NEWS2022.07.06

京都舞台

これからを担う二人の芸を楽しみに。-「京舞と狂言 vol.3 ~井上安寿子vs.茂山忠三郎~」

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  • 京都芸術大学 広報課

京都の地で伝承され、独自の文化を育んでいる「狂言」と「京舞」。二人の若き継承者、京舞の井上安寿子、狂言の茂山忠三郎を中心に、二つの芸能の魅力を再認識し、かつ新たな可能性を探ります。異種芸能でありながら両者が共通に持っているテーマを取り上げ、比較上演する三年連続企画の最終回。今回は「VS.(バーサス)」をテーマに「平家物語」の世界を描いた演目対決など、豪華な組み合わせでお届けします。

「京舞と狂言 vol.3」

京都芸術大学出身の2人が出演する伝統芸能の公演。

日時 7月23日(土)14:00開演(開場は13:15)
会場 京都芸術劇場 春秋座(京都芸術大学 瓜生山キャンパス内)
入場料 一般5,000円/友の会4,500円/学生&ユース(25歳以下・要証明書提示)2,000円
問合せ先 京都芸術劇場チケットセンター(075-791-8240)

https://k-pac.org/events/4784/

【京舞】上方唄「文月」(ふみづき)
文月(旧暦七月)の七夕の夜に年に一度逢うであろう織姫と彦星をうらやましく思う傾城の心情から始まり、夕暮れ時に恋しい人を待つ思慕の心、逢えたならば胸の思いを打ち明けたい願いを、江戸吉原の地名、風物を織り交ぜながら表現します。井上流では今回が初披露になります。
立方:井上安寿子 地方:菊原智子、菊萠文子

【狂言】「禰宜山伏」(ねぎやまぶし)
伊勢の禰宜が街道の茶屋で休息しているところに、山伏が入ってきて難癖をつけ、挙げ句の果てに禰宜に自分の肩箱を持って供をしろと言い出します。仲裁に入った茶屋が大黒天を持ち出し、影向あった方の言うことを聞くことにしようと提案し、2人が祈ると、大黒天は素直な禰宜のほうへ傾くが、横柄な山伏が無理矢理自分のほうに向かせようとし…。
出演:茂山忠三郎、茂山良倫 他

【京舞】義太夫「弓流し物語」(ゆみながしものがたり)
詞章によると佐藤忠信の妹・玉里(たまざと)が源頼朝に呼び出され、八島の源平合戦の有り様を物語るとなっていますが、舞は終始、男舞として振付られています。義経が波間に落とした弓を敵に奪われまいと活躍した「弓流し」に始まり、悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)と三保谷(みおのや)四郎国俊の「錣引(しころびき)」など合戦の名場面を描いています。
立方:井上安寿子 浄瑠璃:竹本駒之助(人間国宝)、竹本京之助 三味線:鶴澤津賀寿

【狂言】「那須語」(なすのかたり)
平家物語、屋島の戦いでの一幕です。海上へ逃げ延びた平家一行の船から『この扇の的を射抜いてみよ』と挑発された源義経軍。家来の後藤兵衛実基は、小兵ながらも弓の腕前に長けていた那須与一を推します。与一は外せば自害もやむなしの緊張のなか、見事に射貫きます。扇子一つで緊迫した情景を、義経・実基・与一・語り手の四役で演じ分けます。
出演:茂山忠三郎
 

京舞 囃子:望月晴美、藤舎朱音、望月美沙輔
 

【トーク】
茂山忠三郎、井上安寿子/ 聞き手: 山本太郎(ニッポン画家)

 

6月9日に行われた記者発表会では「京舞と狂言」を企画した田口章子教授から、この公演が3つのキーワードから成り立っていることが、語られました。

田口教授 一つ目は「芸能を知る」。これは広く芸能の世界を知ってもらいたいという意味で、知る方法としてテーマを設定してきました。二つ目が「継承」。あえて若い芸能者の二人を起用し、これからを担っていく二人の芸を楽しみに、ということです。三つ目は「普及」。これは活躍する卒業生二人の舞台を通して芸能を楽しむということ。もちろん一般のお客様にも向けておりますが、なによりも、この卒業生が伝統芸能の世界でこんなに活躍している、こんな頑張っている、その姿を在校生に知ってもらい芸能の魅力に気づいてもらいたい、そんな想いで企画をして参りました。

 

「京舞と狂言」を企画した田口章子教授

 

「VS.(バーサス)」相対する二人

「VS.(バーサス)」の意味は、相対する。攻撃的で戦闘的な意味が含まれています。初回の「女」と二回目の「メルヘン」は田口教授から与えられたテーマですが、「VS.(バーサス)」は安寿子さんと忠三郎さんが考えたテーマ。田口教授は二人からこのテーマを聞いた時に、これからふたりが向かう未来を感じさせるテーマだと思ったそうです。「“京舞 対 狂言”という芸能のバーサスの意味もあるけれど、自分との闘いという意味もあります。自分と狂言、自分と京舞。色々なバーサスがあり、そこに込められた二人の想いがとても頼もしく、どのような舞台になるのか楽しみです」。
 

