REPORT2022.12.06

オンラインで、会いたい人と「つなぐ」。—京都芸術大学ホームカミングデー2022

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  • 京都芸術大学 広報課

いよいよ木々の葉が色づき始め秋も深まりつつある10月29日(土)、京都芸術大学ホームカミングデーが開催されました。ご好評をいただいた昨年に引き続き、今年もオンラインで皆さんを「つなぐ」ことに挑戦。2回目となる今回は、構成や内容も前回からブラッシュアップされ、よりオンラインならではの良さを体感いただけたのではないでしょうか。当日、ご参加いただいた方も、残念ながらご参加いただけなかった方も、どうぞイベントの振り返りのひと時をお楽しみください。
 

会えるのは、一日だけじゃない。

毎年恒例のホームカミング・パーティー(懇談会)は、10月23日(日)から一週間に渡って分散開催され、より多くの方々との再会をお楽しみいただける機会になりました。また、持ち寄り企画のポットラックパーティー(卒業生主催の懇親会)も29日(土)に開かれ、様々な会場とつながることができる一日となりました。
さらに今年は、情報デザイン学科を卒業された富永省吾さんのご紹介ムービーをひと足先に公開。クリエイティブ・ディレクターとして、日本最年少でカンヌライオンズを受賞するなどの輝かしい受賞歴を持ち、近年は『マヌルネコのうた』『スナネコのうた』など話題作を手掛ける富永さん。在学中のエピソードから作品制作への思いを語っていただきました。
 

卒業生クリエイター紹介 ~富永省吾~


 

違うから面白い。違わないから素晴らしい。


いよいよ迎えた、ホームカミングデー当日。まずは春秋座と、東京にいらっしゃる宮本亞門さんを「つなぐ」ことからスタートしました。本学で教授として学生の指導にあたられていた宮本さんは、オープニングトークの冒頭と最後に、徳山詳直前理事長の印象的な言葉を贈られました。

「どんな悲惨な状況でも人類が生き延びることが出来るとしたら、すべての人が平和を愛するしかない。それを可能にするのは芸術の力である」。

そして自身の経験を基に、貧困や戦争、事故や病などで先が見えない状況の中でも、芸術の力と、何より自分自身の力を信じて欲しい、とエールを送ってくださりました。

「君は違うから面白いんだ。自分のオリジナリティが必ずある。違うことが自分の強みだ」。

宮本さんの熱い言葉は、きっと芸術に携わる方だけでなく、どんな方の心をも鼓舞されるのではないでしょうか。
 

人との出逢いのおかげで、今の自分がいます。

ホームカミングデー式典では、舞台芸術学科1期生の井川茉代さんによる司会で吉川左紀子学長が登壇。10月27日に行われた開学記念イベントを振り返られ、京都文藝復興の理念のもと、春秋座の完成から日本芸能史、能舞台の誕生などを通して、学園が創造的であり続けたことを実感されていました。そして、今後も同窓会の活動が盛んになることを祈り、挨拶を締めくくられました。

 

ご挨拶される吉川左紀子学長。
司会の井川茉代さん。


その後、プログラムは表彰式へと移ります。まずは、松陰芸術賞を受賞された楊喩淇(よう・ゆき)さんの表彰です。千住博教授による授賞理由では、「夜の自然に標準を設定し、そこに咲き誇る繊細で力強い生命を、透明感のある美しい空気感と湿度感で迫る作品」として評価されていました。楊さんは、「入学以来、恵まれた環境でたくさんの人と出逢い、その出逢いのおかげで、今の自分がいます。今後も自分の作品作りを頑張っていきたいです」と、周囲の人への感謝の気持ちとともに、今後の意気込みを述べられました。
 

松陰芸術賞を受賞された楊喩淇(よう・ゆき)さん(大学院修士課程修了)


続いて、瓜生山学園賞を受賞された伊東勝さんが登壇。卒業生で彫刻家の築山有城さんより、彫刻作品「クスノメテオ」が贈られました。作品には、「人も木も一つとして同じものはないため、コミュニティや仕事づくりには作品と通ずるところがある」という、伊東さんの活動へ向けた想いが込められています。伊東さんは、これまでの自身の活動のきっかけを振り返られ、恩師と出逢って建築の素晴らしさを学んだ大学での2年間は貴重で、その後の人生につながるような時間だったと話されました。
 

瓜生山学園賞を受賞された伊東勝さん(大学院修士課程修了)
築山有城さんより、彫刻作品「クスノメテオ」が贈られます。

2021年度「松陰芸術賞および瓜生山学園賞」受賞者発表
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1034

