夏も過ぎ、風が冷たくなってきたこの季節に、大瓜生山祭の大人気企画「お化け屋敷プロジェクト」が今年もやってきました! 17年目を迎える今年のタイトルは「豊礼村(ほうれいむら)」。豊礼村という曰くつきの廃村を舞台にしたお化け屋敷です。
お化け屋敷プロジェクトは「学園祭お化け屋敷」の企画・立案のプロセスを学ぶことができる社会実装プロジェクトで、発起人は元副学長の秋元康さん。「人はなぜ怖いものに惹かれるのか」「本当の恐怖とはなにか」をホラー映画やWebなどを使ったグループワークで学びながら、企画の「軸」となるストーリーを作り、お化け屋敷内の部屋の場面設定や内装を企画していきます。
今回の記事では、年々レベルが上がっていると絶賛され、これまでにない試みで来場者の心を掴んだお化け屋敷に潜入し、お化け屋敷プロジェクトメンバーの学生にうかがった内容について、レポートします!
母の強い勧めで「豊礼村」でのお見合い企画に参加することになったリョウコと、親友のミネコ。「豊礼村」でのお見合いでは会話が弾まず、リョウコは母からのお守りを捨ててしまう。やがてはじまった「豊嘗祭」でリョウコは、村人たちが死体をバラバラにして埋めている光景を目にしてしまい——。
https://obakeyashikiprojec.wixsite.com/obakepj2024
いざ入村!
まずは画面の前のあなたにも「豊礼村」に入村していただきましょう。
受付を済ませると、誘導されるのは壁面に漫画が貼られたゾーン。美麗なイラストで「豊礼村」で起こった出来事が綴られ、読んでいるうちに豊礼村の世界観に引き込まれていきます。
豊礼村の巨大ポスター横にある暗幕を潜ると、こちらでは豊礼村のPVを見ることができます。暗闇で映像を見ているだけでドキドキしてきますね……。
隣の小部屋では豊礼村の村民視点のアニメーションが上映されていました。漫画、実写映像、アニメーション、造形物とさまざまな方法で来場者を豊礼村に誘います。
<豊礼村のPV>
アニメーションを見終わると、バスの行き先案内が文字化けした文字に……。ここからは自分たちで暗幕をめくり、進んでいきます。
さて、いざ行かん「豊礼村」へ。最初の空間はバスの車内のようです。薄暗い空間に再現された車内は不気味さも去ることながら再現のクオリティが非常に高く、そちらにも感嘆の声を上げてしまいます。
バスの座席を模したこちらの椅子、座ってみると普段乗っている京都の市バスと同じ手触りがします。こちらも学生がこだわり抜いて選んだのだとか。青白い光が点滅し、運転手のアナウンスに促されてバスのドアから出てみると、そこは鬱蒼とした木々に囲まれた山道です。実はこの道の落ち葉もひとつひとつ手作りなのだそう。こだわりが詰まっています。
カリカリと壁を引っ掻く老婆に襲われないかビクビクしながら先へ。襖を開けると、屏風の建てられた細い道をうねうねと進むゾーンに出ました。来場者が通るタイミングで壁にかけられた村長の遺影がバンッと外れかけたり、壁から叩く音が聞こえたりと、驚き系の仕掛けがたくさんあります。
ぐるぐると迷路に
次に現れたのはさまざまな種類の農具が置かれている部屋です。農具小屋を通り過ぎると、燈楼のある道へ。井戸の中に大量の目玉があったり、道に切断された手首が吊るされていたりとかなり物騒な空間です。
わあ! 高い声をあげ、おもちゃを持った子どもが追いかけてきた! 慌てて逃げようとしますが、道が三手に分かれています。左手に進んでみると、くるりと一周して先ほどの空間に戻ってきてしまいました。様子のおかしい村民も2人に増え、迷子になりながら村民に追いかけられているうちに、次のゾーンへ。
このゾーンも二手に分かれています。正面からやってきた村民を押しのける形で右手の道へ進んでみると、古びた電話ボックスと畑がありました。そう、村民が死体を埋めている畑が……。
もちろん、その現場を見てしまった来場者を村民は許してくれません。襲ってくる村民、大変怖い! 容赦のない距離の詰め方に学生の作るお化け屋敷ならではの物理的な恐怖があります。ふとみると、左手の通路と合流する地点についていたようです。左手の通路には祭壇があり、女性の生首が3つ供えられています。当然、こちらからも追いかけてくる村民たち。
ワーワーと叫びながら隠し通路に向かい、木の扉を自分で押し開くと、村から脱出することができました。
実はこの「複数の道がある」ことと「扉を自分で押し開く」ことが今回のお化け屋敷のテーマに深く関係する要素だったのです。ここについては、学生にお話を聞きながら詳しく掘り下げていきましょう!
