SPECIAL TOPIC2025.03.12

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新たな表現が息づく場所 ― 2024年度 京都芸術大学卒業展・大学院修了展 学長賞・大学院賞

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  • 京都芸術大学 広報課
  • 高橋 保世

卒業展・大学院修了展では、各学科ごとに最も優秀な作品を「学長賞」「大学院賞」として授与しています。それでは、学科ごとに2024年度の受賞作品をご紹介いたします。

美術工芸学科:池田 紫音『妖怪博物館』

他を圧倒する物量と繊細にして大胆に技法材料を巧みに使いこなし、丁寧なリサーチに裏付けされた作り込みを一人の人間がここまで表現しきったことは驚嘆に値する。

そして平面、立体、インスタレーションとジャンルを超えた表現は本学の美術工芸学科の掲げる領域横断の思想を体現した作品として象徴的なものとして本学で後世に語り継がれるものと相応しき作品群である。よくぞ表現しきった。お見事、天晴である。(岩泉 慧 専任講師)

マンガ学科:林 優里『Color Lens』

実体験・自己分析からテーマを「偏見=色眼鏡」とした本作。その課題に対して「視点や意識を変える」ことへの重要性をストーリーの中にしっかり落とし込んでいる。作画のクォリティも極めて高く、マンガという表現形式によって鑑賞者が楽しみながらメッセージを実感することができる。芸術を志向する学生として「思考力」「表現力」が傑出した秀作です。(かわのいちろう 教授)

キャラクターデザイン学科:CHOI SOOAH『Terry&Bow』

アニメーションは言語です。国境を越え、人種を越え、言葉さえも軽々と越えていく。とても曖昧ですが豊かな言語です。そして、アニメーションの魅力は絵が動くというシンプルな感動です。この作品は動きによる言語の力を持っています。観ているといつも観ているアニメーションの様に当たり前に観てしまいます。しかし、これは学生作品であり、ひとりで完成させた作品です。普通に見えてしまう事がこの作品のクオリティの高さを物語っています。(野村誠司     教授)(写真=学科提供)

情報デザイン学科:秋山 光『ウミウシワンダー』

詳細なリサーチを経てウミウシの生態を深く考察した。その情報をキャラクター化しウミウシへの興味を誘導する工夫が光った。特徴をファッションや性格づけに反映するアイデアも秀逸で、デザイン能力が存分に発揮されていた。立体造形は精巧で美しく、細部までこだわった表現力と探究心が作品の完成度を高めた。さらにグッズや映像など様々な媒体へと情報を超域展開した。学科の学びと作者の個性がユニークに調和した大作である。(山下光恵 准教授)

優秀賞

情報デザイン学科 クロステックデザインコース:森 一樹『生活の断片的アーカイブス』(優秀賞)

※学長賞該当者なし。

プロダクトデザイン学科:柳生 海斗『不安定性に対する身体的同調性に着眼した出力度合いを表す感覚的インターフェースの制作的研究』

「問いを立てる」ことを学科指導方針としている中、人を中心とした「動きのデザイン」から始まり、運動共感、身体的同調性などを手掛かりに感覚的インターフェースを探究した研究である。その間の思考とトライアルの繰り返しは質・量ともに過去に類を見ないレベルであり、それを高い造形力とビジュアルスキルに加え、電子制御を用いて魅力的にまとめ上げた制作を高く評価。まさに学修の集大成として受賞に相応しい研究制作である。(時岡英互 教授)

空間演出デザイン学科:LI ZHENGDA『中国少数民族の苗族ろうけつ染めの継承』

日本を含む世界各地で伝統文化の衰退が深刻な問題となる中、本作品は、中国の少数民族・苗族に焦点を当てている。作者は2ヶ月間現地に滞在し、入念なリサーチを行いながら、伝統技法であるろうけつ染めを学び、ファッションアイテムに加え、映像や写真表現を通じて高いクオリティで作品を完成さている。伝統文化を現代にどう継承するか、また他文化との融合による新たな可能性を探り、多角的な視点から提案と探求を行った作品である。(伊藤 正浩 専任講師)

環境デザイン学科:藤井 志月『石積み再生集落』

幼少から石垣を偏愛する藤井さんは、縄文から人が住み吉野杉で栄えつつもダム建設に伴う地滑りで住民が離散し、斜面に石積が残るだけの川上村白屋地区を敷地に選定し、その集落の再生を試みている。石積を鍵とする4つの方針と6つの具体的プログラムによる段階的再生計画が精緻に設定され、それを貫く工法コードとしての「石積基礎」の差込が実物を伴い提案されていることで、景観・生活再生の「生」の鼓動が伝播し説得力を持つ。(小野 暁彦 教授)

