INTERVIEW2021.06.22

アートマンガ・アニメ教育

未来の地震火山庁から届いたメッセージ。-2020年度1年生Ausdruck(アウストローク)の挑戦!

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  • 京都芸術大学 広報課

新型コロナウイルス感染症の拡大により入学式が中止となった2020年春。すべての授業がオンラインとなるなか、新入生11名が一度も会うことなく完全リモートでアニメーション『ぼくらのみらい』を制作し、話題となりました。

4月に入学した新入生の有志11名が、完全リモートでアニメーション作品『ぼくらのみらい』を制作
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/817

「Ausdruck(アウストローク)」

「新入生向けオンラインお茶会」をきっかけに、「自分たちにできることはないか?」と声を掛け合い発生した2020年度入学11名のグループ。アマビエをテーマにしたアニメーション『ぼくらのみらい』を制作した。

 

荻野樹(おぎの・いつき)

舞台芸術学科 演技・演出コース

佐野峻生(さの・たかき)

キャラクターデザイン学科 キャラクターデザインコース

射場愛(いば・あい)

美術工芸学科 総合造形コース

荒木文緒(あらき・ふみお)

マンガ学科 ストーリーマンガコース

大代翔永(おおしろ・しょうえい)

キャラクターデザイン学科 キャラクターデザインコース

砂田亜由理(すなだ・あゆり)
キャラクターデザイン学科 キャラクターデザインコース

小薮七海(こやぶ・ななみ)
情報デザイン学科 ビジュアルコミュニケーションデザインコース

髙橋里奈(たかはし・りな)

情報デザイン学科 ビジュアルコミュニケーションデザインコース

岸田怜子(きしだ・れいこ)

情報デザイン学科 クロステックデザインコース

山下純平(やました・じゅんぺい)
環境デザイン学科 建築・インテリア・環境デザインコース

鮫島みなみ(さめじま・みなみ)

映画学科 俳優コース

 

https://twitter.com/uryu_ausdruck

『ぼくらのみらい』公開後、当時学長であった尾池和夫先生から、地震火山庁設立に関するアニメーション制作の依頼があり、『2038~未来から届ける私たちの活躍~』が2021年冬、完成しました。

 

 

 

第5代学長 尾池和夫先生からの思いがけない依頼。

尾池先生が理事を務める『関西サイエンス・フォーラム』では、科学技術の振興や活動の推進を目的に活動しています。地震予知研究会を数回にわたり開催し、“地震火山庁の設置”と“地震火山予報士の制度化”を提言していますが、「その理解を深めていただくためのアニメーションを制作できないか」という尾池先生からの依頼でした。それは、尾池先生が京都芸術大学学長の任にあった8年の間に、「ぜひやりたい」と切望されていたことでした。
 

はじめは、マンガ学科の卒業生である漫画家の吉元愛紀子さんの漫画を元に、アニメーションならではの、みんなが見てわかるものにして欲しいという依頼でした。しかし、せっかく創るのであればと、オリジナルストーリーを考えて尾池先生にプレゼンテーションを行うことに。2020年夏のことです。

そして選ばれたのは佐野峻生さんの案でした。
 

尾池先生へのプレゼンテーションでは、佐野さんの案はストーリーに現実性があって、政治家が見てもわかるものにしたいという目的に叶っているところが評価されての採択でした。その後、詳細なストーリーを創り上げていくことになります。地震火山庁設立の必要性を訴える動画を作って欲しいという尾池先生の依頼に応えるために、「スロースリップ」・「山体崩壊」などの専門用語やストーリーを、何度も尾池先生に確認しながら進めていくことになりました。
 

「専門用語はそのままその難しい言葉を使うだけではみんなに伝わらない。その場面だけ浮いてしまうので、それをどのようにストーリーになじませるかに苦心した」と佐野さんは当時の苦労を振り返ります。
 

「スロースリップ」の説明 “ゆっくり地震”という説明も佐野さんが考えた

 

「山体崩壊」を説明した画像 

 

