COLUMN2024.11.28

教育

「1997年冬に見た光景」

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  • 京都芸術大学 広報課

これまでの人生の中で様々な光景が印象に残っている。特に海外で目にするものはとても刺激的で、それらは私を成長させてくれる糧を与えてくれた。何よりも忘れ難いのは人生で初めての渡航。今から27年前の1997年、私が21歳の時に訪れたスペインである。

初めての海外旅行、言葉も喋れずリュックサック一つで飛行機に飛び乗った。目的はリアリズム作家の大家アントニオ・ロペス・ガルシアの作品を見るためであった。もし今学生が21歳で同じことをしたいと聞けば引き留めるだろう。当時も今もスペインはそれほど治安の良い場所ではないからだ。しかしなぜか当時ロペスには一人で会いに行かなくては!と意気込んでいた。ロペスは今でも好きな作家だが、その時の私にとっては神様にでも会いに行く気分だったのだろう。しかし結局ロペスの作品には出会うことができなかった。完全なリサーチ不足である。

それでも私にとっては十分過ぎるほど刺激的な三週間であった。飛行機のトラブル、身振り手振りでのホテル探し、毎日パンだけ齧って歩き回ったことなどを昨日のことのように思い出す。そして、プラド美術館でスルバランを見て感激し、ボスの「快楽の園」が貸出中でガッカリして、ゴヤの力強い作品に惹かれたことも鮮明に覚えている。日本の美術館との違いに圧倒されていたが、何より違いを感じたのは陽の光の強さだった。冬だったのでそれほど強い光ではなかったはずだが、強烈なコントラストを感じた。カラヴァッジオの劇的な陰影は誇張ではなく、本当にこの光が織りなすものだと実感することができた。

マドリードの後、トレドやセビーリャ、バルセロナなども回った。その土地土地で出会った作品、空気、光が偉大な作品を作り出したのだなと感じていた。きっと今スペインを訪れると当時ほどの感動はないのかもしれない。それでも21歳の私が感じたものは現在の私にも通じており、ロペスを見たいと強く感じ行動に移した当時の私に感謝をしている。

 

美術科 大路 誠

出展:『雲母』芸術時間 2024年冬号

 

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