INTERVIEW2025.12.09

教育

大瓜生山祭名物・お化け屋敷プロジェクト『消店街』—―人が“消える”商店街で体験する恐怖と学び

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学の学園祭「大瓜生山祭」にてお化け屋敷プロジェクト『消店街』が開催されました。『消店街』とはそのタイトルの通り、外から訪れた人が「消失」するという噂の商店街を舞台にしたお化け屋敷です。

お化け屋敷プロジェクトは「学園祭お化け屋敷」の企画・立案のプロセスを学ぶことができる社会実装プロジェクト(*)の一つ。発起人は元副学長の秋元康さんで、「人はなぜ怖いものに惹かれるのか」「本当の恐怖とはなにか」といった問いを、ホラー映画やWebコンテンツを用いたグループワークを通して学びながら、企画の「軸」となるストーリーを作り、お化け屋敷内の部屋の場面設定や内装を考え、実際に制作していきます。

今年度は学科・学年を問わず総勢43名の学生が参加し、「大瓜生山祭」でのお披露目を目標に、4月のキックオフから約7カ月をかけて作りあげました。18年目を迎える本プロジェクト。毎年素晴らしいストーリーと凝った装飾、恐怖を与える演出も相まって「大瓜生山祭」では長蛇の列ができ、チケットが完売するほどの超人気ブースとなっています。
本レポートでは、お化け屋敷の内容だけでなく、その制作背景や制作に込められた思いを、携わった学生と先生にお聞きしました。

*社会実装プロジェクト:学生が実際の社会と接続された企画に携わることで、芸術による社会貢献ができる人材の育成を目的として行われているリアルワークプロジェクト。

 

消失の軌跡

入り口

まずは人が消える『消店街』の中へ、筆者と一緒に探索してみましょう。
受付を済ませ暗幕をくぐると、最初に案内されるのは二つの待機エリア。『消店街』のポスターとPVを連続で眺めながら、お客さんは少しずつ日常の世界からお化け屋敷の世界へと感覚を切り替えていきます。

世界観に浸るための準備を終えると、商店街に入るための最後の案内が行われます。といってもスタッフによる案内ではありません。この商店街「瓜生商店街」の歴史や魅力を伝える学生が制作したオリジナルアニメーションが流れます。見る人の気持ちを、日常から不穏な世界へとゆっくり切り替えていくように設計されています。ところが、その完成度の高さゆえに思わず見入ってしまう。見れば見るほど不気味さと魅力が入り混じり、商店街への興味とわずかな恐怖がじわじわと刺激されます。


アニメーションが終わると、カーテンが勢いよく開き、商店街への入口が姿を見せます。アニメーションに集中しているとビクッと体が震えます。ここでスタッフと別れ、いよいよ自分たちだけで中に進むことになります。
進んでいくと、1960年代前後を感じさせるレトロな道のりが。チカチカと点滅する信号機や突然飛び出してくる飛び出し坊やに迎えられ、肩慣らしだよとばかりにビクビクさせてくれます。

さらに道を進んでいくと商店街の醍醐味であるメインストリートにたどり着きます。その両側には、駄菓子屋や写真館といった店が並び、商店街の一角をつくり出しています。

メインストリートを描いた屏風

アイスクリームを収納した冷凍庫、写真館からもれでる不気味な光、店先に立つポストなど細部までこだわりを見ることができ、実際にどこかの町の商店街に迷い込んだような感覚になります。その中でも特に目をひいたのがメインストリートの奥行きを演出している屏風です。複数のパネルを連結させることで、商店街がどこまでも続いていくような奥行きを演出しており、そのクオリティに思わず唸ってしまいました。

制作スタッフに話を伺うと、お化け屋敷の背骨を担っているのがメインストリートだそう。この先にも二つのメインストリートが用意されており、上から見たときに直線状になるように構成しているそうです。手前・中央・最奥の三つのメインストリートが、各場所の変化を示す大きな軸になっているのです。

