REPORT2025.09.02

京都教育

ぐるぐる巡る、人もモノも亀岡を ソーシャルイベント「GURU LAB(グルラボ)」で描く循環の輪

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  • 京都芸術大学 広報課

照りつけるように暑い真夏の昼下がり、亀岡駅から徒歩5分。昨年の8月にできあがったCircular Kameokab Labに到着すると、子どもたちの弾ける笑い声が響いていた。

館内は涼しく、ひと息ついたところで、受付へ案内される。そこでは、京都芸術大学 空間演出デザイン学科 3年生の24名(亀岡ゼミ)が亀岡市の抱える地域課題の解決を目的にしたソーシャルイベント「GURU LAB」が開催されていた。

学生が描いたキーワードは「巡る」と「循環」

イベントの運営は、大きく4つのチームで構成されている。

空間デザイン班、ワークショップ班、広報班、かき氷・景品作り班と4つに分かれ、学生から選出されたリーダーを筆頭にメンバーと仕事を分担。

4月から、学生たちはフィールドワークや市民へのヒアリングで、亀岡市の課題が若者の「人口流出」であると仮定した。その解決方法として亀岡に若者が戻ってきてもらうにはどうしたらいいかということを、リーダー同士で対話を幾度も重ね、そのためには、暮らしの心地よさを感じてもらうことが必要だと気づく。

では、暮らしの心地よさをどう作ればいいのだろうか。その答えは、不要になったものが廃棄されていくのではなく、市内で循環させる仕組みが、快適な暮らしにつながり、人口流出を防ぐ一助になるのではないかという考えに至った。その結果生まれてきたキーワードが「巡る」と「循環」だった。

不要画材が生まれ変わるワークショップ

「企画もコンセプトもゼロから自分たちで作りました。」そう話すのはワークショップ班の向井華音さん(ファッションデザインコース|3年生)だ。

「『巡る』と『循環』という言葉をキーワードに、『モノも人も巡り巡る 循環を感じるまち亀岡に』というコンセプトに、亀岡の魅力を体験できるコンテンツを考えました。」

2階のフロアでは子ども連れの家族でにぎわい、学生が子どもたちの対応で忙しそうに立ち回っていた。ワークショップでは、参加者が彩った布で作るティッシュケース、使われなくなった画材を材料にアクセサリーや雑貨作りを体験できる。

「画材は全て、巡り堂(みずのき美術館)さんからいただきました。使えなくなった色鉛筆を輪切りにして分解し、パズルのようにつなぎ合わせます。レジンでコーティングし、ストラップ、マグネット、ピンバッジを作れるようにしました。折れたり、崩れたりしたクレヨンを集め、溶かして型に流し込んでマーブルのオブジェに。これもまた描けます。」

使えなくなった画材を新たに生まれ変わらせる。まさに「巡る」と「循環」を感じさせるワークショップであった。

保津川の石で“わたしだけの亀岡マップ”

地下1階では、ストーンアートのワークショップが行われている。「並べている石は保津川で拾ってきました。」と向井さんは話す。「川で拾ったゴミを素材にする予定でしたが、子どもが参加するワークショップでゴミを触りたくないという参加者が多いかもしれないと石にしました。好きな石を選んでもらい絵を描き、描いた石を亀岡市をかたどったマップに置いてもらって、自分たちだけの亀岡のマップを作っています。このマップを見て亀岡を巡ってくれるといいなと。」

今回のワークショップで使用した画材は全て巡り堂から提供いただいた。みずのき美術館(亀岡市北町)と家財整理事業を行う一般社団法人ALL JAPAN TRADINGとが、2022年から共同で取り組む画材循環プロジェクトだ。不要になった画材を再生し、必要な人のもとへ渡している。亀岡で進む循環の実践に、「GURU LAB」のワークショップも重なり合い、循環の輪に広がりが生まれた。

空間に広がる“霧”の演出

目線を少し上げると、羽衣のような透け感のある布が天井を飾っている。会場の空間デザイン班のリーダー岡万葉さん(空間デザインコース|3年生)に話を伺った。「全てのフロアの天井に、霧をイメージした布を張り巡らせています。亀岡は霧で有名なので、水の循環というのを空間に取り入れました。霧は住んでいる人にとっては洗濯物が干せない等のネガティブなイメージもある一方で、市外から来た人から見れば魅力的な一面もあります。せっかくなら、ネガティブなイメージを払拭して霧の魅力を知ってほしくて。霧に包まれながらワークショップをやっていただけたら、という願いを込めて作りました。」また、フロアごとに「霧」の表現を変えている。「水滴が混ざったような霧」、「薄霧」、「濃霧」と形状を変えることで、その時々で様々な形に変化する美しい霧に魅力を感じてもらえるよう工夫した。会場がひんやりと心地よいのもこういう空間演出から来ているのかもしれない。

初めての会場での広報の挑戦

毎年授業として行ってきた亀岡ゼミ。今年はいままで使ったことがなかった会場でイベントを開催したが、地元の方の来場が多いことに驚いた。広報はどのようにしたのだろうか。「まず亀岡市役所の職員にお話を伺い、情報収集を行いました。」と広報班の高島瑠々さん(空間デザインコース|3年生)は話す。「亀岡駅周辺を歩いて人の流れや街の雰囲気、掲示物の場所をリサーチしました。人口流出について考える中で、今回のイベントでは特に10代〜20代に足を運んでもらいたいという思いがありました。当日は多くの来場者で賑わった一方で、自分が期待していた若い世代の参加はごくわずかで、これが現実なんだと悔しさを感じました。」ターゲット層の来客は少なかったかもしれないが、当日はファミリー層を中心に大盛況だった。亀岡市と協力し市民に直接情報が届く公式LINE配信や市内の高校へのチラシの配架も効果的だったようだ。

