REPORT2022.05.10

アート

DOUBLE ANNUAL 2023 募集説明会 ― 新しく生まれ変わる学生選抜展の全容を発表。

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  • 京都芸術大学 広報課

本学屈指の芸術教育プログラムのひとつである学生選抜展「KUA ANNUAL」が、今年度から新しく生まれ変わろうとしています。

京都芸術大学は、芸術教育のあり方を問い直し、芸術大学の学びが個人的な興味・関心から生まれる一方向的なメッセージに終始するのではなく、未来の社会に対して芸術的視点から何が提案できるのかを考えてきました。また、そうした問いから日々生まれる学生の優れた作品群を、単なる成果発表展に終始するのではなく、一つのテーマに基づきキュレーションされた展覧会で対外的に発表することを実現すべく挑戦してきました。

全学部生と院生を対象とした学生選抜展「KUA ANNUAL」は、第一線で活躍するキュレーターを招聘し、キュレーターの提示したテーマに応答する形で、キュレーターから制作指導と対話を続けながら展覧会をつくり上げる実践的な芸術教育プログラムとなっています。
同展は、2017年度より5年に渡って東京都美術館で開催され、キュレーターに片岡真実先生(森美術館館長、本学客員教授)や服部浩之先生(東京藝術大学大学院映像研究科准教授)を迎え、『シュレディンガーの猫』(2018)、『宇宙船地球号』(2019)、『フィールドワーク:世界の教科書としての現代アート』(2020)、『iregular reports ― いびつな報告群と希望の兆し』(2021)、『in Cm | ゴースト、迷宮、そして多元宇宙』というテーマで展覧会が開かれました。

「KUAD ANNUAL2018 シュレディンガーの猫」(撮影:表恒匡)
「KUAD ANNUAL 2019 宇宙船地球号」(撮影:顧剣亨)
「KUAD ANNUAL 2020 フィールドワーク:世界の教科書としての現代アート」(撮影:顧剣亨)
「KUA ANNUAL2021 irregular reports:いびつな報告群と希望の兆し」
「KUA ANNUAL 2022 in Cm | ゴースト、迷宮、そして多元宇宙」

 

新しく生まれ変わり「DOUBLE ANNUAL」へ

6年目を迎える今回は、名称を「DOUBLE ANNUAL」と新たにし、会場を東京都美術館から国立新美術館へ移し、姉妹校である東北芸術工科大学からも学生選抜を行うプロジェクトへと発展させます。
総合ディレクターに片岡真実先生を迎え、インディペンデント・キュレーターである金澤韻先生(本学客員教授)と服部浩之先生がそれぞれ京都と山形のディレクターを担当し、3名の共同キュレーション体制のもと、展覧会をつくりあげます。

京都と山形という二つの異なる地点から、現代世界をどう見つめることができるのか、それが東京や世界からの眼差しにいかに映り、共感されうるのか。新たなチャレンジが始まります。

募集説明会 予告ポスター。


2022年4月21日(木)に開催された募集説明会では、冒頭に総合ディレクターの片岡真実先生から展覧会開催決定に際してご挨拶があり、これまでの展覧会を振り返りました。
「この時代をどのように投影した作品が生まれるのか。作品を通して参加アーティストが見る現代世界を展覧会という形で見てみたいという思いからこの展覧会が企画されました。また、参加する学生が卒業後に、一人のアーティストとして活動することも念頭に置いています。社会に出る前に試験的な体験ができるよう、展示構成や設営、展示のグラフィックなどには学内の教員を中心としてプロフェッショナルが関わり展覧会を作ってきました」。


続けて片岡真実先生は新名称の意味について「京都と山形という二つの地点から、現代世界をどう見るのか。“二つの視点で世界を見る”という意味を込めてDOUBLE ANNUALという枠組みに更新しました」と話します。
「この数年間で世界で起きたこと、それらを受けて自分の考えを掘り下げ、どんな感覚を磨いてきたのか。アーティストはそれを作品という形で視覚化していかなくてはなりません。その作品がいかに多くの人に伝わるものになるのか、いかに普遍的なものになるのかということをそれぞれ考え、提案してほしいと思います。学生のみなさんからの提案をディレクターの金澤さんや服部さんと拝見したいと思いますので、奮って参加してください」。
 

作品募集テーマ「抗体」「アジール」「ミラクル」

新しい会場、新体制で初の試みとなる「DOUBLE ANNUAL 2023」では、長引くパンデミックが浮き彫りにした社会のさまざまな構造や不均衡、ロシア軍のウクライナ侵攻といった歴史を逆行するかのような分断や対立構造、権力や支配への無限の欲望など、目まぐるしく変わる社会情勢の中で、アートに何ができるのかを批評的かつクリエイティブに考えることが求められます。作品の募集にあたっては次の3つのキーワードが提示され、それぞれ服部浩之先生と金澤韻先生から説明されました。

抗体 Antibody

抗体とは、病原体などが体内に入ったとき、それに対抗するために体の中で作られる物質です。免疫のもとになるものとして、耳にしたことがあるかもしれません。思えば、私たちの存在は、つねに外界との出会いによって揺り動かされ、それに対処するという宿命のうちにあります。他者や異物に対する違和感や拒否の感情、容易には受け入れがたいものに、いかに対決し、あるいは適応していくのか。それは芸術の上でも、重要なテーマの一つであり続けています。この「異なるもの」との出会いとそれへの対応は、変化のきっかけとして前向きに捉えることもできるでしょう。困難を耐え抜く力や知恵、回復力などに発展させて考えることもできるかもしれません。

