INTERVIEW2024.07.26

京都

KYOTO T5 職人interview #72 京こま|感覚を頼りに新たなスタートを

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  • 京都芸術大学 広報課

伝統工芸の本当の姿に光を当て、「かわいい伝統」「かっこいい伝統」「おしゃれな伝統」を世界に持っていく京都伝統文化イノベーション研究センター(T5)が発信するコラムを瓜生通信にてお届けします。

今回は、「職人interview 京こま|感覚を頼りに新たなスタートを」をぜひご覧ください。

 

京野菜やフルーツ、豆粒よりも小さなサイズの京こまなど、自分用にも、思わず誰かにも贈りたくなるような、可愛らしく、遊び心ある京こまを制作されている「京こま 雀休」さん。
今回は一度途絶えてしまった京こまを復活させた三代目 中村佳之さんにお話を伺いました。
#中京区 #京こま

 

記憶と感覚を頼りに

──創業は何年目でいらっしゃいますか。

京こまは一度製造が途絶えた時期があるので、私と父の間が23年間ほど空いてるんです。なので、平成14年が私のスタートになります。
新たな雀休のスタートですね。

──中村さんは何代目でいらっしゃいますか。

分かる範囲だと、三代目になります。

──雀休さん自体はもともといつからやっていらっしゃったんですか?

正式な創業は分からないんですけども、祖母がやってはったっていうのは記憶にあるんです。私が生まれて物心ついた時から京こまづくりをやってはったので。

──お仕事を始めたきっかけを教えていただけますか。

祖母も父親もまだ仕事をしてはった時代、1980年代ぐらいに京こまが売れなくなってきたんですね。それで京こまつくりが一旦途切れてしまって、ほぼ廃業の状態だったんです。
父親も転職して、もう我が家から京こまのことは全て忘れ去られていったんです。
私も学校を卒業して就職して、会社に行っていたのですが、ちょうど35歳ぐらいの時に思い切って京こまづくりを再びはじめました。

はじめたときは、京こま業界がどうなっているのか全く知らなかったし、誰か他の方が京都で生産してしているのかどうか。それも分からない状態で。
でも、就職して仕事をしてる合間にちょっと作ってみると、やっぱり非常に覚えていたんですね、手が。こまが綺麗にできたんです。
「まだやっぱり覚えてるもんやな」っていうのをそのとき自分で実感して。つくったものをちょっと友達にあげたりして、2年間ぐらい続けていた時期があるんです。会社に勤めながら、たまにね。

そうやっているうちに、だんだん綺麗にできてくると、これは売れるかなと思ったりして。商売にしてこれで食べていくのは難しいだろうとは思っていたんですけども、まずはちょっと1軒、お店に置かせてもらおうかなと思ってね。
会社に入っていた頃ですけれども、お土産屋さんなんかを見つけてちょっと置いてもらったらそんなには売れなかったんですけども、1.2個売れて、まだ買わはる人もいるんや、じゃあ、今の仕事を辞めてこまを仕事にしようかなって。

やっぱり、かなり悩む部分はあったんですけど、昔うちがやってはった仕事っていうのもあったし、今変わらへんかったら、もうこの先も自分は転職しないだろうなというのもあって。相当悩んだんですけど、もう、ここまで思いついてやろうかなと思ってるんやし、やってみようかなって。
その代わり、一般社会にはもう帰れへんかなという決断をして。
イチかバチかといったら何かね、賭け事みたいですけども、どっちにしても一生懸命仕事をしないといけないのなら、自分の仕事をやってみようかなと思って、それで会社を辞めてこの仕事に入りました。

──では、再スタートのときは独学というか、覚えている感覚だけではじめられたんですか?

そうです。
私が小学生の時に一度京こま屋さんはやめてしまっていたんですけど、いくつかつくったことはあって、家に忘れた頃に注文が入ると、父親は他の会社に勤めていたので、母親に「あんた作りな」って言われることがあって、大丈夫なのかなと思いながらもいくつかつくって、ちょっと納品したら、それなりにお客さんも息子がつくってるっていうことには気付かず、売りに出されていたんですね。
そのとき、店に並んでいる自分の商品を見て、非常に嬉しく感じたというのが心の中に残っていて。だから、自分が作ったものが、お店に並ぶイメージは、中学生ぐらいの時にはもう持っていましたね。

──当時、つくり方を教わって、1人で最初から最後までつくれるようになるまでどれくらいかかりましたか?