茂山忠三郎さんと井上安寿子さんからこの舞台にかける意気込みを伺いました。
 

茂山さん 最終章ということで企画した本公演。去年は『たぬき』という演目で、安寿子さんと同じ舞台に一緒に立ちました。今年は原点に戻る、じゃないですけど、クロスした線がそれぞれ上の方向にあがっていくような意味合いを込めて、今回のテーマ「VS.(バーサス)」になりました。
何と対戦するのか、安寿子さんと同じ内容の演目で対戦するというのも大切な趣旨ですが、それ以上に自分との戦い、“春秋座 対 自分”であったり、“世間 対 芸能”であったり、色んな意味合いが込められています。そんなこともこの公演で表現したいですね。
身近な敵は広い春秋座というこの舞台。狂言の舞台よりも2〜4倍くらい大きいこの劇場をどう自分が使えるか。その空間に1人で立つことの難しさや僕の挑戦、そのことも理解してもらって当日ご覧いただけるとありがたいです。

 

 

安寿子さん 「京舞と狂言」は今回の公演で3回目ですけれど、2020年はコロナによる休演があったりして、長くやっているように感じております。みなさまにおなじみになる前に終わってしまうのが寂しい企画です。これが最後ということで、最終章にふさわしいテーマになりました。自分自身への挑戦です。
「弓流し物語」はコロナが始まった2020年4月、上演することが出来なくなった時に、母に稽古をつけてもらいました。こんなに頑張って稽古をしているのに上演できるところがない…、と残念に感じていたので、この機会にぜひ演じたい!と思いました。
「弓流し物語」は平家物語・八島を舞台にした演目で、狂言では「那須語」が、同じ八島の戦いでの一幕となります。「那須語」はお一人で演じられるんですけど、京舞の方は一人では出来ないので、竹本駒之助師匠にお願いし、師匠の語りにのせて自分がいかに演じることができるか楽しみです。
家元から教わったことは、私は男っぽいのが性にあっていると思っているけど、力強いばかりだとお客様も肩がこる。戦物語なのでもちろん力強さはいるけど、自分を俯瞰して落ち着いて見ないといけない、そういった視点でもこの「弓流し物語」で勉強してきました。その成果をぜひご覧いただきたいです。

 

 

「今こそ京舞、すすめ安寿子」「まずは狂言、だから忠三郎。」

今回の記者発表会では本公演のポスター第二弾として、今回のテーマ「安寿子vs.忠三郎」にちなんで、学生有志の会・春秋座クラブのメンバーが作成した選挙風ポスターがお披露目されました。キャッチコピーや政党名、政党ロゴのすべてを学生たちが考案。京舞も狂言も観たことがないという学生が多く、熱心に忠三郎さんと安寿子さんにヒアリングして制作しました。学生ならではのデザインです。

 


狂言の政党名は「自由狂言党」。政党ロゴはニコちゃんマークです。忠三郎さんは「自分たちなら絶対つけない党名。学生らしいですね。みなさんと一体になって盛り上げていければ」と語りました。京舞の政党名は「おいど命党」。京舞の基本動作である“おいど”=“お尻”を落とす所作から考えました。政党ロゴは鶴のマークで、安寿子さんのしなやかな美しさから発想を得てデザイン。政党名のインパクトとバランスをとって綺麗にまとめました。
当日来場される方々にどちらが良かったか、応援するポスターにシールを貼ってもらう趣向も凝らします。

 

選挙風ポスターを製作した「春秋座クラブ」のメンバー(一部)

 

二つで一つ。もう一人の卒業生・日本画家 山本太郎太郎先生が制作する扇

舞台上演後の締めくくりトークでは、聞き手に本学卒業生でニッポン画家の山本太郎先生が聞き手として登場します。実は山本先生も舞台に関わっています。というのは、今回の公演である「弓流し物語」と「那須語」で使う扇を、山本先生が制作されているからです。忠三郎さんと安寿子さんは合わせると一つになる扇を公演で使います。それは、京舞と狂言、二つで一つの絵になるように作られています。

 

山本先生が制作した扇の絵。向かって左側が京舞、右側を狂言で使用する(作:山本太郎)

 

狂言と京舞の扇のサイズは異なりますが、公演当日は春秋座ロビーのホワイエに二本並べて展示します。その扇は、開演と同時に舞台に運ばれ演目で使うという次第です。
二つで一つ、目指しているところは一つ。そんな意味合いを持つ扇です。三人で意見を出し合って決めたデザインに、ぜひご注目ください。
 

通常は同じ舞台に立つことはない二つの芸能。卒業生である井上安寿子さんと茂山忠三郎 さんと一緒に企画をつくっている春秋座ならではのプログラムです。この貴重な公演を、ぜひ、京都芸術劇場 春秋座でお楽しみください。

 

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