琉球王朝時代、王の代替わりの際に中国から訪れる使者である冊封使(さっぽうし)をもてなすためにうまれた式楽「組踊」(くみおどり)。そして、宮廷でうまれた格式高い作品から市井の生き生きとした暮らしを描いた作品まで彩り豊かなラインナップをそろえる琉球舞踊と喜歌劇を、今年も春秋座で披露します。
2012年に初めて京都芸術劇場 春秋座で上演された組踊公演は、今回の公演で6回目となりました。過去5回の公演では、組踊の創始者・玉城朝薫(たまぐすく・ちょうくん)の作品で今も残る「朝薫五番」の作品を全て上演。さらなる組踊の魅力を伝えるべく今回は、「花売の縁」という組踊と琉球舞踊、喜歌劇を上演します。人間国宝の西江喜春(にしえ・きしゅん)氏や比嘉聰(ひが・さとし)氏のような大御所の先生から、この4月に国立劇場おきなわ芸術監督に就任した金城真次氏のような若き実力者まで、幅広い層のみなさんが出演し、琉球芸能の多彩な魅力をご覧に入れます。
今回の「琉球舞踊と組踊」公演を企画した田口章子教授が、「この豪華な顔ぶれは沖縄でも類を見ない」と驚嘆し、金城真次氏が「喜歌劇がこの演目の組み合わせで入ってくることは、まずない」と語る今回の公演。京都のみなさんに、古い沖縄の風景や香りをお届けします。
第一部 琉球舞踊と喜歌劇
◆琉球舞踊
一、「かぎやで風」(かじゃでぃふう)
出演:嘉数道彦、知念亜希、廣山えりか、伊波留依
祝宴や儀式の場において最初に踊られる祝儀舞踊で、子孫繁栄、国家安泰、五穀豊穣の思想が色濃く込められています。琉球舞踊の基礎基本とされ、無駄のない所作の中に凛とした美しさを感じさせます。
二、「上り口説」(ぬぶいくどぅち)
出演:上原崇弘
「上り」とは琉球から薩摩(鹿児島)への旅の事で、琉球王国時代には公務での出張が頻繁だったようです。琉球の使者が首里城を出発して、那覇港までの道中と人々の様子、那覇港から薩摩の港までの道行きを写実的に描いています。
三、「瓦屋」(からやー)
出演:新垣悟
月眺めを主題としていることから、かつては「月見踊り」と称されていました。古典女踊の典型的な様式で踊られ、十五夜の清らかな月を愛でる所作や、我が家で待つ愛する人への思いを手踊りの美しさで表現します。
四、「取納奉行」(しゅぬぶじょう)
出演:佐辺良和
意気揚々とやって来る年貢徴収の役人を接待するために、島民や娘たちが大騒ぎしている様子がコミカルに描かれています。曲は早弾きで物語風に筋立てて歌われ、振りは軽快なリズムに乗せながら「姉小舞(アングヮーモーイ)」と称される自由奔放な所作が巧みに取り入れられています。
◆喜歌劇
「夜半参」(やはんめー)
【出演】
里之子:嘉数道彦
忍びの女:廣山えりか
三良:上原崇弘
三良の妻:知念亜希
亀謝:玉城匠
亀謝の妻:伊波留依
沖縄芝居は、明治中期に沖縄県民の娯楽として誕生しました。沖縄芝居である本作品は、1910(明治43)年の初演で、数々の名作を世に送り出した我如古弥栄(がねこやえい)作の短編喜歌劇です。
~あらすじ~
恋の成就の為、お百度参りに来る若い女性。その噂を聞きつけた村の男二人は、こっそりと様子を窺いに出かけます。念願叶った女は、意中の若侍とめぐり会い、二人の恋は成就しますが、納得いかない村の男二人。その妻二人も夫の行方を捜しに出かけ、てんやわんやの騒動となります。
第二部 組踊
「花売の縁」
立方指導 : 宮城能鳳 (人間国宝)
地謡指導 : 西江喜春 (人間国宝)
【配役】
森川の子:佐辺良和
乙樽:新垣悟
鶴松:渡名喜苺英
猿引:玉城匠
猿:富島花音
薪木取:嘉手苅林一
【地謡】
歌三線:西江喜春、花城英樹、玉城和樹、大城貴幸
箏:宮里秀明
笛:宮城英夫
胡弓:川平賀道
太鼓:比嘉聰(人間国宝)
敵討物や孝行物が多い組踊の中で、親子や夫婦の情愛を描いた名作として愛されている作品です。髙宮城親雲上(たかなーぐしくぺーちん)の作品とされ、生活苦により離ればなれに暮らさざるを得なかった家族の再会が描かれおり、猿引と猿の芸や、薪木取の名台詞など、独自性に富んだ見どころ聞きどころが多い作品です。
~あらすじ~
首里の下級士族・森川の子(むりかわぬしー)は、色々な不幸が続き生計が立ちゆかなくなったため、妻の乙樽(うとぅだる)と幼子鶴松を首里に残し、単身で山原の大宜味へと出稼ぎに出たきり、音信不通となります。それから12年の時が過ぎ、良家の乳母として働き安定した生活を得た乙樽は、成長した鶴松を連れ、夫を探す旅に出ます。
