REPORT2022.02.09

舞台

学内最古のサークル「桃色女剣劇団」― 文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会Ⅱ」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。

文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、これから約3ヶ月に渡って授業を受講した学生による記事をお届けします。

(取材・文:文芸表現学科 3年 生方春佳)

 

「桃色女剣劇団」は京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)ができたころから活動している、大衆演劇サークルです。その活動期間はなんと30年ほど。
サークル名に「女」という漢字が入っていますが、女性だけのサークルではありません。サークルができた当初の顧問、鵜飼正樹さんが「なるせ女剣劇団」に所属しており、そこから名前がきているそうです。鵜飼正樹さんは社会学者で多くの大衆演劇の本を出している方です。
大衆演劇ってなに? と思う方も少なくないと思います。いったい「桃色女剣劇団」がどのようなサークルでなにをしているのか、サークルの方々にインタビューをしました。

大衆演劇を知るには、実際に見たほうが早い

大衆演劇は歌舞伎や日本舞踊などから派生してできたものだと言われており、自分たちがやりたいことを表現したいと思った人々が集まったのが大衆演劇誕生のきっかけとされています。昔、歌舞伎や舞踊は神様に捧げるものとされていましたが、大衆演劇は「大衆」という名前が入っている通り、誰が見ても面白いものを上演することをモットーにしています。

よって、大衆演劇の舞踊は日本舞踊や京舞のように型がしっかり決まっておらず、使用する楽曲の雰囲気に合わせて小道具を使い、自分の気持ちを一番に考えてフリを付けるそうです。古典からポップスまでさまざまなジャンルの踊りを扱います。また使用する楽曲も、古典音楽からJ-POPやネットミュージックなどとても幅が広いです。

「大衆演劇をしている人たちは、その幅広さでなんでもこなすことができ、すべて自分の芸にする」と4年生の山田幸音さんは言います。
そして同じく4年生の安河内咲月さんは「演者とお客さんの距離の近さと毎日公演をすることが大衆演劇の特徴」だと話します。他の演劇ジャンルではあまり見られないサービスが観客を楽しませることに繋がるのですね。


舞台芸術に触れてもらうきっかけになってほしい

そんな大衆演劇をサークルでおこなっている「桃色女剣劇団」。現在、20名以上が所属しています。1年生から4年生まで、舞台芸術学科や美術工芸学科、文芸表現学科、情報デザイン学科などさまざまな学科の学生で構成されています。さらに今年は京都芸術デザイン専門学校の学生も入部しています。このようにいろいろなところから人が集まっているので、稽古日はあらかじめ指定されておらず、部員全員が参加できる日を一人一人聞いて稽古日を決めているそうです。

稽古中の様子。


部員が無理をせずに稽古に参加できる仕組みはこれだけではありません。「桃色女剣劇団」は定期的に公演を行います。公演をするとなると何人参加するのかが重要になってきます。「桃色女剣劇団」は公演に部員全員を強制参加させるのではなく、公演までのスケジュールを考えたうえで参加できる人を募ります。このように学修や自分の生活と両立させながら無理なくサークル活動ができるところが、サークルが長く続く秘訣の1つなのかもしれません。

本番の様子。


そして面白いところが、サークル内では本名で呼び合わないところ。実際の大衆演劇では本名を使わずに芸名を使って活動していますが、「桃色女剣劇団」も同じく、サークルに入ったらまず芸名を考えます。芸名は自分が好きなキャラクターや言葉から取ったりと作り方は自由です。例えば、1年生の中田風香さんは「道明寺りぃた」、そして京都芸術デザイン専門学校1年生の谷口信弥さんは「日向茜」という芸名で活動しています。サークル内では芸名で呼び合っているので、ときどき本名がわからなくなるということもあるそうです。


早く公演ができるようになりたい

「桃色女剣劇団」が昨年行った公演は、『皐月冬牙~冬牙(ふゆが)去って春が来る~』と『上賀茂神社 賀茂の水祭り』と『桃色女剣劇団~神無月新人舞踊ショー~』の3つです。

