18歳-90歳代の社会人が学ぶ芸術大学
「なぜ、そんなに多くの人が学んでいるのか」。この通信教育課程には、18歳から90歳代まで、多地域・多世代の方々が集い、仕事や家事など日々のくらしと、芸術の学びを両立させています。その数は、大学で約10,000名、大学院で約270名(2021年12月現在)。
このなかには、親子や夫婦といったご家族で学んでいる方も多くおられます。今回は、妻の節子さんと夫の新吾さん、そして独り立ちした娘さんの親子3人が本学の学生となった、竹政さん一家にお話を伺いました。「通信で芸術を学んで変わったこと」。そして、「なぜ、学びつづけるのか」。
子育て後、憧れの「京都で日本画」を
― まずは節子さんに伺います。本学を知ったのは、娘さんからですか?
じつは、そうじゃないんです。娘が独り立ちして、仕事やボランティアもひと段落。「さあ、なにをやろう」と思ったときに、まず頭に浮かんだのが、若い頃に描いていた油絵でした。ところが、”マッス(量感)を掴む”という概念に悩んでしまって。どうせ苦労するのなら、線の美しさに憧れていた日本画を、いちから学んでみたいと思ったんです。しかも、伝統ある京都で。
そこで京都芸術大学のパンフレットを取り寄せていたら、帰省した娘が見つけて「私もここに入学したよ」って。先を越されて、ちょっぴりくやしい気もしましたが…単位や授業のことを身近に聞ける安心感もあり、娘に1年遅れて入学を決めました。
苦手意識から解放され、生き方が変わった
― 授業のなかで印象深かったことは?
意気込んで学びはじめたものの、最初は、色を重ねるのも、金箔を貼るのも上手くいかなくて。愚痴ばかりこぼしていたんです。すると先生が、「苦手意識を持って、いいことはひとつもありませんよ」と。その意味を教わり、ハッと心を動かされました。
たとえば、金箔が乱れるのも面白みがあるし、色のにじみが味わいになることもある。「見方を変えれば、すべてにおいて、意味や価値がないものはひとつもない」のだと。これまで自分はひとつの物差しでしか、ものを見ていなかった。そう気づいてからは、普段の人づきあいでも「このひとは苦手」と決めつけることがなくなり、生き方そのものが豊かになった気がします。
同じ花でも、見つづけていると別物に
― 日本画の学びで、とくに魅力を感じるのは?
対象へのまなざしですね。卒業制作という大作のモチーフに選んだのは、珍しさも華やかさもない、自宅近くの空き地に生えている雑草たち。いろんな種類の草花があふれ、観察にはぴったりの場所でしたが…茂ってくると業者の方がきて全部刈ってしまうんです。それでも負けずに咲く姿がいじらしく、自宅の庭にも持ちかえって写生していました。
花は昔から好きで、野の花のことも知っているつもりでした。けれど、「見る」のと「描く」のとでは大違い。青一色だと思いこんでいたツユクサの花びらも、よく見ると少しだけ黄色が入っていたりして…。同じ花なのに、1年目に描く絵と2年目とでは、まるで違う花になる。そんなところに無限のやりがいを感じます。
リタイアを前に、なにも知らない芸術の世界へ
― では、新吾さんに伺います。ご入学のきっかけは、節子さんですか?
ええ、生き生きと学ぶ姿に刺激されましたね。もともと、うちの家族は妻に似てみんなアート好き。そのなかでひとりだけ、コンピュータ関係の仕事ひとすじだった私は、「お父さんに芸術はわかんないよね…」と置いてけぼり。いつも悔しい思いをしていたんです。
とはいえ、それだけが理由ではありませんよ。日進月歩のIT業界では、長年かけて身につけたスキルもノウハウも、あっという間に時代遅れとなります。だからこそ、知識や技術をじっくりと積み重ねられる芸術というものに、ひそかな憧れを抱いていたんです。そこで一大決心をして、なんの知識もないまま、還暦をこえて初めて芸術の世界に飛び込みました。
仕事とは違う“手ごたえ”のあるものづくり
― 実際に入学してみて、学びは順調でしたか?
「これなら自分にもできるのかな?」と陶芸コースを選んだものの、「ろくろ」やら「たたら」やら、異次元の世界に引き込まれたような気持ちでした。入学当初はまだ仕事も忙しく、一度はあきらめかけたことさえありますが…なんとかいま、卒業制作の構想にまでこぎつけられました。
繊細で割れやすい陶芸作品は、かたちのバランス、焼成のタイミング、土や釉薬の配合など、総合的なものづくりが魅力。これまで打ち込んできたデスクワークと違って、つくったものが目に見える手ごたえは格別です。丁寧に仕上げた作品が割れると、まるで自分の一部が崩れたようにガッカリしますが…。未知の世界を一歩ずつ手探りですすむのは、大きな喜びでもあります。
自分の一部として、くらしに活きる生涯学習
― 学びのすすめ方や、生活や仕事との兼ねあいは?
(節子さん)絵に熱中しすぎて人づきあいや家族への配慮がおろそかにならないよう、バランスをとりながら、ひたすら期限に間に合うよう描きつづけていました。絵のモチーフとなった庭の草花のお手入れは、制作だけでなく、身体を動かし、心をリフレッシュするためにも、いい効果がありましたね。
(新吾さん)レポートや慣れない課題にぶつかると、つい愚痴がこぼれてしまうけど…妻に「つべこべ言わずにやる」と言われ、そのとおりに心がけています。妻いわく、「わたしの言葉じゃなくて先生の教え」だそうですが。また、私事で挨拶文の執筆を頼まれたときは、文章をいちから組み立てて書きあげる、レポートの経験が大いに役立ちました。
それぞれの成長と、お互いのつながり
― 本学で得られたこと、また、これからの目標は?
(節子さん)幅広いものの見方、そして、大切な友人を得られました。100号の作品を仕上げるため、静岡や愛知に住む学友3人で合宿したことは、かけがえのない思い出です。今後も、県の美術展などいろいろな展覧会への出品を目標に、ひとつひとつ描きつづけていきたいです。
(新吾さん)とりあえず目下の目標は卒業ですが、芸術は無縁なものと諦めていた自分にも、やればできるという自信を得ることができました。仕事柄、なんでもコンピュータのように1か0かで判断しがちでしたが…「あいまいさ」の美など、物事をより深く見つめるまなざしを得て、世界が大きく広がった気がします。
(娘の泰子さん)先生や課題といった大学の話、それ以外のいろんなアート作品についてなど。3人に共通の話題ができたことで、家族の会話が増えましたね。お互いに励ましあったり、刺激しあったり、学友という新しい絆が、つながりを深めてくれたように感じます。
学科・コース紹介 | 京都芸術大学 通信教育部
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