 

卒業生をつなぎ続けたい。


ホームカミングデーYouTubeメインチャンネルは、春秋座ホワイエから配信。式典に引き続き、司会は井川さんと、アドミッションオフィスの木原考晃さんにご担当いただきました。

今回、特別講義をされた森山直人先生は、井川さんの恩師。井川さんは、森山先生の印象について、物腰柔らかで怒ったところを見たことがないとのこと。また、「有名なのが、先生が見えなくなるほど机の上がカオスなこと。でも、そのカオスの中から考えが浮かぶのかなあと思っていました」と、研究室ならではの思い出を話され、会場は和やかな空気の中、特別講義がスタートしました。

 

特別講義:森山直人「舞台芸術でほんとうに大事なこと」

「映像・舞台芸術学科から舞台芸術学科まで20年にわたり教鞭をとられ、2022年3月にご退職された森山先生による特別講義!(内容は当日まで秘密――)コロナ禍もそろそろ終息かと思いきやそうでもなく、話題の公演もまだあちこちで中止になっています。 オンライン観劇が定着しつつあるこの頃、久々に劇場に出かけて長時間客席で過ごすと意外にぐったりし、観劇ってけっこうエネルギーの要るものだなと実感するハメになり――(以下、当日)」。

 

 

特別講義:大林賢太郎「文化財保存修復の今昔」

「歴史遺産、文化財、世界遺産・・・私達は次世代へ有形の「もの」や無形の「こと」を伝承する努力を続けてきました。社会の変化によって、対象の捉え方が微妙に変わり、残し方にも違いが出ててきたように思います。日々の何気ないニュースの中でそういったことを感じることもあります。SDGsが叫ばれる今、美術やデザインを残していくとはどういうことなのかを考えてみても良いのかも知れません」。

 

 

特別講義:梅原賢一郎「コロナ渦で考えたこと」(アーカイブなし)

「わたしには、大学に対するいろいろな思いがあります。過去の思い、現在の思い、未来への思い、そういうようなことを、お話しすればいいのかなと思っていましたが、社会のいろいろな問題を目にし、一人の研究者として、いま、なにを考えているのか、すこしでも機会があたえられるのであれば、そのようなことを語るのがつとめではないかと思い、「コロナ渦で考えたこと」というタイトルにしました」。

 

特別講義:荒川朱美と環境デザイン学科の先生たち「荒川先生と振り返る環デの歴史」(アーカイブなし)

「今年度は、環境デザイン学科が、ホームカミングデーにおける大学の重要な催しである「特別講義」の担当となりました。そこで、環デのこれからについても考えていく会にしたいと思っています」。
 

環境デザイン学科の先生方(学科撮影)

 

夢を叶えられる人は、超現実主義。

春秋座ホワイエでは、卒業生クロストークのコーナーへ。それぞれの分野で活躍される卒業生の方3名にご登場いただき、活動や業界のことなど、近況をお伺いしました。

お一人目は、瓜生山学園賞を受賞された、修了生の伊東勝さん。現在は株式会社SHIBAURA HOUSE代表取締役として、様々な社会課題とクリエイティブを結び付けたプロジェクトに取り組んでおられます。「隣の会社のことや住んでいる人のことを知らない、それはほんとうに望ましい環境なのだろうか」そう考えた伊東さんは、妹島和世さんに設計を依頼し、地域の誰もが使える社屋としてSHIBAURA HOUSEを開放されました。学生時代はコミュニケーションが得意ではなかったそうですが、「地域で必要だなって考えて、つくってしまったら、自分がそうなるしかないんだと後から気付いて、そこに合わせていった感じです」と仰る伊東さん。お話しからは、突き動かされる想いのままに行動に起こすことの大切さが伺えました。
 


これまでに、ワークショップやオランダ大使館との連携イベントなどを開催。
オランダの「What Design Can Do」という団体のデザインコンペに2年連続で参加。昨年の本には、世界の1400件のアイデアが掲載されています。


続いては、なんと、ドイツはベルリンからの配信。彫刻コース卒業生の魚住哲宏さんにご登場いただきました。海外からご参加いただけるのは、オンラインならではですね。現在は「魚住哲宏+魚住紀代美」として、「街の暮らし」をテーマに、ご夫婦で作品を制作されています。日本ではご自身に馴染みのあるもの—感情や思い出が入り、故郷に近いものを探してしまうため、思い入れがない海外の方が作りやすいこともあるそう。「どこでもできるようにしたい、慣れていないことにも飛び込んでいけたらいいなと思っていた」そう話す魚住さんは飄々として見えましたが、大変な努力されてきたのではないでしょうか。海外で活躍されている様子を拝見し、難しいことに挑戦する勇気をいただくことができました。