怖いというエンタメ
一緒に入村した先生や職員の方々は口々に「テーマパークにあるお化け屋敷と同じくらい怖い!」「追いかけてくるのが怖かった、迷子になった」と感想を語っていました。
大瓜生山祭の初日に偶然お話をうかがうことができた吉川左紀子学長は「怖さが毎年ブラッシュアップされている」とこれまでの歴史も振り返りながら話します。
「去年は『人間の怖さ』を描いたものでしたが、今年はまた違うテイストで、新たな試みもあって怖かったですね。日常から非日常に人を引き摺りこんで、『怖い』と感じさせる体験を作り出すということは、高度なエンターテインメントを作る技術が必要なことだと思います。年々、ブラッシュアップされているなと感じますね」
『本当に怖い』ものを
さて、肝も冷えたところで……来場者を震え上がらせた「豊礼村」を作り上げてきた学生にお話をうかがいました。今回インタビューしたのは広報を担当した新谷優奈さん(ビジュアルコミュニケーションデザインコース/2年)、MS(マネジメント・スチューデント)の若狭綾乃さん(空間デザインコース/2年)、MSの木村百萌さん(ビジュアルコミュニケーションデザインコース/3年)、統括の田中愛里さん(クリエイティブ・ライティングコース/1年)の4名です。
今年のお化け屋敷プロジェクトに参加したのは、学科・学年を問わずに集まった43名の学生たち。毎年「学園祭を盛り上げるコンテンツを作る」というコンセプトのもと、4月のキックオフから学園祭までの期間、活動します。
まずは4チームに分かれてストーリーを考えていき、アイデアの近い2チームずつで固まって、2つのストーリーアイデアをまとめます。それまでのミーティングで対立したり、意見を言い合ったりする場面もあったといいます。学年がちがう学生でも、対等に話し合えるのがプロジェクト活動のいいところですね。
その後は、授業内でのプレゼンを経て、クライアントへのプレゼンを行いました。クライアントは蒼山会(保護者会)と本学。蒼山会役員の方々と理事長にそれぞれプレゼンを行い、さまざまな意見が飛び交いました。
MS・木村さん:クライアントプレゼンで言われた『驚かすだけのお化け屋敷にならないように』って言葉はすごく印象に残っています。びっくりすることと怖いことって、全然ちがう感情じゃないですか。それを意識して、ブラッシュアップをしていました。なので、広報物や演出、PV、制作でも常に『これってほんまに怖いんかな』と考えて、方向性を擦り合わせながら作っていきました。
選択で見える風景が変わる
クライアントプレゼンでは、1つのチームが提出したストーリー「豊礼村」が選ばれ、もう1つのチームが提出した「迷路の構成」という要素と組み合わせて、制作していくことになりました。
お化け屋敷の中に「分かれ道」を作ったのは、実はお化け屋敷プロジェクトが発足して以来初めて。これは豊礼村を通して学生たちが伝えたかった「選択する」ということへの思いが込められています。
制作した学生は「豊礼村に迷い込んだ来場者に自分で選択してもらうことで、選択したもので見える風景が変わることを伝えたかった」と話します。2回、3回と入っても楽しめるお化け屋敷を目指した、という一面もあったそう。実際に、SNSではお化け屋敷にチャレンジした方の「あと3回くらい体験したい……! 構成がよかった」という感想も寄せられました。
ストーリーが固まり、実際に制作がはじまると制作班のリーダーの指示で全員が制作に取り組みます。若狭さんはMSとしてプロジェクトメンバーに役割を割り振ったり、全体のスケジュールを見たりといった役割を担当しました。
MS・若狭さん:夏期集中授業のとき、全員が作業できる段階に入るとどうしても手が余ったり、なにをしたらいいんだろうと困るメンバーもいたりして、意識の高め方が難しかったですね。自分の意思でこれをしようって進めてくれる子もいれば、受け身な子もいるので。でも、制作が進んでいくにつれて、みんな自分が担当した部分について『こうしたい』ってこだわりが出てくるんです。制作をするときには、そういうメンバーの個性を見て、役割を決めていました。
クライアント第一で
MSとしてプロジェクトメンバーの制作や運営体制を管理していた木村さんは制作中に難しかったことを次のように話します。
MS・木村さん:クオリティの底上げを均等に行うことが難しかったですね。あとは、みんなで作るお化け屋敷なので、1人がぜんぶ決めてしまうんじゃなく、いろんなメンバーと協働できるように気をつけました。みんなでやるからこそ、モチベーションが下がってるメンバーにも声をかけて、制作に参加してもらうところは頑張りましたね。
