そのプロジェクト最大の成果は、「やっと日常が帰ってきた」という地元の方々の笑顔。10月23日、東山の粟田神社でおこなわれた粟田祭の「夜渡り神事行列」で、色鮮やかな大燈呂(山車)が2年ぶりに町を輝かせました。
この大燈呂は、いま世にある「ねぶた」の原型ともいわれる歴史深いもの。粟田神社から依頼を受け、本学の学生たちが約180年ぶりに復活させ、制作と神事への参加をつづけて14年目。コロナ禍で巡行が中止された去年につづき、今年も先が見えないなかでの制作でしたが、それでも38名のメンバーが「瓜生山ねぶた」で磨いた技術や経験を惜しみなく注いだ結果、素晴らしい大作が生まれました。
彼らを代表して、学生を補佐するLA(ラーニング・アシスタント)※の松永侑樹さん、2年生の工藤瑠乃さん、森桃華さん、角谷亜門さん、1年生の橋爪はなみさんのほか、プロジェクトを率いる森岡厚次先生からもお話を伺いました。本文では、皆さんからのコメントをあわせて編集しています。
※LA(ラーニング・アシスタント):メンバーをサポートする学生。リアルワーク・プロジェクトの場合、過去にプロジェクトに参加したことのある学生がLAになり、参加した経験を生かしてプロジェクトを支える。
伝統のお祭りを自分たちの手で
― どうして大燈呂のプロジェクトに応募を?
春に行われたリアルワークプロジェクトの説明会で大燈呂が巡行する映像を見て、「こんな大きなものをつくりたい」「お祭りに参加するのって楽しそう」といっぺんに心をつかまれました。プロジェクトはどれも魅力的ですが、自分たちが京都のお祭りに飛び込んで、多くの方に作品を披露できるやりがいは、格別だと思います。
そもそも、このプロジェクトには “1年生で学ぶ「ねぶた制作」を、実際に社会で活かしてみよう” という狙いがあるとか。なので、ねぶたづくりの魅力にハマった子なら、みんな「やってみたい!」と思うんでしょうね。しかも学内のイベントとは違って、こちらは千年の歴史を持つ祭礼のシンボルづくりですから、得られる経験も感覚も、まるで別モノといった感じです。
― 実制作までのすすめ方は?
まずは、粟田神社を訪れてのフィールドワークからはじまります。例年ならお祭を仕切る代表の方からお話を伺うのですが、今年はLA(ラーニング・アシスタント)が作成した「しおり」をもとに、一人ひとりが独自に神社の歴史や祭についてリサーチ。その後、5つの班にわかれて、“来年の干支” と “粟田神社ゆかりの神さま” 2基の大燈呂をどんなモチーフにするか、神社側にプレゼンテーションする案をそれぞれに練りました。
実際に先方へのプレゼンを任されたのは、各班の1年生たちです。最初はみんなしどろもどろでしたが、事前に何度も模擬プレゼンを重ね、本番では見違えるほどの成長ぶりを披露。つい気持ちが入り過ぎて、最後は涙ながらの熱弁になってしまったのは、ここにいるメンバーの橋爪さんです(笑)。
“五十猛命(イソタケルノミコト)” は粟田神社の祭神である八大王子の一神。「厄除け」「道開き」の神とされることから、粟田地区の開運を願う新たな大燈呂のモチーフとして提案した。
来年の干支である “虎” は、闘志を表す「白虎」と成長を表す「黄色の虎」が対となっているところがポイント。商店街にシャッターが降りたままの店も目立つ、地域の復興と成長を願う。
極彩色に秘められた苦楽
― その後の制作は順調でしたか?
無事にモチーフを選んでいただき、模型で構造を検証したら、いよいよ約1ヵ月かけての実制作がスタート。じつはこれ、「瓜生山ねぶた」の制作時期とバッチリ重なっているんです。メンバーのほぼ全員がねぶたの授業も選択していたので、その作業中、大燈呂の進行は完全にストップ。
ただ、期間としては分断されますが、先に大燈呂の木組みをやっていた私たちは、その経験をねぶたでも活かせる。そして逆に、ねぶたを仕上げて身につけた細かな詰めや調整を、そのまま大燈呂で実践できる。2つのプロジェクトを行き来することで、2倍以上のチカラがつき、何倍もの成果を作品に注ぎ込めた気がします。
― 難しかったこと、頑張ったところは?
