REPORT2025.02.10

アートプロデュース

わたしの“記憶”と、あなたの“記憶”がリンクする――――記憶と記録とエピソード展「作品」(京都芸術大学芸術館)

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 芸術館では、将来文化芸術活動を支える職を志望し、芸術館の活動と学芸業務に関心を持つ学生を対象にインターンシップを実施しています。インターンの学生5名が、本展覧会をレポートします。

2024年11月9日(土)から30日(土)まで芸術館にて「秋季特別展 記憶と記録とエピソード展 「作品」」が開催されました。この展覧会は、本学アートプロデュース学科の山城大督准教授とアートプロデュースコースに所属する1年生27名が作り上げたもので、展覧会の企画から展示作業、そして開催までの流れを実践的に学ぶことを目的としています。

まず、学生たち自身が幼稚園の頃のお絵描きや折り紙、物語絵本など幼少期に制作した制作物(この展覧会ではあえて「作品」と呼んでいる)を持ち寄りました。さらに、その「エピソード」を、学生たちは美術館の作品のための調書(作品のためのカルテのようなもの)を模した用紙に「記録」し、それを1メートルほどに拡大して印刷しました。こうして仕上がった「エピソード」の「記録」と自身の「作品」をあわせて展示するというものでした。

作品調書

芸術館では本学教授で康耀堂美術館(本学附属施設)館長でもある千住博先生が幼少期の頃に描いた貴重な絵画作品38点を博物館教育に活用しており、この展示のコンセプトにリンクする形で、先生が小学3年生の頃に描いた「作品」を出品することにしました。幼少期から絵を描くことを存分に楽しみ、その後の画家としての視点も彷彿とさせるその「作品」の裏面には「ぼくがいのがしらせんにのろうとおもって、えいふくちょうのホームへいったところ」という当時の文章も記されており、それに対する担任の先生からのコメントもあったため、学生の「作品」と同様に作品調書を作成して展示することになりました。
学生の「作品調書」は、学生たちの子供時代の記憶と向き合って作成したもので、それぞれが自身の言葉を練り上げて文章を作りました。さらに、お絵描きや工作、折り紙などそれぞれ形態が異なる「作品」をどう配置するとその魅力が伝わるかを真剣に考え、展示台でのレイアウトや壁面でのレイアウトを、額装にも工夫を凝らしながら検討していました。

「展示作業自体が初めて」という学生がほとんどであったため、学芸員や山城先生からどのような作業が必要かといった説明を受けながら作業に取り組みました。慣れないながらもお互いに声をかけ合いながら一生懸命に取り組んでいました。    

この展覧会は、見る人の共感を呼ぶエピソードが多々あり、誰かと誰かの記憶がリンクするような展示だと言えます。展示されている作品は子供の時に作ったもの—折り紙、お絵描き、人形など—は、その時のエピソードも含めて出品作家のものであるはずなのに、見る人の幼い頃の思い出を刺激することで「そういえば自分にもこういうことがあった」という共感を呼ぶものなのです。作家と見る側の時間と空間を超えた会話と言っても良いかもしれません。

学生たちの「作品」と「作品調書」とをあわせて観賞したとき、彼ら/彼女らの幼い頃の記憶と、私たちの幼い頃の記憶とが次第にリンクしていくような不思議な感覚を味わいました。どのように互いの記憶がリンクしたのかという観点から、学生たちの「作品」5点を紹介します。

子供ならではの発想って面白い
田中月乃(アートプロデュースコース / 1年生) <<しまのぼうけん>>②

(「作品調書」より)
“これは、小学校に入るか入らないかぐらいの時期に作ったものだ。覚えたてのひらがなで作った絵本が、今でも山のように残っている。5歳の時に弟が生まれたことが、絵本を作る大きな動機の一つだったかもしれない。自分の作った絵本で弟を楽しませたかった。表紙の「しま」の文字が二重文字になっているのは私のこだわりで、自分の特技として自慢に思っていた。自立心が強くて、なんでも自分でできること、人より自分ができることが多いことを重視している子供だった。この「しまのぼうけん」シリーズは全6巻残っている。主人公の猫の「しま」のモデルは、当時私が祖母からもらったぬいぐるみだ。祖母は二匹の猫のぬいぐるみをくれた。私はしま模様のをもらい「しま」と名付けた。三毛猫が弟のになった。本当はどちらも欲しかったが、体裁があるので一匹あげた。弟はまだ数少ない単語しか話せなかったのだが、三毛猫の名前を無理矢理聞いた。「アポ」となった。その二匹の猫が平和な冒険をする物語になっている”

