣装デザイン、舞台美術まで多岐にわたる制作を実施。今年のプロジェクトは、2024年に向けた新たな野外劇の制作に関するものだという。ギリシア悲劇から台湾文学、一遍上人の踊り念仏まで、文学・詩歌の芸能など、演劇の源流をたどるリサーチから公演まで、まさに無から有に至るすべてを身体的に体験できるのが、やなぎの野外劇の醍醐味といえるだろうし、忘れられない感動があるに違いない。

台湾オペラ「アフロディーテ ~阿婆蘭~」主催・写真提供:財団法人文化台湾基金会
ギャルリ・オーブでのシミュレーションの様子。


ウルトラファクトリーのディレクターであるヤノベケンジは、昨年も「瀬戸内国際芸術祭2022」の関連イベント「おいでまい祝祭 2022」で、金刀比羅宮に巨大な狛犬像《KOMAINU -Guardian Beasts-》(2019)や、旅の守り神とする巨大な猫像《SHIP’S CAT》シリーズの新作、《SHIP’S CAT(Mofumofu22)》(2022)を制作、展示したり、「世界最速の彫刻」をコンセプトとして公道で走ることのできる《SHIP’S CAT(Speeder)》(2023)を約6年の月日をかけて完成させて発表するなど、多くの創作活動をしてきた。また、阪急百貨店阪急うめだギャラリーでの個展「SHIP’S CAT」で《SHIP’S CAT》シリーズを大々的に展示したり、三木道三と共作した絵本『SPACE SHIP’S CAT Zitto & Gatito』やNFTをリリースするなど、まさにメディアを横断して制作をしている。

《SHIP’S CAT(Mofumofu22)》(2022)撮影:顧剣亨
《SHIP’S CAT(Speeder)》(2023)撮影:Keniji Yanobe Archive Project



コロナ禍がいよいよ明けた今年は、最初に比叡山に奉納展示するために制作し、コロナ禍が始まった2020年に疫病退散を願って京都芸術大学門前に展示した《KOMAINU -Guardian Beasts-》を再展示し、入学の門出を祝った。また、京都芸術大学の最寄り駅でもある叡山電鉄茶山駅が、「茶山・京都芸術大学前駅」に名称変更されたことを機に、若者たちの往来を見守るように《SHIP’S CAT(Tower)》(2023)を、プラットフォームの最南端に設置した。来年、大型複合施設での巨大インスタレーションを控えており、今年もさまざまな《SHIP’S CAT》シリーズを制作する予定だ。

《KOMAINU ―Guardian Beasts―》(2019)撮影:Kenji Yanobe Archive Project
《SHIP’S CAT(Tower)》(2023)


プロダクト、建築、編集などによるプロジェクト

ウルトラプロジェクトがユニークなのは、アーティストだけではなく、周辺領域のさまざまなクリエイターや企業が参加している点だろう。

ウルトラプロジェクトの活動歴が長く、京都ならではのプロジェクトとして、元禄年間(1688年)に創業した、西陣織の老舗、株式会社細尾の細尾真孝が牽引するプロジェクト「MILESTONES」がある。西陣織は、江戸時代から天皇・徳川家を中心とした公家や武家、あるいは寺社仏閣に豪華な西陣織を提供してきた。その工程は、約20にもわたり、それぞれに専門性の高い職人がいる。


いわゆるオーダーメイドのラグジュアリーブランドといえるが、明治以降と戦後の変革で、階級や生活様式の変化により、最盛期からは衰退していっていた。しかし、細尾はその蓄積には、日本の高い美意識と技術が詰まっており、世界に通じると考え、現在のハイブランドに提供することを試みてきた。現在では、ディオール、ルイ・ヴィトン、カルティエ、グッチ、ライカ、レクサスなどの世界の名だたる高級ブランドの店舗の内装やインテリア、バッグなどに使用されている。

なかでもウルトラプロジェクトで力を入れているのは、江戸時代から大量につくられた帯図案のデジタルアーカイブであり、その数は約2万点にも及ぶ。2014年からウルトラプロジェクトを開始してすでに1万6千点ほどがデジタル化された。プロジェクトの学生は、スキャニングだけではなく、図案アーカイブをイメージソースにして企業とコラボレーションしたり、プロダクトデザインを提案したりして実際に採用されている。

