一年で最も賑やかなクリスマスシーズン。プレゼントを送り合ったり、ケーキを囲んでパーティーをしたりするワクワク・ドキドキを、大切な人と分かち合う——。
そんな光景をイメージして、キャラクターデザイン学科 3年生の堀口菜々子さんが制作したデザインビジュアルが、京阪百貨店の2024年クリスマスシーズンのメインビジュアルに登場。11月7日(木)から12月25日(月)まで、京阪百貨店守口店ほか各店舗にて館内を彩りました。
京阪百貨店と本学キャラクターデザイン学科の協働制作で、京阪百貨店のクリスマスメインビジュアル、館内装飾などのデザインを行う社会実装プロジェクトは、今年で3年目を迎えました。社会実装プロジェクトとは、京都芸術大学が展開する、アートやデザインの力を活かして企業や自治体の抱える課題に取り組むプロジェクトです。
今回は、デザインを担当した堀口さんに制作の過程やデザインにこめた思いを伺いました。
「大切な人と分かち合う」をテーマにデザイン
本プロジェクトにはキャラクターデザイン学科でグラフィック領域を研究している太木ゼミの2・3年生19名が参加しました。デザインのプレゼンテーションやコンペティション、企業の方とやりとりをしながらのブラッシュアップを経て、メインビジュアルやショッピングバッグ、キャンペーンノベルティの靴下のデザインなどを行いました。ノベルティの靴下はタビオ(株)が製作。細かいこだわりが詰めこまれた、クリスマスシーズンの足元を華やかにしてくれる靴下です。
制作したデザインは実際にショッピングバッグとして配布されるほか、店内のショーウインドウやフロアの装飾としても使用され、京阪百貨店を彩りました。
今年度のプロジェクトがはじまったのは2024年7月。まずは、京阪百貨店の担当者の方から、前年度のプロジェクトの振り返りや、今年度のテーマ、どのようなデザインを求めているかなどのお話を伺うオリエンテーションが開かれました。
2024年のテーマは「ワクワク・ドキドキをいっしょに ~ KEIHANのクリスマス」。クリスマスシーズンに、大切な人とクリスマスのワクワクする気持ちを共有してほしい、という思いがこめられています。デザインについては、地域とのつながりを大切にし、地域に強く根付いている京阪百貨店だからこそ「多くの人に親しんでもらえて、かつ百貨店らしいエレガントな雰囲気もある、甘い可愛さになりすぎないショッピングバッグ」を考えてほしいというオーダーが出されました。
京阪百貨店からのテーマと要望を受け取った学生たちは、さっそくデザインのラフ案をつくります。「ワクワク・ドキドキをいっしょに」というテーマをどのように解釈するか考えながらラフ案を描き、担当教員の太木裕子先生からのフィードバックを受けて、プレゼンテーションに向けて仕上げていきました。
細かい工夫で楽しさを演出
翌月、参加した学生全員の作品が出揃うと、それぞれの学生が、そのビジュアルを制作するに至ったコンセプトや、ビジュアルの展開などを京阪百貨店の担当者にプレゼンしました。
選考作品
見事、コンペを勝ち抜き、今回のメインビジュアルを担当した堀口さんは、デザインにこめた思いを「『大切な人と分かち合う』というテーマについて考えたときに、わたしはよく友達と会ったときに写真を撮るなあと思い出したんです。楽しい瞬間に撮った写真を見返して、友達同士で共有し合う時間が素敵だなと感じました。離れていても、時間がたってもそのときの気持ちを思い出すことができるということをテーマに、写真を飾っているようなデザインにしました」と語ります。
ラフを描いたときには、担当教員の先生から「文字が安っぽく見えないように、フォントを選んで終わりじゃなくて、細かい工夫で文字にも楽しさを込めたほうがいい。また、『どこをメインに見せるのか』を明確にして、『SHARE AND HAPPY CHRISTMAS 2024』というコピーと、トナカイとサンタを引き立たせたデザインを意識して」というアドバイスをもらったという堀口さん。フィードバックを活かして、コピーのフォントを高級感のあるセリフ体に変えたり、目立たせたいキャラクターにドロップシャドウをつけて実際に紙を重ねたペーパークラフトのようなデザインに変更したりと、工夫を重ねました。
そして、ブラッシュアップを経て、完成したデザインがこちら。ラフと見比べてみると、全体の色味にちがいがありますね。この色味も、堀口さんがこだわったポイントなのだとか。
年配の方も多く利用される京阪百貨店だからこそ、パステルカラーなどの明るい色ではなく、少し明度を落とした赤や緑、黒を背景に取り入れています。クリスマスなどの華やかなイベントのデザインでは背景にあまり使われないイメージのある黒ですが、思い切って黒を背景に置くことで、サンタやトナカイ、プレゼントボックスなどの明るさが際立ち、シックかつ親しみのあるデザインになっていますね。
クライアントからの要望に向き合う
コンペでは、堀口さんのデザインについてクライアントから「昨年よりデザインが大人っぽくなったね」とフィードバックをもらったと堀口さんは話します。
テーマについて説明を受けた際にクライアントから出た「多くの人に親しんでもらえて、かつ百貨店らしいエレガントな雰囲気もある、甘い可愛さになりすぎないショッピングバッグ」というイメージを念頭にデザインを考えた堀口さん。昨年度も京阪百貨店とのコラボレーションプロジェクトのコンペに参加し、そのときは今回と雰囲気のちがう、ポップで可愛らしいデザインを制作していました。クライアントの要望に合わせてデザインの方向を考えるのも、デザイナーとして大切なことなのだとか。