この絵本を見て最初に思ったことは、「子どもながらに自分で一から物語を作るのが凄い!」ということです。私自身も幼少期からお絵かきに興味を持ち、よく家族の似顔絵や夕焼け空など景色の絵を描いていたことを思い出しました。年を重ねるにつれて絵を描くことは少なくなったけれど、昔のように絵が大好きだったことを思い返し、また家族の似顔絵などを描いてみたくなりました。
(芸術館インターン・アートプロデュース学科3年 小塩蕗香)

私も折り紙に夢中だった

半田結子(アートプロデュースコース / 1年生) <<犬とパンダ>>

(「作品調書」より)
“小学1年生の頃に折り紙が好きでたくさん折っていた際に、祖母にプレゼントした作品。元々お菓子が入っていたと思われる箱にクリアファイルを入れ、保管してくれていました。他にも色々折ってプレゼントしていた物がありましたが、今回は祖母が改めて見て「これ可愛い!!」と言っていた2作品にしました。当時は色々な物を折っていたのですが、大半に顔を描いていたので動物が好きだったことを思い出しました。新しいことをするのが好きなのでこれからも取り組んでいきたいなと思います。”

この「作品」を見た際、小学1年生くらいのときに折り紙に夢中になって、折り紙の本から「折ってみたい」と感じたモチーフを選んで折っていたことを思い出しました。私も幼い頃、折り紙で動物を折ったとき、顔を描いていました。おそらく、顔を描いた方がかわいいと思ったからでしょう。笑顔や驚いた表情を描いていました。「作品調書」で紹介されている祖母にプレゼントしたことや祖母が大切に保管していたエピソードを想像したら、なんだかほんわかした気持ちになりました。
(芸術館インターン・美術工芸学科日本画コース3年 小谷かな)

私も同じものばかり折っていた
YANG LINA(アートプロデュースコース / 1年生)  <<船の塔>> 7歳の時、美術の先生が教えてくれた折り紙の方法

(「作品調書」より)
“これは私が7歳の時の作品です。
当時、美術の先生は私たちに折り紙を教えてくれました。
紙を折って船や服や動物などを作ります。でも、私は折り紙船しか覚えていなかったので、たくさん折りました。
最後にそれらを大から小まで集めて塔に変える。“

この「作品」が心に残った理由は、大小異なる折り紙の船を並べることで塔を作っているように、作者の創意工夫がみられてとても面白いと思ったからです。一つ一つの船に少しずつ変化を加え、キラキラしたデコレーションを施しているので、じっくりと観察すると色々な発見があります。
私も小さい頃、折り紙で紙風船しか折ることができなかったので、様々な大きさや色の紙で紙風船を作って遊んでいたことを思い出しました。最近折り紙で遊ぶことはほとんど無くなってしまっていたけれど、また久々に折り紙をしたくなりました。
(芸術館インターン・大学院歴史遺産領域 修士課程1年  柴川悠)

家族の愛情を感じる
山田美桜(アートプロデュースコース / 1年生) <<無題>>

(「作品調書」より)
“私は両親に小さい頃から読み聞かせをしてもらっていたことから本が大好きです。たくさん買ってもらった本の中でもお気に入りだったのが、『きょうはなんのひ?』(作・瀬田貞二、絵・林明子、福音館書店、1979年)で主人公まみこがしている「家中に手紙をかくして集めた手紙の頭文字をつなげるとメッセージになる」というのを真似してお父さんの誕生日などにしていたのを覚えています。
昔から家族が大好きで、何でもない日に手紙を書いたり、誕生日会のプログラムを作ったりと、家族に向けて何かするのが好きな子でした。すごく自分が愛されて育っているなと感じるし、私は昔も今も変わらず家族が大好きです。“