受付で渡されたチラシを見てみると、魚のイラストに目が止まった。この魚はストーンアートで描いた「アユモドキ」で国の天然記念物にも指定されている。亀岡の自然環境のシンボルとなっている魚だ。メインビジュアルに、このアユモドキと、イベント名の「GURU LAB」をテーマの「巡る」に合わせて手描きでロゴを描いたり、ワークショップの内容をキャッチーなイラストで表現したりと、配色や素材のレイアウトをメンバーで分担して制作した。会場のロゴの色とよく馴染んで環境循環をテーマにしたイベントということが伝わってくる。

地元食材を活かした「トマトかき氷」

会場地下1階ではかき氷を販売していた。壁のない外と繋がった地下1階は近くに川が流れていて、心なしか涼しく感じる。亀岡産のトマトを使った瑞々しいかき氷をいただいた。完熟トマトの凝縮された甘みが冷たい氷に染み込んで美味しい。「トマトのかき氷は初めて!」「美味しい!」とお客さんの反応も上々だ。

かき氷・景品作り班の南部咲永さん(空間デザインコース|3年生)にかき氷のことを紹介してもらった。「丹波亀吾郎の辰巳雄基さんに亀岡のトマトを使いたいと相談したところ、亀岡市の旭町で活動されているめぐる農園さんを紹介していただきました。「赤いトマトは味が濃くて、黄色はフルーティーで冷えると甘みが増す品種なんです。完熟だから割れているだけで、甘みが強く、とても美味しい。トマトは今が旬だから体にもいいんです。」レシピはメンバーと相談して、家で試作を重ねた。大学内にはキッチンがないため、亀吾郎の工房を貸してもらい、自分たちの作ったシロップを辰巳さんに味見してもらって完成させた。

今回、学生がフィールドワークで訪れ、協力いただいた地域の方達の存在も大きい。2022年から農園を始めた溝口さん夫婦の営むめぐる農園(亀岡市旭町)は、亀岡の風土を活かし、無農薬・無化学肥料で育てた路地野菜を年間100種類も育てている。かき氷のトマトもこの時期大量に採れる中、熟しきって割れてしまったり形状が規格外のものを提供いただいた。

こちらの農園を紹介してくれたのが、亀岡の旬の食材で作るお菓子を提供する丹波亀吾郎(亀岡市旭町)の店主辰巳さんだ。亀岡の新銘菓「かめやき」が名物で、かめおか霧の芸術祭も立ち上げ当時から関わる本学の卒業生でもある。「授業外での活動にどんどん興味を持って進出してくれたら面白くなる。大学を卒業して、亀岡に移住して来る人も多いんです。」

循環から広がる住民との関わり

会場で動き回る学生たちを見守っている担当教員の安川雄基先生にも話を伺った。「毎年この時期に亀岡ゼミでイベントをしてきましたが、今回は初めての会場だったこともあり、グラフィックに力を入れて広報チームも頑張ってくれました。今までは高校生や若い世代に来てもらえないのが課題だったのですが、今回は高校生や大人だけで参加してくださる方も中にはいて、これまでの経験を活かしながら新しいイベントができたと思います。」

本学は10学科24コースと、専門的に学べる学科がある。その中でも、空間デザインコースは、それらを総合的に学び、デザイン専攻の芸大生としてモノを作り上げる力が前提にあるからこそ、このようなイベントを実践できる。

地域や社会に対して、どのようにクリエイティブを使って課題を解決していくかということを学べる学科であるという。「いかにコミュニティに入っていくかを学ぶことがこの学科の目標に近いです。場所を作る力があるから、人を呼べたり、いろんな人に協力してもらえます。ただ企画するだけだとなかなか入り込めないので、そこのバランスはすごくいい学科だと思います。」

このような地域をあげた学生のイベントが開催できた背景には、亀岡市と京都芸術大学のつながりがある。2018年に空間演出デザイン学科で「かめおか霧の芸術祭」の拠点となる古民家を活用したKIRI CAFEの改修に協力したことに始まり、霧の芸術祭のイベント運営に協力している。

2024年には京都芸術大学と「連携・協力に関する協定」を締結し、同市が進める環境先進都市の実現のため、亀岡市環境プロモーションセンター(Circular Kameoka Lab)が開設された。

内装や什器を本校の服部滋樹教授らが担当し、家具などは、廃校の備品を用いて制作されている。今回のイベントも亀岡市からCircular Kameoka Labを会場として提供してもらった。

文化芸術に力を入れる亀岡市と本学、そして地域の人の取り組みが、学生のイベントでつながり、新しい循環が生まれている。2026年の秋には緑化フェアが亀岡市、南丹市、京丹波町の2市1町を舞台に開催が決まっている。さらなる本学との連携が予定され、学生が実践的にソーシャルデザインを学べる機会が増えていくことが今後も期待される。

(文=丸山文絵)

 

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