「アート」と「映画」のコラボの先 #1―ヤノベケンジ展で行われた映画「BOLT」の撮影現場報告

SPECIAL TOPIC2016.10.04

アート映像

「アート」と「映画」のコラボの先 #1―ヤノベケンジ展で行われた映画「BOLT」の撮影現場報告

edited by
  • 横山 優佳
  • 小山田 晃

黄色いヘルメットのライトが点けば、空気は一気に張りつめる。全身を黄色いスーツで覆う男は、自分の半身ほどの大きさのあるレンチを握りしめた。彼のまなざしは、目の前の“原子炉”を捉えた。“原子炉”は、絶え間なく汚染水を放出し続けている。

「本番!」という声が響き渡った。それに応えるように、そこかしこから「本番!」と威勢のいい声があがり、しかしすぐに静けさが空間を覆った。男はなおも“原子炉”を見つめている。
この場にいる人々の視線は、男に向いていた。そして「よーい、スタート!」とともにカチンコが鳴り響いた――。


7月16日(土)から香川県の高松市美術館で開催した、現代アート作家・ヤノベケンジの大規模個展<シネマタイズ>展が9月4日(日)、大盛況のうちに幕を閉じた。

<シネマタイズ>は、1990年に制作されたヤノベのデビュー作にあたる《タンキング・マシーン》から、2015年に増田セバスチャンとの共作で誕生した《フローラ》まで、約30点ものの作品を展示。また、俳優でありながら、プロの写真家の顔を持つ永瀬正敏が、東日本大震災が起こった2011年に東北で撮影した作品や、ヤノベの《アトムスーツ》のヘルメットをモチーフにして撮影した作品も、コラボレーション企画として同展覧会に出品された。

しかしこの展覧会、ただ作品を展示するだけでは終わらない。展覧会終盤の8月29日(月)から9月4日(日)まで、高松市美術館のヤノベの「アート作品」が展示される会場内で、映画の撮影を行うというのだ。

メガホンをとったのは、映画監督の林海象。そしてその主演は、同展覧会に写真を出品する永瀬。展覧会場内で撮影される映画「BOLT」は、林がこれまでに手がけた短編映画「GOOD YEAR」、「LIFE」との3部作の第1話となる作品で、地震でボルトが緩み落ちてくる発電所内の絶望的状況の中で、それを締めに行かなければならない男たちを描くという。

この「BOLT」の撮影現場となった<シネマタイズ>の展覧会場に、主演の永瀬のほか、佐野史郎、金山一彦、後藤ひろひと、吉村界人ら俳優陣をはじめとするプロフェッショナルと、林とヤノベが教鞭をとる東北芸術工科大学と京都造形芸術大学の学生・卒業生34人が演者、スタッフとして集結した。また、その撮影の様子は、美術館に鑑賞に来た来場者にも見てもらえるように、現場の一部を公開しながら進められた。


黄色いスーツの男――永瀬の演技は、林の「カット!」ということばで一度停止する。同時に学生スタッフが、“原子炉”として描かれるヤノベの作品《黒い太陽》の前でたたずむ永瀬へと駆けつける。すぐさまヘルメットのライトを消し、腰を下ろせる場所へ導いては、扇子や団扇で扇ぐ。このヤノベが放射能防護服として制作した作品《アトムスーツ》は密閉度が高く、送風機が装備されているものの、着用すると外の音や空気が遮断され、スーツの中はとても暑いのだ。

他の学生スタッフたちは、カメラの配置換えや次に使用する備品の確認、光の反射や光量を抑えるときに使う暗幕の調整と、次に撮影するシーンの準備に取り掛かる。ぐずぐずしていると、助監督から厳しい声が飛ぶから、みんな必死だ。

このように次から次へと進められていく撮影現場の様子を、ヤノベは少し距離を置いた場所から、静かに見つめていた。

撮影現場を見つめるヤノベケンジ
美術備品の確認を行う林海象(左)とヤノベケンジ(中)
撮影現場を見る展覧会来場者にギャラリートークを行う林海象

撮影に入る前、「シネマタイズは自分のアーティスト活動の“集大成”」と形容していたヤノベ。

「アート」と「映画」というふたつのジャンルがクロスする瞬間を、ヤノベと林の目には、どのように映っていたのだろうか。

現場で行ったインタビューの内容を、次回ご報告する。


<文:横山 優佳、動画:小山田 晃、写真:表 恒匡>

  • 横山 優佳Yuka Yokoyama

    1995年京都府生まれ。京都造形芸術大学 文芸表現学科2014年度入学。編集を専攻し、主に取材、ルポルタージュ、雑誌編集などを学ぶ。趣味は日本酒探訪。

  • 小山田 晃Akira Koyamada

    1996年大阪府生まれ。京都造形芸術大学 情報デザイン学科2015年度入学。映像を中心にグラフィックデザイン全般を学ぶ。好きなことはゲーム。

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