INTERVIEW2021.10.21

京都デザイン

全国各地の染織物を扱う工房とのコラボレーション。 ― Think LOCAL「HANAO SHOES JAPAN かわいい伝統47」

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  • 京都芸術大学 広報課

9月8日(水)から10月14日(木)まで、Whole Love Kyoto の期間限定ポップアップショップおよび新企画『HANAO SHOES JAPAN』のウィンドウディスプレイが、大丸京都店の1階婦人靴売り場と地下ウィンドウで開催されました!(ウィンドウディスプレイと小ボリューム販売は10月5日(火)まで)。

Whole Love Kyoto は、京都伝統文化イノベーション研究センター(KYOTO T5)と連携しながら展開している、京都発のデザインブランドです。本学の学生たちが中心となって京都の伝統文化や工芸についてリサーチを行い、それを支える職人の方々とコラボレーションするかたちでデザインしたアイテムを製作および販売しています。

今回はそのポップアップショップやウィンドウディスプレイ企画の詳しい内容について、KYOTO T5 センター長であり Whole Love Kyoto のディレクションを行う酒井洋輔先生、そして情報デザイン学科 ビジュアルデザインコース2年生で、今回のウィンドウディスプレイ主担当の江川乃重さんにお話を伺いました。


Whole Love Kyoto期間限定ポップアップショップ

Whole Love Kyoto のポップアップショップは、2017年に初めて藤井大丸での一般販売会を行って以来、京都や大阪の百貨店などを中心に定期的に開催されています。

コロナ禍に陥り一年半以上が経つ現在。いまだ外出にも制限をともなう厳しい状況は続いていますが、今回は、そんな中にありなお大丸京都店からの熱烈なオファーを受けての出店となったと言います。

会期中の大丸婦人靴売り場で販売されたのは、計7点。印象的なアイテムが並びました。

ブランドの代名詞、何百年も前から草履や下駄にすげられ、日本人の足元を彩ってきた鼻緒を現代のスニーカーにつけた『HANAO SHOES』
一澤信三郎帆布と製作した鞄『ICHIZAWASHINZABURO』
伝統工芸のプロセスを体験し楽しむことのできるスカーフ『TOCHU』
漆や飾金具の工芸技術を用いて作ったスプーン『ICE CREAM GIFT』
真田紐師・江南の紐を結んだ帽子『SANADA BAND HAT』
同じく、靴『SANADA BAND SHOES』
新製品の漆ピンブローチ『URUSHI DROP』

 

アイテムはもちろん、そのディスプレイ方法も特徴的。製品が飾られているのは、重ねられた「桐箱」。なかには、引き出し付きのキャリーケース状に加工されたものもあります。


Whole Love Kyoto の店舗入り口の展示方法を参考に、これまでは『HANAO SHOES』のパッケージとしてのみ使用していた桐箱を“見せる”ものとして着目したデザインを採用しています」と江川さん。

ともすれば「質が高くて当たり前」と透明化、背景化されてしまいがちな工芸技術。その高い技術を要するモノの美しさが、製品と調和しながら前面に肯定されていることがわかるヴィジュアルです。


京都で作り、京都で売ること

ところで、販売されたアイテムのなかには、オンラインストアにはあえて一切掲載せず、“京都で作り、京都で売る” ことに重きを置いた製品もありました。

いつでも、どこにいても、指先ひとつの動きで簡単にモノが手に入ってしまうのが今の時代。けれども、街の中の百貨店で展示販売会を行うことで、オンライン販売では得られない、新たな気づきや発見があったそうです。

酒井先生は「今回の展示販売会では、これまでは Whole Love Kyoto にアクセスできなかった客層へのアプローチができたと感じます。コロナ以前に京都駅の百貨店で展示販売を行った際のメイン顧客は旅行客や若年層でした。それが、人出も少ない状況下で来てくださったお客さんは、インターネットでは出会えない50代から70代の年齢層の方。足が悪いけれど草履を履きたいから、という方や、お茶の先生で興味を持たれて、という方も。そんな嬉しい出会いがたくさんありました。ポップアップショップをやる意義があるなと改めて感じました」と話します。

「京都のイメージ」を求めてやってくる観光客ではなく、京都の街に暮らす人々の普段の生活の中に製品が行き渡ること。そのことが確認できた今回の展示販売会は、KYOTO T5 とWhole Love Kyoto に通底する「京都の人こそ知らない京都のことを知ってもらう=教育」というコンセプトの達成を証明しているように思われます。