昨年は、AIなどにも力を入れ、大量のデジタルアーカイブから新しい図案を自動生成したり、着彩のパターンをつくったりする展覧会「MILESTONES-余白の図案」を、阪急百貨店や京都伝統産業ミュージアム(京都市勧業館みやこめっせ内)などでも開催した。今後はNFTなどにも展開していく予定だという。まさに、過去から受け継いだ遺伝子を、現在のメディアにのせていき、デジタルからフィジカルまで展開する実践として見本になるものだろう。

京都伝統産業ミュージアム特別企画展「MILESTONES -余白の図案」(2022)


アーティストの遺産を使用するということで言えば、矢津吉隆(美術工芸学科専任講師)らが率いる「BUYBYPRODUCTSプロジェクト」もユニークである。矢津と山田毅は、副産物産店というユニットを組んでおり、アーティストが創作時に捨てた廃材を再利用するプロジェクトを進めている。その廃材がアートの「副産物」というわけである。昨年からはじまったこのプロジェクトは、副産物産店に加え、建築家の中村紀章(環境デザイン学科専任講師)や松本尚子(環境デザイン学科専任講師)、デザイナーの水迫涼汰も参画し、京都芸術大学内で排出された廃材(副産物)を回収し、プロダクトに生まれ変わらせるサーキュレーションを企画している。


昨年は、空き缶やペットボトルのリサイクルボックスのように、専用の「みどりの箱」をつくり、そこに廃材を入れてもらって回収する仕組みと、プロダクトを生産するスタジオを整えていった。今年から、具体的にみどりの箱を設置し、プロダクトにしていく企画が実施される予定である。いわゆるゴミをアートにする試みは、さまざまなシーンでみられるようになったが、このプロジェクトのユニークなのは、使用できるプロダクトにしようとしていることだろう。

「みどりの箱」などのデザインも洗練されており、芸術大学という一番身近な施設に実装されたら、面白い試みとなっていくに違いない。リサイクル以外のもう一つの視点は、棄てられた物から使える物をつくるという「ブリコラージュ」的な視点だろう。自分の頭の中だけで物をつくるのは発想としても限界がある。そういう意味ではゴミの中に、創作のヒントがたくさん潜んでいることもある。そういう創造の種を拾って咲かすという循環にもなっていくのではないか。


さらに、家成俊勝(空間演出デザイン学科教授)らを中心としたドットアーキテクツも、昨年から続いている「日野町プロジェクト」を紹介した。ドットアーキテクツは、設計だけではなく、施工の一部分や運営まで、今まで建築家がやらなかった範囲まで自分たちで行っていることで知られている。専門化、分化した建築を、多くの当事者が参加できるように、自分たちの手に引き寄せ、全体像をつかめるようにしているところがユニークである。今まで瀬戸内国際芸術祭や大阪の北加賀屋で、設計、施工、運営まで含めたさまざまな実践を行ってきた。そこでキーとなるのは自分たちもコミュニティの一員、当事者となって参加していることだろう。

《Umaki camp》(2013)
《美井戸神社》(2013)


今回の舞台となる日野町は、滋賀県の蒲生郡に位置し、古くから檜物製造が盛んであったという。その後、日野椀や医薬品、醸造業の生産地となり、日野商人(近江商人の1つ)を輩出した。そのような歴史もあって今も旧街道や商家の街並みが残る。しかし、由緒ある神社の参道沿いにマンション計画が立ち上がり、文化と景観の喪失を懸念した地元の工務店が土地を買い取って活用することになり、地域に開かれた複合文化施設をつくることになったという。

複合文化施設には、工芸をつくる工房に加えて、レジデンス、学習・研修施設、ギャラリーなどがある。地域の伝統を継承すると同時に、地域や外部とも交流もできる場となっている。昨年は基本設計に加えて、古民家の離れをリノベーションしたサテライトオフィスの設置も進めた。そこではオフグリッドで自家発電ができ、コンポストトイレ(バイオトイレ)も備えられる他、今年はそこから出た堆肥を利用した菜園もつくる予定だ。サテライトオフィスを整えながら、実施設計も行うという。家成自身、コロナ禍以後の新しいライフスタイルや非都市圏での生活の実践として位置づけており、次の世代にも大きなヒントになるだろう。