この「作品」は、作者がお父さんの誕生日にプレゼントした手紙と絵、そして、お気に入りの絵本に登場する「家の中に隠したメモの頭文字をつなげるとメッセージになる」というゲームの真似をし、作者のお父さんが集めたメモを並べ、額に入れたものという三つで構成されています。
一つ一つの「作品」が綺麗に保管されていて、作者に対するお父さんの深い愛情を感じることができ、心にグッとくるものがあります。
私も一昨年実家の引っ越し作業をしている時に、自分でも全く覚えていない幼少期に描いた絵や、家族に向けて書いた手紙が綺麗にファイリングされたものを見つけて、両親からの愛を感じ、照れ臭くも嬉しかった記憶が蘇りました。
(芸術館インターン・大学院美術工芸領域 修士課程1年  山田麗音)

同じように川で散策をした
大槻楓華(アートプロデュースコース / 1年生) <<無題>>

(「作品調書」より)
“小学校近くの川にザリガニがすんでいるのは有名な話。授業でザリガニをつかまえて鑑賞する時間が設けられた。子供の頃の私は汚れた川にすむザリガニが苦手だった。友達が次々ザリガニをさわりだす。さわることができないのは私だけ。さわれなくても良かったけど友達が小さなザリガニを見つけて私がさわりやすいようにサポートしてくれた。おそるおそる指を近付ける。「ちょん」と一瞬ふれただけ。でも友達がまるで自分のことのように喜んでくれたから、その一瞬を今でも覚えている。小さいザリガニが私のお気に入り。”

この作品を見て、私はかつて自身の通っていた小学校の近くにも川が流れており、「作品」の作者と同じように川で散策をしたことを思い出しました。作者と同じように水性生物をバケツに入れ観察をするため、私は友人らと共に水草付近に網を入れて一生懸命揺り、中で暮らしている生き物たちを掬っていたことを覚えています。
その川縁も濁流で侵食が進んだ結果、現在はコンクリートで綺麗に補強されてしまい存在していません。この絵を見た時に懐かしさと共に一抹の寂しさが頭によぎりました。
(芸術館インターン・歴史遺産学科4年生 吉田摩理乃)

アートプロデュースコースの学生が持ち寄った幼少期の「作品」とその「作品調書」を見るなかで、幼少期ならではの自由な発想や楽しい創作の風景に想いを馳せたり、折り紙遊びに夢中だった頃の気持ちが蘇ったり、家族との思い出に胸を打たれ、自身がかつて送った家族への手紙を懐かしんだり、かつて楽しく遊んだあの川が今はもうないことに寂しさを感じたり・・・と、私たちの幼少期の「記憶」が多くの共感や懐かしさとともに鮮明に脳裏によみがえるものでした。彼ら/彼女らの「作品」がもつ過去の「記憶」と、私たち自身の過去の「記憶」が結びついていくような展覧会でした。


[展覧会概要]
展覧会 秋季特別展 記憶と記録とエピソード展 「作品」
企画・監修:山城大督(アートプロデュース学科 准教授)、梶原誠太郎(芸術館 学芸員)
出品作家:諌山遥香 大槻風華 大野璃子 岡部文香 織田果歩 佳山律葵 川口季桜 KANG TAEHEON 神田ひなの 金城波奈 楠本梨乃 鈴木陽翔 千住博 添田美優 高木里捺 竹原聡加 田中月乃 徳留朱里 濱中香帆 半田結子 PENG SHUYANG 松井和葉 真野未采 美濃太成 森光月希 山田実桜 山本耕輔 YANG LINA (五十音順、敬称略)
会期:2024年11月9日(土)-11月30日(土)
時間:10:00〜17:00(入館は16:40まで)
休館日:日曜・祝日、大学入試期間(11月21日(木)、11月22日(金)) 
※11月23日(土・祝)は祝日につき休館いたします。
料金:無料
予約:予約不要
会場:京都芸術大学 芸術館

執筆者一覧
芸術館インターン生(以下5名)
歴史遺産領域 修士課程1年  紫川悠
美術工芸領域   修士課程1年  山田麗音
歴史遺産学科 4年 吉田摩理乃
美術工芸学科日本画コース 3年 小谷かな
アートプロデュース学科 3年 小塩蕗香

 

 

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