やがて、かがやき、みちてゆく― 2025年度 京都芸術大学卒業展・大学院修了展 学長賞・大学院賞
- 京都芸術大学 広報課
卒業展・大学院修了展では、各学科ごとに最も優秀な作品を「学長賞」「大学院賞」として授与しています。それでは、学科ごとに2025年度の受賞作品をご紹介いたします。
美術工芸学科:住谷 文兵『Y』


住谷くんは映画監督を志して入学以来、写真・映像の教育環境を足場に主題を「映画」へ接続し、独学で制作を継続してきました。卒展では三部作として講堂に展開し、スケールのある映像インスタレーション、緻密な美術設計、哲学的な深度をもつ会話劇を実現しました。さらに、精度の高いディスカッションと批評的視座で制作環境を牽引してきた存在です。細部に貫かれた明確な意志は、今後も他者の感受性へ確かに届いていくことでしょう。(多和田有希)
マンガ学科:石田 麻優香『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』


「愛は責任になりうるか」。自らの価値観を形作る不可逆な要因への恐怖と、その克服が自己否定に直結するという絶対的な矛盾。本作はこの深淵を、豊かな語彙、鋭利なメタファー、美しい描線、緻密に練り上げた造本と展示で具現化した。その仕事は観る者を物語の当事者へと引きずり込む。これは単なる優秀な卒業制作ではなく、作者の鋭い眼差しによって姿を現した「愛」という名の呪いが、我々の認識に深く突き刺さる傑作である。(井本圭祐)
キャラクターデザイン学科:谷川 舜樹『Good Night』

彼が放つエネルギーは触れた者の心を熱くする。誰より作品に向き合い、誰よりも描き続けてきたからだ。決して才能だけではない。未消化な過去も、現在も、作品という名の箱庭に詰め込み表現してきた。箱庭から飛び立ち、これからどのような作品を生み出していくのだろう。
彼の新たなステージを楽しみにしている。(木村拓)
情報デザイン学科:池上 さくら『「音が見える」英語発音教材 ふぉねむず』


英語が苦手な親戚の子の存在が、本企画の出発点でした。「分からない」以前に、「聞き分けられない」ことそのものが日本人にとって壁になっている課題に向き合い、英語の音を色や形のキャラクターとして可視化する発想が生まれました。
個人的な違和感や気づきを起点に、課題設定から体験設計、表現、実装までを丁寧に積み重ね、思考と表現の往復を通して、音を見て理解する学習体験へと形にした点に、情報デザインの社会的価値が示されています。(中田泉)
情報デザイン学科 クロステックデザインコース:犬飼 弥琴『音と雑誌で紡ぐ地域の魅力発信の研究と実践』


地域と音への高い関心を持つ犬飼は、研究フィールドに熊本県天草市を選び、2006年の合併した旧2市8町を1ヶ月以上にわたり丁寧に歩いて取材し雑誌を制作しました。現地で収録した音とAI画像認識技術を掛け合わせ、シャープ株式会社と連携したインタラクティブな鑑賞体験を構築。地域の魅力を体感できる新たな体験の形を提案しました。「企画×テクノロジー」を体現したクロステックデザインコースらしい卒業研究・制作です。本研究は、天草市での展示公開も予定されています。(ゼミ担当教員・吉田大作)
プロダクトデザイン学科:三木 心暖『孤立感軽減の問題において曖昧な存在提示に着眼した卓上デバイスのインタフェースの制作的研究』


昨今の社会課題に対し非言語コミュニケーションでの「解」をプロダクトデザインで追求した作品。2回生の作品から温めたテーマを軸に様々な角度から磨き上げてきた。この作品はテクノロジーに寄りすぎず説明的ではなく、造形的にもバランスよくまとめられた道具が主役であるが、感性に寄りそうインタラクションとその表現力にこそ注目してもらいたい。コースを代表する方向性の一つとして秀逸であると判断しました。(風間重之)
空間演出デザイン学科:瀬戸 ましろ『人と森の距離』

瀬戸さんは「人と森の距離」をテーマとし、日本では森林が国土の70%を占めていても、わたしたちからは遠く関心が薄いことを課題とし、そこにどう関わっていくべきかを研究しました。樹木の肌触りや名前を知るだけで気持ちが近づく、そんな意識の転換を様々な空間や道具にデザインし、森本来の姿を知りながら、森を活かすことを考えました。次の時代にわたしたちが自然との共存でなすべきことをかたちにした優れた作品と言えるでしょう。(廻はるよ)
環境デザイン学科:杉﨑 純也『沈没後の日本: NOAH』


杉﨑くんの異能さは特に3年生課題くらいから際立ってきた。「5次元」などといった異様な語を必要とする彼独特の世界観は、未知の(精緻な)建築的造形を借りて表現されてきたが、卒制における一旦の集大成は、沈没する日本や生態系を救う救世主(箱舟)としての、海を漂い自己生成する建築(都市)生命体として提示された。ただ、この塊、変形した「脳」のように見えなくもなく、特にその内部はめくるめく「自己-意識(自覚)」の構造のようだ。(小野暁彦)
映画学科:中久保組『なるだけ愛しい、夜にして。』