また、この最初の道のりは子どもが遊んでいる雰囲気を表現したといいます。確かに恐怖感はあるものの暖色の照明で照らされていることもあって、怖すぎて動けないようにしようという意図は控えめに感じました。ですが、ここまではウォーミングアップ。ここから先は本当のお化け屋敷が待ち構えています。

写真の通り、先ほどまでとは打って変わって、雰囲気をガラッと変えた裏路地が現れます。この裏路地の先に、二つ目のメインストリートが待ち構えているのでしょう。よく観察すると青い電灯やボロボロになったポスターが貼られた掲示場、裏路地の壁を含め、全体的な装飾が廃れた印象が強くなっています。
裏路地を抜けると、メインストリートに戻るのかと思いきや、現れたのは緑色の光に包まれた洋服屋です。

ここからは路地やメインストリートだけでなく、両側に立つ建物の中も探検することになるようです。
洋服屋には大量の服が並び、手作りのラックやレジ、鏡も配置されていて、思わず「本当に洋服屋として営業されているのでは」と錯覚してしまいます。当然お化け屋敷なので、服を上から吊るしたりすることで、いつ恐怖が来るか視覚的にわからないようにする工夫や、試着室から突然出てくるスタッフには心底驚きました。

洋服屋を抜けると、二つ目のメインストリートのお出ましです。ここは一つ目とは違い暗所と寒色系の光に包まれた空間へと衣替えされており、まさにお化け屋敷らしい空間の登場にワクワクする人と怯える人に分かれるでしょう。左手には最初のメインストリートと繋がっているであろう屏風、右手にはさらに古びた屏風が続きます。どうやらこのメインストリートには怖さの段階を示すだけでなく、時系列を表す役割も兼ね備えているようです。

スタッフに聞いて気づいたことですが、メインストリートの部屋の屋根はアーケード型になっていたようです。商店街といえばアーケードというイメージがありますが恐怖を感じながらだと、そういった細かいこだわりをつい見落としてしまうので、細部までこだわっていることが知れて良かったです。
そして呑気な感想も束の間、洋服屋の対面で構えている電気屋が「こっちにおいで」と言わんばかりに不気味な気配を放ち、我々を誘ってきます。

電気屋の入口は扉を押したり開いたりして開くのではなく、半身屈んだ体勢で入店する仕様となっています。恐怖で自然と縮こまった体をさらに小さくさせようとするのはスタッフたちの意地悪な仕掛けにもみえます。

電気屋に入店すると、目に飛び込んでくるのは、複数に並んだテレビです。

最初に見たアニメーションや砂嵐を映したテレビが乱立していて、見ることに集中していると、後ろからスタッフが突然脅かしてくるので、集中しすぎることはお化け屋敷では仇になりますね。
他にも商品として並ぶ冷蔵庫やランプも見事な出来で、主に総合造形コースの学生が手作りされたそうです。

二つ目の裏路地写真

電気屋を出ると、再び裏路地エリアに入ります。最初に通った裏路地と同様に掲示板があるのですが、今回は血のようなエイジングが施されたり、古くなった電化製品が捨てられていたり、上から風が吹きつけてきたりするなど、恐怖を感じさせる要素が一段と強調されています。使われる色に血の色が混じりはじめ、「これはいよいよ、出るものが出るかもしれない」と覚悟を決めざるを得ません。

二つ目の裏路地では、途中から赤色が、それこそ空気が血を吸いこんだような濃い赤色に変化していきました。明かりもより小さくなり、ようやくたどり着いた部屋にも黒いゴミ袋が散らかっていました。部屋というよりは何もない空間という表現がしっくりきます。そして、ゴミ袋をよく観察すると中身が入りきらずこぼれているものが。なんと、それは人間の手足だったのです。

