今、ゲームがアツい
今(に始まったわけではないが)、ゲーム系イベントの熱気が凄まじい。
ゲームにはインタラクティブな媒体ならではの没入感が凝縮されているため、あらゆる感情が刺激され、快楽物質が大量放出されてつい大声が出てしまう。
ゲームのプラットフォームが拡大され、スマホ市場の好調もあって2023年の1年間だけでも14,500タイトルを超えるゲームソフトがリリースされている。またSlash Data(ソフトウェア開発のリサーチや分析を行う企業)の調査によると、2024年6月時点での全世界のゲームソフトの開発者は1,110万人にのぼるという。これは東京都民よりも多い数だ。
しかしながら、以前も瓜生通信にてコラムを掲載させていただいた通り、我が国ではゲーム=娯楽=有害なものという思い込みが未だ根強い。ゲームを悪と捉える前にゲームが人を夢中にさせる心理やメカニズムを理解すべきであり、人を能動的に変える力を学習に応用させればもう少しマトモな教育ができるように(中略)
最近神田伯山さんのラジオにハマっている影響でたまに口が悪くなる。
ゲームに関する瓜生通信のコラムはこちら▼
・なぜ芸術大学でゲームを学ぶのか
・ゲームの解剖『ドラゴンクエスト』~無意識の暗算遊び~
BitSummit 学生ゲームジャム
それはさておき、今年開催されたBitSummit 学生ゲームジャムを通して、ゲームや遊びの研究制作を行うゼミの活動について触れていきたい。
まずBitSummit学生ゲームジャムとは一体どのようなものなのか。過去に幾度か本学のブログ等で掲載しているが、簡単にまとめると、限られた時間内でゲームを制作する、所謂ハッカソンのゲーム版のようなイベントということになる。
参加チーム全員に共通のキーワードが与えられ、そこから企画をまとめて実際に遊ぶことができる仕様書を作成する。そして ビジュアルやサウンドを作成、それをプログラマーがゲームとして実装し、難易度の調整を行ったりバグ(仕様やプログラムの不具合)を修正したりして実際にプレイアブルな形にしていく。この制作と並行して通常の学業やアルバイトが重なるので、全てを両立させようとすると開催期間中は相当過酷なスケジュールとなる。
それでも年々参加者が増えてイベントの規模も拡大され、関西の教育機関だけでなく関東でゲームやメディアアートを学ぶ教育機関も含めて、今年は約200名の学生が参加した。
毎年キャラクターデザイン学科のゲームゼミは授業の一環として参加しており、今年でもう6年目となる。私自身BitSummit ゲームジャムの運営委員として参入しており、運営上の規約の策定や各制作チームのメンターとして全体のサポートを行った。
立命館大学や京都精華大学、大阪電気通信大学、京都コンピュータ学院、そして本学といったゲームデザイン及びビジュアルデザインを学ぶ教育機関が中心となり、株式会社コナミデジタルエンタテインメントや株式会社ゲームクリエイターズギルド、株式会社 Skeleton Crew Studio によるサポートもあってイベントとしての精度を高めつつある。
UnityやUnreal Engineといったゲームエンジン(ゲーム開発ツール)の普及により、昨今では単独で企画、ビジュアルデザイン、プログラミングをこなしてゲームソフトを販売するインディー作家も増えている。昔のように「ゲーム会社に就職してプログラマーとチームを組まなければゲームが作れない」というわけではない。
ゲームジャムでは、「価値観の異なる者同士での連携」「限られたリソース(技術や時間)内でのワークフローの構築」「人様に遊んでいただくためのおもてなしのデザイン」を念頭に置いてゲームを制作する必要がある。本学の名物授業であるマンデープロジェクトを、ゲームを媒体として教育機関を越えて実施しているような感覚だ。
また教育機関によって専門分野の力の入れ具合やゲームの捉え方が異なる点も興味深い。本学キャラクターデザイン学科の場合は「絵が描けるプランナー」か「企画ができるアーティスト」、京都精華大学は「アートとグラフィックデザインに特化」、立命館大学、大阪電気通信大学、京都コンピュータ学院は「プログラミングができるプランナー」か「企画ができるプログラマー」といった具合で学生の属性が分けられる。(もちろん例外もあり、一人で二役三役をこなすような学生もいる)
