INTERVIEW2024.07.19

京都

KYOTO T5 京都のスープ #34 かざりや

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  • 京都芸術大学 広報課

伝統工芸の本当の姿に光を当て、「かわいい伝統」「かっこいい伝統」「おしゃれな伝統」を世界に持っていく京都伝統文化イノベーション研究センター(T5)が発信するコラムを瓜生通信にてお届けします。

今回は、「京都のスープ|かざりや」をぜひご覧ください。

 

「この素晴らしいロケーションは何ものにも代え難い財産だと思います。二軒あってニコイチ。それがあぶり餅なんです。だからみんなに親しまれているのだと思いますね」
地域に愛される老舗、あぶり餅本家根元 かざりやの店主・川池剛生さんにお話を伺いました。


#北区 #お茶 #和菓子 #お土産

 

二軒茶屋として守る

京都市営バス46系統「今宮神社前」から徒歩3分。今宮神社の参道にある二軒あるあぶり餅のお店の一軒、「あぶり餅 本家 根元 かざりや」通称、かざりや。
地元に愛される京都の老舗です。

インタビューを受けてくださった川池剛生さんはかざりやの店主。基本的には女の人が継ぐべきものというスタンスのため表の顔は妹さん、それを支えるポジションとして川池さんという二人三脚で営んでいらっしゃるそうです。

かざりやさんは現在川池さんの代で10代、11代と言われているそうです。
「人物の生い立ちなどを聞いて私が知っているのは、曽祖母の上の代の高祖父母まで。だからそれ以前ははっきりと分からないです。
今一生懸命やっていくことが大切であり次世代へ引き継ぐためにどう守っていくかが一番重要なことだと思うんです」

あぶり餅を含む門前茶屋(神社の前にある休憩茶屋)の文化は、江戸初期頃になって庶民がお参りや旅行を楽しめるという時代になって華やかに花開いたものであり、庶民の生活のちょっとしたぜいたくとして全国で親しまれました。
ここ今宮神社の参道には、当時の活気のある門前茶屋の状態が今もその頃と同じように残っています。
「ここは参道を挟んできれいに佇む二軒があるロケーションなんです。これは日本全国探しても非常に珍しいと思います」

 

地域との繋がり

かざりやさんのあぶり餅のこだわりは地産地消。できる限り地産地消であることや、昔からの取引先と関係を絶やさないということを大切にしています。
「地産地消がうちの原点であると思っています。普通のことですが根底にはお客様に安心安全なものを提供するというところがあります。うちの水田で作った、丹後の餅米で上羽二重、京都産の大豆を炒ったきなこ、京都産の竹を使用しています。他にもいろいろなこだわりがりますが、ひとつはこれですね」

 

商売上手な神様

今宮神社の参道の魅力的なポイントは、道を挟んで両向いにあぶり餅屋があることだと私は思っています。両側のお店からおいしそうな餅を炙る香りがたち、京ことばのやわらかい「おおきに」「またきとおくれやす」が飛び交っています。

川池さんに失礼を承知で、向かいの一和さんのあぶり餅を食べたことがあるのかお聞きしたところ、一和さんと同じく食べたことがないとおっしゃっていました。

「よくお客さまにも聞かれるのですが私たちには分からないです。歴代やってきたことをその流れのまま提供する、競うのではなく自分たちの味を繋いでいくんです」
繋いできた誇りと愛され続けている信頼があるからこそ言える言葉には重みがあります。

「私が生まれたときから二軒あるわけですし、向かい合い同じものを扱っているお店があるということに対して違和感がないわけ。きちんとしたあいさつができて、きちんとした地域の間柄です。そういったものがあってはじめて成り立ちます。毎日顔合わせるわけだから、喧嘩してたら嫌じゃないですか。このすばらしいロケーションはなにものにも代え難い財産だと思います。二軒あってニコイチ。それがここのあぶり餅なんです。だからみなさまに親しまれているのだと思いますね」

少しおもしろいことも教えてもらいました。
川池さんいわく、二軒あるならば神様はちゃんと見てはるので、順番に半分ずつで分けはります。とのこと。
「お客さんの意志で『あっち食べよう』『御贔屓にしてるからこっち食べよう』というのはあると思います。でもきっと神社の神様が『あっち行き』と言っているみたいなのもあるんと違うかな。どっちかに偏っていたらどちらか一方が潰れてしまいますからね」

健康長寿や開運のご利益があるとされる今宮神社ですが、もしかすると商売上手な神様でもあるかもしれないなと思いました。

 

些細な積み重ねが老舗をつくる

老舗として数えられる、かざりやさん。
しかし、これまで記事を書いたり読んだりしても、老舗の定義は個人の判断による曖昧なものなのではないかなと感じています。何年続くことでそう呼ばれるに値するのか、それとも別の定義をもってして老舗と言えるのかがわかりません。
川池さんに老舗と呼ばれることについて伺うと、地域に長く愛されているお店であるなら老舗なのではないかとおっしゃっていました。
「老舗かどうかというのはお客さまが決めることであって、お店側が決めることではないと思うんです。代々地元で商いをさせていただいているということは、地域の方々やお客様に多大なる恩恵をいただいているということです。地域とともに育んできた今ある歴史は地域やお客様に恩恵を受けた証でもあります。私は地域に貢献する、愛されるというところが老舗なのだと思っています」

