10月9日の朝、雨予報により粟田祭の「夜渡り神事行列」中止が知らされると同時に、プロジェクトメンバー29名およびLA(授業補佐役の先輩)3名の全員が、大燈呂(山車)を待機させていた東山の粟田神社にかけつけました。
粟田祭といえば、古都京都で千年以上の歴史を持つ神事。その華である大燈呂は「ねぶた」の原型ともいわれています。江戸時代から約180年間とだえていたこの伝統を、本学の学生たちの手で復活させたのが15年前。2020年のコロナ禍での巡行中止、2021年の規模縮小を経て、“久しぶりに大燈呂8基の本格的な巡行ができる”と意気込んでいた関係者全員にとって、あまりにも無情な雨でした。
けれど、どんな雨でも最後は慈雨に。メンバーを代表してお話を伺った3名のLA、4名の学生からは、ベストを尽くした清々しさと、まだ燃え尽きない情熱の両方が感じられました。
※本文では、皆さんからのコメントをあわせて編集しています。
インタビューにご協力いただいた皆さま
LA:工藤瑠乃さん(3年生)、広瀬彩美結さん(3年生)、堤悠さん(2年生)
学生メンバー:池上杏朱さん(1年生)、福嶋彩加さん(2年生)、金佳愛さん(2年生)、高井こなつさん(2年生)
指導教員:山田純先生、森岡厚次先生
15年かけて成長した祭の灯
― 今年の大燈呂は、いろんな意味で特別だったとか?
3年ぶりにコロナ前の規模で巡行できることになり、学内外のみんなが盛り上がっていたんです。しかも、ちょうど大燈呂復活15周年となる節目で、例年つくっている大燈呂2基のほか、大提灯もつくりかえることに。“先輩方が長年つないできた灯りを、しっかり次に届けなくちゃ”と、キックオフから気が引き締まる思いでした。
3回生LAの工藤さんがメンバーとして参加した2020年は、制作前から巡行中止が決まっており、“奉納だけのために、ここまで苦労して燈呂をつくる意味があるのか?”という思いもあったとか。けれど翌年、復活した巡行を目の当たりにして、“つくるからこそ、つづけられる”と実感したそうです。無駄なことはひとつもない。そんな先輩方の思いが、復活した祭をここまで支えてきたんだと思います。
― 実制作までに取り組んだことは?
まずはフィールドワークで、粟田神社の宮司さま、粟田祭実行委員会の皆さんから神社や神事について教わりました。コロナ前のように対面でお話を伺うことができ、それだけでワクワクしたことを覚えています。その後、班に分かれて、今年つくる2基“うさぎ(来年の干支)”と“粟田神社ゆかりの神さま”をどんなモチーフにするか、神社側にプレゼンテーションする案を練っていくのは例年どおりです。
地域のことも、神さまのことも、私たちにとっては初めて知ることばかりです。けれど、実際に粟田の町を歩いてみて、地域の方々と言葉を交わすうちに、こういう温かさや魅力を自分たちで発見していけばいいんだ、と感じました。
“うさぎ”と“えびす”の大冒険
― ではまず“うさぎ”大燈呂から、実制作のようすを教えてください
プレゼンで選ばれた“うさぎ”のテーマは“挑戦”。これからの粟田地域だけでなく、あらゆる人の新たな一歩を応援したい、という想いが込められています。転んで、立ち上がり、跳びあがるウサギ3体を組み合せた構成は、いままでになく複雑で、まさに私たちの大挑戦。モチーフとした鳥獣戯画から抜け出てきたような躍動感をめざし、何度もポーズを調整しました。
とくに盛り上がったのは、着彩をはじめたときでしたね。色が入ると一気に生命が輝きだすようで、みんなが夢中で作業。今年は披露できなかったけれど…大燈呂をクルリと回すことで3体がひとつの動きのように見える「大回転」のしかけ、ぜひ来年の巡行では多くの方に見ていただきたいです。
― “えびす大燈呂”のこだわりポイントは?
