REPORT2021.11.22

京都

2年ぶりの巡行は、晴れのち感涙!粟田大燈呂プロジェクト2021

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  • 京都芸術大学 広報課

そのプロジェクト最大の成果は、「やっと日常が帰ってきた」という地元の方々の笑顔。10月23日、東山の粟田神社でおこなわれた粟田祭の「夜渡り神事行列」で、色鮮やかな大燈呂(山車)が2年ぶりに町を輝かせました。


この大燈呂は、いま世にある「ねぶた」の原型ともいわれる歴史深いもの。粟田神社から依頼を受け、本学の学生たちが約180年ぶりに復活させ、制作と神事への参加をつづけて14年目。コロナ禍で巡行が中止された去年につづき、今年も先が見えないなかでの制作でしたが、それでも38名のメンバーが「瓜生山ねぶた」で磨いた技術や経験を惜しみなく注いだ結果、素晴らしい大作が生まれました。

彼らを代表して、学生を補佐するLA(ラーニング・アシスタント)※の松永侑樹さん、2年生の工藤瑠乃さん、森桃華さん、角谷亜門さん、1年生の橋爪はなみさんのほか、プロジェクトを率いる森岡厚次先生からもお話を伺いました。本文では、皆さんからのコメントをあわせて編集しています。

※LA(ラーニング・アシスタント):メンバーをサポートする学生。リアルワーク・プロジェクトの場合、過去にプロジェクトに参加したことのある学生がLAになり、参加した経験を生かしてプロジェクトを支える。

 

 

伝統のお祭りを自分たちの手で

― どうして大燈呂のプロジェクトに応募を?

春に行われたリアルワークプロジェクトの説明会で大燈呂が巡行する映像を見て、「こんな大きなものをつくりたい」「お祭りに参加するのって楽しそう」といっぺんに心をつかまれました。プロジェクトはどれも魅力的ですが、自分たちが京都のお祭りに飛び込んで、多くの方に作品を披露できるやりがいは、格別だと思います。

そもそも、このプロジェクトには “1年生で学ぶ「ねぶた制作」を、実際に社会で活かしてみよう” という狙いがあるとか。なので、ねぶたづくりの魅力にハマった子なら、みんな「やってみたい!」と思うんでしょうね。しかも学内のイベントとは違って、こちらは千年の歴史を持つ祭礼のシンボルづくりですから、得られる経験も感覚も、まるで別モノといった感じです。

 

― 実制作までのすすめ方は?

まずは、粟田神社を訪れてのフィールドワークからはじまります。例年ならお祭を仕切る代表の方からお話を伺うのですが、今年はLA(ラーニング・アシスタント)が作成した「しおり」をもとに、一人ひとりが独自に神社の歴史や祭についてリサーチ。その後、5つの班にわかれて、“来年の干支” と “粟田神社ゆかりの神さま” 2基の大燈呂をどんなモチーフにするか、神社側にプレゼンテーションする案をそれぞれに練りました。

実際に先方へのプレゼンを任されたのは、各班の1年生たちです。最初はみんなしどろもどろでしたが、事前に何度も模擬プレゼンを重ね、本番では見違えるほどの成長ぶりを披露。つい気持ちが入り過ぎて、最後は涙ながらの熱弁になってしまったのは、ここにいるメンバーの橋爪さんです(笑)。

LAがクイズ形式の「しおり」を作成。
粟田神社周辺をリサーチ。
実行委員会の方々へのプレゼンテーション。
プレゼンを別室で見守っていた学生たち。

 

“五十猛命(イソタケルノミコト)” は粟田神社の祭神である八大王子の一神。「厄除け」「道開き」の神とされることから、粟田地区の開運を願う新たな大燈呂のモチーフとして提案した。

 

 

来年の干支である “虎” は、闘志を表す「白虎」と成長を表す「黄色の虎」が対となっているところがポイント。商店街にシャッターが降りたままの店も目立つ、地域の復興と成長を願う。

 

 

極彩色に秘められた苦楽

― その後の制作は順調でしたか?

無事にモチーフを選んでいただき、模型で構造を検証したら、いよいよ約1ヵ月かけての実制作がスタート。じつはこれ、「瓜生山ねぶた」の制作時期とバッチリ重なっているんです。メンバーのほぼ全員がねぶたの授業も選択していたので、その作業中、大燈呂の進行は完全にストップ。

ただ、期間としては分断されますが、先に大燈呂の木組みをやっていた私たちは、その経験をねぶたでも活かせる。そして逆に、ねぶたを仕上げて身につけた細かな詰めや調整を、そのまま大燈呂で実践できる。2つのプロジェクトを行き来することで、2倍以上のチカラがつき、何倍もの成果を作品に注ぎ込めた気がします。

 

― 難しかったこと、頑張ったところは?