そうした努力の積み重ねがあの細部までこだわり抜かれたお化け屋敷の美術に繋がるんですね。多学科の学生が参加しているからこそ、それぞれの得意分野を活かし造形だけでなく平面的な部分やアニメーション、映像など多様なメディアによる表現ができた今回のお化け屋敷。得意分野を生かすからこそ、みんなで制作を進めていくなかでそれぞれのこだわりが見えてきたそうです。それがさらに細部の表現にも良い影響を与えているんですね。
統括の田中さんは制作する学生を近くで見ながら指示を出す立場。ときには、メンバーが作ったものにリテイクを出したり、没にしたりすることもあったといいます。
統括・田中さん:クライアントの意向が第一だってことはずっと考えていました。学生が頑張って作ったとか、 時間をかけて作ったとか、それは制作物とは関係ない。クライアントが良いと思ってくれない場合は、『メンバーが頑張って作ってくれたのはわかるけど、今回は外させてもらうね』ってことも何回もありました。逆に、クライアントが希望しているから、 時間がないけど作ってほしいとか、そういう無理なお願いをしたことも。クライアントありきの企画だからこそ、学生たちの意思とクライアントの意見をすり合わせて、うまく調整したいと思っていました。
プロジェクトを通して見つかる目標
最後に、それぞれのメンバーがプロジェクトに参加して感じたことや学んだことについてお聞きしました。
広報・新谷さん:わたしは主に広報を担当しました。広報物がポスターやフライヤーなどの形になって、学内に貼られていたり、完成したPVを見るのももちろん嬉しいのですが、それを見た人の反応がすごく嬉しかったです。メンバーたちが頑張ってきたことも知ってるし、一緒に話し合ったり対立したり、そういう出来事を噛みしめながら、今日もこの入り口の大きなポスターを見ていました。そして、こうやってみんなで作り上げたものを広めることをお仕事にできたら、と思いました。
統括・田中さん:わたしは『嫌われる勇気』を学びましたね。具体的には、ちゃんとプロジェクトを進めるメンバー同士として、割り切った関係を築きながら作業を進めていくことの大切さです。だから、クオリティに満足がいかない場合でも『頑張って作ったから使う』ってことではなくて、クオリティを上げるために最善の選択をすることを考えていました。言わないといけないことは、しっかり伝える。それで友達に嫌われるとかは考えない。嫌われるより、プロジェクトがうまくいくことを優先して考えるようにしていましたね。天秤にかけて、プロジェクトがうまくいく方を取る。そこに行き着くまでに、長い時間をかけて迷いました。
MS・若狭さん:わたしは過去に別のプロジェクトに参加していたこともあって、そのときに『リーダーになるってことは、メンバーを信頼できないとだめだ』って学んできました。でも、やっぱりプロジェクトを進めているときは『自分がやった方がいい』と考えてしまって、自分自分ってなっちゃうところがあるんです。でも、MSとしていろんな人間関係を知ったり、広い視野を持てるようになったりして、信じることは大切だなと思いました。信じたから、こんなにすごいものができたんだといまは思います。
MS・木村さん:わたしは『お化け屋敷プロジェクト』に去年も参加していました。今年はMSとして参加することになって、去年は見えなかった問題点が見えてきましたね。見つけた問題点をどう解決していくかを考えることが、すごく勉強になりました。マネジメントのことについても勉強して、わたしも『将来、こういう仕事がしたいな』っていうのが見えてきました。いま就職活動中なので、この経験を通して『わたし、こういうこと好きなんや』『わたし、これ得意なんや』ということがわかって、企業選びの軸も見つかりました。
それぞれ、お化け屋敷というエンターテインメントを集団で制作することで得た学びを語ってくれました。さまざまな学科の学生が集ったからこそ難しかったことも多かったと話す4人ですが、一方で「だからこそこの豊礼村ができた」と語る瞳には大きな選択を乗り越えたことによる自信がみなぎっていました。
当日は満員御礼となったお化け屋敷「豊礼村」。毎年楽しみにしているという地域の方や、お化け屋敷プロジェクトに興味のある学生など、いろいろな人を怖がらせ、楽しませました。
今年は残念ながら参加できなかったみなさんも、ぜひ来年の瓜生山祭では「お化け屋敷」に立ち寄ってみてください。とびきりの怖い体験が、あなたを待っています!
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。