動きたくても動けない・・・、メンバー11人があの時とは違う。


Ausdruckをまとめる荻野樹さんは「『ぼくらのみらい』では、新型コロナウイルス感染症拡大による自粛生活のなか、アニメ制作に没頭できる時間がありました。でも、対面授業が始まり課題もあるなかで、どうやってあの時とは違う動きができるか、それが前回の制作ともっとも違う課題でした」と語ります。
 

『ぼくらのみらい』では緊急事態宣言下で自由になる時間があり、またコロナ禍においてアマビエをモチーフにするというテーマであったため、タイミング良く早く世に出したいと考えた作品でした。それに対して今回はテーマが難しくクライアントから依頼されたものであるので内容を掘り下げてじっくり推考する必要がありました。一方で、『2038~未来から届ける私たちの活躍~』ではアニメーション制作の技術が身につき、しっかりとストーリーを練って自分のこだわりを出せた、と語るのは佐野さんです。
「専門用語の理解が進み、尾池先生からアニメーションに入れて欲しいと言われた図などを整理していくなかで、ストーリーにどの情報を使うか取捨選択をしなければいけませんでした。最終的には、憧れていた新海誠監督の大成建設のCMアニメーションを意識しました」。
 

ただただ仕事を淡々と説明的に伝えるのではなく、ストーリー性のある物語で伝えたいという想いをもって、佐野さんは制作したのです。
「はじめに作ったプレゼンテーションの動画では、南海トラフ巨大地震が起こりたくさんの被害が出たが、最小限にとどめることができて、そこから明るい未来に向かって復興していく、というストーリーにしていました。でもメンバーの一人である大代君が、『今から地震がくる』という形で終わった方がいいのではないか、という意見を出してくれて、それを取り入れてストーリーを決めていきました」。
 

そうしてできたのが、(地震火山庁ができた)未来において、“地震火山庁とはどういうものか”を世に伝えるために出した広告(CM)という設定です。つまり、未来の地震火山庁が出すCMがこのアニメーションです。

 

荻野さんは『ぼくらのみらい』と同じように「現在、過去、未来」という時間軸を有効に使うことができたのではないか、と考えています。「アニメーションを見た人たちに考えてもらうことができるように創りました。日本は地震災害が多い国なので、あらかじめ何ができるか、ということを創っていくうえで大事にしたところでした」。
 

それは「地震が起こった後のことではなく、“起こる前に何ができるか”ということを描いてほしい」という尾池先生の強い願いでもありました。「災害が起きる前に地震火山庁や予報士に何ができるか、というのを可視化するべきなんだろうな」と佐野さんは感じたそうです。

 

強いメッセージとチームワーク、それぞれの成長。

 

 

私たちは、はるか数千メートル上に広がる空に一喜一憂するけれど、
わずか1センチ下に広がる世界を知らなかった。

 

このメッセージ性の強いセリフは、実際に尾池先生から聞いた「空のことはみんな見ているのに、すぐ下の地面のことは全然見てないね」という言葉に着想を得て、佐野さんが考えたものです。荻野さんは「このセリフにかかわらず、今回のアニメーションは佐野君が大きく舵をとってくれたこともあり、彼の絵描きとしての信念やセリフ、設定、構成など色んなこだわりがこのアニメに注ぎ込まれています。また、『ぼくらのみらい』にはなかった授業で学んだ成果があらわれていると感じます」。

 

佐野さんは自分だけでなくメンバーの成長にも驚かされたようです。
「人に頼むなら自分でやった方が早いし、自分のこだわりなので自分でやるべきだと思っていたけど、場面によっては得意じゃないな、というところも出てきました。そこでメンバーに頼んでみると、とてもクオリティーの高い画面が戻ってきてびっくりすることがありました」それぞれの学科で学べる専門性に感心したのと同時に、メンバーの頼もしさも嬉しかったようです。
 