これまで駄菓子、洋服、電化製品など生活に根ざしたものが並んできましたが、突然、人の肉塊が並んでいるのは想定外も想定外。それに壁をよく見れば、三つ目のメインストリートを描いた屏風があります。つまりここからが最終章。ゴミ袋が散らかった空間の先にはまさしく血でよどんだ空間が開かれています。それでは、人の消失の秘密を解き明かしにいきましょう。

顔を象ったガラスケースの写真

電気屋同様、腰をおって次の部屋に入ると、まずは視線を釘付けにするガラスケースがありました。ガラスケースにはお肉やコロッケの値札があるので、ここは精肉店なのでしょう。ですが、ガラスケースの中に入っているのは本物の肉や食品レプリカではなく、切断された人の顔とそれを支える手です。それだけでも十分ホラーですが、ガラスケースの奥からは肉を引き裂くチェーンソーの音が鳴り響いていました。

音のする方に向かうと、そこには血に染まった台所とまな板、そしてシンクの前にチェーンソーを持って立つ人物が目に入ります。おそらくその人物がこの商店街に訪れた人を消失させる張本人なのでしょう。しかし、チェーンソーで肉塊にする作業はしていても、こちらに視線を向けることはありませんでした。
そして、進むためにはチェーンソーの人物の右横を通り抜けるしかありません。チェーンソーの横を通るだけでも恐怖を感じます。実はこのエリア、先に入ったグループがその場に立ちすくんでしまい、次のタイミングで入ったグループと鉢合わせしてしまうこともあったそう。それほどまでに、ここは動けなくなってしまう恐怖を感じるエリアだったんです。

とはいえ、どうにか通ってもらわないといけません。チェーンソーをもった人物はこちらに興味を示すどころか気づかない様子。意を決して右横を通ると次は最後の裏路地に入ります。

裏路地には血でよどんだ空気が漂っていませんが、代わりに別の恐怖が待ち構えています。それは、裏路地一面に貼られた大量のポスターです。これまでもポスターは確認できましたが、両手で数え切れるほどでした。しかしここでは、壁の隙間が見えないほど、隙間なく貼られています。もしかしなくても、このポスターの一枚一枚がこれまで消失した人の数を表しているのかもしれません。そんなことを考えていると、動かなかったはずのチェーンソーの人物が追いかけて来ました。ポスターであふれた裏路地を全力疾走して逃走します。もし、追いつかれたら肉塊いきは確定だったでしょう。

 裏路地を抜けると、出口へ続くといわんばかりの最後の一本道が現れます。ですが、見える範囲に出口はありません。そのうえ、後ろからはチェーンソーの音が迫ってくる。となれば前に進まなければ。そうして足を動かすと一本道の奥にもう一人、誰かが立っています。その姿は迷い込んだお客さんではなく、間違いなく襲う側の出で立ち。これでは袋のネズミです。我々が少しでも長く生き延びるためには、二人の真ん中に逃げるしかありません。ですが、これは悪あがきです。ただ追い詰められているにすぎません。お化け屋敷のゴールではなく人生のゴールが目の前です。そんなことを思っていると、我々が追い詰められた道の真ん中、その真上に用意された鉄板が誰かの力によって持ち上げられ、ギリギリまで上昇すると、勢いよく急降下し鉄板を受け止めた屋根と衝突し、強烈な衝突音が一本道に響きました。

この音も合わさって我々が『消店街』最大の悲鳴をあげると、真横に隠されていた出口が開かれ、ようやくお化け屋敷から開放されるのでした。

 

お化け屋敷を終えて、どうやって『消店街』は生まれたのか

恐怖を感じる写真ばかりで気が滅入っていた方もいるかもしれませんが、ここからはもう肝を冷やす必要はありません。『消店街』を作りあげた学生とMS(マネジメント・スチューデント)、そして担当教員の森岡厚次先生にこれまでの活動について話をうかがっていきます。