物心ついた頃にはいくつかつくっていたので、小学生の時の5年間ぐらいかもしれないですね。そんなに数はつくっていないかもしれないですけど、材料もあるし、うちの人もつくってはるし、ちょっとやってみたっていうのはありましたね。

 

気持ちを崩さないテンポで

──つくる工程についてお話いただけますか?

はい、まず材料をちょっと用意する部分があって、芯の棒を削るっていうところからスタートします。どんなこまにも芯が入っていて、色が塗ってあるやつはもう、今はほかのところで作ってもらっていて、塗りまでしてもらっているんですけども、こういう裸の芯はうちでつくっています。

芯は竹ひごであったり、木材のものであったりするんですけども、先端をちょっと尖らす「削り」という作業があるんですね。
たまにこのお店の前でもグラインダーという回転するやすりを使って削ることがあります

 

そうして、たくさん用意したその芯に、次は布を巻いていきます。
布を巻くというのが京こまの大きな特徴のひとつで、今、店内にあるこまは、ほとんどが木綿を材料としています。色染めをした木綿の紐になります。

巻きかけのやつを見せましょうか。

──ありがとうございます。

 

周りに巻いてあるものは一見すると紙のようですけども、実際、木綿なんです。
要はね糸が糊で引っ付いている状態なんですね。
糸を引っ張っても、セーターの糸が抜けていくみたいな感じで、0になりはしないんです。
こういう状態でぴたっと糊付けをするとこういう帯状になると。

最初の巻はじめに2センチほど糊を付けて、後は手でくるくるとひたすら巻いていきます。
大体、直径3センチ、4メートル程の長さで巻いていきます。
こまというと、木をガリガリと削って、音もするし、木くずも出たりして、割と大胆に実演できるんですけどね。
京こまは地味な作業なんですけど、 出来栄えは派手なものができます。

 

平紐はかなりきつく締めてきています。
やっぱり、この芯の部分を巻くっていうのが一番難しいと思います。
芯の部分が緩いと巻いてる最中にすぽっと抜けてしまうので、かなめの部分ですね。

続いて糊付けをしていきます。
こまは割と断面が平らな方が回るんですけど、揺れた時に、底が一番に付くと止まってしまうので、少し断面をVの字にした方が粘り強いこまになる。
ちょっと角度を付けた方がこまらしさもあるし、最後まで頑張ってくれるこまになるんです。重心が上になり過ぎると、回すのに力がいるのとバランスが取りにくいので、ここも結構難しい作業だと思います。目で見て揃えていくんです。

──凄く細かい作業ですね。

最初はね、なかなかうまく回らないこともよくありました。
それはそれで売ってたんですけどね。完成品として。
でも、徐々に慣れてくると分かってくるようになってきたっていうのがあってね。

 

このように形を整えてから、塗りをしていきます。
昔は糊で塗りをしていたんですけども、そうすると、結構害虫にやられてしまったりとか、色が変色しやすかったりもするんです。
なので、今はもうニスを塗ったり、お箸置きにする場合は食用ウレタンを塗ったり。
イヤリングにする場合も、ウレタンにしたりとか、上に塗る材料を変えることによって、ちょっと商品幅を広げられました。

──何回か塗るんですか。

そうですね。物によりますけど、3.4回。多い物で5回ぐらいとかですね。
筆で塗って、乾かして、重ね塗りをして、出来上がりです。
間に金箔を付けたり、絵付をしたりするものもあったりします。

──完成するまで結構時間はかかりますか。

1個ずつつくる訳ではなく、一度に約10個ずつ作ります。
そうすると、1週間ぐらいはかかりますね。
100個ぐらいになってくると、ちょっとね、気持ちがもたないですね。
10個ずつつくって、何回かやった方が何となくテンポがいいんですね。
つくっていくときの気持ちが大切ですからね。

──木綿の染色っていうのはどこに頼まれているんですか。

それも木綿と同じところでやってもらってます。
京こまは15色っていうのが基本色なんですね。
なので、特殊な色についてはほとんどうちの方で色を付けています。

絵付けをするのと同じように上に色を塗る場合もあります。
その方があれこれ言わずに、自分のところでできるので。
最初の方はお茶にちょっと漬けてみたりもして。
草木染とかもあるじゃないですか、番茶の茶色みたいな感じというのが出したかったっていうのがあってね、煮たり炊いたりもして。