『皐月冬牙~冬牙(ふゆが)去って春が来る~』
『上賀茂神社 賀茂の水祭り』
『桃色女剣劇団~神無月新人舞踊ショー~』


一年で3つもの公演をするというハードスケジュールなのですが、実際どのようにして公演に臨んでいるのかお聞きしました。
まず初めに決めるのは、公演を行う場所と日時です。本番というゴールを決めて動き出すそうです。それが決まったら、参加する人とどの曲をやるかなどの公演の内容を決めます。参加する人は役者として参加したいのか、裏方として参加したいのかも聞きます。曲数は何曲にするのか、公演時間はどれくらいにするのかなど、考えなければいけないことはとても多いそうです。また曲が決まると、その曲の衣装を選ばなければなりません。

「桃色女剣劇団」の部室には写真にある通り、大量の着物や浴衣、帯などが置いてあります。
曲の雰囲気に合っているか、帯の色は合っているかなど相談して決めていきます。

それが終われば、ついに稽古開始です。稽古といっても、フリを覚えたり殺陣を覚えたりするだけではありません。「桃色女剣劇団」は基本すべて自分たちで一からおこなうので、着物の着付けの練習やメイクの練習もします。
着付けは裏方だけではなく、役者も帯を結ぶところまで自分で着ることができるように練習します。
裏方は伊達締めのやり方を覚えたり、曲にあった帯の形を覚えて実際に結べるようになるまで練習します。

公演でするメイクは日常生活でするものとは違い、おしろいをつけたりがっつりアイラインを引いたりするので難易度はとても高いです。
「桃色女剣劇団」のみなさんが使っているメイク用品は、新京極にある「左り馬」という舞台用のメイク用品を取り扱っているお店で買っているそうです。

店内には多くの舞台用のメイク用品が並んでおり、日常ではあまり使わないメイク用品ばかりです。
このような祇園の舞妓さんや歌舞伎役者の方が使うようなメイク用品でメイクしていきます。

まずメイクをする前に顔全体に保湿クリームをぬり、あかちゃんのおしりふきでふき取ります。これで、顔の水分を取ります。

次に、舞台用の化粧下地を顔全体に塗っていきます。この化粧下地が、このあとに塗るメイクののりをよくしたり、化粧崩れを防ぐ役割を持っています。油が乾かないうちにメイクを終わらすことが重要なので、油を塗った直後から時間との勝負が始まります。

油をつけたら、おしろいで鼻筋を書きます。おしろいは水で溶かして使います。そしてブラシで塗り、スポンジで叩きます。次にその両端に茶色を塗り、鼻を立体的に見せます。
鼻筋が完成したら、顔全体にファンデーションを塗ります。乾かないうちにスポンジで叩いて、叩き終わったら粉白粉をつけます。ファンデーションは通常のものとは違い、水で濡らしたブラシでファンデーションを溶かして顔に塗ります。

おしろいと鼻筋の輪郭を塗るメイク用品
ファンデーションと粉白粉


ここまでの工程が終わったら、あとは眉毛、アイライン、口紅をして終了です。女形をするときは目尻のところに、くの字にトノコを入れます。

トノコ、口紅、アイライン、眉毛をかくメイク用品


そしてメイクが完成です。

メイクが終わると着付けをして、本番に臨みます。

 

女形をするときは首や手までおしろいを塗らないといけないので、このような大きめのパフが必須です。

そして驚きなのがメイクの落とし方。通常は写真のようなクレンジングを使うのですが、「桃色女剣劇団」のメイクの落とし方は違います。なんと最初に登場した保湿クリームでメイクを溶かし赤ちゃんのおしりふきでふき取るのだそうです。これで頑固な大衆演劇のメイクが落ちてしまうので、不思議ですね。しかし肌にとても大きな負担がかかってしまうので、翌日肌の不調を訴える人もしばしば……。このメイクの落とし方は「桃色女剣劇団」流だそうです。