毎年、4月のキックオフから最初に取り組むのがストーリーのアイデアだしです。学年・学科の異なる43人が、8班にわかれてストーリーを考えていきます。班ごとにストーリーが出来上がると、プレゼンを行い8班の中でもアイデアの近い班が合併しながらディスカッションを重ね、より良い一本のストーリーを練り上げていきます。

2年連続でMSを担当した若挟綾乃さん(空間デザインコース|3年生)はこう振り返ります。

若狭さん

「去年も今年もメンバー全員で案を出し合って班の数を8から4に、4から2みたいに絞っていきました。代表の案を決定したら、クライアントである理事長と蒼山会(保護者会)の役員の方々にプレゼンをしていきます。プレゼンに関しては統括の二人が担当したんですけどここが毎年の鬼門ですね」と語りました。

統括を担当したのは渡邊りおさん(舞台デザインコース|1年生)と音響リーダーも担当した松本真太朗さん(プロダクトデザインコース|2年生)。渡邊さんはプレゼンの難しさについてこう語ります。

渡邊さん

「クライアント、特に理事長に対して班の代表案をプレゼンするんですけど、簡単にいいねとはならなかったですね。こっちがどれだけ良い案だったり、考えたりしたとしてもダメなものはダメと言われます。逆に自信がなかった案が採用されることもありました。プレゼンは1回で終わらず3回ほど重ねて採用してもらえたので、どんな案なら納得してもらえるのか、かなり頭を悩ませました。それにクライアントに採用されると、途中からの変更はできないのでプレゼンで何を伝えるかはすごく悩みました」と教えてくれました。

森岡先生も、プレゼンの重要性について補足します。

森岡先生

「お化け屋敷プロジェクトは今年で18回目。つまり20年近くやってることになるんです。そうなると理事長もストーリーのパターンをよく理解しているし、その分細部にもツッコミが入ります。細部のつじつまが合わないと最終的な演出に影響がでることをご存知なんですよね。だから、ストーリーから制作に移行したあと、ストーリーと制作の軸がぐらつかないように代表である統括に何度も問いかけてくださる。だからこそハードルは高いですが、MSも教員もフィードバックに全力で向き合っています。しっかり練られたストーリーだと、演出に迷ってもこちらは助け舟を出しやすいですね」

例年プレゼンは学生だけでなく、クライアントにとっても教員にとっても緊張が走るプロセスの一つ。良い作品を作るための基盤にこそ、最もエネルギーが注がれることが伝わります。
そして渡邊さんは企画当初から変わった部分があると続けます。
「今回のテーマは『消失』なんですけど、最初はそうじゃなくて『消費』でした。大量消費とか消費文化とかの消費。それが理事長とのプレゼンやMSさん、先生とのブラッシュアップを重ねていく内に『消失』に変化していったんですね。それに最初考えていた舞台にホテルがあったりしたんですけどテーマを追及するなかで、商店街へと変わっていきました」


「怖さ」はどうつくられたのか

撮影:吉見崚

 背骨となるストーリーが決まると、いよいよ学生たちはお化け屋敷を作り始めます。ここからは舞台制作、PV制作、そして広報の3部門に分かれてお化け屋敷の世界観を形にしていきます。もちろんすべてのこだわりを紹介したいですが、ここでは書ききれないので、この記事では代表的な仕掛けをいくつか取り上げます。

まずは、精肉店で鳴り響いていたあのチェーンソーの音です。統括の松本さんに仕掛けについて伺いました。

松本さん

統括・松本さん「当然、本物のチェーンソーじゃありません。あれはインパクトドライバーで音を再現しています。正確にはチェーンソーに模した道具にインパクトドライバーを取り付け、その先端にペンキの空き缶をあてて、金属の角材と衝突するようにインパクトを起動させるとあのチェーンソーの音が出るんです。これはメンバーが出した案の中でもインパクトのある発想でした」

