ニッポン画×浮世絵。山本太郎ウルトラキュレーション企画「推し世絵」展 ― アーティスト/キュレーター本人による最速レビュー
- 京都芸術大学 広報課
京都芸術大学の芸術館では現在、多義的な性格を持つ「推し世絵」展が開催中です。
何よりもまずこの展覧会は、本学の芸術館という施設の「秋季特別展」という位置づけで行われている展覧会です。芸術館は大学の所有する美術品・美術的価値のある収蔵品を管理・研究・展示する機能を持っています。その芸術館のコレクションの中核をなすのが1,000点を超える浮世絵版画です。
ただ、この浮世絵のコレクションは対外的にだけでなく、学内の教職員や学生にもその存在があまり知られていませんでした。そのため、この展覧会の一番の目的はこの浮世絵コレクションの存在を内外に知ってもらうところにあります。
推し世絵 〜ニッポン画×浮世絵プロジェクト〜
会期:2021年10月16日(土)~11月20日(土)
場所:京都・瓜生山キャンパス 芸術館(https://kyoto-geijutsu-kan.com/)
開館時間:10:00~17:00 (入館は16:40まで/日曜休館)
入館料:無料
※一般来館者は要事前予約(https://kyoto-geijutsu-kan.com/)。予約方法につきましては、芸術館HPをご確認ください。
次の性格は私(山本太郎)のウルトラプロジェクトの企画で作られた展覧会ということです。ウルトラプロジェクトとは通常の授業とは違う枠組みで行うもので、全ての学科・コースの学生に開かれています。第一線で活躍するアーティストの作品制作や展覧会をサポートしながらその背中を学生が直接見て学ぶことが、このウルトラプロジェクトの醍醐味です。
(参考)コロナ以後のアートの未来を予兆する「ウルトラプロジェクト説明会 2021」
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/823
今年は様々なコースから10名の学生が「ニッポン画×浮世絵プロジェクト」に参加しています。つまりこの展覧会は、プロジェクトに参加した学生の成果を発表する場としての意味を持っています。
そしてもうひとつは、アーティスト山本太郎の新作の発表の場であると共に、アーティストがキュレーションを行う展覧会であるということです。
まずは芸術館の浮世絵コレクションとウルトラプロジェクトの取り組みについて説明します。芸術館の浮世絵コレクションはそのほとんどが豊原国周という浮世絵師のものです。この膨大なコレクションは本学が短大時代だった際の学長である大江直吉氏が寄贈した作品群をベースとして収蔵されていいます。
国周は明治時代に活躍した「最後の役者絵師」とも言われる画家で、特に「大首絵」や「大顔絵」と呼ばれる役者をアップで描いた作品や「三枚続一人立絵」と言われる浮世絵を三枚並べることで一続きの大きな横長の画面となる作品を得意としました。役者絵は歌舞伎役者を描いた作品群で、国周が活躍した明治時代には歌舞伎役者の写真もありましたが、白黒で動きも少ない写真よりもまだまだ庶民にはカラフルで役者の動きに躍動感がある浮世絵が人気でした。
今年の「ニッポン画×浮世絵プロジェクト」では、まずはこの膨大な国周作品を学生とリサーチすることから始めました。
大江氏の寄贈から年月が経っていることから収蔵作品が増えている関係で、このリサーチは作品の整理も兼ねていました。
このリサーチの際に、学生と共に国周作品を見ていた時に、学生によって好きな作品に違いがあることが分かりました。それが後に「自分が推している浮世絵」つまり「推し世絵」を展覧会テーマにすることにつながっていきます。
リサーチの後、学生たちと共に屏風の仕立て作業に入りました。作品を描くだけでなく屏風の仕立ても行うところがこのプロジェクトならではのことです。
そして屏風が仕立て上がったあとは作品の作画作業も学生と共に行いました。
ここまでの内容であれば例年の山本太郎のウルトラプロジェクトとあまり変わりありません。
今年のプロジェクトでは作品を制作する作業だけでなく、展覧会の企画も学生と共に行いました。
展覧会のタイトルとなる「推し世絵」が決まったのもこの学生との企画会議の中です。タイトルだけでなくどの浮世絵作品を出すのか、そして山本太郎のニッポン画作品の中でどの過去作品を出品するのかなど、展覧会全体の構成についても話し合われました。
それから、この会議の中でキャプションなどの会場内の展示計画に関しても独自性を打ち出すことになりました。まずは作品の解説をハッシュタグで行うことになりました。実際に展示が始まってみると通常の解説文よりも作品の内容がダイレクトに伝わる、と非常に評判が良いです。キャプションには画面に使用されている色のカラーチャートもつけて作品の色の組み合わせが一目でわかる工夫もされています。
もちろん、フライヤー、ポスターのデザインにも学生がかなり積極的に関わっています。データの仕上げは本学の卒業生が立ち上げたUMMMというデザイン会社にお願いしましたが、学生から提案されたデザイン案が随所に採用されています。
大学内の掲示ポスターに関しては背景をシルクスクリーンですることで何種類もの違う色や柄のポスターを制作することができました。
展覧会の会場内には学生が選んだ国周の推しの浮世絵作品「推し世絵」のほか、山本太郎の新作屏風と過去作品が並んでいます。
新作屏風は3つの面がつながった独自のものです。これは国周の三枚絵からヒントを得たものです。本来の屏風は2の倍数で増えていくのですが、国周作品からの影響を強く打ち出すために三面の屏風という今までにない形式の新作が出来上がりました。会場内には新作屏風のインスピレーションの元となった国周の役者絵も飾ってあります。
山本太郎の過去作品は板に松が描かれた「鏡板」と呼ばれるものと、狂言の装束が選ばれました。鏡板は日本の芸能が神事から派生したことを強く示すものです。本来は能狂言の舞台の後ろにある松が描かれている板のことを指しますが、歌舞伎にも能狂言から取られた演目が多くあり、同じように松の絵の前で演じられる演目があります。
この鏡板も狂言の装束もそれぞれ2016年と2018年の山本太郎のウルトラプロジェクトで制作された作品であり、今回の展覧会はここ数年の山本のウルトラプロジェクトの成果展の性格も備えています。
会場内には山本太郎が下絵を描き木版による本の出版を京都で行う芸艸堂さんが制作した「マリオ&ルイージ図版画」とその版木や摺見本も展示されています。これは浮世絵と同じ多色刷り木版画の作品とその制作過程を展示することで浮世絵版画がどのように出来上がっていくのか理解してもらうためのものです。
また、会場内では山本が新作屏風の公開制作も行っています。ここでも普段は目にすることが少ない日本の古典絵画の作画方法を知ることができる仕掛けになっています。
このように多義的な内容を含んだ展覧会ができたのは今年のプロジェクトの参加学生が多様だったことが関係しています。
作品制作を主に行う美術工芸学科の学生だけでなく、デザイン系の学生、それから歴史遺産学科の学生もプロジェクトには参加していました。
この展覧会は豊原国周と山本太郎という二人のアーティストによるコラボレーションであるだけでなく、多様な能力と感性を持ったプロジェクト参加学生によるコラボレーションでもあります。
多義的な内容を持つだけにともすれば散漫な内容になる可能性もあったこの企画がきちんとした展覧会という形に落とし込まれたのも、学生が上手に展覧会としてまとめてくれたおかげです。
国周の作品は伝統的な浮世絵のスタイルを受け継ぎながら、色の鮮やかさや使用している柄が明治時代ならではのものになっている他、洋傘や時計など江戸時代には浮世絵の中には描かれなかったモチーフが描かれることも多くあります。伝統絵画の中に現代の風俗を描く山本の「ニッポン画」とも絶妙なリンクが感じられます。
この古くて新しい展覧会は伝統を受け継ぎながら明治の新しい浮世絵表現を生み出した豊原国周の作品の特色をそのまま体現するものになっています。
ニッポン画×浮世絵プロジェクト 2021年度 学生メンバー
桐原聖那、高橋和奏、チン シセン、永松紫杏、中村真衣、原田ひかる、森本亜好、柳生海斗、山内亮人、山本祥子
推し世絵 〜ニッポン画×浮世絵プロジェクト〜
会期 | 2021年10月16日(土)~11月20日(土) |
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場所 | 京都・瓜生山キャンパス 芸術館(https://kyoto-geijutsu-kan.com/) |
開館時間 | 10:00~17:00 (入館は16:40まで/日曜休館) |
※一般来館者は要事前予約(https://kyoto-geijutsu-kan.com/)。予約方法につきましては、芸術館HPをご確認ください。
(文:山本太郎、撮影:高橋保世)
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