──凄い試行錯誤されて。

そうですね。
でも、最終的にはやっぱりおもちゃになるので、まず手に持って回してもらってからでないと始まらない部分っていうのがあるんですね。
こまは縁起がよくて、物事がうまく回っていきますとか、芯を貫くとか、輪が広がるとか。そういうことを感じながら回してるうちにちょっと贈り物なんかに使おうかなという風になってもらえるのが、理想的な流れなので、その辺を目標として日頃ちゃんと説明もするようにしています。

──色合いについてお聞きしたいんですけど、一つのこまに使う色の数って決まっているんですか。

そうですね。大体7色から9色ぐらいっていうのが多いと思います。

──色の位置に決まりはありますか。

地域や季節によって、違いもありますが、総合的に考えたら、やっぱり赤い色が外側に来てる方が皆さん好まれるって言われます。結構ヒーローの色も赤が多かったりするし、男女ともに人気が出るっていうのと、やっぱり華やかさがあるんだと思います。

 

生活必需品ではないからこそ

 

──種類がたくさんあるなと思いながら店内を見させていただいていたんですけど、特に小さいこまはどうやって作っていらっしゃるんですか。
普通のこまを作るのと結構違いがあったりしますか。

そうですね、やり方は結果的には一緒なんです。
ただ、ちょっとやりにくいというのはありますよ。
世の中には結構ちっちゃい物好きな人も、小さい方がいいといいはる人もいるんですね。

──小さいこまは何センチぐらいなんですか。

これ(下の写真で右から2番目)はね。大体ね8ミリぐらいだと思います。
で、こっち(下の写真で一番右)は3ミリから4ミリぐらいですね。

──これも全部こう巻いて

うん。同じ。

 

──逆に一番大きいこまとかってありますか。

ありますよ。

──大きいのってどれくらい作るのに時間かかるんですか。

これはもう13年ぐらい前に作って、まだ完成してないような感じなんですね。
ちょうど、12年前の寅年に寅柄で作ったんですね。
で、寅年のお正月にデパートで売り出そうと思って。

──こういう小さいこまとか大きいこまは、お客様からこういうのを作ってくださいって言われて作ってらっしゃるんですか。

うちの方で作って、それを見て、ほしいという方に買ってもらうような感じですね。

──イヤリングやピアスにするというアイデアはどこからきたんですか。

お客さんの声を聞いてつくっています。
あと、よく「耳かきに付いてたらいいのに」とか言われることもあります。
何かにつけるっていうのは一番簡単なことではあるんですけどね。そのものを買って、そこにぶら下がるようにすればいいっていう感じはするのでね。もう、それは自分で付けてもらってもいいかなと。
でも、耳をかきにくい耳かきを作ってもいいかもしれないですよね。
やたら上についているこまがデカいとか。
そういう、どうしようもないものを作っていきたいというのはありますね。
使いにくいみたいな。でもこまになる。それでいいと思うんですね。
おもちゃとして使える部分というのもあるし。

──お客様の声はどのように聞いていらっしゃいますか。

やっぱり、実演販売というのはよく行っています。
うちの父親もそうだったんですけども、職人はなかなか外に出ないというのが、私もスタートした時っていうのはお店に置かしてもらって、それを売れていくのを見てるって言うか。作ることしかできなかったんです。

でも、それではなかなかものが売れていかなかったので、お店でお客さんに立ち止まってもらえるようにと思ってPOPを作ったり、ディスプレーを工夫したりしたんですけど、それほど動きがなくて。
スタートはもうギリギリの生活ですからね、どうしようかなと思って、このままやったら今月やばいなとか思いながらね。それで、実演をさせてもらおうと思ってね。
ちょっとのスペースでも実際につくりながらやらせてもらうとお客さんとお話ができて、ニーズも聞けるし、コマの説明もできるしっていうのがあって、それが大事だなと思って。

そうしているうちに、色々な百貨店の方からもやってみないかと声を掛けてもらえるようになって、それで結構行くようになったんです。お客さんとのコミュニケーションの中でも「こんなんできへんか」とか、「こうしたらいいのに」とか色々ニーズも聞けるようになって。

