COLUMN2020.09.01

教育

「大学って、なんだろう?」社会人Qさんのギモンに先生がお答え。

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  • 京都芸術大学 広報課

通信教育課程では、働きながら学べると聞いて、大学への進学を意識するようになった社会人Qさん。相談した知人から「なぜ、大学なの?」と質問されて、ふと考え込んでしまいました。

「そもそも、大学で学ぶとは、どういうことなのか」。

シンプルなようで奥深いこの問いに、本学大学院の芸術研究科長 上村博先生がお答えします。

京都芸術大学大学院 芸術研究科長 上村博 教授


Qさん:
そもそも「大学」のはじまりって、なんなのですか?

 

上村先生:
「大学」という言葉は、『論語』などと並ぶ中国の古典のタイトルでもあります。その本の中では「大学」は「こども向けではない、おとなのための学問」であって、世の中を治めるための人材育成のためのものです。実際、平安時代の日本では「大学寮」という官僚を育てる機関もありました。他方で、インドのナーランダや日本の比叡山のように、仏教寺院でも教育研究は行われていました。それらは今の大学と直結するものではありませんが、学問や人材育成が古くから重視されていたことがわかりますね。

西洋では11世紀から中世にかけて、ボローニャ、パリ、オックスフォードなど、大学のもとになるものがいくつも生まれました。それらは学生の組合だったり、お坊さんや王様がつくったものだったり…… 形態も呼び名もさまざまでしたが、共通していたのは「学問の最終的な段階にある」こと。みんなが知っているものを後から学ぶのではなく、だれも教えてくれないことを学ぶ場所、それが大学なのです。

大学に相当する英語が「ユニバーシティ」「カレッジ」「アカデミー」などいろいろあるのは、それぞれの起源の違いによるもの。

 

上村先生:
さらにもうひとつ、現代にも通じる大学ならでの重要な学びが、「リベラル・アーツ」です。

 

Qさん:
アーツって……、もしかして、アートのことですか?

 

上村先生:
そのとおりです。「アート」って、もともとは知恵や技術の総体を指す言葉でした。ただ、知恵や技術といっても、見よう見まねで得られたものだけでは、限界があります。いくら情報を集めても、いくら技術に習熟しても、人間にはわからないことやできないことはたくさんありますし、かつてない情況も次々に生まれてきます

「いま自分が、どんな世界にいて、どこにどう進むべきか」。

これを見定めるには、すでに知られていることを教わるだけでは十分ではありません。必要なのは、「自分から考えること」。ひとから言われて動くのではなく、自分から考えて、行動し、世界を発見していくための学問。それこそが、「リベラル・アーツ」です。

とくに19世紀ごろからは、世界中で社会や産業の近代化が加速します。すると、どの国でも、指導者の言いなりに動く兵隊や奴隷が多くてもダメだ、と気づきはじめるのです。自分の頭で考え、行動する市民がたくさんいてこそ、産業や国全体が活気づく。日本でも、明治の初めに福沢諭吉が学問をすすめるようになったのは、そんな新しい世の中に向けて、自立した市民を育てるためだったんです。

Franz Alexander Borchel, Berliner Universität, 1860.
「人々は良き職人、商人、兵士あるいは企業家にはなれない、もしも彼らが、職業の如何を問わず、良き、自立した、十分に知識のある人間であり市民でなければ」
フリードリヒ・ヴィルヘルム大学(ベルリン大学)創設者ヴィルヘルム・フォン・フンボルト

上村先生:
初めの頃の大学は、ごく限られた特権階級のたしなみというか、遊びのようなものでした。それが近代になってようやく、国や社会のために「自立した個人を育てる場所」になったのです。

といっても、最新の実用的な学びだけが重視されたわけではありませんよ。たとえば、お金もうけに直結しない昔からの教養が、産業革命以後も大切にされてきたのは、自分で考え、自分から仕事を見つける人を育てることが、やがて国のためになると考えられたからでしょう。

 

Qさん:
うーん、「学問の最終的な段階」にはドキッとしますが、
「自分で考える力」と言われると、なんだか私でも学べそうな…。

 

上村先生:
ちょっと大げさに言えば、いまの時代は、近代以来の大転換期かもしれませんよ。とくに「通信教育」のスタイルなら、費用の負担も少なく、時間の融通も利きやすい。若者だけじゃなく大人まで、あらゆる人に大学で学ぶチャンスが開かれているのが、いま私たちのいる現代です。

当たり前のことですが、ほとんどの人は仕事や家庭といった、目の前にある「生きるための課題」に追われがちです。ただし、それだけだと、いつか行き詰まるときが来てしまう。どこかで一度立ち止まって、過去の自分のやり方を振り返り、これから将来に向けてどうするか、自分に何ができるか、じっくり考える時間を持つことが必要なのです。これは、個人ひとりひとりにとっても大切なことですが、個人の集まりである社会全体についても、まったく同じことが言えるでしょう。その考えるきっかけを提供しているのが、「大学」です。

大学とは、「社会がみずからの過去と現在を振り返り、将来を模索するために、あえて世間的な価値を保留し、考えをめぐらす場を設けたもの」といえます。

上村先生:
これから通信教育の普及で、もっともっとたくさんの社会人が大学教育に参加するようになれば、やがて、日本や世界の文化そのものを変える運動にもなりうる。私自身は大学について、そんな将来まで思い描いています。

 

Qさん:
わかりやすいお話、ありがとうございました。私、「大学」について、すごく浅いイメージしか持っていなかった、と気づきました。「大学で学ぶ」ことが、自分にとって、社会にとって、どういうことなのか。あらためて見直せた感じです。

 

上村先生:
それは、うれしいですね。今度はぜひ、「芸術大学」についてもお話しさせてください。

 

Qさん:
はい、よろしくお願いいたします!

 

続いての記事はこちら。
「芸術大学って、なんだろう?」社会人Qさんのギモンに先生がお答え。

https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/674

 

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