COLUMN2024.09.24

教育

「芸術作品」/「日用品」?

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  • 京都芸術大学 広報課

ヨーロッパが浮世絵を「発見」したきっかけは、輸出された陶磁器の包み紙として使われていた『北斎漫画』だった。こんな話を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。実際のところ、包み紙として浮世絵が使われていたという情報の根拠は見つかっていません。仕切り板として本の状態の『北斎漫画』が使用されたことはありましたが、珍しいケースだったようです。しかし、当時の日本では使い捨て同然だった浮世絵が、実は芸術作品として優れたものであったという事象を語る時の例としてしばしば便利に使われるエピソードです。

確かに、江戸時代において、ほとんどの浮世絵は消耗品として扱われていました。作られた数と残された数を比べれば、前者が圧倒的に多いでしょう。欧米が芸術作品として扱い、またその価値観が翻って日本へ影響を与えたことで、現代の私たちは丁寧に保存された浮世絵を博物館や図書館でみることができるのです。

一方で、私はどうしても日用品としての浮世絵のありように心をひかれます。壁や柱に貼って眺めたり、絵双六として遊んだり、厄除けとして飾ったり。その痕跡をモノとしての浮世絵の中に見つけたとき、その周りに存在していた人の姿が浮かぶのです。

例えば、子ども向けの絵本には、登場人物の顔に墨の落書きがあったりします。何人もの人が繰り返し読んだ人気の本の場合、ページをめくるときに必ず触る左下の部分が黒く汚れていたり、擦れていたりすることもあります。写真は私が持っている合巻(シリーズものの絵入読み物)をうつしたものです。よく読まれた痕跡がしっかり残っていますよね。

ある人にとっては暮らしの一部として何気なくあるものが、別の人にとっては大切に扱うべき特別なものになる。浮世絵の面白さはその両面にあると思います。

 

※写真は、曲亭馬琴作『新編金瓶梅』第九集、天保13年(1842)刊。ちなみに内容はかなりおどろおどろしいものです。どんな人が読んでいたのでしょうか。

 

芸術学科 石上阿希

出展:『雲母』芸術時間 2024年秋号

 

 

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