春秋座でしか観ることができない公演
公演を企画した田口章子教授が上演にあたって想いを語りました。
「10年以上前のことですが、宮城能鳳(みやぎ・のうほう)※先生が、本学の公開講座『日本芸能史』にご登壇された際に、本学で琉球芸能の公演をして欲しいとお願いしました。それからずっと春秋座でしか見られない公演を行なってきました。“沖縄でも観られません”というのが、この公演のキャッチフレーズになっています。ご出演の皆さまの層の厚さや芸の素晴らしさはもちろん、沖縄から持ち出したこともないような舞台美術までお持ちいただいて、沖縄のみなさまにかなりのご協力を仰ぎ、開催して参りました。
今回上演します「花売の縁」はとってもシンプルなストーリーなんですね。すごくシンプルな作りなのですが、人間関係において心の豊かさがどれだけ大事かということを、こんなにも洗練された形で私たちに伝えてくれるものはない。そういう意味でも何としても一人でも多くの人に観ていただきたいという想いです」。
※ 宮城能鳳:宮城本流鳳乃會家元。宮城流・流祖宮城能造に師事。宮城能鳳組踊研究会会長。重要無形文化財「組踊立方」保持者〔各個認定(人間国宝)〕。重要無形文化財「組踊」(総合認定)保持者。重要無形文化財「琉球舞踊」(総合認定)保持者。
組踊「花売の縁」ではハンカチでなくバスタオルのご準備を
5月22日の公演では解説も担当する金城真次氏から、公演にかける意気込みを伺いました。
「この組踊は沖縄でもなかったような、かなり中身の濃い豪華な公演になるのではないかと思っております。私はこれまでに2回春秋座で公演に出演しましたが、こちらの舞台は、そこの空気に自然と馴染んでいけるような雰囲気で、大好きな舞台なんですね。今回この春秋座で「花売の縁」を上演することになり嬉しく思っております。「花売の縁」は大変奥深い作品です。仇討ち物のような派手な作品ではないですが、夫婦のあり方や家族のあり方、親子のあり方が表現されている。そして他人であっても、その他人との対話の中に沖縄の人らしい人情といったものが、あちらこちらに織り込まれている。そういった作品です。
最後の方では家族の感動の再会がありますが、その場面では音楽が演技を助けるような役割をしていて、それはそれは、もう涙を誘うシーンではないかと思います。ハンカチでなくバスタオルのご準備を、と心の中では思っております(笑)。
そして、今回、第一部に組み込まれています沖縄芝居の喜歌劇「夜半参」という作品ですが、明治に作られた古い歌劇で、少し組踊の要素を残しています。昭和や大正の作品になると、リズムを踏まずにリアルな動きで演技をする沖縄芝居が多いのですが、「夜半参」はリズムを踏んで踊りのリズムを崩さずに、沖縄の音楽にのって演技をするという作品です。演技の仕方や様式なども楽しんでいただけたらいいなと思っております。第一部では、この他に琉球舞踊もございます。京都のみなさまに沖縄の古い香りを感じていただけたら嬉しいです」。
連携企画「組踊ワークショップ」
公演に先立って、金城真次氏と上原崇弘氏、和田信一氏をお招きし、関連企画「組踊ワークショップ」を開催しました。組踊の見どころ解説や演者の実演と所作の体験を通して、その魅力を紹介いただきました。
参加者は、「組踊」の見どころや聴きどころの解説を聞き、実演と所作の体験をして、「組踊」の世界をさらに深掘りしました。この貴重な公演を、ぜひ、京都芸術劇場 春秋座でお楽しみください。
琉球舞踊と組踊 春秋座特別公演
日時 | 5月22日(日) 14:00 開演(13:15開場) |
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会場 | 京都芸術劇場 春秋座(京都芸術大学 瓜生山キャンパス内) |
入場料 | 一般4,500円/友の会4,000円/学生&ユース(25歳以下・要証明書提示)2,000円 |
問合せ先 | 京都芸術劇場チケットセンター(075-791-8240) |
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