COLUMN2020.09.01

教育

「芸術大学って、なんだろう?」社会人Qさんのギモンに先生がお答え。

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  • 京都芸術大学 広報課

前回、「大学で学ぶこと」について、本学大学院の芸術研究科長 上村博先生からいろいろなお話を伺った、社会人Qさん。

「それなら芸術大学は、なんのためにあるんだろう?」という、新たな疑問が浮かびました。

「芸術大学で学ぶとは、どういうことなのか」。私たちの活動そのものに関わるこの問いに、今回も先生がお答えします。


前回の記事はこちら。
「大学って、なんだろう?」社会人Qさんのギモンに先生がお答え。
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/673

 

京都芸術大学大学院 芸術研究科長 上村博 教授

Qさん:
芸術大学って、他の大学と比べて、どう違うんですか?

 

上村先生:
前回、大学では、自由な人間の知的な活動「リベラル・アーツ」を教える、というお話をしましたよね。それに加えて、「ファイン・アーツ」も教えるのが「芸術大学」です。このファイン・アーツこそ、高度に専門化したアート、いまで言う美術や芸術のことです。

芸術大学が生まれる前から、世界にはいろんな芸術の学校がありました。中国には、皇帝お抱えの芸術家たちを養成する機関があったし、15世紀のイタリアにも、芸術家のための学校があった。ただし、これらは職業訓練だけのためにあるとか、閉ざされたサークル的なもの。いまにつながる、世界中の美術学校の源流になったといえるのは、16世紀フィレンツェに誕生した「アカデミア・デッレ・アルティ・デル・ディセーニョ」。ディセーニョ芸術のアカデミー(教育機関)です。「ディセーニョ」とは、英語の「デザイン」。「アイデアを形にする知的な技」という意味です。

ルネサンス後期のイタリアでは、絵画や建築や彫刻がディセーニョの芸術として、リベラル・アーツとならぶ知的な活動とみなされていました。

やがて18〜19世紀にかけて、芸術アカデミーは日本など世界中に広まっていきます。

 

日本では19世紀に、芸術の高等教育機関が誕生。最初にできたのは、いまの国土交通省にあたる「工部省」付属の工部美術学校。その後、東京美術学校(現・東京藝術大学)が開学。絵画に限れば、京都に京都府画学校(現・京都市立芸術大学)もつくられました。
〈イラスト:三浦光雅〉


上村先生:
これらの多くは、高度な職業のプロを育てるための学校でしたが、単に見習いのような修業をするだけの場ではありませんでした。

その理由は、なんだと思います? ヒントは、大学と同じ、です。
 

Qさん:
えっと……、あ、「自分で考える力」を学ぶから?

 

上村先生:
そのとおりです。もちろん、専門的な技術や知識の「習得」は大切です。けれど、さらに一歩すすんで技術の「改良」や「発明・発見」など、新しい何かを生みだすには、「自分で思考する」そして「お互いに高め合う」必要があります。

より創造性の高いモノや技を世の中に生むために、専門家たちを同じところに集め、互いに切磋琢磨させ、そのなかから独立した個性的な芸術家を育てる。それが芸術大学という場なのです。

特殊な高度職業人を養成する学校として生まれた芸術大学。しかし、新しい知識を手に入れるには、単なる職業技術者という以上に、「自立して研究ができる」ひとりの社会人を育成することが目指されています。

上村先生:
とくに現代は、ひとの発明する力、創造する力がいっそう重要となりつつあります。たとえば、「AIが人間の知を凌ぐ!」なんて話が聞かれますよね。たとえそうなった場合でも、凌がれるような「知」ならAIに任せてしまえば良いのです。他方で、芸術は人間が知らなかった世界を開いてくれます。だからこそ、ひとりひとりのクリエイティブな能力を磨くことが、これからの芸術大学の使命だと思うんです。「限られた職業のプロを育てる」という、従来の役割だけにこだわるよりもね。

これからの時代、芸術の役割は大きく変わります。芸術=美術館に飾られたアート作品、なんていうイメージはもう古い。ITやメディア、飲食、観光など、私たちの生活を支えるさまざまな産業で、すでにさまざまな感性やひらめきが活躍していると思いませんか? いま、その現場にいる社会人こそ、芸術大学で学ぶにふさわしい人々だと思います。

 

Qさん:
それって……、私たちのこと、でしょうか?

 

上村先生:
もちろん。職業も、年齢も、関係ないです。実際に、芸術とは無縁だと思っておられた60代や70代の方が、半年ほどの学びで、先生たちを驚かせるような変貌を遂げたりします。「芸術的な感性」っていうと大げさに聞こえますが、屈伸体操みたいなものです。ずうっと同じ姿勢でいると、凝り固まって動けなくなるけれど、動かしていくうちにどんどん伸びて、周りの人にまで影響を与えられるようになる。学生のみなさんは、制作や研究に打ち込みながら、新しい自分自身をつくりだしているんです。

私たちがこの芸術大学で伝えたいのは、そんな、自分と身のまわりを少しずつでも変えられるような「ものの見方や表現の手法」です。作品でなくても、何かを世に残すことはできます。たとえば、地域の歴史や文化、お祭り、食生活。どれも本気で面白がってくれる人がいて、技を覚えたり、人に語るからこそ、次の世につづいていくんです。それも型をなぞるだけではなく、それぞれの伝え手や時代の個性が取り込まれることで。

 

「面倒な義務」となりがちな地域コミュニティの行事も、外部の人間や新しい発想を加えることで、次世代を取り込めるイベントに。
そうしたアイデアや伝える技術を養えるのも、芸術大学ならではのメリットです。

上村先生:
だれだって同じような毎日を惰性で過ごしていれば、ものを見る目や創造力が眠り込んでしまいます。それをちょっと引き出してあげれば、現実のいろんな局面に活かせます。もちろん仕事のキャリアアップにも役立つでしょうし、もっと広い意味で、人生を支えるものになるかもしれない。仕事や家庭だけじゃなく、アートや学びのなかにもうひとつ、自分の生きる場所ができる。そんな二本立ての人生を送れるのも、芸術大学で得られる成果のひとつではないでしょうか。

 

Qさん:
二本立ての人生……、いいですねぇ。
芸術大学の歴史から将来のことまで伺って、それが、いまの自分自身にもつながっていきそうで、つい聞き入ってしまいました。先生、今回もありがとうございました。

 

上村先生:
「大学」や「芸術大学」が、あなたの中にどんな新しい世界が開くのか。どうぞ、あなた自身で、その答えを確かめてください。

 

前回の記事はこちら。
「大学って、なんだろう?」初学者Qさんのギモンに先生がお答え。
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/673

 

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