大燈呂の魅力はなんといっても、真っ白のねぶたにはない鮮やかな色彩です。ただし、和紙を立体に貼りめぐらせたうえから最後に着彩するので、まさに失敗の許されない一発勝負。根気強く作業をすすめ、神社の方々からもお褒めをいただく出来映えとなりましたが…じつは完成後のブラッシュアップ期間に、いったん彩色した和紙をはがし、いちからやり直したところもあるんです。

「そこだけ変になったらどうしよう」とヒヤヒヤしながらの決断でしたが…びっくりするほど美しく修正できて。「やり直してよかった!」と、最後までこだわる大切さを実感。「本当にそのままでいいのかな…?」と、やんわりプレッシャーをかけてくださった先生にも大感謝です(笑)。

 

ブラッシュ後にやり直した、イソタケルノミコトの裏面にあたる馬の胴の青い模様部分。ろうけつ染めの技法を使っているが、修正前はろうの染み込みが甘く、色のにじみが目立っていた。
トラの見どころは凛々しいお顔。瓜生山ねぶた制作で鍛えた針金ワークを存分に発揮。
足元の麻の葉文様(邪気を払うとされる)や胴体にかけての美しいグラデーションも苦心の成果!

 

 

照らされる笑顔、あふれた涙

― 巡行当日の思い出は?

実制作の後半あたりに、昨年コロナ禍で巡行できなかった2基と、今年新たにつくった2基、あわせて4基の巡行が決定したと聞きました。最初から「巡行できないかも」と諦めていただけに、すごく嬉しかったですね。コロナ禍で氏子の方々が例年より集まることができず、38名のメンバー全員がお祭りに参加させてもらえたのもありがたかったです。

巡行前、まだ薄明るい神社前の通りで大燈呂を運んでいると、道ゆく人の視線がチラチラ。だんだん周りが暗くなって大燈呂が輝くにつれて、その視線が熱くなり、「きれい!」「かっこいい」という声も。巡行がはじまってからは、さらにいろんな方に声をかけてもらえましたが、そのなかでも胸に残るのは「やっと日常が帰ってきた」という地元のみなさんのホッとした笑顔。「自分たちのつくったものが、だれかを笑顔にできる。人を感動させられる」。そう肌で感じ、これまで味わったことのない感情に胸がつまりました。

巡行に先立ち、粟田神社神主によるお祓いを。
三条通りにねぶたが集結。巡行の時を待ちます。
先頭を行くのは「粟田大燈呂」の大提灯。
巡行の途中、知恩院前で執り行われる神事。
巡行路には、狭い路地も。

 

 

― では最後に、おひとりずつご感想を!

工藤さん:制作期限ギリギリになって、みんなの意識が高まったことに感動。巡行では、地元の方々のお祭りを愛する心にグッときました。私も、この伝統を先へとつなげていく力になりたいです。

森さん:私たちが去年つくった牛頭天王を巡行で牽かせてもらい、「あの頑張りは無駄じゃなかった」と嬉し泣き。日頃の制作でも、「見る人に喜んでもらえるものをつくろう」という意識が強まりました。

 

角谷さん:お祭りの「非日常感」と、それを生みだしているのが僕らの作品なんだ、ということに感動。でも個人的には反省点だらけで…ここで学んだことを、個人で取り組んでいる共同制作にも活かしたいです。

橋爪さん:「すごいね」「よく頑張ったね」というみなさんの温かい声に泣けました。制作中はグループ内の情報共有が甘くてつまづいたので、今後の作業では気をつけたいです…もちろん、来年の大燈呂でも!

松永さん:LAとして、みんなの成長ぶりや喜ぶ姿を見られて嬉しかったです。神社の方々からもお褒めをいただき、本当に大成功! 次は僕もつくり手として、新たなプロジェクトに参加したくなりました。

森岡先生:では、僕からもひとこと…。みなさん、確かに今回は成功だったけど、これはまだまだ縮小版です。ぜひ、歴代の大燈呂が十数基も並ぶ、完全版を見てほしい。そして今回のプロジェクトをきっかけに、各地で失われつつあるお祭りにも目を向けてもらえたら、と願います。

 

じつは巡行の当日、今回のプロジェクトメンバー以外にも、3年生や4年生、いろんな卒業生たちがお祭りに顔を出していたそうです。なかには初代の大燈呂を手がけた、社会人十数年目のOBも。

「みんな、それぞれの仕事に就いた後も、このお祭りを大切に思ってくれているんですよね。まるで “第二のふるさと” みたいに…」と、嬉しさをにじませる森岡先生。「こんなに学生が集まる町なんだから、もっといろんな形で連携して、若い力で伝統を盛り上げていけたら」と希望をふくらませています。

土地に生きる人とつながりあう。地元の伝統を守りつづける。それは、いま日本中で、未来に向けて必要とされていることです。大燈呂という「人々の平安を願う芸術」を通して、地域の方々と心を通わせたこの体験を、ぜひこれからも大切にしてください。みなさん、今回もおつかれさまでした。いにしえの伝統と新たな希望が融合する輝きを、どうもありがとうございます。

(夜渡り神事撮影:前端紗季、広報課)

 

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