恋愛。隣の彼女は、深い谷間の向こうにいる。距離がある。深まらない。若者のそうとしかできない恋愛を、もがき、見つめた。俳優の苦闘、監督の視線、キャメラの体温、録音の集中…。彼らがいようとした場所は、音も色も静かで。暗く青い夜明け前の時間帯だ。もっとどこかに行ってしまえたら楽なのに、彼らはそうせず夜明け前の苦しい時間に留まって映画を撮った。結果、彼らは自分たちの若く青く二度とない時間を永久保存できた。(古厩智之)
舞台芸術学科:樋口 明日加『舞台音響における音風景の創出 -音環境の構造分析から見る荒木優光の「再生」-』


言語化が困難な舞台上の音環境を捉えるためにサウンドスケープ論を用いる着想がまず面白い。視覚的要素や空間的要素とあわせて検討し、観客の聴取体験を丁寧に分析する手法にも説得力がある。舞台芸術学科で樋口は音響を実践的に学んできた。上演の構造をよく知る創り手だからこその分析の緻密さ、こだわり、そして何より溢れ出る音への愛が本論にはある。本論の視座は、今後の音響研究に新たな地平を拓く可能性を秘めている。(岡田蕗子)
文芸表現学科:安達 爽太郎『海賊とアナキズム』


グローバリズム資本主義が極まり、富と権力が集中して格差が拡大する現在、それへの抵抗として個人が実践できることとはなにか。アナキズムの歴史と理論を踏まえながら、「海賊する」行為の意義を大胆かつ真摯に考え抜いたのが、本評論である。生きる指針としてのアナキズムというメッセージは、とりわけ若者世代に訴えかける熱を帯びている。卒業制作に小説や脚本、ノンフィクション作品を手掛ける学生が多い本学科において、評論での学長賞受賞は初の快挙となった。(江南亜美子)
アートプロデュース学科:岩田 麻菜美『「文化的な生活」は誰が決めるのか?――生活保護制度の理念と現実をつなぐ「窓口」の可能性――』


憲法25条の「文化的な生活」が描く豊かな理念と冷徹な制度基準の乖離。その境界において「窓口」が有する両義的な可能性を鋭くすくいあげたのが本論である。筆者は「窓口」を具体的事務の場に留めることなく、理念を具体的な生へと接続し、不断に更新し続ける「装置」として理論的に昇華させてみせた。裁量が孕む不公平の危険性を直視しつつ、なおそこに創造的な余白を見出そうとする姿勢は誠実で心強い。社会保障の現場に文化探求の灯火を見出すその視座は、人と社会を編み直すアートプロデュースの理念および実践と深く響き合っている。(林田新)
こども芸術学科:佐藤 葵『まごころボックス』



「まごころボックス」は、ボードゲームを通して人と人との関わりや気持ちのやりとりを丁寧に引き出す5つの作品である。対話や即興性を重視した設計には、こども芸術学科で培われた「あそびを通した表現」が息づいている。発想の出発点には作者が長年綴ってきた「日記」があり、日々の出来事や自身の気持ちを言葉にする経験を通して、自己理解と対象者理解が重なり合い、人と人をつなぐ表現として成立している。(薮内都)
歴史遺産学科:杉本 あみ『弥生時代から古墳時代における魚類表現の地域的傾向と変遷 -絵画表現を中心とする分析・比較から-』


本研究は、日本古代史上の変革期である弥生~古墳時代の絵画や造形表現に注目し、中でも「魚」をめぐる表現を中心に様々な考古資料を検討して、地域的な違いや変遷のありようを解明しようとしたものである。全国各地の多数の資料を集成し詳細な分析を行うとともに、GIS(地理情報システム)を活用しその空間的な広がりを捉えた。また往時の国際背景の中で大陸から及んだ影響や列島内の社会変化についても、考察を加えている。地道で緻密な資料の検討と、それにもとづく東アジアレベルの視点や見通しが示された、優れた卒業研究である。(宇佐美智之)
大学院賞 美術工芸領域:白籏 花呼『「お前のせいではない」「お父さんにも、お母さんにも、神様にもなくて、私にあるものなーんだ?」「ひらくなや」』

大学院賞 歴史遺産研究領域:引間 隆文『論文「京都市文化財行政史の研究 ―高山義三市政期を中心に―」』

大学院賞 情報デザイン・プロダクトデザイン領域:ZHENG HAIXIANG『『四部医典』ガイドブック、第一部、第二部、第三部、第四部』
大学院賞 情報デザイン・プロダクトデザイン領域:ZHANG ZEWEN『Whoo∼』

大学院賞 文化デザイン・芸術教育領域:上村 裕香『「作品:ひかりの沈黙(小説)」「論文:日本近現代文学における家庭内のケア —ヤングケアラー小説の物語構造とケアを語ることの可能性—」』

(記事冒頭写真:吉見崚 作品写真:白井茜)
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