無理なことを言わはるっていう部分が大事なんですね。
それを何とかできるようにしようと思ってやっていくことが大切。
うちの場合は何かの儀式とか決まった用途とかあるものではないので、やっぱり、お客さんのニーズをつかんでいかないといけないっていう部分があるんですね。
同じ伝統産業の中でも決まった形のもので便利であるとか、使い心地がいいとかってものではなくてですね。基本的にはそんなに要らないものなんです。
だから、いかにそのお客さんがちょっと欲しいなって関心を持ってもらえるかっていう部分が大事な伝統産業の部類になるんです。
やっぱり、お客さんの声っていうのは重要で、ちょっとできなさそうなことを言われたときこそ、道が広がっていく感じがするので、なるべくそういう声は大切にしてます。

 

横のつながりも大切に

──職人さん同士でのコラボとかもされているっていうのを見かけて、そういうコラボはどういう経緯ですることになったのですか。

そうですね。職人同士で関わっていく中で、自分で作っているこまの中でこんな風にしたいとかいうのがあるんですね。
元々何かこうコラボレーションできないかという観点で見ているので。
一番最初は私自身の要望で平井さんという職人さんに水引を付けてもらいました。
こまは縁起がいいので、さらにその上に縁起の良い水引の鶴と松竹梅を乗せてもらって。

 

──お客さんとのつながりももちろんですが、職人さんとの横のつながりもあって、素敵だなと思います。

そうですね。やっぱり、それはありますね。
例えば、百人一首の職人さんとコラボレーションしたり、友禅和紙の職人さんとコラボをして、花柄の和紙を上に貼ったり。金箔は堀金箔さんという方にお願いしました。

 

人と人との距離を縮める道具

──中村さんが思う京こまの一番の魅力はどこですか。

そうですね、人を笑わせることができるっていう部分はいいなと。
結構難しい顔をしてデパートなんかでじっと見ている人でも、良かったら回してみてくださいねって言ったらニコッと笑って、心がグッと打ち解けやすくなる。
コミュニケーションの道具になるので、人と人との距離を縮める、コミュニケーションを取れる道具という風な気持ちでつくっています。

──京こまはつくる工程がほとんど手作業ですが、手仕事の魅力というか、手仕事をする上で大切にされてることがあったら教えていただけますか。

機械でやると1個2個っていうのはおろそかになりがちな部分もあるかもしれないですけど、やっぱり、手仕事でやると本当に一つずつしかでき上がっていかないし、逆に一つはこんな形で一つはこんな色とか、そういう細かいものづくりっていうのができるんですね。
たぶん機械でつくったら、一つのこまはたくさんできるけれども、一種類だけ並んでいても面白さはないかもしれないです。
手仕事であるっていうのは、やっぱり、バリエーションというか小さな要望にも応えやすいし、それは苦にもならないですし、そういう良さがあるのかなと。
今は結構、誰がどういうふうにどんな思いで作ってはるかっていうのが重要視される時代であるのかなと思います。
作り手が見える方が喜ばれるし、それが付加価値の部分でもあるのかなというのは思ってますね。

──京こまづくりを続けてきたことで見えてきたことはありますか。

最初は本当にモノだけを作るという感覚でやっていたというのがスタートの時だったと思います。
やっぱり、試行錯誤というか、どうしたらいいのかなと考えてるうちに、コミュニケーションが大切だと気が付いて、人が喜んでくれるようにつくるというのが大事なんだなということが分かってきました。
コミュニケーションの中で感じることを形にしていく大切さっていうのが、回数を重ねるごとに分かってくることなのかもしれないですね。

──今後の展望は何かありますか。

この6月に一回展覧会というのをやってみたんですね。京都ではなくて福岡の博多にアジア美術館というところがあって。
四季ごとのテーマに合わせて、夏だったら、水辺があって、金魚が泳いでというような、こまを用いて一つの世界を作っていきたいという部分はありますね。
シーンを作っていきたいというか。その一つのこまの集まりで人に伝えたいことを伝えるっていうか。
音楽のように何か心に響くようなこまの世界を作っていきたいという思いでやってます。

 

 

職人interview
#72
京こま 雀休
中村佳之

文:
工藤鈴音(クリエイティブライティングコース)

撮影:
鈴木穂乃佳(基礎美術コース)

老舗モール 京こま 雀休 HP:
https://www.shinise.ne.jp/jakkyu

 

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