REPORT2023.11.07

「ただいま」と「おかえり」の縁をつなぐ — 京都芸術大学ホームカミングデー2023

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  • 上村 裕香

日ごとに秋も深まり、空が高く澄みわたる10月28日(土)、京都芸術大学ホームカミングデーが開催されました。卒業生が同窓生や先生方、在学生と交流する、年に1度の機会であるホームカミングデーを全編YouTube生配信でお届けするのは、今年で3年目です。

昨年度に引き続き、28日(土)に実施されたメインプログラム以外に、10月22日(日)から28日(土)の期間には学科・コースの懇親会を目的としたホームカミング・パーティーも開催されました(一部の学科・コースは期間外に開催)。学科・コースごとにオンライン会議のミーティングルームが用意され、遠方の卒業生とも、オンライン上の同窓会場で再会できたのではないでしょうか。今回は、28日に開催されたメインプログラムの模様と舞台裏をお届けします!

(当日のアーカイブ動画はこちら→https://www.youtube.com/watch?v=nM4QKExV3O4

卒業生が「いま」の大学を知る機会

今回のホームカミングデーは、すべてのプログラムを京都芸術大学 望天館の4階から配信。全体司会は舞台芸術学科1期生で卒業生の井川茉代さん、広報課の木原考晃さんです。

ホームカミングデー式典のはじめには、吉川左紀子学長が登壇しました。2016年からはじまったホームカミングデーの歴史を振り返り、「今日は先生方の特別講義やワークショップ、そして、映画学科の学生たちがいま静岡に住んでおられる前学長の尾池和夫先生を訪ね、尾池先生の俳句に合わせて作成した12本の映像も配信されます。インターネットでご覧になっている卒業生の皆さんに、『本学がいまどんな活動をしているのかな』ということを知っていただけたらうれしいです」と、本日のプログラムへの期待を語りました。

吉川左紀子学長によるご挨拶

大学で学んだことが卒業後の活動の基盤に

松陰芸術賞を受賞した外山寛子さん

その後、表彰式が行われました。松陰芸術賞を受賞したのは、美術工芸学科 日本画コース卒業生の外山寛子さんです。松陰芸術賞は社会活動を活発に行い、優れた成果が期待できる卒業生・修了生に授与される賞です。
第四代学長 千住博教授による受賞理由では「女性の美術家の場合、結婚・出産を経て制作から遠ざかってしまうことが多い。しかし、外山さんは子育てや日々の生活と制作を両立させ、すばらしい作品を作り出している」と評価されていました。
外山さんは「2010年に日本画コースを卒業し、がむしゃらに、ひたすらに制作に打ち込んできました。京都芸術大学で学んだことが、いまの画家としてのわたしの基盤となっているように思います」と、大学への感謝の思いを語りました。

瓜生山学園賞を受賞した上田假奈代さん

つづいて、瓜生山学園賞を受賞した京都芸術短期大学 ビジュアルデザインコース卒業生の上田假奈代さんが登壇しました。上田さんは詩人として活動するほか、『NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)』を立ち上げ、講座やワークショップを多数おこなっています。
「わたしは、大阪市西成区にある日雇い労働者の町『釜ヶ崎』で表現の場をつくる活動をしてきました。そこに集う人たちは釜ヶ崎のおじさんから学ぶし、釜ヶ崎の外から来た人と釜ヶ崎に住む人が交流して、互いに学び合うこともある。支援する側とされる側、教える側と教わる側を、まぜっかえして、表現していくことの大切さを考えてきました」と、自身の活動を振り返りました。上田さんには記念品として、陶芸家の叶道夫さんが制作した、瓜生山の土を使った花器が贈られました。

陶芸家の叶道夫さん制作の花器

「ただいま」と「おかえり」の縁をつなぐ

式典が終わると、いよいよメインプログラムに移ります。さまざまな学科の教員たちによる特別講義や、瓜生山同窓会の活動を紹介する「同窓会企画」などが行われました。

特別講義:山下里加「アートプロデュース学科 イン 神山町 2008ー2023」
アートプロデュース学科の山下里加教授はアートプロデュース学科の学生が企画した展覧会の様子や、「アートによる街づくり」への展望を語りました。
「徳島県神山町は、2010年頃には2040年には人口が約半分になると言われていた街です。しかし、現在は移住者も増加し、IT企業のサテライトオフィスが各地に開業、神山まるごと高専が開校するなど、話題を集めています。そんな神山町に、アートプロデュース学科は15年前から関わっていました。神山町の変化の鍵は『アート』にあります」。

山下里加教授の特別講義

同窓会企画
瓜生山同窓会は年1回会報「蒼天」を発行したり、交流イベントを実施したりと、卒業生をつなぐ活動を京都本部と全国各地の支部で行っています。今回は同窓会本部の役員の方々が登壇しました。
こども芸術学科の卒業生、森梨絵さんは「卒業してから大学に用事があって行くと、いつも、大学の大階段の下に到着したとき『帰ってきた! ただいま!』と思うんです。そう思える場所があるのは幸せなことですよね。『ただいま』って言える場所と『おかえり』って言ってもらえる場所をつくっていく。そして、そのご縁をつないでいく。それが、瓜生山同窓会の役割だと思っています」と、同窓会での活動についての思いを語りました。

