REPORT2026.03.12

アート歴史

芸術館企画展「アール・デコ・イマジュリィ――杉浦非水、高畠華宵、山六郎」:芸術館インターン生によるイチオシ作品レポート

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  • 京都芸術大学 広報課

 芸術館では、将来文化芸術活動を支える職を志望し、芸術館の活動と学芸業務に関心を持つ学生を対象にインターンシップを実施しています。今回は、インターンに参加した学生6名が、本展覧会の魅力を伝える記事をお届けします。

 大阪・関西万博開催の年であった2025年から100年前の1925年、「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」、通称アール・デコ博がフランス・パリで開催されました。この博覧会をきっかけに、アール・デコのデザインは、大衆文化と密接な関わりをもちながら、ヨーロッパのみならず世界各地に広まります。
 アール・デコは、幾何学形を基調とし、機械的なイメージや異国趣味を織り交ぜた都会味あふれるデザインが特徴的ですが、その特徴は1920・30年代の日本のデザインにもあらわれました。建築や室内装飾、ファッションだけでなく、装丁や広告、雑誌の表紙や挿絵などのイマジュリィ――フランス語で「イメージ図像」を意味する大衆的な複製図像――が、独特に咀嚼し表現されたアール・デコで彩られました。
 この展覧会「アール・デコ・イマジュリィ――杉浦非水、高畠華宵、山六郎」(会期:2025年12月6日から24日まで、会場:京都芸術大学芸術館)は、京都芸術大学 芸術館・学園美術品活用委員会、大正イマジュリィ学会の主催により、高畠華宵大正ロマン館、京都工芸繊維大学美術工芸資料館、個人蔵の所蔵品から、杉浦非水、高畠華宵、山六郎によるグラフィック・デザインを中心に約60点の作品により、日本のアール・デコの一端を紹介するものでした。
 これらアール・デコ・イマジュリィは現代のイラストレーションやデザインにも通じるモダンな感覚と抒情性にあふれているものばかりですが、この記事では、三者三様のアール・デコを展開した杉浦非水、高畠華宵、山六郎のデザイナーとしての歩みとそのイチオシ作品を紹介することで、この展覧会をレポートします。

本展覧会フライヤー デザイン:LIMO (本学大学院芸術研究科芸術専攻)

杉浦非水――自然と向き合うデザイン、アール・デコとの出会い

上:非水創作図案集(壁面)と非水花鳥図案集(右側展示台)の展示/下:非水花鳥図案集より

 1876年愛媛県松山市に生まれた杉浦非水は、東京美術学校で日本画を学び、在学中に黒田清輝がフランスから持ち帰ったアール・ヌーヴォーの美術資料に魅了され、グラフィックデザイナーを志しました。1908年三越呉服店にて、主に印刷物に関わる図案の仕事を任され、PR誌『みつこしタイムス』『三越』の表紙などを手がけます。これにより「三越の非水か、非水の三越か」といわれるほど、同店のブランドイメージ確立に大きく寄与しました。
 そんな彼は1922年から24年にかけて渡欧し、現地で最新のデザインに触れ、アール・デコに転じていくことになります。1926年には渡欧での成果を示した『非水創作図案集』(文雅堂)を刊行しました。
 その後、1935年多摩帝国美術学校(現・多摩美術大学)の創立にも関わり、後進の育成にも尽力します。1965年に勲四等旭日小綬章を受章、同年逝去しました。非水はデザイナーとしての革新的な実践と教育活動の双方を通じて、日本のグラフィックデザインの発展に大きな足跡を残しました。
 この展覧会で展示された『非水花鳥図案集』(1917年)と『非水創作図案集』(1926年)では、対称性のある花や鳥など自然のモチーフをもとに、かたちを整理し、図案として再構成する非水ならではの表現が共通します。
 草葉や鳥など身近な自然をモチーフにした『非水花鳥図案集』では対称的な構成が多く見られ、装飾としての美しさが際立ちますが、非水は「図案は自然から離れては成り立たない」と考えていました。この図案集では自然を見つめ直す彼の姿勢が感じられます。
 一方、彼が渡欧を経てその成果をまとめた『非水創作図案集』では、アール・デコの影響を感じさせる幾何学的で洗練された構成が特徴で、装飾性の中に新しい時代の感覚が表れています。自然を出発点としながらも、よりモダンで明快な表現へと展開する非水の転換点を示す一冊です。
 美しさの裏にある彼のデザインに対する思考や姿勢をこれらの図案集からたどることで、現代につながるデザインの原点がみえてくるでしょう。

(井内陽介、藤田茉優)

高畠華宵――モダンと日常が調和した華宵美人の世界

上:華宵便箋表紙絵 カルメン (1925年)/下:華宵便箋表紙絵 各種 (大正末から昭和初期頃 )

