2024年度より京都芸術大学の新しい学び舎として「相照(そうしょう)館」がキャンパスに加わりました。
今回は、本学の徳山豊理事長に、新校舎の名前に込めた思いや、建物に施したという「仕掛け」から、学食リニューアルの全貌とその意図まで、お聞きしました!
心の底までお互いに照らしあう
「相照館」は人間館と道路を挟んで向かいの白川通り沿いに建設されました。新校舎は主にキャラクターデザイン学科の学生が授業を受ける教室や研究室が入っています。キャラクター、アニメーション、ゲーム、マンガが次々に生み出される現場として、学生がデジタル・エンターテイメントを学び、発信する拠点として活用されています。
——新校舎の名称はどのように決められたのでしょうか?
「新校舎は、現在はキャラクターデザイン学科の学生が主に使用していますが、名前と学科がリンクしているわけではないです。だって、5年後はどの学科が使っているかわからないでしょう? どの学科の学生が使ってもいいように、すべての学生への思いを込めて名前をつけました」
——そうなんですね。「相照館」の名前の由来は?
「わたしは、学校というのは学ぶところだし、成長するところだと思っています。そのためには、専門領域の学びももちろん大事だけれど、やっぱり『人』が重要なんです。先生と学生でも、学生同士でも、互いに切磋琢磨して、ときにはぶつかって、成長してほしい。お互いを照らし合うように、自分のいいところを相手が言ってくれて、相手のいいところを自分が見つけて、それがお互いのプラスになってほしい。そうした思いを込めて、『肝胆相照らす、斯れを腹心の友と為す』という故事成語から二文字をとりました。『肝胆相照らす』は、肝臓と胆嚢という大事な臓器、つまり心の底までお互いに照らしあうという意味の言葉です」
新校舎の名称の候補いくつかのうち、「学生には、互いに認め合って成長してほしい」という理事長の願いにもっとも合う言葉だと感じ、迷わず名称を「相照館」に決めたのだそう。
理事長の学生への願いは、名称だけでなく、新校舎の建物に施したさまざまな「仕掛け」にも込められているといいます。
学生が自由に使える空間作り
「実は、相照館にはいろんな仕掛けをしています。ひとつは、相照館北側の通路に、キッチンカーを置くスペースをつくっていること」
——キッチンカー、学生にも大人気ですね!
「こうした仕掛けは、以前からやりたかったことなんです。でも、わたしはキッチンカーのオーナーじゃないから(笑) やってくれるひとがいないと、できない。ロビーにも、左官アートの作品を展示してもらう予定で、その制作・展示に学生も参加できる機会をつくりたいと思っています。6月7日から、ワークショップ形式で制作します。こちらも、参加したいという学生がいないと成り立たないですよね」
——学生次第、ということですね。
「学生が自由に使える空間は、多くつくったつもりです。わたしとしては、学生が『その空間を自分たちはどう使いたいか』を考えて、提案してほしいんです。校舎の空間に仕掛けを施すときは、学生に向かってボールを投げているような気持ちです。あとは、学生たちにボールを投げ返してほしい。いろいろなことに興味をもって、『この空間があるならこんなことしたいです!』って提案してほしいと思います。いまある校舎でも、ときどき秀徳館行ったり松麟館あがったりして、学生がどんな使い方してるのかなって見ますよ。このスペースで話してるなとか、こんなところで猫飼ってるなあとか」
——猫階段ですね(笑) たしかに自由な使い方ですよね。
「そうして工夫して使っているのを見ると、ごちゃごちゃと考えるのではなくてシンプルに、学生が自由に使える空間をつくろうと思いますよね」
理事長は近年、人間館1階のカフェスペースにパンやカップラーメンが買える自販機を導入したり、学食をリニューアルしたりと、学生の施設利用のあり方を変える改革を次々に行っています。そうした改革も、理事長からの「ボール」のひとつ。
学生や教職員に、新しい校舎に愛着をもってもらうにはどうしたらいいのだろう、という疑問を投げかけると、「それでいうと、結局、使う人たちがどうするかじゃないですか?」と、施設を実際に使用する学生や教職員が「どうボールを投げ返すのか」が重要だと理事長は言います。
