SPECIAL TOPIC2023.02.22

キャンパスを美術館に見立て約900点もの作品を展示。 ― 2022年度 京都芸術大学卒業展・大学院修了展

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  • 京都芸術大学 広報課

2022年度 京都芸術大学卒業展・大学院修了展が2022年2月4日(土)から12日(日)にかけて開催され、学部の4年間・大学院の2年間の集大成である卒業制作や研究成果が展示されました!

本学の卒業展・大学院修了展の会場は、大学生活を過ごしたキャンパス。80,000㎡を超える広大なキャンパス全体を“美術館”に見立て、キャンパスのいたる所に約900点もの作品が並びました。

ごあいさつ

卒業展・修了展のテーマ「芸術に何ができるだろう」は今回で3年目となりました。
このテーマでの開催をふりかえり、何ができたのかを考えてみました。
コロナ禍での人数と時間制限の設定にも関わらず、多くの方々から予約・来場があったこと。
そして、学生も制作時間や場所に制限がありながらも創り続けたこと。
さらにこの時期に発表するという「責任」と「勇気」を持って指導教員共々、卒業展・修了展に臨んだこと。
来場者の皆様、学生ともに「芸術だからできること」を今まで以上に感じた3年だったと思います。
今回のキービジュアルで表現するフレームを形どる「手」は正に来場者の方々と学生達の手だと感じています。
互いに新たな風景を枠取り、新たな可能性を創造できたことだと思っています。
学生最後の集大成としての本展を是非ご高覧いただければ幸いです。


卒展委員長 丸井栄二(情報デザイン学科教授)

卒業展・大学院修了展を「アートフェア」とみなし、展示作品を販売するのも京都芸術大学の卒業展の大きな特徴の一つ。
本学ではファインアート系の学生を中心に自身の作品に「価格を設定する」指導を行うなど、社会とアートを結ぶ教育を行っています。これらの取り組みは単なる作品売買が目的ではなく、学生が社会に出てからもアーティスト活動を続けられる基盤をつくることにあります。自身の作品の前で美術関係者とディスカッションを交わすことによって得られる“作品が売れた”、“作品に興味を持ってもらった”という経験は、学生にとって自分の作品が社会とつながっていく大きな実感となっています。


卒業展・大学院修了展では、各学科ごとに優秀な作品を「学長賞」「大学院賞」として授与しています。それでは、学科ごとに「学長賞」および「大学院賞」受賞作品をご紹介いたします。
 

美術工芸学科:服部亜美《信仰と痕跡》

撮影:顧剣亨


作者は、400年ものあいだ先祖の信仰を守り続けている人々の元を訪れ、1年以上の取材と撮影を続けてきた。「オラショ」の声の響きの中で「かくれキリシタン」の帳方の生活とそれを継承する人々の言葉が綴られ、そしていつ誰が刻んだか分からない十字の石が林の中に横たわっている。これらの3つの映像の中に身を投じた時、遠く離れた場所での出来事が“いま、ここ”へとこだまする。この作品は混沌の時代にある私たちの足元の少し先を照らす光なのである。(髙橋耕平 准教授)

 

マンガ学科:PN.しなぎれ『侵略者より』


本作はフィクション、創作物である。しかし読み進めるごとにその世界に引き込まれていく。それは物語を紡ぐ基本、キャラクターの性格付けと構成力の賜物である。
読者を物語の一員として感情移入させ、それでいて予想の上をいく展開、事柄を入れ込んでいるからである。さらにラストは読者の望む、こうなって欲しい、こうなったら嬉しいと言う期待も裏切ってはいない。卓越した画力と構成力で制作されたこの作品は作者の4年間の成長の証しであり、学長賞に相応しいものと言える。(細井雄二 特別教授)

 

キャラクターデザイン学科:ハーフヤード・ソフィア・ドミニク『すてきな羽だね、ケムシちゃん』


真っ直ぐな瞳でアニメーションを見つめ自分の想いに素直に従い、遠い国からやってきた少女は、この4年間で幼虫からサナギへとなった。溶ける理想への想いと固まる不安な気持ちの葛藤の中で挑み続けたミノの中。時に決断することを恐れ他に答えを求めた時もあった。自分の根にあるアニメーションとここで学んだアニメーションとを融合させて自ら出した答えでサナギは美しく羽化をした。そのステキな羽で大空へと舞い上がってほしい。(野村誠司 教授)

 