「アニメーションの最後にロゴを入れるというのも僕の発案だったんですが、入学したての頃より、それぞれが専門的なことを学んでいることを実感していたので、ロゴの制作は髙橋里奈さんにお願いして創ってもらいました」。

 

髙橋さんが制作したロゴ。3つのデザインを提案してくれた。


「背景などで自分では難しいと感じたところは、そういったことが得意な射場愛さんにお願いし、防災グッズチェック表は岸田怜子さんに、と分担しました」。

 

射場さんによる背景の画像

 

 

岸田さんが作成した防災グッズチェックリスト

 

動画ではこのように

 

セリフは砂田亜由理さんや鮫島みなみさんと考えたそうです。
そして、佐野さんの強いこだわりを感じさせるシーンが動画の序盤に。

 

地震火山予報士になる前の主人公が、『2038~未来から届ける私たちの活躍~』を観ている様子


「始まってすぐに主人公がこのアニメーション(本作)を見ている場面がありますが、その動画を観て地震火山予報士に憧れた、という設定にしました」。
 

「アフレコについても、『ぼくらのみらい』ではすべてスマートフォンに吹き込んで作品を仕上げたんですけど、音に関しては未熟だと言われることもあったので、本格的にやりたいという気持ちがあり、キャラクターデザイン学科の防音スタジオを使ってメンバー6人で録りました。主人公の声は映画学科の鮫島みなみさんが担当し、残り5人がそれぞれ3役ほどをこなしました」。

 

荻野さん、佐野さん、大代さん、砂田さん、髙橋さん、鮫島さんがアフレコに挑戦


荻野さんは「かかわってくれたメンバー全員が、着眼点、取り組み方、デザイン性、アフレコと、専門性をより高めて臨み、それぞれの想いをもって担当部分に関わってくれたのが、今回のクオリティのアップにつながった」と考えています。
 

制作の大半を担当した佐野さんは、「自分としてはもっとできたはずだ、妥協したところもあるんじゃないか、という悔しい気持ちもあります。今後は自分自身が創りたいもの、伝えたいものに取り組むために、専門性を高めていく勉強をしています」と話します。そして最後に「荻野くんが尾池先生やマンガ学科の牛田あや美先生との窓口になってマネジメントをしてくれたことに、めちゃくちゃ感謝しています」と笑顔で締めくくりました。

 

 

第5代学長 尾池和夫先生より

 

 2021年3月31日、京都芸術大学で学長をつとめた最後の日でした。この職を終わるにあたって、ぜひやりとげたいと思っていたことがいくつかありましたが、その中の1つが、このアニメーション『2038 未来から届ける私たちの活躍』の完成でした。1995年阪神淡路大震災の後、日本学術会議から出した報告の中で、「地震庁」を設置する必要性を唱えました。その後、「地震火山庁」を置く必要性を提言し、さらに地震火山予報士を制度化する必要性にも言及しました。この提言をさらに理解してもらうために、マンガ学科の吉元愛紀子さんに漫画で未来を描いてもらいました。それを発展させて、2020年度入学生のチームに、アニメーションの制作を依頼しました。そしてこの2分53秒のみごとな作品ができあがったのです。こんなうれしいことはありません。

 今、静岡県立大学で、地震火山庁の先取りをして、静岡県の皆さんに、地震情報をとどける仕組みを作る計画を練っています。その仲間が講演の時にこのアニメーションを紹介してくれました。それを見た方が、『君の名は。』の作者が作ったと思いながら見ていたら、エンディングを見てびっくりした、と話していました。

 すでに多くの方たちから多大の反響をいただいています。2038年までには、このアニメーションに描かれたことが実現していることを願って、この制作チームに負けないように、私たち専門家もまた仕事を進めて行きたいと思います。

 新型コロナウイルスとの共生がうまく進むようになった暁には、制作の皆さんとともに、大いに成果の喜びを交換し、そろそろ酒も飲めるようになった皆さんと乾杯したいと、楽しみにしています。

 

 2021年6月19日、2回目のワクチン接種を明日に控えた自宅にて。尾池和夫

 

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