粟田地域の繁栄を願う“えびす大燈呂”のこだわりは、華やかな色彩と柔らかな表情です。つくっていて何より大変だったのは、タイやサンゴなど、豊かさを象徴する細かなパーツがとても多いこと。ひとつひとつを別々に制作することで完成度を高めながら、すべてがバランスよく山車におさまるよう、骨組みの段階から延々とチェックを重ねました。
大燈呂づくりの技術は毎年、先輩LAから後輩へと受け継がれます。けれど、前例のないカタチや作り方については、いちから自分たちで模索するのみ。生みの苦しみと喜びの両方を味わえます。最後の最後に、20個以上のパーツがぴったり合体したときは、みんなで大興奮。ぜひ来年の巡行では、いろんな小物や波、舟、ろうけつ染めを用いた着物の模様など、細かな表現まで楽しんでください。
そして、祭はつづく
― 完成してから本番までの流れは?
大燈呂がカタチになったら、まず仮に点灯してみて細かな部分をブラッシュアップ。その後、学内のピロティで本点灯をおこないます。目立つ場所なので、ちょっとしたお披露目状態になり、通学だけでなく通信の社会人学生さんから「写真を撮らせて」と声をかけられることも。作り手としては、嬉しくて誇らしい瞬間です。巡行前日に搬入した粟田神社でも、たくさんの声援をもらっていたので、中止の知らせは本当に悲しかったけれど…「まずは雨から守ること」に専念。駆けつけてくれたメンバーのおかげで、“うさぎ”と“えびす”は一滴も濡らさずに保管できました。
残念すぎる中止でしたが、そのおかげで、たくさんの人が私たちといっしょにガッカリし、励ましてくれることに気づけました。学内のみんなはもちろん、見知らぬ学外の方々もプロジェクトのSNSにメッセージをくれて…「この大燈呂は、こんなに愛されているんだ!」と感動。この気持ちを次につなげられただけでも、私たちのやったことは十分に意味があったんだろうと思っています。
― では最後に、おひとりずつ渾身のご感想を!
(高井さん)2年つづけて参加することで、前はわからなかったLAさんの隠れたサポートに気づき、感動しました。中止は本当にくやしいけれど、そのぶん来年は楽しさ倍増のはず!と期待してます。
(金さん)経験者が多いので、初参加のリーダー役に不安も。でも気づいたら、みんなの温かい雰囲気につつまれていました。「まだ終わっていない」気がしているので、来年の巡行が待ち遠しい。
(福嶋さん)休み明け、いつもの制作場所がガランとしているのを見て、「本当に終わっちゃった…」と涙が。みんなが家族みたいで、作業のたびに親しくなれて、本当に大好きなメンバーでした。
(池上さん)初参加のリーダーでしたが、こだわりぬく先輩方がいて、くらいつく後輩たちがいて、ここまで成し遂げられたと実感。勢いあまって、もう来年“辰”の案出しをひとりで勝手にはじめてます。
(堤さん)がんばった、意味があったと皆さんに励まされ、頭では納得しているけど…やっぱり巡行したかった!が正直な本音です。来年、どんな形で参加しようとも、この手で大燈呂を引っぱりたい。
(広瀬さん)短い制作期間のなか、今年はとくに複雑な造形で、みんな大変そうだったけど、協力してがんばる姿がまぶしくて、うれしくて…自分がメンバーだったときの気持ちを思い出しました。
(工藤さん)メンバーだった2020年も巡行中止でしたが、楽しかった、で終わらないからこそ、つかめることもあると。今回も巡行できなかったマイナスを、なにかの形でプラスに変えたい!と考えています。
(山田先生)今年から教員として参加して、本当に素晴らしいチームだと実感しました。全員が祭を「自分ごと」として100%楽しんでいるから、つらいことも楽しく、最後まで粘れるのだろうと思います。
この粟田プロジェクト、授業としては半年で完結。けれどじつは、それだけで終わらない仕掛けが隠されています。というのも、制作された大燈呂は、2年つづけて巡行するのが決まり。つまり作り手たちは翌年も、自分たちの大燈呂を引きたくてお祭りに集まってしまうのです。数年後の解体まで立ちあう4回生もいれば、社会人になってからも見物にくる卒業生も。森岡先生曰く、「この粟田祭がみんなの“第二のふるさと”になっていく」、まさに一生モノのプロジェクトなのです。
粟田祭そのものは、地域の安寧を願い、千年つづけられてきたお祭りです。壮大な時の流れのなかでは、私たちの喜びも悲しみも、ほんの一瞬のできごと。けれど、その一瞬のつながりこそが、未来をかたちづくるから。2022年の粟田大燈呂プロジェクトの灯が、来年も、そしていつまでも、みんなの心に輝きつづけますように。みなさん、本当におつかれさまでした。ありがとうございます。
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