REVIEW2022.02.22

「学長賞および大学院賞」受賞作品紹介 ― 2021年度 京都芸術大学卒業展・大学院修了展

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  • 京都芸術大学 広報課

大学生活を過ごしたキャンパスそのものを“美術館”と見立て、学部4年間あるいは修士2年間の集大成である卒業制作や研究成果の発表の場「2021年度 卒業展・大学院修了展」。

新型コロナウイルス感染症対策を入念に講じ、蜜にならない来場者数を算出した上での事前予約制をとるなど、今年もまた、例年とは異なる形態での開催となりましたが、学生の皆さんの努力とご来場いただいた皆さまのご協力のおかげで無事にその会期を終えました。

さて、学科ごとに選定される「学長賞」および「大学院賞」受賞作品をご紹介いたします。

学長賞および大学院賞 総評

学長賞の14作品と大学院賞の2作品の学生に対し、おめでとうございますの言葉をお贈りします。

今年度の4年生は、3年次の夏休みに毎年開催されている学生作品展をコロナの影響で行うことができなかった年です。

本来なら学生作品展で会場に対する作品の規模や精度を経験することができ、卒業制作にもその経験を生かすことができるのですが、それができないまま、どの学生も卒業制作に向き合ったことと思います。

大学院も1年次はオンラインでの発表・講評が続いた年です。

しかし、卒業展・修了展ではどの会場を見ても、素晴らしい作品と会場構成が成されていて、力強い底力を見せつけてくれました。今年度もコロナの影響で入場規制を行った中、来場いただいた方々も、逆境を跳ね返す芸術・デザインの強さを感じられたと思います。

そして学長賞と大学院賞の作品は、さらに強いオーラを放ち、展覧会(大学)全体を照らしているように見えました。

名誉ある学長賞・大学院賞を受賞した作品とその制作者である学生たち、そして全ての作品と学生に感謝いたします。


卒展委員長 丸井栄二(情報デザイン学科教授)

美術工芸学科

山本桜子 《たゆたう》 撮影:顧剣亨


細い綿糸を藍で染め、平織りという技法で8枚の裂を丁寧に織り上げた。ほんのり染まった経糸とグラデーションに染めわけた緯糸で織り出す裂はそれぞれ微妙な色の違いを醸し出している。風の動きでたなびく1枚1枚の裂は爽やかな空気感を感じさせ、藍色は時間とともに変化し、心地よい空間を作り出している。(仁尾敬二 教授)

 

マンガ学科

PN.月凪あやせ 『類にときめくはずがない!』


“青い鳥はそばにいる” ── 本作は、ややもするとそんな使い古されたモチーフを基に、恋する人を一途に想い正面から行動する少年と、思春期特有の揺れ動く少女の心情と変化を、卓越した画力と感性、構成力を用いて見事に紡ぎあげた秀作で、商業雑誌連載という形で発表された。 少女漫画における恋愛という普遍的なテーマを見事に纏め上げたこの胸キュン漫画は筆者の大学における4年間の学びの集大成であり、その総括に相応しい作品である。(細井雄二 特別教授)

 

キャラクターデザイン学科

辻村奈菜子 「ハコニワ」


観察、気付き、実行、喚起というゲームデザインの基本的な文脈を踏襲しながらも、絶対位置センサーの導入によって仮想空間のCGマップとアナログのジオラマを連動させる仕組みに挑戦し、更に電子工作用基板のArduinoとUNITYを連動させたインタラクティブな仕掛けを実装することで、従来のデジタルゲームの枠を飛び越えた新しい体験デザインを実現した。多様な視点と技術がもたらすコト創りは今後の遊びを考える新たな可能性を示してくれた。(村上聡 教授)

 

情報デザイン学科

長澤花咲 「超・履歴書」


内容、形式、文脈の組み替えによるイメージの変化が、複層的な視点を喚起させる本作「超・履歴書」。卑近な広告やパッケージなどを厳選、その非高級なデザインを細心の注意で模す。そして丹念に、個人的独白へと情報を掏り替える企みには、単に手の込んだ自分語りで終わらない切実さがある。作品タイトルが示す通り、履歴書的なロジカルかつ合理性へのアンチテーゼ。断片的で感覚的な非合理だからこそ語り得る自己の、取るに足りない呟きを装ったシャウト。「俺の話を聞けえ!」(岡村寛生 准教授)