続いて、メインストリートをはじめとしたお化け屋敷の壁作りのリーダーを担当した武田綾子さん(こども芸術コース|2年生)はお化け屋敷の骨格ともいえる、内装や壁のこだわりについて語ってくれました。

武田さん

武田さん「お化け屋敷は3つのメインストリートを辿る構成だったと思うんですけど、どんどん廃れていく演出を壁で見せることにこだわっていました。壁っていうのはメインストリートだけじゃなくて、裏路地や店舗の壁も含まれています。最初の路地から次の路地、その次の路地に進めば進むほど廃れていく。照明やチラシの状態でも感じてもらえたかもしれないですけど、壁からも感じてもらえるように工夫していました」

続いて、冒頭で登場した「瓜生山商店街」のアニメーションPV。ハイクオリティで見るものを虜にしたあのアニメーションについて広報班リーダーの小早川綾香さん(クロステックデザインコース|2年生)から話を聞きました。

小早川さん

広報・小早川さん「今回のアニメーションはお化け屋敷で実際に辿る各店舗を登場させています。特に注目してほしかったのがその順番です。アニメーションの最後は駄菓子屋と写真館の映像ですが、これって一つ目のメインストリートに出てくる店なんです。つまりアニメーションで一番最後に見た店が、本編で最初の店として登場する。なのでお客さんはアニメーションと辿る店の順番がリンクしているんじゃないかって感じられるはずです。そして洋服屋に入ったら、お化け屋敷全体が“アニメーションを逆再生して辿っていく構成”なんだと確信をもてるように入口の段階で仕込んでいました」



改めてアニメーシPVを見返すと小早川さんの言葉通り、ホラーの演出もさることながらお化け屋敷の順路を逆から紹介する仕掛けになっています。筆者は気づかなかったのですが、これに気づいた状態でお化け屋敷を体験できたらワクワク感と最後に待っている精肉店の恐怖が入り混じった、また違った楽しみ方ができたはずです。

長年このプロジェクトに携わっている森岡先生からも、今年ならではのこだわりについて伺いました。

森岡先生「僕も理事長ほどじゃありませんが、このプロジェクトを担当して9年目になります。なので年々、目新しさって少なくなるんですが、今回の構成とそれに付随する動線のこだわりには驚かされました。お化け屋敷を上から見たとき、お客さんが進む動線が蛇行していて、商店街の表(メインストリート)と裏(路地)を体験していくというこれまでにはない動線だったからです。去年の『豊礼村』など、今までは迷路のように不規則な道を進んでいく構成が多かったので今年のようにメインストリートを軸にどんどん時代が逆行し、街並みが廃れていく演出はストーリーともよくかみ合っていて素晴らしかったと思います」

 

(去年の記事)

お化け屋敷という最高のエンターテインメントを作る! — 大瓜生山祭・お化け屋敷プロジェクト「豊礼村(ほうれいむら)」

 

プロジェクトを通して見つけた成長

最後に約7カ月にわたるお化け屋敷プロジェクトを経て、学生たちが感じたこと学んだことについてお聞きしました。

広報・小早川さん「私は広報班としてポスターやロゴの制作を担当してたんですけど、得意なアナログじゃなく苦手なデジタルで制作しなきゃいけなかったんです。個人制作だと得意なアナログに頼ることもできますが、プロジェクトだとそうはいかない。とはいえやるしかないので苦手なデジタルで制作したものの、一度挫折してしまって、途中で他の人にお願いした時期もありました。でも最終的には自分が担当することになって、苦手なりに試行錯誤はもちろん、周りに助けてもらいながら夢中で制作しました。普通に制作をしていたら絶対に得られない経験ができたので、その点は本当に成長できたと思いますし一番苦労した部分だったと思います」

統括・松本さん「僕は統括だったので、MSさん方に他のメンバーと違って『一歩引いた視点でいてね』って言われてたんです。それこそ小早川さんのポスター制作とかもですけど、個人の制作に集中しているメンバーが見落としがちなところに目を配ったり、危険な作業をしてないか注意することを徹底していました。特に体調不良者がいないかには気を使って見ていました。こういう長丁場の制作だと肉体的にも精神的にもきつくなるので、個人の消耗は全体に影響しますし、大事になる前に対処することに注力していました。そのおかげで個人の能力だけではなく、場を俯瞰して見る力に関してはかなり成長できたと感じています」

統括・渡邊さん「私も同じ統括なので似ているんですけど、相手の立場に立って考える力が鍛えられたと思います。高校の頃は結構自我を押し通してたタイプなんですけど、大人数の統括をするにあたって色んな人の色んな意見を汲む必要性を痛感しました。意見に対立するんじゃなくて、まずはしっかり聞いて意見を汲み取った上で提案したり、どこまでが実現可能でどこからが難しいのかの線引きを見極めながら話を進めました。あと、夏季集中とかの準備期間って一度全ての班が集まって制作をする時間があったんです。そういう準備時間ってモチベーションが下がりがちなので、メンバーのモチベーションが下がらないようにすることは頑張ったと思います。それこそ雰囲気を悪くならないように動いたり、相談に乗ったり、ご飯に一緒に行ったり、制作の途中で誰かが辞めることがないように気を配りました」

MS・若狭さん「私はMSを2年やってきたので、流れを全て知った上でどのように動くかを意識してたんです。それこそ制作中に起こりうる問題って長期になればなるほどたくさんあるじゃないですか。それを理解しているからこそ、先回りして手を打とうとしていたんですが実際には、森岡先生に先回りされることも多かったです。だから途中からは先生が動く前に自分が動くことを目標にしていました。それと、プロジェクトでは過去最高の来場者とか売上とかじゃなくて、終わったときにメンバーがやり切れたと感じられることを大事にしていました。最終的にみんなが良い顔でフィニッシュできたので2年目のMSとしての役割は果たせたかなと感じています。

インタビューに協力いただいた学生たちと森岡先生

 

これからのお化け屋敷プロジェクトへ

近年、お化け屋敷プロジェクトは学外からも注目を集めるようになってきました。そうした状況の中で、来年以降もプロジェクトに関わる森岡先生に思いを語っていただきました。

森岡先生「注目されるのはありがたいことですが、何よりも大事なのは、ちゃんと完成させることだと思っています。お化け屋敷プロジェクトは教育の一環なので、学生にはこの大学とプロジェクトを好きになってもらい、その経験が今後の制作活動につながってほしい。その場をつくるのが僕の役割だと思っています。
また、制作は閉鎖的な空間で長期間行うため、精神的にも肉体的にも負荷が大きい。だからこそ、統括やMSが体調に気遣ってくれる環境で、限界を知りながら誰かと共同でつくるという経験をしてほしいと思っています。コロナ以降、人との距離感やコミュニケーションの取り方を学ぶ機会が減っているので、その場を提供することも重要だと感じています。
最後に、お化け屋敷を楽しみにしてくれている人や、来年参加したい学生には、このプロジェクトがエンターテインメントであり、同時に芸術の可能性を探る場であることを感じてほしい。今年であればチェーンソーの音をインパクトで再現する仕掛けや、アニメーション、メインストリートの構成など、学生が考え抜いた“仕込み”がたくさん詰まっています。
体験自体は5分ほどですが、その5分を超える余韻や味わいを持ち帰ってもらえれば、僕としては十分です。来年もぜひ期待していてください。」

みなさん。本当にお疲れさまでした!

森岡先生、そして『消店街』に関わったみなさん、ありがとうございました。来年のお化け屋敷も今から楽しみです。今年体験できなかった方や、この記事で興味を持った方も来年の大瓜生山祭で開催される「お化け屋敷」にぜひ立ち寄ってみてください。とびきりの怖い体験が、用意されているはずです!

 

(文=文芸表現学科4年 轟木天大)

 

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