通常ゲームジャムやハッカソンというと、24時間・48時間といった短い時間が定められ、その中で企画立案から完成までを行うものが多い。BitSummit ゲームジャムは学生支援や教育機関同士の連携強化の意味合いが強いため、48時間のコア開発の前後に企画をまとめる時間と、展示を含め試遊レベルにもっていくための仕上げ(難易度の調整やデバッグなど)を行う時間が設けられている。4月の半ばからチーム編成と企画が始まり、7月半ばに開催されるBitSummitまでの約3カ月が開発期間となる。
1チームあたり7~8名で、各教育機関の学生をシャッフルして構成され、関西組は15チーム、関東チームは8チームで構成される。
オンライン上で企画書作りのディスカッションや技術検証、試作品の制作が進められ、6月7日(金)から9日(日)はコア開発期間となる。この日は参加学生がホテルアンテルーム京都に集合し、超過密状態での対面制作となる。(入りきらない人や近隣学生は自宅からオンラインで参加する)
ただでさえグループワークが苦手な学生が多い中で、更に教育機関をまたがるわけだから、「返事をくれない子がいるので困ってます」「プランナーの指示が曖昧で混乱してます」「データが消滅しました」と、次から次へと面白いくらいに想定内のトラブルが続発する。今年は特に人数が多く、且つ大がかりな仕掛けを作ろうとする学生もいたため、ホテルのブレーカーが落ちるというトラブルまで発生した。
そんな中、私はなぜか毎年お説教役を担っている。
「返事をくれない子がいるので困ってます」と嘆く学生に限って実は連絡を怠っている場合が多いので、お互い腹を割って話をする場を設けてお説教をしつつ解決策のヒントを投げていく。
「上の指示が曖昧だから現場が混乱する?そんなの大人の世界も同じだよ!」と話す私の口調はいつもより力強く説得力に満ちているのであった(苦笑)。
そんな連続活劇のような日々を経て、学生たちはBitSummitまでにゲームを完成させてくる。果たして自分が学生だった頃にここまで頑張れただろうか。最近の学生の根性は見上げるものがある。
今年度、全23チームの中でグランプリを獲得したのは、「BANgBANgStreaming」というタイトルのゲーム。
(https://www.youtube.com/watch?v=ba5_w-gf0tM&t=3s)
このチームのプランナーは京都精華大学の非常に優秀な常連学生で、面白い企画のツボや効率の良いワークフローの構築、的確なディレクションが徹底されている。ゲーム制作の場数を踏んでいるだけに、最初の企画発表の段階から既にずば抜けた存在感を醸し出していた。本学からはゲームゼミ2年生の三好香音(キャラクターデザインコース)がこのチームに割り当てられているため、学内にいながらも制作の進捗を知ることができる。
このゲームは、ネット配信者がアンチコメントと闘いながら視聴回数を増やしていくという、今まさに旬な題材をモチーフとしている。旬でありながら普遍性のある社会テーマにもなっている。アンチコメントに対して反発する様子をストーリーで見せるのではなく、実際にコントローラーを力一杯叩きつける動作(所謂台パン)によってリアルなゲーム体験として実現している。
ゲームの面白さとはストーリーやセリフで説明するのではなく、体験として中に入り込み、アクション(つまりプレイヤーの行動そのもの)がテーマを表現(というか体言)するのだという企画の見本のような作品である。また、騒がしい会場内でも音がハッキリ聞こえるように音作りに凝っていたりと、制作の経験値を感じさせる作りになっている。
「うーん、精華大学に一本取られたか…」という気持ちもありつつ、お互い良きライバルであり京都をゲームで盛り上げる仲間として、教育機関の壁を越えた結束が高まっている。これこそがゲームジャムの最大の魅力といえる。
この作品に関して、チームメンバーの三好香音(2年生)はこのように解説している。
「遊びの新しさはやはり『台パン』する所ですね!