よく言われる「地域貢献」「地域に根ざす」ということは何らかの形で受けてきたご恩に大なり小なり報いることが一つのあり方だと川池さんは考えます。その一つのこだわりである地産地消。お店が潰れさえしなければお互いにビジネスパートナーとしてやっていくことができ、共に支え合うことができます。また、店の前を通る地域の子どもたちに挨拶をしたり、声をかけたりすることも地域貢献のひとつだと言います。そういった些細なことが、長く続いていくお店になるための決め手なのかもしれません。

 

変わったものと変わらないもの

長い歴史のなかで時代と共に、ここにあり続けるかざりやさん。そんなお店の変わらないものと変わってきたものについて伺うと、やはりあぶり餅や建物、仕入れ先も変わっていないと川池さんは言います。
「新商品が開発されるわけでもないですし。変わるとしたらまわりの環境が大きいですかね。
まわりの環境に惑わされずにやっていくということが、今も続いている理由ですよね。
よほどのことがない限り今後もこのままだと思います。もし何か変化があったりしたらそれで途切れてしまうだろうし」
まわりの環境の他に変化したものはというと提供する本数は変わったそうで、川池さんの曽祖母の代で45本を数人で分けていたようなときもあったとのこと。現在のあぶり餅は11本。お向かいの一和さんと同じ本数です。
また、炙るときに扇風機を導入したことも大きいと言います。昔はうちわで炙っていたのだとその当時の写真も見せていただきました。

 

節目のそばに

今宮神社があるこの場所は観光立地がいいわけではないのだそう。だからこそ観光で来られる方と地元の方がほどよく混ざり合う、ちょっと不思議な空気感を持っています。


地元の方は子どもが生まれたり、七五三などがあると今宮神社にお参りに来られるようで、その節目の際に厄除けのあぶり餅を買って帰って地域の人に配るという風習があるのだとか。
また、他の地域からも何度も食べに来られている方も多いのだそうです。
「お父さんと一緒にこられたお子さんとか、おじいちゃんに連れられてきたお孫さんが成長とともに自分のお子さんと一緒にこられるというようにね。それがあぶり餅の在り方です」

取材者の私も自身の両親が若かりし頃、京都の学生であったためこのあぶり餅が2人で食べた思い出の味なのだとよく話に聞いていました。自分が京都の大学生になり友人と共にあぶり餅を食べに来ることができたとき、両親が30年前に食べた同じあぶり餅を食べることができているということにどこか胸が熱くなる想いがしました。自分もこの何百年と続く歴史の一部になることができたような気がするのです。

 

 

過去から現在、そして未来へ。

「このまま次の世代に引き渡す。それが私の役目」
強い意思のこもった目でそう語ってくださった川池さん。
「引き継ぐというのは歴史を繋いでいくことですから、生半可な気持ちではできません。それが老舗の苦労だと思うんです。よく『老舗を切り盛りしてすごいですね。』と言われます。しかし私は今の代の人がすごいのではなく努力した賜物を繋いだ先代がすごいのだと考えます。今いる私は単に次世代へ繋いでいくために頑張っているだけなのです。このお店が無事に次の世代に引き継がれた時に初めて私が頑張った人になるのだと思います。」

川池さんには娘さんがいらっしゃるそうで、この店を継ぐということも考えているそうです。しかし、川池さんいわく現時点では「箸にも棒にもかからない」のだとか。

「まだまだ若いし経験値が違います。いろいろなものを見て経験して世間を知らなければ商いをさせていただく上での適切な判断ができません。それができないとこの店は継げないと思います。商いを諦めずやり遂げるという覚悟がないとついでもらうことはできませんからね」

川池さんの元のお仕事は企画、商品開発や販売促進などのコンサルティング。
そのことも今の川池さんに大きく影響しているのだと言います。

「昔は継ごうとは考えていませんでした。でも社会に出て京都を離れて働いて、いろいろな人と出会いました。そこでの苦労とか人の動きを見て感じたことを集約して今があるんです。だからこそ、親や祖母のやっていたことのすごさに気がつけたんです」

川池さんが実際に両親からお店を継がせてもらえたのは、継ぎたいと言う話が出てから10年後の40代半ばだったのだそう。
娘さんにもいろいろな経験を得たのちに、この店を継いでいって欲しいとおっしゃっていました。

「今の段階では大丈夫だと思って進んでいくしかないし、それを繋いでいくために私は努力をしたいと思っています」
過去から現在、そして未来へ。
まだ見ぬ子や孫にも変わらないあぶり餅を頬張ってもらうため陰で汗水を流しながら、しかし穏やかにかざりやは歩み続けます。

今宮神社の参道には、かつてと同じように今日もどこか懐かしいあぶり餅の香りが漂っています。

 

 

京都のスープ
#34
あぶり餅 本家 根本 かざりや

文:
建木紫邑(クロステックデザインコース)

写真:
建木紫邑(クロステックデザインコース)

 

 

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