情報デザイン学科:岡田望『おとなりさん』


日々の出来事、辛さや喜び、それとどう向き合い、何を思い、他の誰かにどう伝えるか…。「参考文献も色々読みましたが、結局一番の研究資料は自分自身だったかも」と作者はいう。物語で、音楽で、そして絵と声でかたちにしていく。少しづつゆっくり、だが着実に。その真摯なアティチュードが「悲しみに流した涙はいつか、喜びの海になる」というシンプルなメッセージを、こんなにも胸に迫るものにしている。Small, Slow but steady。(岡村寛生 准教授)

 

情報デザイン学科 クロステックデザインコース:蛭田康介、坂東拓海『protorm*』


機能や縫製方法のこだわりに驚かされる。ベストが展示される空間デザインやブランドのグラフィックデザイン、ブックデザインにも驚かされる。購入希望者への流通方法も考えている。
しかし、実は、当たり前過ぎてこういったところには重きを置いていない。ベストが電動レールに吊るされフロントヤードとバックヤードを行き来しているが、バックヤードからフロントヤードに出てくる際に、ベスト以外に食器を洗うスポンジや丸められたビニール袋が吊るされて出てきた。2リットルのペットボトル6本をベストのポケットに強引に入れ込んで吊るすとも言っていた。電動レールの中心には、世界最大の高さとなるはずだったが崩落し未完成のままのフランスのボーヴェ大聖堂などがプロジェクションされている。一例だが、イタリア料理のシェフが、これまであり得なかったにもかかわらず、どうにか味噌汁をメインにしたイタリア料理を構想する際に身につける作業着となることをこのベストは目論んでいる。(中山和也 教授)

 

プロダクトデザイン学科:西村悠『暮らしの中の道具の輪郭をやわらかくする研究 -花瓶を例にして』


本研究は、暮らしの中にある人工物の形が過剰にはっきりとしているのではないかという違和感を起点とし、どのような造形表現が人工物の輪郭をやわらげることができるかという研究の問いをたてた。これは実は、過剰に合理性を追求する現代社会への違和感を背景とした、人間元来の曖昧さに寄り添おうとする挑戦的な問題提起でもあった。このラジカルな探究心と粘り強く丁寧な試行錯誤により、美しくも独特な存在感のある在り方にたどり着いたことを高く評価したい。(上林壮一郎 准教授)

 

空間演出デザイン学科:中井ひなた『えだまめワ〜クショッププロジェクト』


中井さんは、被差別部落の問題を背景としながら人権を考える難しいプロジェクトに挑戦した。しかし肩肘張らず柔軟な感性で、人々の輪に入り、ともにつくる作業や空間で、思い込みが消えていくことに気づき、制作の場を通じ、お互いを知って認め合うことから始める活動を実践した。変えていこうとする意志と自分の確信、そして魅力ある方法をつくりだすことで、小さな一歩から未来を変えていくことができる、それを教えてくれる素晴らしい作品である。(廻はるよ 教授)

 

環境デザイン学科:中留雄太『生活讃頌』


「暮らしの研究と実践から生まれる表現」と中留雄太は言う。町家を自ら改装して住み、大原に農地を借りて作物を育て、小屋を建て、蓑を作り一人収穫祭を行う。その生活と共に紡がれた夥しい数の絵。正直私たちはその全容を目の当たりにした時、驚き感動したのだ。審査会の際、これら作品群と共に投影されたのは蛙、蛍、稲穂、田、水、火…といった日々のスナップ写真であったが、そういった事象が、透明な眼差しと底なしのこころと卓越した技によって変容し結晶している様を見て、自らの暮らしそのものを作品化する中留の峻烈な孤高の覚悟に胸打たれたのである。(小野暁彦 教授)

 

映画学科:安本組『花心 ファーシン』


今は亡き写真家の散らかった部屋に男女がいる。本作の作り手は、その2人のあいだの「距離」をどう操作するかが、映画における演出の根幹であることを熟知し、映画に写真を安易に組み込むことの罠も回避する。では、本作における写真とは何か。それはあくまでも「行為」であり、(少なくともラストの展開を除き)記憶や象徴ではない。中国人と設定される女性が素直に日本語を話す。これは「どこでもない場所」の映画、無国籍な映画なのだ。(北小路隆志 教授)

 

舞台芸術学科:三好樹里 藤枝企画『メディア』出演

卒業制作公演『メディア』(撮影:広報課)


膨大な量の、しかも超難解な台詞を解釈し、それらを舞台上で的確に表現しうる知力と体力と演技力が求められるタイトルロールの「メディア」を圧倒的な熱量と集中力で演じきった。そして何より、復讐に燃える稀代の悪女「メディア」の魂から逃げることなく自分自身と重ね合わせた演技は、広い春秋座の空間を掌握した。三好樹里は、勇気ある女優だ。そして、素敵な女優だ。(平井愛子 教授)