「その場所で作ってその場所で売ることって、なかなかありません。昔は当たり前だったけれど、今は日本人のファッションには2%しか国産の物はないので。現代は地価が高いので海外で生産するのが普通です。でも、京都で作り京都で売れば送料がかからず輸送がないので、二酸化炭素も出しません。Whole Love Kyoto では、当初から京都で作って京都で売ろう、京都で買うことに意味があると考えています」。

消費、生産、環境…様々な問題に満ちたこの時代における「なぜ、ポップアップショップなのか?」という課題への回答が明確に打ち出されている出店でした。

 

新企画展、47都道府県の染織物が『HANAO SHOES』に

一方、ポップアップショップと同時に開催された地下ウィンドウでの展示では、47種類の新しい『HANAO SHOES』がケースにずらりと並びました!その名は、Think LOCAL『HANAO SHOES JAPAN かわいい伝統47』。

学生6名が企画し、47都道府県各地の染織物工房とつながり集めた染織物を鼻緒に仕立てたものをスニーカーにすげて製作しました。

大丸京都店の地下ショウウィンドウにずらりと並んだ、47都道府県の染織物『HANAO SHOES』。圧巻です。地下鉄駅と直結した人通りの多い通路にも関わらず、たびたび足を止め展示を眺める人も。


企画の主担当を務めた江川さんの印象に残っているものは、まず京都府の織物。そして新潟県と鹿児島県、そして出身地である和歌山県の染織物を用いたものだそうです。「地元のことはもちろん、これまで知らなかった地域の工芸技術を知ることができる良い機会になりました」と振り返ります。

京都府の「西陣織」。古墳時代から続く伝統ある織物で、手法の異なる12種類の品種があり、どれも非常に緻密な模様で豪華絢爛な印象を持ちます。中でも今回使用した模様は、米大統領への贈り物にも選ばれたもの。ハレの日に履く靴としておすすめだそうです。
新潟県の「小千谷縮」。淡く美しい色合いは、新潟県に伝わる「雪ざらし」という技法を用いるからこそ出せるものです。染めてから雪の中にさらす様子は冬の風物詩として名高いのだそう。Whole Love Kyoto でも今後、フィールドワーク調査に行って直にみたいとのこと。
鹿児島県の「大島紬」。泥で染めたものが世界三大織物であることに驚かされる織物です。その歴史は1300年、役人の取調べから逃れるために泥田の中に着物を隠したことから生まれたと一説には言われており、抑圧と失敗の中で生まれたことも興味深い背景です。
和歌山県の「再織」。一度織ったものを裁断し、再度織り上げる技法で、手間と労力をかけて生み出される織物です。その起源はチェコやドイツなど欧州のシェニール織であり、日本が近代化への歩みを進めた明治時代に伝来し受け継がれてきたそう。しかし、技術が向上した今日でも1日数mしか生産のできない貴重な織物です。

 

「仕上げ」の街、京都だから叶った企画

これら47種類の『HANAO SHOES』のうちポップアップショップでも販売されたのは、関西地方の染織物を用いたものから、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の6種類。

「量産の予定はもともと無かったのですが、地元のものを買えるとうれしいね、と。関西地方なら作りやすいから、関西のものをテスト販売することになりました」。やはり生産地により近い場での生産、販売が意識されています。

とはいえ、これまで Whole Love Kyoto は「京都」や関西を中心に伝統文化や工芸について学び、発信し続けてきたブランドです。

日本全国へ視野を広げるという今回の企画は、未知への挑戦であり、ブランドのコンセプトや理念に沿うものかという懸念もありました。「(発案当初は)軸がぶれてしまうのではないかという心配がありました」と、ディレクションを務める酒井先生はおっしゃいます。

けれども、ここは「仕上げ」の街、京都。京都の伝統工芸は、様々な地域からやってきたものたちを最後にまとめるように「仕上げる」仕事のあり方が特徴的なのだそうです。

全国から染織物を集めて、最後に京都で仕上げることを条件とするならば実現できるかもしれないと、Whole Love Kyoto での企画として『HANAO SHOES JAPAN』の進行が決定しました。

 