演者は公演すべてに必要なことをみっちり稽古して、自分のものになるまで練習して本番に臨んでいると言います。裏方は、本番早着替えがある方のサポートをしたり小道具を準備したりと、公演が順調に進むように動いています。また稽古風景を写真に撮って記録に残すというのも重要な仕事です。これらから役者と裏方、みんなが協力することによって本番に臨むことができるということがわかります。

縦の繋がりができるのは大きいですね

「桃色女剣劇団」は先ほども言った通り、たくさんの学生が所属しています。大学の枠を超えた先輩後輩と関われることが「桃色女剣劇団」の魅力だと話す人がとても多かったです。なぜここまで所属人数が多いのでしょうか。サークルに入ったきっかけは、公演の手伝いをしたり先輩に誘われたり、新入生歓迎会を見たなどさまざまです。その一つ一つが魅力的で「桃色女剣劇団」に惹かれたのではないでしょうか。これだけ人数が多いとまとめるのが大変そうです。

部長の3年生の山口藍瑠さんは「意見をまとめるのはとても大変です。そこで、違う意見を聞いても否定しないように意識しています」と、先輩後輩関係なく一人一人の意見を聞くことを心掛けているそうです。一人一人の意見や想いが尊重されるサークル。演劇に関わらず、デザインが得意ならばチラシを作ったり、手芸が好きならば小道具を作ってみたりと、学科で学んだことや自分の得意なことを発揮することもできます。

「桃色女剣劇団」は決まった活動内容はなく、今まで自分たちがやりたいことをし続けてここまでやってきたそうです。まるで、本物の大衆演劇のようです。しかし、廃部寸前のときもあったのだそう。そういうときはなぜか10年上の先輩がたまたま来てくださって、また部が盛り上がる。そのサイクルが3回ほど続いているらしく、「桃色女剣劇団」の七不思議といっても間違いではなさそうですね。

「桃色女剣劇団」を守りたいという気持ちが強くある

30年ほど続いてきた「桃色女剣劇団」を守りたいと強く思っているメンバーもおり、2年生の石塚友梨さんは「桃剣を守りたい。だからもうちょっと外部に発信していけたらいいな」と話していました。来年からサークルを引っ張っていく予定の2年生。今だけではなく、しっかりと先のことも考えて行動しているようです。同じく2年生の浅尾キヤさんも「先輩たちがやっていることや教わったことをちゃんと大事にしていかなきゃと思う。そしてそれを後輩に教えられるようになりたい」と、今の「桃色女剣劇団」を大事にする思いは強いです。今までの「桃色女剣劇団」を見てきた4年生の三好晨火さんは「サークルだから何しようがいいんですよ。伝統もあるけど、みんながやりたいことをやればいいと思っている。全然好きにしてください」と話しています。また今までの教えを大事に繋いでいき自分たちのやりたいことをやっていく、これからの「桃色女剣劇団」がどのようになるのかとても楽しみですね。

「桃色女剣劇団」は随時新入部員を募集しています。気になる方がいらっしゃいましたら、下記の連絡先までご連絡ください。また、過去の公演の映像や稽古の写真もご覧いただけます。


Twitter:https://twitter.com/momoken_katana
Instagram:https://www.instagram.com/momoken_katana/

そんな「桃色女剣劇団」を引っ張ってきた4年生の卒業公演、『桃色女剣劇団2021年度如月卒業公演~賑やか団舞』が2月2日(水)と3日(木)に春秋座ホワイエにて開催されました。部員一丸となって作り上げた公演は、プロの大衆演劇にも見劣りしない、とても素敵な公演でした。卒業公演の写真や映像は「桃色女剣劇団」のSNSで見ることができるので、ぜひご覧ください。

インタビュイー

桃色女剣劇団
京都芸術大学最古の大衆演劇サークル。今まで春秋座ホワイエや楽心荘、上賀茂神社など様々なところで公演をしている。舞踊や殺陣などの稽古を週2日ほどしながら活動中。

インタビュアー

生方春佳
2000年兵庫県生まれ、神奈川県育ち。京都芸術大学文芸表現学科クリエイティブ・ライティングコース2年生。辻井南青紀先生のゼミに所属しており、普段は小説を書いている。

 

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