 

文芸表現学科:小櫻秀朋『イルミネーション』


小説、脚本、マンガという異なる形式によって構成された本作の根底にあるのは、「なぜ人は芸術に魅了されるのかという」というテーマである。本作が四年にわたる作者の芸術家修業の集大成であるのはこの根本的な問いを深く掘りさげたからであり、本作が一読に値するのは作者がこの問いに次の答えを与えたからである。「これだ、このひかり。からっぽで、だから必死な、あたしが惹かれたかがやきだ」(河田学 教授・中村淳平 非常勤講師)

 

アートプロデュース学科:舩戸柳子『「原爆ドーム」に託される〈個別〉と〈普遍〉——遺産を取り巻く過去の語られ方とその普遍性——』


原爆ドームには様々なものが託される。ときにそれは破壊の痕跡であり、ときにそれは平和の記念碑でもある。本稿は、原爆ドームが時代が下るにつれて多義性を帯びていく過程を、各時代の社会的背景にも目配りをしながら丹念に跡付けていく。原爆ドームに関する資料を渉猟・検討するその姿勢は堅実かつ細やかである。と同時に、筆者の問題意識は「なぜ人は遺産を残すのか」という根本にも到達している。本論の思考の射程は深く鋭い。(林田新 准教授)

 

こども芸術学科:藤堂大吾『溢れ出る脳内 〜脳獣来襲〜』


「溢れ出る脳内〜脳獣襲来〜」は、作者の幼い頃からの思い出が150体を超える脳獣として視覚化された作品である。それぞれの脳獣は、思い出に由来する名前がつけられ、クスッと笑えるエピソードを持つ。自己の内面や育ちを振り返る内向きな制作過程だが、最終的なアウトプットは、持ち前のサービス精神が溢れ出る作品となった。今後もユーモアたっぷりの脳獣たちを従えながら、社会にワクワクするエンターテイメントを生み出してくれるのを楽しみにしている。(樋口健介 専任講師)

 

歴史遺産学科:大久保綜太郎『佐賀城を取巻く水路網の空間特性と史的変遷』


本研究は、江戸時代の佐賀城とその周辺地域について、近代以降の変遷を絵図など史資料に基づき丹念に解明しています。また、佐賀の景観として特徴的な豊富な水路網に焦点をあて、農業生産や生活用水、流通など多様な機能を持っていることを現地調査で明らかにし、その保全と活用を提言しています。文化財に込められた知恵や工夫を探究しその価値を今後に活かそうとする歴史遺産学科の「探究と創造」にふさわしい成果をあげていることを讃えます。(仲隆裕 教授)

 

大学院賞 芸術文化領域:藪内 青佳 論文「石川九楊論 ―作品と「筆蝕」の視点から―」、作品「永沈」


これまで学術的にほとんど論じられてこなかった書家・書道史家の石川九楊における「筆蝕」――「筆触」ではない――の概念に着目し、戦後に隆盛を誇った「前衛書」の潮流に対するその批判的意義と芸術的意義を、本格的に、丹念に分析した野心的な論考であり、内容の独自性、論理性、記述の適切性等において、高く評価できる研究に仕上がっている。「筆蝕」が、建築ドローイング等も含めた他の芸術領域にも通じうる可能性を示唆している点も興味深い。自身が書家でもある薮内さんは、本論文の執筆を通じて石川の作品や書論を批判的に吸収しつつ、映像を利用した独自のコンセプトを持つ書作品《永沈》も同時並行で完成させ、修了展で発表した。(森山直人 客員教授)

 

大学院賞 美術工芸領域:廖 元溢『Draw The Nautical Chart』


Yi君は、台湾からの留学生で元々木彫をしていた学生でした。私自身彫刻は専門外なところもありどうしようかと考えてたなかで絵を描きたいと言われ指導し今の作品に変化していきました。最初見せられたときの驚きは覚えています。彫刻的なアプローチを元にドローイングと刺繍を混ぜた表現方法でなおかつクオリティが高い。今までの作品は何だったんだろうというくらい別ものでした。作品をシリーズとして作っていけばいいと感じました。大学院賞となったのは意外ではありましたが才能のある作家であることは間違いなく今後の活躍が楽しみでなりません。(鬼頭健吾 教授)

2022年度 京都芸術大学 卒業展・大学院修了展

会期 2023年2月4日(土)〜 2月12日(日)
時間 10:00〜17:00
入退場 事前予約制・入場無料
会場 京都芸術大学 瓜生山キャンパス

https://www.kyoto-art.ac.jp/sotsuten2022/

(撮影:高橋保世)

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