 1888年に愛媛県北宇和郡に生まれた高畠華宵は、14歳の時に上阪し、翌年に京都市立美術工芸学校日本画科に入学します。卒業後は、関西美術院などで和魂洋才を目指して画業に励み、津村順天堂の中将湯の広告絵をきっかけに1923年には『少女画報』(東京社)、『少女倶楽部』(講談社)、1925年には『少女の友』『婦人世界』(実業之日本社)などで挿絵の制作を開始しました。同年から26年にかけて華宵便箋を村田社・日出づる国社で販売。挿絵等に取り組みつつ、各地で個展や展覧会も開催しました。1959年にはハワイで日本画塾を開催し、翌年ロサンゼルスに高畠画学校を開校します。1966年に亡くなるまで、晩年は自身も日本画の制作に取り組みつつ、日本画の普及につとめ、逝去後挿絵画家としてはじめての勲五等双光旭日章を受けました。
 この展示では、少女の心を虜にしてきた華宵の作品の中でも、華宵便箋について大きく取り上げています。1925年から華宵は便箋の表紙絵を手がけ、それらは「華宵便箋」と呼ばれ大人気商品となりました。華宵便箋にはモデルのような少女などが描かれた一方で、本を読む姿など馴染みある日常の仕草も織り込まれ、当時のファッションや文化も読み取れます。華宵が描く女性にはアール・デコの特徴を示しつつも、日本人らしさが表現された華宵ならではの表現が見られます。本展覧会では表紙絵だけでなく、便箋や封筒各種も展示されました。繊細な表現と色使いが美しく、現代の私たちの心も虜にするような作品です。

(安部千夏、山本はるか)

山六郎――麗しの和風モダンガール・イマジュリィ

上:女性のカット(画:山六郎)より/下:『女性』各種(表紙:作者不詳)

 1897年高知県安芸に生まれた山六郎は、1919年に京都高等工芸学校を卒業後、中山太陽堂に入社。1922年プラトン社に出向し、同年刊行された文芸雑誌『女性』にて装丁や扉絵、カット、タイトルロゴなどを手掛けます。彼は1923年に刊行された娯楽雑誌『苦楽』でも、挿絵を手掛けました。ペン画による緻密な線描で描かれるしなやかな女性像は、イギリスの挿絵画家オーブリー・ビアズリーを彷彿とさせます。その優美で抒情的なスタイルで、彼の挿絵は読者からの人気を博しました。
 1928年、山は山名文夫とともに雑誌『女性』のカットを集めた『女性のカット』を刊行します。同年『女性』『苦楽』が終刊し、プラトン社の出版活動が停止後、社を離れ「第一広案社」を設立、独立後には、『婦人公論』の挿絵、『現代文学全集』の装丁を手がけました。山は1944年高知県に帰郷し、1982年同県にて逝去しますが、1955年には高知県展の審査員を務め、地域の美術教育に尽力しました。
 本展では、山六郎と山名文夫がともに挿絵を担った雑誌『女性』『女性のカット』が紹介されています。二人とも19世紀末の画家オーブリー・ビアズリーのエッセンスをふんだんに取り入れていますが、山名が装飾性を生かしてビアズリー風の毒気を和らげたのに対し、山は点線で凹凸を表したり、曲線を多用して身体を引き延ばすなど幻想的でグロテスクな造形が目立ちます。
 山六郎は「和風ビアズリー」と呼ばれることもありますが、『女性』の読者たちに和洋折衷の新しい女性像やライフスタイルを夢見させたことから、当時の人々にとって彼の挿絵はモダンで目新しいデザインとして映ったのでしょう。
 山六郎についての記録は数少ないですが、現存するグラフィック・デザインを見ると、大正・昭和モダニズム期に広がったアール・デコの影響を端的に示す作家の一人として、ひいては日本のアール・デコにおける代表的存在として再考される余地があるのではないでしょうか。

(奥村藍梨、三浦宗民)

上:展示室入口/中:杉浦非水作品の展示/下:高畠華宵・山六郎作品の展示
本展覧会フライヤー(裏面) デザイン:LIMO (本学大学院芸術研究科芸術専攻)

編集後記

 この展覧会で出会った化粧品のパッケージや雑誌、便箋といった当時実際に使われたモノたちには、現代の「かわいい」とはどこか異なる魅力にあふれ、モダンな空気感や日本人らしい感覚が感じられました。ふだん私たちはデジタルに囲まれた生活をしていますが、だからこそ、同世代のひとたちに、手仕事のぬくもりと鋭いセンスが共存したイマジュリィに触れてほしいと思いました。
 今回私たちは、インターン生として展示のパネル文作成や設営、広報の活動に参加しました。展示設営では、展示室全体を俯瞰し作品同士の調和を保ちつつ、個々の作品の魅力を活かして配置することの難しさや面白さを学びました。また、メンバーと話し合い協力しながら作業を進めることでより良い答えを導き出せることを実感し、作品の魅力を来館者にいかに届けるかという視点に気づく機会にもなりました。こうした経験や気づきを、今後の学生生活にも活かしたいと思います。

執筆・編集:安部千夏、井内陽介、奥村藍梨、藤田茉優、三浦宗民、山本はるか
写真:三浦宗民

 

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