 

情報デザイン学科 クロステックデザインコース

浅田優月 「hitoma workshop」


浅田優月はいろいろ手を出しすぎる。アートにもビジネスにもテクノロジーにも興味・関心を持ち、まずは手を動かしてきた。それを中途半端と毛嫌いする人たちもいるスタイルだ。私はこれを是とする。シェアスタジオの形を持った本作は浅田優月の思想の現れでありつつ既に実際に使われているサービスである。入学時に「創作の場」をつくりたいと言っていたことを実現させ、そのプロセスを共有(配信)できるよう実装し、場の参加者同士のコミュニケーションによって新たな価値を生み出している。(小笠原治 教授)

 

プロダクトデザイン学科

山田菜那 「私たちには積み重ねた日々がある」ことに気づくための研究


山田は卒業研究の9か月間のプロセスで、絶えず思索と試作を続け、週に一度のゼミでは毎週簡易なモックを持参して議論に臨んでいた。その姿勢は学生の範となるものであり、その積み重ねが今回のデザインに結実している。このデザインは自身が積み重ねた日々を再認識させるものだが、この道具があるおかげで我々は心にレジリエンスを育める。そして、そのレジリエンスで解決に向かう社会問題が現代には幾つもある。道具は何のために存在するのか?その問いの答えとなる研究成果である。(大江孝明 准教授)

 

空間演出デザイン学科

淺野快斗 「国産材を育てる」


国産材にまつわる諸問題をテーマとして、林業に携わる方々へリサーチを重ねるとともに、作者自らが伐採から加工までの全ての工程に関わり、身体を使って木と向き合った姿勢が評価できる。近年、ウッドショックと呼ばれる輸入材の価格高騰により、国産材への注目は高まりつつあるが、こういった間伐材の魅力を伝える活動は、少しずつではあるが、放置された薄暗い森を明るくする希望である。(八木良太 准教授)

 

環境デザイン学科

八木田直樹 「水と生きる街」


北九州市北西部に位置する洞海湾。八幡製鐵所が立地されて以降「死の海」と呼ばれるまで水質汚濁が進んだ場所である。排水規制による水質浄化が進んだものの、現在新たに抱えている富栄養化という環境問題に対し、水質浄化と親水性を目的としたエコロジカルパークを提案した。
本作品は環境デザイン領域が持ちうる「社会の問題をデザインで解決する」という視点を、最新の環境技術と審美性の両面から提案している点が最大限評価される。(長谷川一真 准教授)

 

映画学科

馬場匠 『8月の子どもたち』


離島という閉鎖世界を舞台に、少女失踪事件にまつわる物語を壮大なスケールで描き切る力量にまずは圧倒される。ミステリーの要素で読者の関心を引きつける適度な娯楽性から、本人の意図はともかく、一定の年齢以上の層には横溝正史の世界を想起させるかもしれない。地方語=方言が活用されながらも「場所」や「時代」の設定を不鮮明にする戦略も、この脚本の「神話化」やフィクションとしての自律性に貢献している。今後も執筆を続けてほしい有望な書き手である。(北小路隆志 教授)

 

舞台芸術学科

江上実菜 「総合制作」 写真:『ラブの餓鬼道』美術セット
卒業公演『聲』
卒業公演『聲』


制作の仕事なしには公演を実施できない。しかし、舞台上に制作の作品はない。制作は公演を支える縁の下の力持ちだ。江上は、どのような状況下でも実に冷静に的確に粛々と仕事を進めることで卒業制作公演全4作品を支えた。江上なしには今年の卒制公演は成立しなかったと言っても過言ではない。その人間力と制作力を高く評価するとともに、この賞をもって江上へ謝意を表したい。(平井愛子 教授)

 

文芸表現学科

野々口西夏 『清めの銀橋』


終盤、強烈に好きな一文がある。貧困家庭で育った女子高生が、宝塚歌劇との出会いによって急転した紆余曲折の日々について、「あの運命の日から私は悩み苦しんで、結果的に浪費癖のある風俗嬢になった」とドライに述懐するところだ。悲嘆でもなく陶酔でもなく、まるでたったそれだけのことだと自らを突き放すかのような、シビアで客観的な現実主義を貫いているのだ。
作者は煌びやかな宝塚で貧困少女が活躍するなどという定型のドラマを生み出さなかった。現実にはそんなドラマなど存在しないことをわかっているのだ。宝塚大橋から見える大劇場、その間を断絶するかのように横切る赤茶色の阪急電車。すべての現実から立ち上がってくるのは、性風俗すらも堕ちたのではなく勝ち取ったのだと言わんばかりの、自立した少女のたくましさだ。(山田隆道 准教授)

 

アートプロデュース学科

毛利風香 「裂かれた経路内奥で生じる“詩” ―― 詩作品《破帖》(1937年)の翻訳と読みとき ――」


1937年に発表された詩人・李箱の遺作《破帖》。本論はこの晦渋な詩を愚直に読解することで、詩の内部に蠢く差延的な運動を語り起こしていく。その読解は必ずしもこなれているわけではない。しかし感覚を研ぎ澄まして作品と向き合い、感受した蠢きを根気強く語り起こしていく本論の姿勢は実直かつ清廉である。読者としての責務を全うしようとするかのようなその姿勢は、鑑賞という行為を通じて確かに新たな価値を創出している。(林田新 准教授)

 

こども芸術学科

杉浦日向子 「YELLOW POP」


三角形や四角形の凹みを小さなパーツで埋めていくこのシンプルなあそびは、日々のなかで作者が感じた「子どもごころの大切さ」を出発点に制作されている。一度このあそびをはじめると、答えの無い問いに向き合う高揚感と無邪気な責任感とが綯い交ぜになり、だれもがこのあそびの主人公になる。そして気が付けば、このあそびを中心に、緩やかな一体感が生まれ、人と共に居ることの暖かさを感じることとなる。これは作者の思いが結実した素敵な発明である。(彦坂敏昭 専任講師)

 

歴史遺産学科

工藤日菜子 「西本願寺門前町の文化的景観研究」


仏具店が立ち並ぶ個性的な西本願寺門前町の、その個性の淵源を歴史と生業景観を切り口につぶさに調査し、文化的価値と継承への課題を指摘した労作。数千棟の町家を一人で調査した根性には脱帽。これで終わるにはいかにも惜しい研究。誰か受け継いでくれませんか。(杉本宏 教授)

 

 

大学院賞 芸術文化領域

都丸雅樹 「シチュアシオニスム再考 ―メディアにおける階級闘争について―」 写真:論文発表会の様子。


今を生きる我々を包み込み、包み込むからこそその実体を把握することが困難な現代の電子メディア社会に切り込む鋭い論考である。ネグリとハートが規定したように「芸術と美はマルチチュードの一つ」なら、現代の電子メディア社会がそれらを強化する方向に働かないのは何故かとの問いは深い。シチュアシオニストの「転用=偏流」概念内の矛盾を考察する中で、「転用=偏流」とは「反動的な情動性を構成するようなネットワーク・コミュニケーションの中で、革命的情動性のポテンシャルを引き出すものである」との視点は一条の光を予感させ、その語りは、インパクトを持って聞く者に伝わった。(河合健 教授)

 

大学院賞 美術工芸領域

長田綾美 《floating ballast》


破れやすく不安定な不織布と安定を示唆するバラス(砕石)という対照的な素材を効果的に用いた造形が魅力的である。力強さと繊細さ、重量を感じさせない浮遊感を備えた本作は、インスタレーションとしても大きく成功している。その光景は、まさにこの不安定な日常や社会をもイメージさせる。彼女は時代に逆らうかのように、膨大な時間をかけて作業を積み重ねる。現代社会においてものを作るという行為自体に、彼女の作品は大きく問いを投げかけているようにも感じる。(河野愛 専任講師)

 

2021年度 京都芸術大学 卒業展・大学院修了展

会期 2022年2月5日(土)〜 2月13日(日)
時間 10:00〜17:00
入退場 事前予約制・入場無料
会場 京都芸術大学 瓜生山キャンパス

https://www.kyoto-art.ac.jp/sotsuten2021/

 

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