REPORT2024.05.29

教育

舞妓さんの生の声を聞き、記し、届ける — 第74回京おどり in 春秋座 関連学生プロジェクト特集第3弾

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  • 京都芸術大学 広報課
  • 上村 裕香

桜の咲き誇る4月6日(土)〜21日(日)、京都の風物詩である「京おどり」が本学の瓜生山キャンパス内にある京都芸術劇場 春秋座で開催されました。宮川町歌舞練場の建替えに伴い、昨年から「京おどり」が春秋座で開催されたことを機に、宮川町歌舞会と本学園の学生が多くのコラボレーションを行ってきました。

「京おどり」は京都五花街のひとつ、宮川町の芸舞妓たちによる舞踊公演。今年の演目「時旅京膝栗毛(ときのたびみやこひざくりげ)」は、弥次さん喜多さんの江戸時代に大流行した旅行記「東海道中膝栗毛」をもとに書き下ろされました。22世紀の未来より江戸時代にやってきた夫婦(ヤジとキタ)が、京都の様々な時代や場所を旅する様子を芸舞妓の踊りや演奏によって表現。フィナーレとなる最終章の「宮川音頭」では芸舞妓が総出演し、一糸乱れぬ動きで華やかに舞を披露しました。

本特集では、会場となる春秋座のロビーや人間館で「京おどり」の公演の魅力を伝えるために行われた様々な企画展示の中から、ねぶた制作、缶バッチ制作販売、舞妓さんへのインタビューの3つのプロジェクトに取り組んだ学生にインタビューを敢行!

第3弾の今回は、文芸表現学科の学生が取り組んだ、舞妓さんへのインタビューとリーフレット制作のプロジェクトについてレポートします。

 

その他の記事は以下からご覧いただけます。

それぞれの学びを集結させ、京おどりの舞台で披露されるねぶたをつくる — 第74回京おどり in 春秋座 関連学生プロジェクト特集第1弾
芸舞妓さんの缶バッチをつくるという社会実装 — 第74回京おどり in 春秋座 関連学生プロジェクト特集第2弾

 

舞妓さんの等身大の姿を

会期中、人間館1階のカフェラウンジで展示されていた18人の舞妓さんのパネルと、便箋のように折り畳まれた18種類のリーフレット。こちらのリーフレットは、文芸表現学科の学生が舞妓さん一人ひとりにインタビューを行い、聞き書きという形式で文字に起こしたものです。
リーフレットには、舞妓さんがその道を志した理由や、今回の京おどりに向ける思い、稽古の様子、今後の目標などが舞妓さんたちの生のことばで書かれています。普段は接することのできない舞妓さんの人柄をつぶさに知ることのできるインタビューでした。

インタビューを行ったのは2月の上旬。宮川町歌舞練場に学生が足を運び、複数回にわけてお話を聞いていったといいます。取材のときには、インタビューを主に担当した当時3回生(現4回生)の学生たちで質問内容を話し合ったり、原稿の書き方を考えたりしたそうです。

出身地や舞妓を目指したきっかけといった基本的な質問はもちろん、「夜寝る前になにを考えているんですか?」というユニークな質問も。

4人の舞妓さんにお話をうかがい、インタビューを執筆した山口楓生さんは、そうした質問には昨年の「京おどり」でも同じように舞妓さんにインタビューした経験が活きていると言います。

「夜寝る前に、つい携帯電話をいじってしまうわたしたちとちがって、舞妓さんは寝る前に考えごとをする時間がたくさんあると去年聞いていたんです。わたしたちと同じ世代だけど、まったくちがう生活をしている舞妓さん。でも、わたしたちにも、舞妓さんたちにも、同じように『夜寝る前の時間』はあるわけですよね。じゃあ、そのときなにを考えているかを聞いたら、共通点やちがうポイントがあるのかな、と疑問に思って、質問してみました」

実際にリーフレットに掲載された、ふく凪さんのインタビューがこちら。

 

普段は接する機会の少ない、同じ年代でも学生たちとちがう生活をしている舞妓さんの等身大の姿がうかがえます。舞妓さん個人の舞台や稽古への思いを知ることで、公演を見るときにも、またちがった視点から見ることができるんですね。


