COLUMN2020.12.01

デザイン

デザインって、誰のもの? ― 日々の暮らしを豊かにする「デザインへのまなざし」

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  • 京都芸術大学 広報課

「デザインなんて、自分には無縁」と思ってきたQさん。近頃、ビジネスにもデザインが重要だと耳にして、気になりはじめました。


「私たちの身の回りにあるモノやコトは、すべてデザインされています」


だれもが他人事ではない、デザインのこと。
通信教育部・芸術教養学科の早川克美先生に伺いました。

早川克美(通信教育部 芸術教養学科 教授)

東京生まれ。武蔵野美術大学造形学部卒業。東京大学大学院 学際情報学府 文化人間情報学コース 修了(学際情報学)。「人と情報」・「人と空間」の適切な関係を構築するデザイナー、「学びを支援する環境をどのようにデザインすれば有効なのか」をテーマにした研究者、そして「身の回りの環境を常に新鮮な目で捉えるデザインの感性・知性を育む学び」を支援する教育従事者としての活動の有機的な連携に取り組んでいる。
2004年グッドデザイン賞金賞、2007年JCDデザインアワード審査委員特別賞、FUSION MUSEUM KNIT × TOY(2007・SDA賞サインデザイン賞)、SHINJUKU PICCADILLY INFOMATION PROJECT(2009・SDA賞サインデザイン優秀賞)

Qさん:
デザインって、たとえば車とか家電製品とか、ポスターとか、何かをかっこよくしたり、かわいらしくしたりとか、見栄えを良くすることだと思うのですが。


早川先生:
確かに表面的な見た目もデザインです。でも、デザインの定義は、もっと幅の広く深いものなんです。
例えば、わかりやすい例で言えば「グッドデザイン賞」って知っていますか?


Qさん:
聞いたことあります。CMなどでも「グッドデザイン賞受賞」とか、よくアピールしているのを見かけますね。

早川先生:
例えば、昨年の大賞を受賞したものは何かというと、富士フイルムが開発した「結核迅速診断キット」です。

診断キット [結核迅速診断キット]
著作権利者:(C)JDP
サイト名:GOOD DESIGN AWARD
リンクURL:http://www.g-mark.org

早川先生:
では、何が素晴らしいデザインだと評価されたのかというと、

 1. 操作手順が一目でわかるグラフィックと検査者の技能を問わない簡便な操作性
 2. 電源や専用装置を使用せず、最少部品で機能を成立させた検査デバイス
 3. 採取しやすい尿検体方式を実現した検査システム

など、つまり形やグラフィックなどの見た目のデザインだけではなくって、キットの構造や検査方法、使いやすさなどが評価されているんです。

そして、2020年度のグッドデザイン賞のラインナップが先日発表されたところなのですが、ラインナップを見てみると、

 ・プラスチック袋でも紙袋でもない、石と植物から生まれた新しい袋「Bio LIMEX Bag」
 ・東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」
 ・宮崎市の「日本一の干し大根と大根やぐら」

など、一見すると「これってデザインなの?」と思うようなものも、グッドデザイン賞に選ばれています。

ほかに身近な例でいえば、「LINE」も日常のコミュニケーションをより楽しい形に変えることができるサービスとして、金賞を受賞しています。


Qさん:
いつも使っているLINEもグッドデザインですか。サービスそのものもデザインなんですね。
商品とか製品だけではなくって、LINEのようなアプリとか、webサイト、システム、サービスなどの「モノとかコト」なんですね。


早川先生:
そう。「コト」というのも大切。グッドデザイン賞では、デザインを「かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごと」と定義しています。

LINEの場合、スタンプ機能などによって、より楽しい日常のコミュニケーションをめざすという目的を実現していますし、優れたデザインに共通しているのは、「ひとを、暮らしを、社会を、豊かにする」ために個別の目的を明確に打ち出し、モノやコトに新しい価値や意味を与えている点だと言えるでしょう。

近年、デザインするという行為は、モノ(ハード)のデザインから、コト(ソフト)へと広がりを見せているんです。

Qさん:
とても幅が広いものなんですね、デザインって。そして、暮らしや社会を豊かにするという、とても身近な行為なのか…。


早川先生:
私たちの身の回りにあるモノやコトはすべてデザインされているんです。「すべてのモノやコトは、デザインのプロセスで語ることができる」と 言ったほうがいいかもしれません。

そしてデザインとは専門家に限ったことではなく、日常のさまざまな場面にデザインは埋め込まれていて、皆さんはすでにデザインのプロセスを実践しているんです。

例えば、日々のスケジュールを決めたり、旅行の計画を立てたり、料理をすることだってデザインだと言えます。


Qさん:
料理、もですか?