「全体をシックな色合いで統一することは、わたしも意識していたのでうれしかったです。わたしが所属しているグラフィックデザインのゼミでは、社会実装のプロジェクトに参加したり、企業からの案件を受けてデザインを制作したりする授業が多いので、クライアントからの要望に答えたり、デザインのターゲットを考えたりすることが2年生のときよりもできるようになったのかなと思います。デザインについては、幾何柄がいいと言っていただけました。ツリーやプレゼントボックスに入っている、いくつかの色を組み合わせて幾何学模様に組んだ柄ですね。一色だけだとのっぺりとした印象になってしまうところを、シルエットを分割していくつかの色で塗り分けることで、一つ一つの小物のクオリティが上がっていると褒めていただけました」
今回はメインビジュアルだけでなくショッピングバッグや、タビオ(株)及び関連生産工場の協力を得て 制作したノベルティの靴下などのデザインも、堀口さんが担当しました。
靴下のデザインを考える際には、靴下工場に見学に行き、タビオ(株)のデザイナーと現地で打ち合わせを重ねるなど、試行錯誤を繰り返したといいます。
靴下工場では、靴下を実際に製作する際に考えなければいけない制約について説明を受けました。使える色の数が限られていたり、 靴下の 中で糸が絡んで着用する人が爪を引っ掛けないように模様の方向に制限があったりするのだとか。堀口さんは制限の中でデザインを考え、デザインに使用したすべての色について糸の色見本から色を指定したそう。緑と赤の色違いで2種類の靴下が完成しました。
そして、ショッピングバッグもデザイン段階から一歩先をいった仕掛けが。こちら、表面と裏面でちがう柄なんです。バッグを開いて中を覗いてみると、「6つのまちがいがあるよ」の文字が。表裏でまちがい探しができる遊び心のあるデザインになっているんです。
側面にもキャラクターがプリントされています。平面的なデザインに留まらず、ショッピングバッグとして実際に使用していてワクワクするデザインが散りばめられていますね。
デザインの展開の可能性
京阪百貨店で堀口さんのメインビジュアルを使った店内装飾が展開された際には、今回のプロジェクトのメンバーで見学に行きました。平面でのデザインがディスプレイにどう展開されているか、靴下などのグッズにどのように反映されているかを、自分の目で確かめるのも社会実装の醍醐味です。
今年の京阪百貨店では、ショッピングバッグの配布、ショーウィンドウでの展示だけでなく、エレベーターの扉やカウンターでも堀口さんのデザインが展開されました。店内装飾についても、堀口さんの提案が多く採用されています。
見てください、このうさぎの可愛らしさ……! はじめは平面からはじまったデザインがこうして立体物になり、多くの人の目に触れるって、すごい体験ですよね。
店内の子ども用品売り場では、フロアにメインビジュアルで描いたキャラクターのステッカーを貼る仕掛けも。キャラクターの数を数えて店員に報告すると、お菓子がもらえる企画が行われていました。
ノベルティの靴下は、21日(土)と22日(日)の2日間に京阪百貨店で一定金額以上のお買い物をされた方に無料で配布されました。
堀口さんは「今回、自分のデザインが様々なグッズや店内装飾に使われて、その実現していく過程を見られたことが新鮮でした。靴下って身近な製品だけど、製造工程を見る機会はなかったなとか、ドットを一列ずつ組んでる靴下の形になっているんだなとか、はじめて知ることばかりでした。また、靴下を製造している会社でデザイナーをしている方とメールでやり取りをしながら、デザインをブラッシュアップしていく機会も貴重な経験だと思いました。大変でしたが、実際に完成してサンプルが送られてきたとき、すごくうれしかったです」と顔をほころばせます。
ショッピングバッグはもちろん、ノベルティの靴下、店内装飾、ショーウィンドウなど、京阪百貨店内の様々な場所でデザインが展開されました。堀口さんは、今回の経験を卒業制作に活かしていきたいと語ります。
「今回、京阪百貨店でデザインをいろいろな形で展示していただいて、展示の方法のバリエーションがすごいなと感じました。ショーウィンドウのうさぎやトナカイが立体になることも、実は見るまで知らなくて(笑) ショーウィンドウの展示デザインを提案させていただいたときは平面だと思っていたので、うれしいサプライズでした。このショーウィンドウでも、わたしが提案したトナカイの吊るし飾りも実現しながら、立体物も使って華やかにされていて、『1つのデザインからなにができるか』という企画のアイデアを学べたと感じます。ショーウィンドウに展示されていたパネルの使い方も参考になりました。ただパネルを立てるだけじゃなく、うさぎが持っている形にすることで立体感が出るんだなと。1つの素材を使うときにもいろいろなバリエーションがあるんだという発見がありました。来年の卒業制作で、今回学んだ展示方法を参考にしたいです」
キャラクターデザイン学科で取り組んだ、京阪百貨店のクリスマスのメインビジュアル制作。京阪百貨店を訪れるいろいろな方にデザインを見ていただける貴重な機会となりました。
京阪百貨店のクリスマスコラボ企画は期間が終了してしまいましたが、キャラクターデザイン学科ではほかにも様々な社会実装プロジェクトが進行中です! 学生が生み出すデザインやプロダクトが社会にどう羽ばたいていくか、引き続きご注目ください。
(文:上村裕香)
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。