「使う人たちが自分たちの枠の中に閉じこもって使うのか、いろんな人に校舎に来てほしいと思うのか。人が来てくれる校舎にしたいなら、いろんな人が足を運びたくなるようなことをやればいいと思うんです。キッチンカーが相照館の前に停まるとしても、建物の中に入ってもらおうとすると難しい。じゃあなにか、イベントや仕掛けが必要ですよね」
常にバージョンアップし続ける学食
と、そこで「イベントや仕掛けが必要」という言葉から、昨年10月にリニューアルオープンした学生食堂に話題が移り……。
(該当記事はこちら→学生食堂が大幅リニューアル! すごくおいしくなったって本当ですか?【食レポしてみました!】)
「学食も、学生にもっと利用してほしいと思って、リニューアルオープンしました。でも、学食おいしくなったよって宣伝しても、それが届かないと意味がない。学食、食べた?」
——(学生)食べてないです。
「ね、学生でも食べてない人がいるでしょ? なんで食べてもらえないか、ということなんですよ。周りの友だちに『新しくなってすごい変わった』、『美味しくなった。一回とりあえず食べてみて』って言われたら、まあ値段のことはあるかもしれないけど、一回行ってみようかになるじゃないですか。学食のリニューアルも、一回だけの話じゃないんです。リニューアル以来、毎月2品ずつメニューを変えているんですよ」
——毎月2品変えるって、大変じゃないんですか?
「たしかに、2品変えたら、作る人はまず導線が変わる。用意しないといけないものや仕込みの準備も変わりますよね。それを一気にすると混乱が起きて、提供できる品数が少なくなったり、味のクオリティが保てなくなってしまう。だから、少しずつ変えていくんです。最初はちょっとずつ変えるところからはじめて、だんだん変えることにも慣れてきたら、メニューの数を増やす。増やしながら変えていく。そうやって常にバージョンアップし続ける学食を作りましょうって、職員のみなさんがとてもがんばってくれているんです。だから、騙されたと思って行ってみて(笑)」
——(学生)行きます!
ボールを投げる
学食のリニューアルやカフェの設備など、まさに常にバージョンアップし続ける大学をつくっている原動力とはなんなのでしょうか。
理事長は「いまの学生が卒業してから、いい意味で『いまどうなってるんだろう、あの大学』って思ってもらいたい。いつも刺激を与えてもらった学生生活がもしあれば、卒業しても気にかけてもらえるんじゃないか。それを目指しています」と、そうした取り組みによって学生に刺激を与えることで、活発に意見が飛び交う大学を目指していることを強調します。
「だから、校舎も『どんな校舎が次できるんだろう?』って気にしてほしい。単に新しい建物ができましたというだけじゃなく、その新しい建物にどんな思いがこもっているかということが大事なことだと思うんですよ。学生から『この空間をなにかもっとちがう使い方したい』って提案してもらえるようなきっかけ作りはしているつもりなんですけど。なかなか、学生からボールが返ってこない」
——難しいところもありますね。ボールを投げるというのは以前のインタビューでもおっしゃっていましたね。
「だって……(学生が)かわいくてしゃーないねんもん!」
——なるほど(笑)
「そう。かわいくてしょうがないんだけど、でも、もっといろいろ難題を投げてくれたらいいのになと思います。みんな大人しい。わたしはボールを投げるんだけど、『理事長そんなことするんだったら、こっちのほうがよかった』とか『食品自販機入れるんだったら、Yショップももっと品揃えよくしてよ』とか、言ってほしいですよ。だから、この相照館自体もひとつのボールです。『こんな校舎建てるなら、次はこんな校舎建ててほしい』って言われるほうがうれしいですよね。学生食堂も『おいしくなってよかった』で終わりじゃなくて、なんでリニューアルしたんだろうって好奇心を持ってほしい。そして、自分はなにか行動できているかを常に問い続けてほしい。それは間違いなく自分自身の成長につながるし、社会に出たときに財産になると思います」
今回お話いただいた以外にも、新校舎には、ほかの校舎とちがう仕掛けが用意されているそうです。
新たに完成した新校舎へ学生や教職員のみなさんもぜひ一度、足を運んでみてください。理事長は今日も、ボールを受け取ったみなさんが好奇心をもって『なんでだろう?』と考え、ボールを投げ返してくれるのを待っています!
「相照館」にぜひ足をお運びください。
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。