日本全国の染織物コラボレーション実現の過程

こうして始まった『HANAO SHOES JAPAN』の企画。全国の染織物のリサーチと収集を行うにあたっては「各都道府県の自治体へ直接電話をかけて、伝統工芸に詳しい方にその地方を代表する染織物を工房を紹介してもらう形で進めました」と江川さんは言います。

「はじめはインターネットや本で調査をしていたのですが、どうしてもリサーチが薄くなってしまったので、それからはネットで闇雲に検索をする方法はやめました。調査方法は試行錯誤を重ね、電話をお掛けする方法に。直にお話を聞くことで、私たちが今活動をしている意義も実感できたこともよかったです」。

その土地だから生まれた独自性のある工夫や文化。リサーチで得られたひとつひとつの歴史や特徴は、まとめてオリジナルカルテとして記録しているそうです。中には一度途絶えてしまったものや、約40年をかけて復活した染織物もあるのだとか。

「その後、サンプルを送っていただいて柄見本を確認しながら、各都道府県で色合いや模様が重ならないよう調整を行ったり、各地域の特産品など有名なものを意識するなどして染織物の選定を行って行きました」。


製作にあたって工夫を要したこと

そうして全国から集めたよりすぐりの染織物たち。珍しいものではなんと「和紙」もあったそうですが、意外にも素材自体は難なく鼻緒に仕立てることができたそうです。
課題となったのは、製作活動には欠かせない職人の方々 “らしい”、こだわりやプライドへの考慮でした。

「たとえば、比較的大きな柄の “一部分” を切り取って使いたいと伝えたら、職人さんから『一部を切り取るような使い方はやめてほしい』と強く言われたこともありました」。

長く続く伝統工芸品だからこそ、作る側にはこだわりやプライドがあり、その意向を鼻緒として仕立ててすげる『HANAO SHOES』の製法とどのように両立させるかが問われたのでした。


全国プロジェクトを通して得られた成果

47都道府県の工房との連携を要する大規模な企画を無事に終えた今。江川さんは、企画を通して得られた変化をこう語ります。
「初めての大きな取り組みで不安でしたが、普段の生活ではやらないような、職人さんとのやりとりで得られたことは大きかったです。やりとりは生徒と職人さんの一対一で行い、そのために、自己紹介などコミュニケーションの仕方を考えることを担当する、職人さんとのやりとりの仕方を強化するチームも作りました。学生だと自分の身の回りの人間関係で留まりがちですが、それが広がりましたね。中には『お会いしたいです』と言ってくれる職人さんもいらっしゃいました」。

Whole Love Kyoto の製品の特徴のひとつは、京都伝統文化イノベーション研究センター(KYOTO T5)での活動形態と同様、出会った職人さんや技術とのつながりを大切にし、その関係を紡ぐことでクリエイティブな活動や製品を生み出し続けていくことです。

ショップやイベントを見続けることで、そのつながりと展開を感じていけるのもこのブランドらしさ。人と人とのアナログな関係性の中で育まれ、継承されてきた伝統文化や技術。それらを縦糸とするならば、KYOTO T5 や Whole Love Kyoto の仕事は、自らが関与し続けることで、それら縦糸を新たな織り方で出合わせる横糸といえるかもしれません。

まるで織物を作り出すような仕事。その「機仕事」は、これからどのような織り目を私たちに見せてくれるのでしょうか。

 

Whole Love Kyotoと全国プロジェクトの今後の展望

今回、京都で仕上げることを軸にしつつ、そこからさらに視野を広げて「全国」の伝統工芸にも着目したことは、Whole Love Kyoto 自体にとってはもちろん、日本の伝統文化や工芸にさらなる革新をもたらすきっかけともなるように思われます。

江川さんは「大丸での催事を中心に、このような催事を全国展開していくことを考えています。これまでは作ることを中心に行ってきましたが、これからは “見せ方” を考える方へシフトしていこうとしています。SNSも強化して、多くの人に見てもらうことを念頭に置いています」と展望を語ってくださいました。

今後のさらなる展開が楽しみな『HANAO SHOES JAPAN』は、特設サイトが近日公開予定だそうです。また、12月にはPASS THE BATON京都祇園店での『HANAO SHOES』の展示販売会も控えているのだとか。
今後も Whole Love Kyoto の活動情報をお見逃しなく!

 

Whole Love Kyotoオフィシャルサイト
https://wholelovekyoto.jp


(文:川名佑実)

 

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