同窓会本部の方々

通信開設25周年特別講義「松井利夫先生に聞く」
京都芸術大学 通信教育課程開設25周年を記念し、通信開設当時の教科書作りの苦労や今後の展望を、大学院 芸術研究科の松井利夫教授に聞きました。聞き手は京都芸術大学 副学長の上田篤教授、美術工芸学科の後藤吉晃准教授が務めます。
四国出身の事務員が「知り合いが蛸壺を作っている」と言っていたエピソードから「蛸壺化する組織はダメだ」と思ったという松井教授。それが通信課程の教育を考える基盤になったそうです。
「蛸壺って、管理社会における自由の象徴なんです。出たり入ったりできる。通信課程も、社会と大学を行き来しながら学んでいくことが大事なんです。通学課程は大学の中で集中的に学ぶ、通信課程は社会と大学の自由な連携の中で学ぶでしょう。そうした連携の中で培われるネットワーク型の思考が今後求められるんですね」と、通信での学び方を蛸壺に例え、ユーモアを交えて説明しました。

通信開設25周年特別講義(メインチャンネル映像より)

特別講義:水野哲雄「アートはいつでも、いつまでも、いつからでも、だね。」
水野哲雄名誉教授は、芸術と子どもの教育を融合させた本学のこども芸術学科に2007年の開設当初から関わってきました。近年は、静岡県を中心に道端や海岸に落ちているゴミを組み合わせた作品を制作し、環境について学ぶワークショップを多く展開しています。
「シルバーアートという言い方もあるんですが、歳を重ねるごとに『若い頃は焦ってたけど、そんなに焦らなくてよかったなあ』と思ったり、新しい地平が見えてきたりするんですね。焦る必要はないんですよ。卒業生や若い人たちには、『歳を取ってもしょぼくれていくんじゃなくて、どんどん自由になって、いろんなことが楽しくなっていくよ』ってことを伝えたい」と、芸術を学ぶことはいつでも、いつからでもはじめられるのだと語りました。

水野哲雄名誉教授の特別講義

記事で紹介したほかにも、小山薫堂副学長による特別番組「こんにちは卒業生」や、大学院修士課程修了生の森島里香さん、丹羽優太さんの活動を紹介する「卒業生クリエイターズファイル」など、ミニ番組も盛りだくさん! ぜひ、アーカイブ映像でご覧ください。

特別番組「こんにちは卒業生」(メインチャンネル映像より)
大学生チーム「@PIECE」から卒業生の皆さんへ(メインチャンネル映像より)
「卒業生クリエイターズファイル」(メインチャンネル映像より)
「卒業生クリエイターズファイル」(メインチャンネル映像より)

学生時代にもどる、童心に帰るワークショップ

梅田美代子名誉教授によるワークショップ「風色モビールを作ろう」(メインチャンネル映像より)

また、当日は本学の梅田美代子名誉教授によるワークショップ「風色モビールを作ろう」も望天館1階で開催されました。梅田先生は情報デザイン学科、こども芸術大学、こども芸術学科の教員を歴任し、現在は親子で参加できるワークショップ『親子であそぼう!ufufu』を主宰しています。
ワークショップに参加した情報デザイン学科 ビジュアルデザインコースの卒業生は「モビールをつくっていたら収集がつかなくなっちゃったんですが、先生に『高さがぜんぶ同じになっているから、縦のラインを一本作ってみたら』と言っていただいて直したら、すごくよくなりました。やっぱり先生はさすがですね」とワークショップを振り返り、学生時代にもどったような、童心に帰った笑顔を見せていました。

配信の裏側で 在学生にとっても、卒業生と交流し学ぶ機会に

今回のホームカミングデーは、教職員だけでなく、瓜生山同窓会の方々や多くの卒業生、在学生に支えられて、配信をお届けしました。
とくに、配信の準備やカメラを担当してくれたのはウルトラプロジェクト「The Projected Image Laboratory」、通称「Pラボ」のメンバーたち。そのメンバーは情報デザイン学科や映画学科などさまざまな学科から集まっています。

「Pラボ」は、アートプロデュース学科の山城大督専任講師のもとに集まった学生たちが映像コンテンツを企画、制作、配信するプロジェクトです。今年8月にロームシアター京都が主催した中高生のためのアートプロジェクト「劇場の学校」でワークショップのファシリーテーターを務めるなど、学外でも活躍しています。

今回のホームカミングデーについて、配信の準備・カメラを担当した情報デザイン学科 クロステックデザインコース4年生の川村颯太さんは「ホームカミングデーをオンライン配信するのは2年前からはじまった取り組みです。大変なこともあるけど、撮影や配信のノウハウを勉強できるのはもちろん、準備のときには多くの教職員や卒業生のアーティストの方々と交流ができることが学びになっています」と顔をほころばせました。

さて、いよいよホームカミングデーも終わりが近づいてまいりました。「素の学園の姿をひとりでも多くの卒業生に見ていただきたいと思います。ホームカミングデーは3年間オンライン配信で行ってきましたが、来年、再来年と対面のイベントでもお会いできれば」と笑顔で締め括った木原さんと井川さん。
エンディングには同窓会のみなさん、ホームカミングデーの準備や配信に関わった教職員も登壇しました。オンラインだからこそ、より多くの方々との「つながり」が感じられるホームカミングデーになったのではないでしょうか。たくさんのご参加、ご支援をいただき、ありがとうございました。卒業生のみなさん、来年も、この大学に帰ってきてくださいね!

 

(写真:塩見嘉宏)

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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