REPORT2025.09.04

アート教育

芸術館春季コレクション展特集Ⅱ「季節はめぐる―八幡はるみ、川村悦子、津上みゆき」作家によるギャラリートーク

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  • 京都芸術大学 広報課

芸術館では、将来文化芸術活動を支える職を志望し、芸術館の活動と学芸業務に関心を持つ学生を対象にインターンシップを実施しています。今回は、インターンに参加した学生5名が、本展覧会の魅力を伝える記事をお届けします。

この特集展示「季節はめぐる―八幡はるみ、川村悦子、津上みゆき」(2025年4月1日から年5月17日まで芸術館にて開催)は、本学教員や卒業生の作品を中心とした学園美術品コレクションより、関西出身で本学ゆかりの作家――本学で教鞭をとった川村悦子(1953–)と八幡はるみ(1956–)、本学大学院修了生である津上みゆき(1973–)――による移ろいゆく季節をヴィヴィッドに捉えた作品4点をシルクロード工芸品とともに紹介したものです。

芸術館では、学生と教員が協働し、芸術館収蔵品や教員・学生の作品の活用を進めています。この展示や関連イベントでも、芸術大学としての歩みを感じる機会になればとの思いから、私たちインターン生をはじめ本学の学生がその企画運営の一部に参加しました。
5月12日には、出品作家で本学名誉教授である八幡はるみ氏と川村悦子氏が登壇し、ギャラリートークのイベントが行われました。

この展示では、それぞれの作品の横に「作家からのコメント」というパネルが添えられています。これは展示のために寄せられた作家による作品解説です。このトーク・イベントではお二人に、まず「作家からのコメント」をふまえて、改めて作品について解説をいただき、その後、用意された3つの質問について今感じることや考えをお話しいただくというかたちで進められました。
ここでは、それぞれの作家(ここでは敬意を込め「先生」という呼称を使います)について、作品解説トークの内容を私たちが感じたことを織り交ぜながら説明し、質問への応答を抜粋して紹介します。

染み、にじみから生まれる偶然の美|八幡はるみ先生によるトーク(文:松尾春歩)

一見油絵にも見える《Colors》(2003年)という作品は、実は染織(色)によるものです。八幡先生は学生時代に染織を学び、この作品にみるように、一貫して染織(色)作品に取り組んでこられました。この作品の制作は、花を描こうと思ってスタートしたのでなく、布の「しわ」や「たるみ」に沿って色彩が伝わり、染みたり、滲んだりするプロセスから生まれたものです。こうした偶然の産物を楽しむことが、先生の作品の躍動感につながっています。この技法を、先生は「Shaped dye(シェイプド・ダイ)」と名付けられています。こうした制作プロセスの工夫がこの作品特有の模様につながり、作品の魅力を最大限に引き出しているのではないでしょうか。


Q1 風景や自然がモチーフになっていますが、当時はどう感じていましたか?

私は天邪鬼な性格で、植物を描こうと思って描き始めることに抵抗がありました。京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)の美術工芸学科の教員をしていた頃に「交換留学」制度があって、異なる表現技法を学ぶ学生たちが横断的に学ぶ機会がありました。あるとき染織を学びに来た油画コースの学生が「素材や技法に親しんでいくうちに、自然とものができていくことを実感した」と語りました。その言葉に、とても腑に落ちるものを感じました。制作にあたって素材や技術にじっくり向き合うなかで、自分の考えを超えるような“事件”が起こることがあります。そして、それをきっかけに思いもよらない形で作品が生まれることがあるのです。そうした偶然の産物を大切にしています。

Q2先生は学生の頃、どのようなことを考えて制作に取り組んでいましたか?

素材や技法、そして作業のプロセスに魅力を感じており、特に手を動かして実際に作業することが好きでした。ものづくり全般が好きだったため、染織を選びました。

Q3女性の作家であり教員として、制作や指導などで意識した部分はありましたか?

当時、女性教員が少ないなか、学生では女子が圧倒的に多く、「染織のお母さん」と呼ばれていました。母親に相談できないような悩みを学生から受けることもあり、その経験を通して学生には鍛えられました。学校、家事、制作があり時間を工夫する必要がありましたが、女性であることで損をしたと感じることはなく、むしろ明るく楽しく生きてきたと思います。

蓮に寄せる想い|川村悦子先生によるトーク(文:新家小茉希)

《桃蓮慕》(2002年)は、二枚のパネルに描かれた大きな油彩画です。白く広がる空の下に、たくましくもどこか雅な印象の葉が広がり、その中央には淡いピンク色の蓮のつぼみが顔をのぞかせています。
蓮というモチーフに注目するに至った背景には、先生のお母様と恩師のご逝去が大きく関わっているそうです。その際「魂は水辺に宿る」という言葉が、先生がこの作品に取り組むうえで大きな原動力となったとお話しくださいました。

またこの制作の過程で、最初は生い茂る蓮の葉のみを描いていましたが、家族からの指摘を受け、白い空と蓮の花のつぼみを描き加えたそうです。また先生は「子供が曇りガラスに指で絵を描くように、触れて感じてほしい」とも語り、作品の親しみやすさや温かみも大切にされていると感じました。

Q1.風景や自然がモチーフになっていますが、当時はどう感じていましたか?