大燈呂の魅力はなんといっても、真っ白のねぶたにはない鮮やかな色彩です。ただし、和紙を立体に貼りめぐらせたうえから最後に着彩するので、まさに失敗の許されない一発勝負。根気強く作業をすすめ、神社の方々からもお褒めをいただく出来映えとなりましたが…じつは完成後のブラッシュアップ期間に、いったん彩色した和紙をはがし、いちからやり直したところもあるんです。
「そこだけ変になったらどうしよう」とヒヤヒヤしながらの決断でしたが…びっくりするほど美しく修正できて。「やり直してよかった!」と、最後までこだわる大切さを実感。「本当にそのままでいいのかな…?」と、やんわりプレッシャーをかけてくださった先生にも大感謝です(笑)。
照らされる笑顔、あふれた涙
― 巡行当日の思い出は?
実制作の後半あたりに、昨年コロナ禍で巡行できなかった2基と、今年新たにつくった2基、あわせて4基の巡行が決定したと聞きました。最初から「巡行できないかも」と諦めていただけに、すごく嬉しかったですね。コロナ禍で氏子の方々が例年より集まることができず、38名のメンバー全員がお祭りに参加させてもらえたのもありがたかったです。
巡行前、まだ薄明るい神社前の通りで大燈呂を運んでいると、道ゆく人の視線がチラチラ。だんだん周りが暗くなって大燈呂が輝くにつれて、その視線が熱くなり、「きれい!」「かっこいい」という声も。巡行がはじまってからは、さらにいろんな方に声をかけてもらえましたが、そのなかでも胸に残るのは「やっと日常が帰ってきた」という地元のみなさんのホッとした笑顔。「自分たちのつくったものが、だれかを笑顔にできる。人を感動させられる」。そう肌で感じ、これまで味わったことのない感情に胸がつまりました。
只今、白川通りを通っています
— 粟田大燈呂プロジェクト (@awata_pj) 2021年10月23日
本当に綺麗です… pic.twitter.com/WGYtfvafwT
― では最後に、おひとりずつご感想を!
工藤さん:制作期限ギリギリになって、みんなの意識が高まったことに感動。巡行では、地元の方々のお祭りを愛する心にグッときました。私も、この伝統を先へとつなげていく力になりたいです。
森さん:私たちが去年つくった牛頭天王を巡行で牽かせてもらい、「あの頑張りは無駄じゃなかった」と嬉し泣き。日頃の制作でも、「見る人に喜んでもらえるものをつくろう」という意識が強まりました。
角谷さん:お祭りの「非日常感」と、それを生みだしているのが僕らの作品なんだ、ということに感動。でも個人的には反省点だらけで…ここで学んだことを、個人で取り組んでいる共同制作にも活かしたいです。
橋爪さん:「すごいね」「よく頑張ったね」というみなさんの温かい声に泣けました。制作中はグループ内の情報共有が甘くてつまづいたので、今後の作業では気をつけたいです…もちろん、来年の大燈呂でも!
松永さん:LAとして、みんなの成長ぶりや喜ぶ姿を見られて嬉しかったです。神社の方々からもお褒めをいただき、本当に大成功! 次は僕もつくり手として、新たなプロジェクトに参加したくなりました。
森岡先生:では、僕からもひとこと…。みなさん、確かに今回は成功だったけど、これはまだまだ縮小版です。ぜひ、歴代の大燈呂が十数基も並ぶ、完全版を見てほしい。そして今回のプロジェクトをきっかけに、各地で失われつつあるお祭りにも目を向けてもらえたら、と願います。
じつは巡行の当日、今回のプロジェクトメンバー以外にも、3年生や4年生、いろんな卒業生たちがお祭りに顔を出していたそうです。なかには初代の大燈呂を手がけた、社会人十数年目のOBも。
「みんな、それぞれの仕事に就いた後も、このお祭りを大切に思ってくれているんですよね。まるで “第二のふるさと” みたいに…」と、嬉しさをにじませる森岡先生。「こんなに学生が集まる町なんだから、もっといろんな形で連携して、若い力で伝統を盛り上げていけたら」と希望をふくらませています。
土地に生きる人とつながりあう。地元の伝統を守りつづける。それは、いま日本中で、未来に向けて必要とされていることです。大燈呂という「人々の平安を願う芸術」を通して、地域の方々と心を通わせたこの体験を、ぜひこれからも大切にしてください。みなさん、今回もおつかれさまでした。いにしえの伝統と新たな希望が融合する輝きを、どうもありがとうございます。
(夜渡り神事撮影:前端紗季、広報課)
京都芸術大学 Newsletter
京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。
-
京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts
所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
連絡先: 075-791-9112
E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp