REPORT2021.10.04

教育

泣いて笑って、最後はAll Right! 「瓜生山ねぶた2021」点灯式・表彰式

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  • 京都芸術大学 広報課

角材と針金、和紙だけのはず。それがどうして、こんなことになってしまうのか。9月15日、カウントダウンの合図で夕闇のキャンパスに浮かびあがったのは、まるで巨大な白昼夢のように、さまざまな姿のねぶた達——。

そもそも「ねぶた制作」といえば、1年生だけのワークショップ(体験型授業)。学科もコースも関係なく約40人のクラスにわかれ、2週間かけてオリジナルの巨大ねぶたを制作する授業です。さらに今年は学年を飛びこえ、去年のコロナ禍で制作できなかった2年生も参加。上も下も関係なく、みんなで悩みながらの共同作業となりました。

時勢柄やむなく、授業は対面とオンラインの併用。クラス全員が現場に集合できたのは、点灯式や表彰式が行われたこの最終日のみ。一般客にお披露目する機会も失われました。しかし、すべてにめげることなく、820名が心血を注いでつくりあげた20基のねぶた、駆け足ながらもこの記事上で完全公開していきたいと思います。今年のテーマは、学生だけでなく社会にとっても超難題…「SDGs」です!
※各コメントはリーダーやメンバーの方々からいただきました。

 

階段をあがれば、花、実、船、人


「つつみ、すくう」 クラスD

閉じられた正門の階段をあがると、ばっくり割れてタネを見せている大かぼちゃがお出迎え。荒地でも実るというその果肉には、飢餓問題を見落とさずに“すくう”スプーンがグサリ。「メンバーそれぞれのこだわりが強く、急な変更も多かったけれど、結果的に造形から配置までベストを尽くせました!」。

 


「TOMORROW TO CHOOSE」 クラスP

右足から咲くのは、美しい未来。左足から湧くのは、地球を蝕むガス。さて、どちらの一歩を選択するか? 自分の足元を見つめたくなる作品。「広がっていくガスの濃淡を、くしゃくしゃにした和紙の重ね具合で表現。“みんなで楽しむ”という目標が達成できて、もう大満足です」。

 


「バトンリレー」 クラスM

エントランスに佇むのは、岩と一体化した沈没船。あえて沈められた人工の漁礁が、人と自然が営む「生」と「死」の循環(リレー)をあらわしている。「人工物をゆがみなくつくるのが、想像以上に大変。けれど、時間をかけてたどり着いた考えをしっかり表現できるよう粘りました」。

 


「これが、わたし?」 クラスC

ぬっと突き出した顔には、見慣れた作業用ゴーグルが。なんとモチーフは、熱心にSDGsに向き合う学生自身。裏に回ればぐったり気の抜けた姿も表現されている。「作業や鑑賞を終えたとたん、問題意識も消えるんじゃないの? という、ねぶた全体に物申す意欲作です」。

 

 

 

ギャラリーに降臨す、新たな伝説


「水に流さずに」 クラスS

ギャラリーに向かうと、まず目に飛び込んでくる、純白の便器。上から見下ろせば吸い込まれる闇が、横から眺めれば肥やしリサイクルの壁画が浮かびあがる。「最初は7m級の壮大なトイレ構想でしたが、思いとどまり5mに。階段上からも見える立地をうまく活かせました」。

 


「目をとじて、」 クラスE

お隣の便器とは対照的に、ひっそり静かに生える大木。けれどよく眺めれば、とりまく草花やコケ、虫や小動物ひとつひとつの繊細かつリアルさに、思わず息をのんでしまう。「倒れても枝を伸ばすという屋久杉がモデル。細かな草木や生き物は、オンライン授業で各自が自宅制作してくれました」。

 


「継ぐもの」 クラスJ

ギャラリーの左奥、朽木を背景にそびえるのは、岩山に突き刺さったソード。まさにRPGゲームで勇者が受け取るアレそのものだ。「みんなにわかりやすいモチーフで、観客自身が主人公として地球問題と戦ってくれることを願いました。リアルを追求し、完全につくった剣を突き立てるのに大苦戦!」。

 


「鳳凰」 クラスA

さまざまな動物の特徴をあわせ持つ鳳凰は、SDGsにいろいろな意見を持つ自分たちの象徴。その卵にも、たくさんの想いが模様として刻まれている。「ひとりひとりが真剣に問題を考え、いい意見を出したからこそ、安易に平均化せず、“いろいろな考え”そのものを表そうと決めました」。

 

 


「神託」 クラスB

波をこえてうねりくる龍は、水資源を大切にしない私たちに怒れる水神。ねぶた史上最長という全長30mの姿は、細部まで均整がとれ、まさに神々しいの一言。「前に立つ私たちを睨む顔まで、その美しさにこだわりました。キレイな人が怒るとコワイでしょ? そんなイメージを再現したくて」。

 


「未来にめぐり、過去につながり、現在にまわる」 クラスH

ギャラリー横の教室いっぱいに降臨したウロボロスは、自分の尾をくわえた“不死=循環”の生き物。部屋を横切って作品解説にたどり着き、振り返ればそこに在る、未来の象徴だという。「会場で唯一の孤立した空間そのものを作品化。立体的なウロコはひとつひとつ、みなが自宅作業でつくりあげました」。

 

 

教室を侵食し、体育館にうごめく

 

「Update」 クラスG

デッサン室に立ちはだかるのは、今まさに崩れゆく壁。私たちの固定観念を崩すことで、その先(裏側)に待つ明るい未来を表現している。「最大の難所は、壁の崩れている部分。モチーフどおり、いろんな壁に衝突しながらも、ひとつひとつ解決していける素敵なチームでした」。