 

こちらは15時頃、ベルリンは朝8時頃!
同級生である奥様との、素敵な出逢いのお話しも。


最後は修了生の杉原邦生さんにご登場いただきました。2018年に第36回京都府文化賞奨励賞を受賞され、今、大注目の演出家・舞台美術作家です。演劇の勉強は大学から始めたという杉原さん。入学後に、劇作家の太田省吾さんによる「沈黙劇」という新しい演出ジャンルを学び、衝撃を受けたのだとか。しかし、これまでに経験していなかった分、純粋に新しいジャンルとして受け止められたので、その後の発想が柔軟になったと言います。「今後も(演劇を通して)古典の面白さ、かっこよさを次の世代に伝えていけるような活動を続けていきたい」と意気込みを語られ、最後には「夢を叶えられる人は、超現実主義。現実的にプランニングを描いていけば、叶えられないことはないと思う」と、夢を目指す人へ希望の言葉を贈られました。
 


今、取り組まれているのは、スーパー歌舞伎Ⅱ「鬼滅の刃」。これから脚本を詰めていくところだそうです。

 

これからの、伝統文化とのつきあい方。

春秋座ホワイエでは、森山先生、大林先生の特別講義と、本間先生のワークショップを少し拝見することができました。

森山先生は、冒頭にゼレンスキー大統領の演説に触れ、インド憲法起草の中心人物であり、不可触民解放運動の指導者であったB.R.アンベードカルの演説原稿を題材とした演「カーストの絶滅」(12月10日・11日 京都芸術劇場 春秋座 公演)へと、見事なお話しの展開を見せてくださりました。元来、ことばで人を説得することは、演劇の重要な要素であるそう。現代社会をうまく生き抜く上で重要な「演説」に対し、「演劇」がツールとして役立つという視点は、正に目から鱗でした。森山先生のお話しを聞いてから改めて演劇を観てみると、また違った感じ方ができるかもしれません。

「演劇を理解できるか不安な学生にも、先生のお話しで興味を持ってもらえたらいいですね」と話す木原さん。


続いて、大林先生は、文化財修復のこれまでとこれからについてお話しされました。日本ではこれまで、文化財の所有者が保存から修理までを担っていたそうです。しかし現代においては、社会の協働によって文化財をケアし、研究や開発を続けながら技術を守っていくことが必要だと述べます。「修理」ではなく「ケア(簡単な措置)」という考え方には、専門家だけでなく、社会に関わる私たちにも、きっとできることがあるのではないでしょうか。
 

つながらないハプニングも生放送の醍醐味。
メインチャンネルの画面には、プログラムや卒業生の情報が盛りだくさん。


本間先生のワークショップでは、人生を豊かにするために、卒業後も学び続けることが大切だと改めて実感することができました。本業だけでなく、趣味やボランティア活動、家事や子育てが、いつの間にか仕事につながっていることもありますよね。本間先生は、「ワークライフの多様な関係は自分でデザインできる」「自分ならではの人生を創造してください」と仰っていました。「ライフ」ということばの捉え方ひとつで、暮らし方、生活、または人生や、いのちについて、様々な考え方ができそうです。

 


 

 

オンラインだからこそ、できることを。

ご挨拶される瓜生山同窓会 六代 小川文齋副会長。
司会のお二人。今年も大活躍いただきました!


お別れの時間が来るのはあっという間です。「昔のことを今の視点で追体験できる、学びの一日になりました」と笑顔で話された井川さん。今年も楽しい司会をありがとうございました。閉会のご挨拶では、瓜生山同窓会 六代 小川文齋副会長が登壇。ホームカミングデーは久しぶりの、そして新しい出逢いの一週間であり、絆を強く結び直せるとても重要な企画だと話されました。また、今年より瓜生山同窓会の公式ラインアカウントが開設され、情報発信もしているとのこと。今回のホームカミングデーでは、ご出演いただいた方以外にも、参加申し込みのあった卒業生から82件の近況を、メインチャンネルのバナーにてご紹介。オンラインを通して、様々な情報をお届けできる機会となりました。

住んでいる場所や、様々な個人の事情に関わらず、たくさんの方にご参加いただくことができた今年のホームカミングデー。オンラインだからこそ、より多くの方々との「つながり」を感じることができる、とても嬉しい一週間となりました。来年も、皆さまと心地よい時間を共にできることを願っております。たくさんのご参加、ご支援をいただき、ありがとうございました!

 


(撮影:吉見崚)

 

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