20年前から蓮の栽培を行っており、自分で自分の描くモチーフを育てようと思い、色々な植物を育て始めました。そのうち、自分のコンディションと植物がリンクする感覚が生まれ、植物を育てることで、自分自身の創作意欲を育むというふうに感じるようになりました。

Q2先生は学生の頃、どのようなことを考えて制作に取り組んでいましたか?

1970年の大阪万博にあった万国博美術館で展示されていた作品に影響され、西洋画専攻を選択しました。1年生の時の授業でキャンバスを自作した際、市販のキャンバスのようにうまく作れませんでしたが、「ここから絵がはじまるんだ」と驚き、絵を描くことにさらに真剣に向き合うようになりました。

Q3女性の作家であり教員として、制作や指導などで意識した部分はありましたか?

芸術の道に男女の役割の区別はないように思います。しかし、学生の頃は男性教員が多く、怖いなと感じることもありましたし、女性教員になって、同性の教員と共にいると非常に心強くも感じました。女性が増えても、まだまだ男性社会だと感じることはありますが、学生にとって身近な存在でありたいと思います。

「View」に秘めた視点|津上みゆきさんの「作家によるコメント」と作品の紹介(文:小野田涼香、志知正基)

本展では、京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)そして同大学院芸術研究科で学ばれた津上みゆき氏(ここでは先輩への敬意を込めて「さん」付けで呼ばせていただきます)の作品も展示されています。ギャラリートーク当日には、ご本人も聴講に駆けつけてくださいました。

今回展示されたのは、倉敷の大原美術館でのアーティスト・イン・レジデンスののちに制作された《View, door to Winter '05》(2005年)という絵画作品です。
眺めたものをスケッチすることを通して、風景画を描いてきた津上みゆきさん。彼女の作品は、描く対象を抽象化しながらも、元の景色や風景が思い起こされ想像できるようなイメージの残存性を帯びています。その画面は、力強いエネルギーに満ち溢れる一方で、淡い色彩に包み込まれるような両義性を帯びることで不思議な印象をもたらし、見る者の感情を揺さぶり、壮大な想像を膨らませます。
津上さんが風景のスケッチをはじめた原点は中学校の美術部にいた頃まで遡ります。当時人とのコミュニケーションの取り方に迷っていた彼女にとって、このスケッチはコミュニケーションツールであり、自分自身と社会のつながりを感じさせてくれるものでもありました(1)。
現在にわたって、「View」という言葉を軸に、風景や眺めだけでなく、視野や観点ということにも意識を向けながら、日々の移ろいを絵や文字にして書き留めた手帳を元に、新しい風景表現を追求されています。

編集後記(文:清原緋蕗)

このギャラリートークでは、八幡はるみ先生と川村悦子先生にご登壇いただき、作品制作の背景や、京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)での教員時代の様子について存分に伺うことができました。
長年にわたって交流のあるお二人の朗らかなトークは、当時の大学での空気感を思い起こさせるようでした。また、芸術をめぐる環境が常に変化するなかで、作品を制作・発表し続けておられるお二人の姿勢は、聞いている私たちの心も熱くなるようなエネルギーに溢れていました。
この大学で教鞭を取られた八幡はるみ先生と川村悦子先生、そして、そうした環境のなかで制作に取り組まれた津上みゆきさん。偶然にも関係が交差するなかで邂逅した三名の作家の作品による展示は、春のはじめの花々のように鮮やかでした。


○文:
小野田涼香(大学院修士課程芸術専攻芸術実践領域・油画分野 1年生)
志知正基(美術工芸学科日本画コース 3年生)
新家小茉希(キャラクターデザイン学科キャラクターデザインコース 3年生)
松尾春歩(歴史遺産学科文化財保存修復・歴史文化コース 3年生)

○会場写真/編集と文:
清原緋蕗(美術工芸学科油画コース 4年生)


(1)「NHK高校講座 美術Ⅰ第7回 風景を描く」NHK
https://www2.nhk.or.jp/kokokoza/watch/?das_id=D0022170007_00000  (2025年6月8日閲覧)

 

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