REPORT2020.10.30

京都アート

疫病退散を願う祈りを込めて ― 180年ぶりにアートで復活! 粟田大燈呂プロジェクト

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  • 京都芸術大学 広報課

京都市東山区にある粟田神社における「粟田祭」の行事の一つ「夜渡り神事」にて巡行する「大燈呂(ねぶた)」を制作するプロジェクト。毎年2~5基ほどの大燈呂を制作しており、今年で13年目を迎えました。

しかしながら、今年の粟田祭は新型コロナウイルス感染拡大のため、規模を大幅に縮小して齋行されることとなり、「夜渡り神事」は残念ながら中止に。今年は、通常の半分ほどの大きさの大燈呂を2基制作。現在、境内に展示されています。

神大市比売命
牛頭天王と刀鍛冶
手水舎に、なぜかアヒルが。SNSなどで話題だそう。


大燈呂とは、今日の「ねぶた」の原型とも言われているもので、1567年(永禄10年)に行われた『夜渡り神事』の記録に記載されているほど歴史が深いもの。しかし、この大燈呂は長らく制作されることは無く、過去の歴史の一つとなっていました。

そこで2008年、本学の学生が180年ぶりにこの『夜渡り神事』の大燈呂をアートの力で復活させ、それからは毎年大燈呂を制作しているのです。

単なる制作だけではなく、神社や周辺地域の歴史・伝承等を調査、京都の歴史・芸術・文化を掘り下げ、そこから見えてくる日本人の感性を捉えなおし、モノづくりの神髄を学びます。


1567年(永禄10年)の神事の記録に「燈篭を灯して神輿に先行すること、 数百、様々な創り物があり、衆人の目を驚かす。見物人おびただしくあり」「大燈呂(大きな燈篭の創り物)有り、二間方大略あり」とある通り、大燈呂は明るい昼間でも大迫力。夜になると明りが灯り、色鮮やかに光り輝き、圧倒的な存在感を放ちます。

2018年斎行時の様子。夜渡り神事の前には、安全を祈願して粟田神社の宮司による清祓が行われます。
2018年斎行時の様子。昼間でもこの迫力。
2019年斎行時の様子。
2019年斎行時の様子。
大燈呂の巡行には、学生も参加。


「いまこそ京都には神様が必要です」

とは、祇園祭を取材したドキュメンタリー番組で、とある職人さんがおっしゃっていた言葉。

祇園祭の山鉾巡行も中止となるなど、さまざまな祭事が規模を縮小して斎行されていますが、粟田祭しかり「祭そのもの」が中止となるケースは少ないようです。このような状況だからこそ、神を畏れ敬い、感謝を表す神事の大切さが感じられます。

冒頭にご紹介した、神社の境内に展示されている「牛頭天王」。改めてよく見てみると、紫色のウイルスを握りつぶし、退治しようとしている様子が表現されています。

牛頭天王と刀鍛冶

2020年、コロナや自然災害と、なにかと辛い現状が続いた。それらを大きな「厄」と捉えた。この大燈呂の勢いで、その大きな厄を祓いたいと考え、コンセプトとした。また様々な厄を祓い、粟田地域を病気や自然災害から守ることにより、更なる地域の繁栄に繋がってほしいという願いも込められている。そこから粟田神社の御祭神である牛頭天王と粟田地域に古くから根づいている刀鍛冶の2つのモチーフをデザインとした。

牛頭天王の体や刀鍛冶の着物、炉の燃えている炎はグラデーションを施し、光をつけたとき、より煌びやかに美しく見えるようになっている。全体から見ると、牛頭天王の赤色の体と刀鍛冶の青色の着物のコントラストがハッキリとして、遠くから見ても映えるデザインとなる。また、牛頭天王の頭は1つずつバラバラな表情や角、メイクをしている。3つの頭の違いにも注目してほしい。

牛頭天王と刀鍛冶、2つのモチーフを組み合わせることにより、360度どの角度から見ても迫力と見応えのあるものとなった。迫力のある中燈呂で、見てくれた人に元気や活力が湧いてくるようなデザインをという想いでこの形を考えた。


プロジェクトメンバー
木村那月、國村優、森桃華、山下珠希、一色葵、足立明子、安松鈴葉、坂本真結菜、中森美咲、工藤瑠乃、郡ゆう、福嶋友佳、森山未樹、堀綾花、馬場彩矢香、松本千春、嶋藤廉、宿谷優斗

 

神大市比売命

この作品は神大市比売命(カムオオイチヒメ)、大年神(オオトシノカミ)、宇迦御魂神(ウカノミタマノカミ)という3体の家族の神様を描いている。はしゃぐ子供たちの姿や見守るような母の様子から「人の温かさ」を感じ取っていただきたい。

品物を並べ優しい笑顔をしているのが神大市比売命だ。名前の「大」には「偉大・立派」という意味、「市」には「人々が安心して物々交換できる場所」という意味があり、市場の神とも知られている粟田神社の御祭神である。盃を掲げ満面の笑みではしゃいでいる大年神は「年の初めに豊作を約束する」と言われ、年の神様として親しまれてきた。稲穂を抱え2頭の狐といる宇迦御魂神は稲を司る神様である。この2体は神大市比売命の子供にあたる神様だ。そんな神々の様子から日常と家族の安心を描いている。

これらを表現する上で、特に神様の表情に力を入れている。楽しそうにはしゃぐ大年神とそれを優しく見守る宇迦御魂神、子供を包み込むような笑みを浮かべる神大市比売命、三者三様の「笑み」に注目してほしい。また、周りに散りばめられた色とりどりの小物も、細部まで作り込まれている。妥協しない作り手の「こだわり」も見所の一つである。


プロジェクトメンバー
松永侑樹、田中柊奈、諸優衣香、小寺春翔、青木梨理花、馬場歩愛、原田珠里、清水有里沙、中川晏奈、小室勇人、大西舞、櫛笥那月、児玉明典、仲田絢音


担当教員:森岡厚次

ラーニングアシスタント:坪久田千春、木田のどか

 

夜に浮かび上がる色鮮やかな大燈呂の巡行は叶いませんでしたが、このような状況だからこそ、学生の皆さんの心に残る、学びの多いプロジェクトになったのではないでしょうか。来年の巡行を楽しみにしております。

 

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