生の言葉を原稿に

インタビュー後は、1週間から2週間程度で聞いた内容を原稿に仕上げていきます。聞き書きという形式を選んだのは、舞妓さん一人ひとりの人柄を尊重し、生の言葉を原稿に入れたいと考えたからだそう。実際に、多くのテキストで京ことばが使われ、読んでいても舞妓さんが話している言葉をそのまま読んでいるような感覚がありました。

一方で、原稿を執筆するときには、京ことばをどこまで活かすか、読みやすさと生の言葉のどちらを優先するかなどで悩んだといいます。また、言葉のニュアンスを捉え、誤解されないように噛み砕いて書くことにも気を使ったそう。
公演を観たりお座敷で接したりする機会の少ない学生やお客さんにも親近感をもって「芸妓・舞妓」という職業を捉えてもらうため、様々な技術と葛藤があったんですね。

インタビューを行った学生は、普段から学科で雑誌・書籍の編集やノンフィクション執筆を行うゼミに所属し、インタビューの経験を積んでいる学生たちです。
山口さんと同じく、4人の舞妓さんにインタビューを行った工藤鈴音さんは、2年生のときに履修したノンフィクションを執筆するワークショップや、文化を伝承する社会実装プロジェクトでの経験が今回のインタビューにも活きているといいます。
「わたしは入学時は漠然と小説を書きたいと思っていたんですが、学科の授業を受けるうちにインタビューを用いて制作をしたいと考えるようになりました。実は、もともと話すのがすごく苦手だったんです。でも、興味はあって。ノンフィクションを執筆する授業で『人に話を聞かなきゃいけない』状況になって、やってみたら、『他人に対して、そんなに心を開いて深いところまで話をしてくれるんだ』と驚いたんです。そこから、自分の制作にも話を聞くことを多く取り入れるようになって、人と関わることを諦めないというか、話をしていて伝わらないなと思ってもすぐにやめてしまうんじゃなく、チャレンジを続けてみるようにしています。今回も、舞妓さんという職業のパブリックな部分よりも私的な部分の話を聞けるように意識しました」

ことばが人に届くという体験

2月上旬のインタビュー、原稿の執筆、舞妓さんからのチェックを経て、会期中に人間館入り口に並べられたリーフレットは、舞妓さんそれぞれにつき1000枚以上。お客さんが持ち帰ったり、会場で読んだりしている光景を見て、山口さんは「観劇前に手に取ってくださっているのがとてもうれしかったです」と顔をほころばせます。
「インタビューをして、舞妓さんたちがどこで育って、なにを考えて舞っているのかということがわかってから公演を見ると、やっぱり見え方がちがうんです。わたしも今年観劇して、キラキラした顔で舞台に立っている舞妓さんを見て『ひとりの人生の夢が叶っているんだなあ』っていう感慨深さをもって見ていました。なので、インタビューにまとめたものをお客さんが読んでから観劇してもらえたら、ひとつ別の楽しみ方を提供できる一助になれたんじゃないかな、なれていたらうれしいなあと思います」

工藤さんは、「会場で『わー』と歓声をあげてインタビューを読んでくださっているのを見てすごくうれしかったです。舞妓さんとお客さんが直接会話をしたり、舞妓さん自身の言葉を聞いたり読んだりする機会はあまりないと思うので、舞妓さんとお客さんをつなぐことができたかな、『架け橋になれているのかな』と思って。紙に印刷されて、実際にひとが手に取っているのを見ると、自分が書いたところの先に進めたような感覚になりました。自分の文章がだれでも手に取れる状態にあることで、ちょっと反省もしたり(笑) もっとできたなと思うところもあります」と、お客さんが手に取る光景を見たときの喜びを語りました。

来場されたお客さんの中には、ご贔屓にしている舞妓さんのインタビューリーフレットを選んで持ち帰っている方や、じっくりとその場で読んでいる方、全種類持って帰られる方も。公演とはまたちがう角度から、「京おどり」を楽しんでいただけたのではないでしょうか。

 

「京おどり」の会期中には、本特集でご紹介した3つのプロジェクトのほかにも、染織テキスタイルコースの学生が制作したオリジナル手ぬぐいの販売や、京都伝統技術のリサーチ・活用商品の展示など、様々な連携企画が開催されました。
学生たちのクリエイティブの力で、伝統文化の魅力をより鮮明にお届けできたのではないでしょうか。それぞれのプロジェクトの今後の活動にも、どうぞご期待ください!

 

 

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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