早川先生:
料理をする時って、どんなことを考えますか?
そのプロセスをたどってみるとわかると思います。

①  献立を考える
主菜と副菜を組み合わせとして考える。

②  買い物に行く
鮮度、産地、値段などから食材を吟味して購入する。ここでメニューの変更もあり得る。

③  料理をする
調理の段取り、食材の扱い方、食べるまでの時間などを意識して道具を使って進める。

④  盛りつける
食べ方、彩り、食器との組み合わせなどをイメージして完成させる。

早川先生:
このように料理は、① 献立(構想)〜 ② 買い物(調査)〜 ③ 料理(技術・検証)〜 ④ 盛りつけ(成果)というように、多くのプロセスを経てできています。

同じように、日々のスケジュールや旅行の計画など、皆さんが気づかないだけで、つくり手としてデザインのプロセスをすでに実践されているのです。


Qさん:
最後の完成した「料理」だけではなくって、何を作ろうかな?という構想段階を含めた、思考のプロセスそのものなんですね。


早川先生:
料理など、何か「モノ」をつくろうとする時、または旅行の計画といった「コト」をおこそうとする時、私たちは頭の中で構想をめぐらし、イメージを思い描きます。そして、必要とあればメモをとり、シミュレーションを行って具体化します。

デザインは、しばしば最後に現れた「結果」のみを指しがちですが、そうではありません。デザインとは、頭の中で思い描いた構想から着地までを通して、結果を得るための「思考のプロセス」のことなんです。

そして、実はみんな気づかないうちに日常でデザインを実践しているんです。一部のプロではなく、市民の一人ひとりがそのプロセスを意識的にじっくり考えられるようになると、生活や社会は豊かで美しいものになっていくはずだと思います。

Qさん:
なるほど。プロに限ったことではないのですね。
では、日常的にデザインを意識することは、生活や仕事のうえで、具体的にはどんな風に役立つでしょう?


早川先生:
デザインへの理解があると、新しい価値を生みだしたり、生みだされる価値を想像しやすくなります。「前例がないからムリ」「こういうものだから仕方ない」と、あきらめていたことにも、違った可能性をひらけるはずです。

デザインを意識することは、自分のなかにはっきりとした問題意識や美意識をもって、自分で考えること。とくに日本では、こうした人々が少ないように感じられます。

実際の数字で見ても、日本全国でデザインを学んでいる学生は全体の1%に過ぎません。中学校の美術は週1時間、選択制となる高校ではさらに接点が少なくなります。そうやって、デザインを学んでこなかった圧倒的多数の人々が、世の中のさまざまなデザインを発注する側だったり、ユーザーだったりするわけです。これでは、いろんな問題が起きても不思議ではありません。

私が考えるデザインとは、豊かに生きるために、日々の暮らしや仕事で生じる問題を解決する際の思考術であり、方法論です。ひとりでも多くの人にデザインを理解する「目」を持ってもらえたら、きっと、その人の生き方だけでなく、社会全体を変えることもできる。私はそう期待しています。


Qさん:
ありがとうございます。うわべだけでとらえていた「デザイン」が、リアルな生活の一部だと実感できるようになりました。デザインを理解する「目」を持つこと、今日からでも意識してみたいと思います。


早川先生:
デザインへの先入観を捨てて、多くのことに疑問を持ち、ボーダレスなデザインの世界を発見してください。みなさんの中に「デザインのまなざし」を培っていただき、日々の生活を真に豊かなものへと変えていただけたらと願っています。

世の中はいろんな課題にあふれていて、一人の力で解決することは難しくなってきているけれど、デザインの考え方をみんなで共有して進めていけば、みんなで答えを出すことも可能になる。そんなふうに私は思います。

 

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

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