アジール Asylum

アジールとは、世俗的な権力が及ばない「避難所」です。俗世の過酷な状況からアジールへ逃れる人は、世間と縁を切ることで誰からも支配を受けない新たな生を受けました。日本ではかつて寺院が「無縁所」としてアジールの役割を担い、女性側から離婚ができなかった時代には離婚を切望する女性の駆込寺ともなっていました。アジールは誰もが平等な多種多様な人の共存の場であり、許される場です。遠く離れた人々と瞬時につながることができる一方で俗世から逃れることが困難な現代において、今私たちが求めるアジールはどのような場でしょうか。そして芸術実践からアジールを見出すことは可能でしょうか。

ミラクル Miracle

現代アートには変化し続ける社会の潮流に批評的な提言をしてきた長い歴史があります。そのなかでは、困難な状況が揺り動かす情動や行動が創造活動に繋がったものもあります。アートには現実を異なる方向に転換させる革新的な発想や想像力があります。政治的な意味での革命(レボリューション)に「回転」という意味があるように、社会的、経済的、政治的にも極めて困難な状況が続く現状を、アートの力で良い方向に反転させること。それはもはや奇跡(ミラクル)のように思えるかもしれませんが、それでもなお、そのミラクルを起こしたいと考えます。

作品の応募にあたってはジャンルや表現手法は問わず、どれか一つのテーマに対する応答でもよいし、三つのテーマを受けて提案する形でもよいと説明がありました。何よりもこれらのテーマに作家自身が自分の考えをもって応答していることが一番大事であることが強く伝えられました。

また、これら三つのテーマはあくまで募集のために設定されたものであり、展覧会のタイトルは参加学生が決定し、作品プランが集まったところでディレクター陣で検討する予定であることも申し添えられました。


過去2年間の「KUA ANNUAL」のディレクターを務めた服部浩之先生は、今回の「DOUBLE ANNUAL」はディレクター陣にとっても試行錯誤を重ねるものになると予告しつつ、だからこそ“新しい展覧会を一緒につくりあげる”という気持ちを持って参加してほしいと言います。「この展覧会を通して、なんらかの形で京都と山形とで面白い交流ができればいいと思っています。それは、学生だけでなく、教職員やディレクター陣を含めてです。みんなでこの展覧会をつくりあげましょう」。


続けて作家とアシスタント・キュレーターに対して次のように話しました。「展覧会はさまざまな要因が重なって、最終的に良い形になるということが多いです。ですから、作家の方は自分の作品だけ良ければいい、というのではなく、周りの作家たちがどんなことを考え、どんな作品を制作しようとしているかにも興味をもつとよいと思います」。
「アシスタント・キュレーターには、現代美術の展覧会がどうやって作られていくか、一連のプロセスを体験し、そして一緒につくっていってもらいたいです。現場の体験を通してキュレーションという仕事の幅広さや深さを、学んでほしいと思います」。


金澤韻先生は、とにかくテーマへの応答は必須なものの、あえて“こだわりすぎない”視点を示しました。「今までの作品や自分の作風を大切にしつつ、どのように今回の募集テーマに反映させるか、そんな作品展開を楽しみにしています。それが成功するか失敗するかはわかりませんが、実はキュレーターにとって応募作品はすごく心に残るものなんですね。今回もし採択されなかったとしても、また別の機会で作家や作品を覚えていてチャンスが広がることも実際にあります。だから、とにかく躊躇しないで応募してほしいと思います」。


アシスタント・キュレーターに向けては、キュレーターはきらびやかな世界と誤解されることが多いけれど9割以上は実務だと説明します。「さまざまなタスクや作業を積み重ねて、作家と二人三脚をつくっていくのがキュレーティングの実際です。その行程の“地味さ”は予め知っておいてほしいと思います。でもね、楽しいんですよ。“地味”だけど楽しい!作家と交わす言葉の一つひとつによって作品や展覧会がつくりあげられていくんです。その喜びは他に代えられません。こんなキュレーターの世界に興味がある方は応募していただければと思います」。

 

4月から6月にかけて、作家やアシスタント・キュレーターの募集と選考が行われ、7月から本格的にプログラムが始動します。新しく生まれ変わった、これからの「DOUBLE ANNUAL」をご注目ください。

写真:伊藤彰紀

総合ディレクター 片岡真実
ニッセイ基礎研究所都市開発部研究員、東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーターを経て、現在森美術館館長、京都芸術大学大学院客員教授、東京藝術大学客員教授。国内外にてインターナショナル・キュレーター、芸術監督を務め、日本及びアジアの現代アートを中心に執筆・講演等も多数行っている。

ディレクター(京都芸術大学 担当) 金澤韻(かなざわこだま)
京都芸術大学客員教授、現代美術キュレーター。公立美術館勤務後、2013年よりインディペンデント・キュレーターとしての活動を開始。メディアアート、漫画、地域とアート、障害とアートなど既存の美術の枠を超える領域を扱い、時代・社会と共に変容する人々の認識を捉えようとする企画を行う。国内外で展覧会企画・制作多数。株式会社コダマシーン共同代表。現代美術オンラインイベントJP共同主宰。2016年より上海を拠点としている。

ディレクター(東北芸術工科大学 担当) 服部浩之
キュレーター。東京芸術大学大学院映像研究科准教授。2020年度・2021年度KUA ANNUALディレクター。建築を学んだ後に、アートセンターに勤務し約10年間アーティスト・イン・レジデンスに携わる。アジア各地で新しく生まれる表現活動を調査研究するなかで、異なる領域の応答関係に関心をもち、様々な表現者との協働を軸にしたプロジェクトを展開する。近年の企画に、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」(2019年)、「ARTS & ROUTES あわいをたどる旅」(2020-21年)がある。

 

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