7月4日(金)から7月13日(日)まで、大学院芸術研究科芸術専攻(修士課程)2年生による作品展「SPURT 2025」が京都芸術大学内にあるギャルリ・オーブにて開催されました。
本展は修了制作の中間発表として位置づけられ、芸術専攻修士課程2年生42名の作品が展示されました。会期中の7月8日にはさまざまな分野の先生やゲストを招いて講評会も行われました。

修士1年生時に開催されたHOP展では「芽生え」をコンセプトとしていた一方、今回のSPURT展では芽を間引き、そこから得た経験や失敗も含めて、成長の糧にする」ということをコンセプトとしています。
この記事では実際に講評会に潜入し、先生や意見をもらっていた学生に取材した内容をお届けします!
修了展を見据え、挑戦できる場
講評会では、学生自身の作品の前で先生やゲストと1対1の対話形式で講評が行われます。
周りを見渡すと各所で学生が講評を受けていて、その表情は真剣そのもの。しかし、時折先生との笑い声も聞こえてきて、緊張しすぎずに講評を受けられるとてもいい形式だと感じました。
実際に講評を受けた学生からは「とてもいいアドバイスをもらえましたし、楽しかったです」といった声も。また、先生方の意見を一生懸命メモに取っている学生の姿や「家に帰ってから整理し、自身が次のステップに進めそうかをじっくり考えます」といった意気込みを聞くこともできました。




「本展は修了展に向けて、失敗できる最後のチャンスだと学生たちに話しています」
そう話してくれたのは、講評会に参加していた大学院芸術研究科芸術専攻長の竹内万里子先生。
「この時点で完成度だけを求めると守りに入っちゃうんですよね。もちろん作品の完成度は高めなければいけません。一方で、修了展までに試したいことや悩んでいることを試すことも大切。我々からのフィードバックで軌道修正を図ることができる。なので、これで満足するのではなく自分の限界から出てこようとする気合の入った学生が多いですね」
実際に学生からも、まだ完成に至っていないため、修了展までにどれだけ完成度を高めていくかを見極め、さらにブラッシュアップをしていくという声を聞きました。このSPURT展は学生が試行できる「中間地点」であるのだと、改めて感じました。

グループ展の難しさと学び
今回の展示では3人の全体リーダーが中心となり、作品の配置や照明の位置を決めるゾーニングやポスター制作、全体会議の進行など、会場全体の調整を行いました。
実際に全体リーダーを務めた永山可奈子さん、ヴィオラ・ニコラスさん、則包怜音さん。
今回は講評会の会場にいた、永山さんとニコラスさんにお話を伺いました。
永山さん自身はキュレーションを専門としており、制作を行っていません。その分、今回の展示では、他の学生たちの制作現場をあまり見ることがなかったそう。だからこそ展示における安全性や実現性を客観的に捉えることができたと話します。

永山さん:「ゾーニングをしていて、個人展とグループ展の違いをどれだけ作家が意識できるのかは難しい点だと思いました。限られたスペースで、照明や作品の位置がうまくいかず不都合がいろいろ生じていく中で、折り合いをつけながら自分の作品をよりよく見せて、グループ展にフィットさせるように意識する必要があると思っています。これから先もグループ展はあるので、距離感を掴めると表現の幅だけではなく展示の仕方の幅も広がると思います」



角の暗室を使い、流れを意識した展示をしていたニコラスさん。
ニコラスさんは実際に学生たちの制作現場で作品の意図などを聞きながらゾーニングの調整を進めました。

ニコラスさん:「リーダーを務める中で、みんなから信頼を寄せてもらえたのが嬉しく感じました。その分、みんなの信頼に応えてベストを尽くしたい気持ちが強くありました。ただ最初の展示プランと最終的な展示プランが変わったり、ゾーニングに不満を感じている学生がいたり、反省点も多かったです。また機会があれば、よりよい方法を探っていきたいと思います」
お二人の言葉からグループ展ならではの難しさがひしひしと伝わってきました。将来、個展だけでなく、グループ展にも関わるであろう学生にとってこの経験は作品づくりだけでなく、展示づくりにおいても成長ができる貴重な場であると感じました。

ダイナミックな作品が見られた今回のSPURT展。空間を含めて作品とみなすインスタレーション作品が多いと永山さんは語ってくれました。
なぜ自身の専攻分野の境界を越えていく作品が多いのか。実は学生たちの制作現場の変化が大きく関わっていました。



新アトリエ「CAPS」がもたらした変化
この春、人間館実習棟1フロアの改修工事を経て、芸術実践領域の専用アトリエ「CAPS」が完成しました。
CAPSはさまざまな分野の学生たちが1フロアに集まっているため、お互いの作品について話しあったり、技法を教えあったりするなど、お互いに刺激しあい視野を広げられる制作の場になっているのです。
CAPSについて、竹内先生はこう語ります。
竹内先生:「異なる分野のクリエイターが同じ場所を使うのは、他の美術系の大学でもほとんどないはずです。それぞれの専門性は大事ですが、同時にこれからの時代のアーティストはいろんな知見を有したり、他分野とコラボレーションしていくのが当たり前になると予想されます。CAPSが完成してから少ししか経っていませんが、SPURT展では異なる分野のクリエイターたちが一緒に場を作っていく空気を感じられると思います」
CAPSは、今年の夏には廊下の照明や壁を実際にプロが使っているものに変更し、展示も実験的に行える場にする予定です。学生たちがアーティストとしてデビューした際、プロ仕様のものを使っていた方がいいと未来のアーティスト育成に向けた環境作りに熱意を感じます。
制作だけでなく、展示も日々実験的に行えるCAPS。そんなクリエイターにとって最上級の環境であるCAPSで制作をする学生たちが、今後どのような成長をして活躍をしていくのか目が離せません!
“中間地点”で見えた成長の兆し

今回のSPURT展は修了展までの「中間地点」だからこそ、完成に向けてブラッシュアップさせようという学生の熱意で溢れていました。まさにラストスパートにむけて学生たちが試行錯誤する場であったと感じます。他分野の先生方の講評を受けるという貴重な機会を経て、学生たちがどこを改善し、どう進化させて修了展に臨むのか今からとても楽しみです!



(文=呉谷夏生 撮影=Oto Hanada ※写真=広報課)
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