REPORT2024.07.16

京都教育

歌劇団の公演を華やかに彩る! — 京都・南座「一文字看板」制作プロジェクト

edited by
  • 上村 裕香

京都市東山区にある劇場「南座」は、歌舞伎発祥の地に建ち、松竹が経営する、400年の歴史と伝統を受け継ぐ劇場。その入り口正面に掲げられる「一文字看板(いちもんじかんばん)」を本学の学生が制作しました。

本学では、産学連携プロジェクト(PBL型授業)の一環として、2018年より南座正面の一文字看板制作プロジェクトを実施しています。看板制作に携わる職人の減少を受けて、伝統技術の保存・継承を目的としてスタートしました。プロの看板制作者でもなかなか味わえないこの看板制作は、学生たちにとって貴重な経験となっています。

2024年度前期のプロジェクトでは、7月13日(土)に南座で初日を迎えたOSK日本歌劇団「レビュー in Kyoto」公演の一文字看板を制作しています。
今回は、南座看板制作プロジェクトのメンバーに、一文字看板に込めた思いと、看板制作の過程を伺いました!

願いを込めたデザイン

13作目となる本作。看板のサイズは、幅10.3m、高さ1.45mという巨大なものです。
本学芸術教養センターの丸井栄二教授と非常勤講師の藤部恭代先生の指導のもと、学生45名が制作スタートから約2か月をかけて仕上げました。

プロジェクトのキックオフは4月末。まず、京都市の「京都市屋外広告物等に関する条例」のレクチャーを受けました。古都の景観を守るため看板の大きさや色を規制する条例に則った、景観の在り方や看板掲出のガイドラインを学び、周囲の景観や歴史ある劇場と調和する看板になるよう、色合いに工夫を施しました。

レクチャーが終わると、6つの班に分かれ看板デザインのラフ案を考え、翌週にはプロジェクト内でプレゼンを行いました。その後、芸術教養センターの教員に対してのプレゼン、ブラッシュアップの後、南座へのプレゼンを経て、今回の看板のデザインが決定しました。

デザインに携わったメンバーの北村琴実さん(総合造形コース2年生)は、デザインのコンセプトやそれぞれのモチーフに込めた思いを次のように話します。
「今回は、扇子と五線譜をモチーフとして取り入れ、公演を表現しました。OSK日本歌劇団の公演で多く使用されていた扇子は、OSK日本歌劇団を象徴するモチーフのひとつだと考えました。扇子の周りに散りばめた桜には、夏っぽい雰囲気を表現しようとピンク色だけでなく青色も取り入れました。五線譜は風の表現として使用しています。踊りの中で使用する扇子をあおいだときの風と、音楽が流れ出す様子を五線譜に込めました。そして、注目してほしいのが五線譜の右側にあるリピート記号です。リピート記号には『その区間を繰り返す』という意味があります。今回の公演が観客のみなさんにとっていい思い出になって、何度も繰り返し思い出してほしいという願いを込めてデザインしました」

手書きの看板だからこそ

プレゼンを通過し、デザインが決定すると、いよいよ制作に移っていきます。
板にジェッソという下地材を塗る工程から、下絵、着色まで、すべて学生がアナログな方法で行います。
例えば、パソコン上にデータで作成したデザインを原寸大に印刷し、裏から鉛筆でなぞり、その上からボールペンなどの固いもので写し取っていくことで、板にデータ上のデザインを描きました。

看板に着色していくときにも、パソコン上に保存したデザインを再現することに細かくこだわったと、マネジメントメンバーの伊藤響さん(マンガコース2年生)は言います。
「パソコン上に表示されている色を絵の具で再現するのに苦労しました。何種類もの絵の具を混ぜて、なるべく当初考えていたデザインの配色に近づけていきました。今回はクライアントの意向で『レビュー in Kyoto』のポスターの色と配色を揃えているので、黄色と青の色味には気をつけました。一方で、グラデーションになっている五線譜の一番下のオレンジなど実際に塗ってみて色を変えたところもあります。実際に色を塗ってみて、予定していた濃い色から落ち着いた色に変更しました」

また、絵の具を塗るときには遠くから見ても近くから見ても綺麗に見えるように、五線譜の一本一本から、板と板の継ぎ目の細かい部分まで気を使ったといいます。
絵の具を塗り重ねて厚くなってしまったり、線の幅が太くなってしまわないよう、何度も修正を重ねて、最後までこだわり抜きました。

ふと顔を上げて

実際に設置された一文字看板を見た学生たちは、プロジェクトメンバー全員での記念撮影が終わったあとも、興奮気味にグループや個人での写真撮影を繰り広げていました。

マネジメントメンバーの豊田結衣さん(キャラクターデザインコース2年生)は「こうして看板を目の前にしても、実感が湧かないですね(笑)」と笑いながらも、「わたしたちマネジメントメンバーの4人は、自分たちで筆を持つというよりは、プロジェクト全体を見渡して、ここをもう少し塗ってほしいとか、この部分を修正したいとか、指示を出す側だったんです。今回は南座看板プロジェクトに参加したことがないメンバーも多くて、はじめはどんなふうに指示を伝えたらいいのか戸惑いました。でも、日を重ねるごとにメンバーが自分から動いてくれるようになって、こうして無事完成してよかったです」と安堵の気持ちを語りました。

7月9日(火)の看板見学のときには、南座周辺も観光客で賑わっていました。南座前を通る多くの方が看板を見上げ、カメラを向ける様子が印象的でした。

マネジメントメンバーの竹内涼海さん(ビジュアルコミュニケーションデザインコース2年生)は「大学内で制作しているときには学生や先生の目にしか留まらなかった看板が、設置されるといろいろな方に見ていただけてうれしいです。南座前はバスの停留所でもあり、普段はあまり関心がない方でも、ふと顔を上げて見てくださる機会があるのがいいなと思いました」と、看板を設置してみての実感を語りました。

今回のプロジェクトについて、マネジメントメンバーの木村美咲さん(舞台デザインコース2年生)は「もともと、人前で話したり、大勢のメンバーをまとめることは得意ではなかったんです。だからこそ、今回プロジェクトでマネジメントの立場に立ってみて、『小さなグループの中でコミュニケーションを取る』方法を学びました」と、プロジェクトでの学びを振り返ります。

伊藤さんは「自分たちも納得して、かつ、クライアントにも絶対によろこんでもらえるものをつくるのが大事なんだなと思いました」と、企業からの依頼を受けて制作することを通じて学んだことを語りました。
「南座さんに依頼をもらって、制作をするというクライアントワークを通じて、多くの発見がありました。クライアントに提示された納期に合わせることや、クライアントが納得するクオリティのものを制作することを心がけました。看板については、最後の最後までこだわって制作できたと思っています。円や線がはみ出ていないか、歪んでいないかときっちり細かいところまで確かめました。そうやって、最後までこだわって制作した経験は、今後制作をしていく上での『最後まできちんと、自分たちがこれだと納得できるところまでやる』という意識に繋がっていくのではないかなと思います」

看板はOSK日本歌劇団「レビュー in Kyoto」の千秋楽・7月21日(日)まで、南座に設置されています。
短い期間ですが、お近くにお越しの際は、学生たちが細部までこだわりぬいて制作した看板をぜひご覧ください!

南座看板プロジェクト

X(旧Twitter):@minamiza_pj
Instagram:@minamizapj_kua

 

 

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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