 


「わたしとくべつ」 クラスU

崩れた壁の向かい側には、三位一体のかまいたち。社会のジェンダー問題を“不可解”な妖怪のせいにして済ませるつもりか?と鎌をふるう。「自宅作業を活かして、和柄模様などのディティールをつくりこみました。ギリギリまで全体のフォルムに迷ったけれど、いい答えを選べました」。

 


「再生」 クラスK

体育館奥の講堂は、サンゴの住処となっていた。最も手前で華やかに輝くのは、死んで白化したサンゴ。それを美しいと愛でるのが人間のエゴだという。「四方八方に枝を伸ばしたカタチが複雑すぎて、何度も絶望しかけましたが…CADを使える子など、みんなの力をあわせて完成させました!」。

 


「ジェットコースターに乗ろう 全ての森を失うまで」 クラスO

講堂を駆けおりてこちらに迫るのは、他国の森林を伐採してまでも豊かな生活を求めるジェットコースター。極端に傾斜したレールは、森林減少の折れ線グラフを表している。「木の質感を出すため、手作業で紙に木目を加工。まさにこのコースターのように、1年も2年も関係なく突きすすみました」。

 


「カウントダウン」 クラスT

“もし地上からミツバチが消えたら、人類は4年も生きられない?” 細部までつくりこまれた世にも美しい蜂の死骸は、ごく身近な環境の危機を鑑賞者に突きつける。「残された時間で何ができるかを考えてほしくて。脚、羽根、眼、体毛など、部位ごとに和紙のいろいろな可能性を探りました」。

 


「猫に鰹節」 クラスQ

タイトルの意味は“油断ならない状況”。余ったコンビニの鰹おにぎりを見つめる猫、という身近なモチーフが、じわりと迫る食品ロスやゴミ問題を物語る。「猫の胴体を多面体にしたり、重ねた和紙で明暗をつけたり、白だけでも多彩に見える工夫を。ゴミ袋に浮かぶゴミ模様にもご注目!」。

 


「Attention」 クラスF

純白のねぶたにふさわしい、華麗なウエディングドレス。その姿が美しいからこそ、裏に引きずる海洋廃棄物や、それを見つめる目の不気味さがより際立つ。「自画自賛ですけど…美しいでしょう? 全体デザインや動画をつくってくれたのは、留学生の郭さん。完全リモートだけど息ぴったりでした」。

 


「Utopia」 クラスR

完璧な球体で表された理想の世界も、実際には絵空事なのかもしれない。裏に回ると壊れている、このねぶたが掲げる球のように。「球体の出来ばえって、誰にでもわかってしまうので、何度もつくり直しました。まわりの巨大さに負けていられるかと、直前になってサイズも大幅スケールアップ!」。

 


「群泳」 クラスN

群になって泳ぐ魚は、“バイトボール(エサの玉)”とも呼ばれる。そんな弱くはかない存在だけど、同じ方向にむかっていけば、やがては未来を変えられる。「つくったイワシは立体1000匹+平面2000匹。最初は埋め尽くすつもりでしたが、仕上げていくうちに、余白のある方がキレイだと気づきました」。

 


「気づけない」 クラスL

体育館の舞台上にどんと居座り、食べ物をパンパンに詰めこんでいる人の顔。食べきれないほど買い求め、食品ロスを生みだす自分たちの醜さを見せつけている。「木組みをつくるための図面データが紛失し、粘土模型からやり直すというトラブルも。最後のさいごで、ようやくみんながまとまりました!」。

 

 

点灯、歓喜、走馬灯

作業を終え、先ほどまでテキパキと片付け作業をこなしていた学生たちが、いまは子どものように座り込んで前方のスクリーンを見つめている。画面に映るのは、サポート役の上級生たちが撮影し、映像の先生方が編集してくださった、今回のねぶた制作風景。それぞれが思い出にひたるなか、画面は春秋座舞台の生中継へ。いよいよ、このねぶたを総括する表彰式がはじまります。

心のこもったスライドショーのプレゼント。学生は中継で視聴します。
LAとしてマンデイプロジェクトに関わった学生が司会進行を務めます。

 

「TD(テクニカルディレクター)賞、Nクラス!」「佳作賞、Eクラス!」「優秀賞、Tクラス!」「学長賞は…再びNクラス!」。発表のたびにもれる、どよめきと拍手。会心の笑み、あるいは少し悔しそうな表情で、壇上を後にする代表者たち。すべての表彰が終わり、徳山理事長の挨拶で式がしめくくられ、みんなの長い長いねぶた最終日が、ついに幕を閉じました。

 

ただ美しいだけでなく、どこかただならぬ雰囲気が、より迫力をもたらしていた今回のねぶた。取材に応えてくれた学生からは、「すごく考えた」という言葉をたくさん聞きました。SDGsという重くて大きな問題を、なぜ大人たちはいろんなかたちで、若者たちに背負わせてしまうのか。それは、現実世界でこの問題の主役となるのが、まぎれもなく若い世代の皆さんたちだから。とことん考えてたどり着いたひとつひとつの“想い”や“答え”を、私たちもしっかりと受けとめていきたい。そして、皆さんからあふれだす圧倒的なイマジネーションに、世界を変えられる力を感じていたい。学生の皆さん、先生やサポーターの皆さん、そしてすべてのスタッフの皆さん、おつかれさまでした。今年も唯一無二の輝きを、ありがとうございます。

 

(ねぶた撮影:高橋保世、表彰式撮影:吉見崚)

 

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