《日野工房》


アーティストやクリエイターを、「編集する」という観点で、彼らの活動と併走したり、広報するのがBYEDITの多田智美と竹内厚だ。多田は大阪で編集事務所や出版社を経営し、竹内は編集プロダクションに所属しながら、さまざまな制作を行っている。特に多田は、多くのメディア(あるいは冊子)やウェブマガジンなどで、建築家やアーティストの活動を伝える仕事を続けている。その原体験は、ヤノベケンジが2004年から2005年にかけて、金沢21世紀美術館の開館記念のレジデンスで半年間制作した際、期間中、普段美術館に来ない人が訪れるきっかけづくりのためのワークショップやフリーペーパーづくりを行い、最終的に1冊の本を編集したことにあるという。


2008年にウルトラファクトリーが立ち上がってからは、広報紙でもある『THE ULTRA』の発行を続けている。プロジェクト参加者は、実践的にアーティストやクリエイターに取材して、『THE ULTRA』を編集することに加えて、集まってきた編集部の関心に沿って、新たなメディアを立ち上げるなど、素材を見て発信方法や形態を考えるという、柔軟な運用も実践的な勉強になるだろう。ちなみに、多田とドットアーキテクツは、今年の第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の出展メンバーにも選ばれており、それらの活動も反映されるかもしれない。

 

人工知能の時代に人間がつくるアート

ヤノベは、例年、ディレクターを映画『スター・ウォーズ』に出てくる「ジェダイ・マスター」や『ハリー・ポッター』の「魔法使い」に例えているが、今年は神がいると言って紹介されたのがアニメーター、イラストレーターの米山舞だ。「神絵師」と言われ多くのイラストレーターの憧れになっている米山が、飛び入りで参加していたのだ。米山は、過去にガイナックスに所属し、多くの原画や作画監督を担当、独立後は、『ダーリン・イン・ザ・フランキス』の作画監督、ED演出や、『キズナイーバー』(2016)などのキャラクターデザインで知られている。近年ではイラストレーターとして小説、ゲーム、Webなどに描くほか、クリエイティブ集団「SSS by applibot」に所属し、アーティストとして限定の平面作品を手掛けている。先日アンテルーム京都で開催された、SSS by applibotによる「Re/arise #1.5 EXHIBITION KYOTO」展では、京都の伝統工芸の職人と最新のイラストレーションを組み合わせた、今までにない平面作品を生み出していた。

「Re/arise #1.5 EXHIBITION KYOTO」展(2023)


米山は現在、ウルトラファクトリーのさまざまな工房機能を活かした、新たな作品の制作にチャレンジしており、真に実践的なアニメーションとイラストレーションの技術と、芸術作品の技法によって、新たなアートが生み出されようとしているところである。今後、どのような形でウルトラプロジェクトに発展していくかも期待が高まる。

公開制作の様子(撮影:吉見崚)


ヤノベのいう「魔法」は、SF作家アーサー・C・クラークが唱えたクラークの三法則の3つ目「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」という言葉が意識されている。アートの語源であるラテン語のアルスは、遡れば古代ギリシア語のテクネ(技術)を翻訳したものであり、両方、手仕事や技巧に由来していることから、「十分に発達したアート」と読み替えることもできるだろう。さらに、ディズニーがアニメーションは「生命を吹き込む魔法」と言ったことも関係している。その意味では米山も神であると同時に、魔法使いでもある。

ディレクターは、まさに物質や情報に、生命を吹き込むようにして、アートやプロダクトをつくっている。無価値なものを宝石のような価値のあるものに変える力を持っているのだ。最後にヤノベは、ディレクターとの出会いが「人生をよりよいもの」に変え、その経験は「一生の宝物」に変わるだろうと述べた。

ヤノベは冒頭の挨拶で、「今年は人類が滅亡するかどうかの大きな年になるかもしれない。コロナやウクライナ侵攻もあるが、ChatGPTのような人工知能がもたらす脅威はそれを超える可能性がある。」と語っていた。ChatGPTも、人間によって命を吹き込まれた魔法かもしれないが、最終的には「手でつくること」「みんなでつくること」が人間に残された重要なアート(技法)として残っていくのではないか。それは体験を伴い、夢や驚きに満ちたものだ。そのような未来のためのアートを生み出す工房、プロジェクトとして、ウルトラプロジェクトの役割はますます大きくなっていくだろう。

(取材・文:三木学)

 

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