映画学科:菅原 葵梨『銀河鉄道の夜明け』

作者は2011年3月の震災を秋田で経験した。その後、「サバイバーズ・ギルト」の問題に関心を寄せ、心理学を学ぼうともしたというが、映画学科に在籍した最後の年に、こうして長年の懸案を小説へと鮮やかに昇華させてみせた。多くのひとの胸に届くであろう「読みやすさ」が魅力の小説だが、これは自伝ではない。読まれつつある小説が、同時にそれが書かれるに至ったプロセスとも重なる、そんなフィクションの知略めいた側面も注目に値する。(北小路隆志 教授)(写真=学科提供)

舞台芸術学科:石崎 美詞『銀河鉄道の夜-アルタイル版-』

演出助手の仕事は稽古場や劇場で人と人、役職と役職とをつなぐ地味で根気のいる仕事である。しかし有能な演出助手なくして高度な協働が求められるミュージカル公演は成立しない。石崎はミュージカルに関するスキルと知識、そして持ち前の人間力を総動員して『銀河鉄道の夜-アルタイル版』の成功に大きく貢献した。華やかな舞台公演は、石崎のような見事な縁の下の力持ちの上に成り立っているのだということを実感した。(平井愛子 教授)(写真=学科提供)

文芸表現学科:杠 葵衣(ユズリハ アオイ)『星を食べればいいじゃない』

宝塚音楽学校合格を目指す少女の奮闘を描いた劇映画脚本。タカラジェンヌに必要なのは「きらめき」であるという観点で、「きらめき」を持つ者と持たざる者の間で揺れ動く少女の葛藤を、リアルに残酷に積み上げることで、端正で上品、かつ奥行きと強度のある、これぞ「劇文学」を書きあげた。巧みなシャレードと魅力的なセリフ、チェーホフへのオマージュを感じさせる洗練されたモノローグ。これらの「きらめき」に拍手を送りたい。(山田隆道 教授)

アートプロデュース学科:秋本 麻帆『失われた右手、残された左手──『この世界の片隅に』における両手の象徴性──』

ときに鑑賞者の技量が問われる作品がある。漫画『この世界の片隅に』はそうした作品のひとつである。本論は、そのような本作を、ともすれば読み飛ばされかねないような細部に目を凝らし、漫画というメディア表現の固有性にも目を配りながら執念深く読み込んだ優れた作品論である。作家が絵に刻み込んだ豊穣な機微を、そこに立ち現れる登場人物たちの感情と感性の静かなざわめきを、筆者は見逃すことなく丁寧にすくいあげていく。鑑賞が作者/作品との協働によって「新たな作品」を生み出す営みになり得ることを教えてくれる力作である。(林田新 准教授)

こども芸術学科:小泉 愛海『せいかくやさん』

作者は、自らが大事にする「言葉で伝える」ことと学科での学びとを重ねた表現研究に取り組んだ。「◯◯やさん」というタイトルを持つそれぞれの紙芝居に登場するお店は、その性格を持つ登場人物の眼前に姿を表し、物語を驚きと共に展開させる。五つの組み合わせは、聞き手が自分にはどんなお店が現れるだろうかとふと思いを馳せる余白を演出し、さらには(紙)芝居特有の一回切りで幻のような手法の選択がこの表現を後押しする。(彦坂敏昭 教授)

歴史遺産学科:岩本 優希『繊維から視る野良着の考察』

本研究は農山漁村それぞれの地域で生産され用いられた野良着について、各地に残された野良着の生地を繊維レベルで丹念に観察し、比較、考察するものである。調査の結果、麻布として残されていたものでも藤布であることが糸の継ぎ方によって分かり、生産地域や交易範囲の再検証が必要であることを指摘した。本研究の調査手法は民俗博物館における聞き取り調査の不備を補完するものとしても期待できる。(溝邊悠介 専任講師)

大学院賞 美術工芸領域:中川 桃子『inside my pantropy』

大学院賞 情報デザイン・プロダクトデザイン:CHENG ZHIBIN『角人』

大学院賞 建築・環境デザイン:HOU KAIWEN『都市公共空間における「自由空間」の創造 ーシンプルで自由なコミュニティ空間の探求と実現ー』

 

 

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  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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