スッキリ爽快感を得られる台パンになるように使い所やストレスを与える部分を考えてゲームを作るのは、私の中ではかなり新しい考え方でした。
フラストレーションをどの程度許容し、プレイヤーの挑戦意欲をかき立てる方法を学ぶにはとてもいい経験になったと思います。
細かくいうと、inゲーム(ゲーム内表現のこと)でのタワーディフェンス(防衛)の難易度を上げることでプレイヤーの没入感を高め、失敗した時のフラストレーションやクリア時の達成感が強烈になりやすいようにしています
この感情の高まりが、「台パン」をすることによって感情を表に出し、ストレス解消や更なるモチベーションの維持に繋がります」
BitSummitは7月19日(金)から21日(日)まで京都市にあるみやこめっせで開催された。
来場者数は38,333人と昨年度比161%を記録し、フロアを拡大して昨年の二倍の規模での開催となった。
東京ゲームショウが主に国内の大手パブリッシャーによる超大作の見本市とするならば、BitSummitは独創的なアイデアに溢れた小規模インディーゲームの祭典という位置づけになる。世界各国から作家性の高いインディーゲームが大量に出品される中、任天堂やCygamesといった大手パブリッシャーも加わり、またゲームを学ぶ教育機関、学生ゲームジャムのブース等で構成されている。
前述のように無料でゲームエンジンが配布されているために、ゲーム会社に勤めずとも少し独学でツールの使い方を学ぶだけでも商品クオリティのゲーム開発が可能である。また、昨今のインディーゲームの特色として、電子工作を応用してデバイス作りから行うことでゲームの枠を超えた全く新しい遊びも注目を集めている。テクノロジーの進化と共に表現方法も代わり、これまでゲームとしては使用されてこなかったセンサー類をコントローラーとして応用することで新たな遊びを開拓することができる。
ゲームと芸術と教育
BitSummit ゲームジャムの仕掛人は、株式会社Skeleton Crew StudioのスタジオマネージャーでありBitSummitの運営委員でもある石川武志氏。彼はもともと教育機関の出身であり絵画作品のアーティストでもある。そして行政やゲーム開発会社、その他様々な企業と連携して学生支援を行ってきた。教育と芸術とエンタメの世界を理解していることから、今年1月18日(木)に開催された京都芸術教育フォーラムにゲストとして推薦させていただいた。
教育とゲームが敵対の構図として捉えられていることから、早くこの垣根を壊し、学びと遊びが全く同じ構造であることを広めたいと考えたからである。それだけではなく、STEAM教育を謳いながらも一般教養と芸術教育すらも乖離しており、芸術がまるで生まれ持った特殊能力のような見方をされていることは由々しき事態である。私から見れば、芸術とはコミュニケーションであり、コミュニケーションとはゲームであり、ゲームは学びである。思考のプロセスは同じものであるはずなのに、なぜか教育者はこれを分断し垣根を作りたがる(また愚痴になりかけたため自主的に中略)。
そんな教育現場に物申したく、芸術教育連携協議会の場で石川様を推薦させていただいたというわけである。
フォーラムにおいては、主催者も参加者も「なんだ、ゲームかよ」と思ったことであろう。ところが主題が「社会における芸術の役割」であり、京都市立芸術大学の赤松学長との対談ではゲームと教育と芸術を同じ土俵で語り、これが同義あることも示唆していた。これを聞いて来場者も「なるほど!」と膝を打っている。してやったりである。
私自身としても、ゲームの社会的有用性、ゲームと芸術教育の本質における同義性について世の中の偏見を破壊し、これを浸透させる活動を進めていきたいと考えている。理解されにくいものを理解していただくというゲーム(世間的には「無理ゲー」と呼ぶ)をしばし楽しんでいきたい。
文・写真=村上 聡
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